便利屋エミヤ   作:晴れときどき曇り

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第四十五夜 真実

 

 

 事件を暴き出す為の月なのか、はたまた劇的な場面におけるスポットライトか。

「差し詰め、一人になる所を狙ったと言った所か」

 夜、道路の上に掛けられた橋において、葛木は二人の『敵』を対象としてそう口にした。

「え、せ、先生?」

 その背後には黒見セリカ、葛木が昨日出会ったアビドス高等学校の生徒にして、昼間に舌鼓を打った紫関ラーメンのバイトの少女が居た。

 

「気付かなんだか、バイト先で働いている時から建物外より観察されていたぞ」

 あまりにも杜撰な隠形に途中でラーメンを啜る手が停まっていた程に、葛木からすれば見つけて下さいと言っている様な物だった。

「チッ、誰だテメェは!」

 葛木は「ふむ」とネクタイを正し、足で地面の感触を確かめるとセリカの頭に手を置き、軽く撫でてから敵に向かって告げた。

「誰などと、この子を守る――先生だ」

 

 即座に銃を構えるが指先に走った激痛でトリガーを引けず、足下に音を立てて石が落ちた事で気付かぬ間に投擲されたのだと理解。

「なっ、どうして撃たな――」

 仲間が発砲をすると思ったもう一名が視線を逸らした僅かなタイミングで視界外に走り、

「――何処だッ!?」

 当然、視界から消えた葛木を追って反対側に視線を走らせるのに合わせて身を屈め視界の下へ潜り込み、

『コルキス』「げぶっ!?」『解除』

 一瞬の強化で水月へと掌底を叩き込み、魔力を使いすぎない様に即座に解除。

 

「なっ!?」

 指先の痛みから混乱していたが仲間が崩れ落ちる姿に葛木へと向き直るが、

「ひっ!?」

 向き直り視界に入って来たのは自分に向けて伸ばされる大きな手、視界いっぱいに広がる掌。

「ガッ!?」

 その一瞬の恐怖により途絶えた戦意を意識諸共ラビットパンチで刈り取る。

 

「流石に強化しなければ後遺症なども無いだろう……」

 倒れるヘルメット団を受け止め、地面に寝かせながら葛木はセリカを見る。

「……腰が抜けたか、まぁ、急に襲われるなどそうある事でも無い、仕方あるまい」

 立つ事が出来そうもないセリカに「動かぬ様に」と告げ、倒れた者からヘルメットを剥ぎ、自身で被る。

「アロナ、―――――という事は、出来るか?」

『は、はい、可能です』

 

 その内にエンジンの音が聞こえてきて、到着したバンはセリカ達にヘッドライトを浴びせながら止まり、葛木は倒れた団員を肩に抱えて顔を伏せ、そちらに歩み寄る。

「お、上手く行ったみてぇだな、それじゃあ早く中に――っと!?」

 ヘッドライトを浴びない位置、車から出て来た団員に、肩に抱えていた者を投げて渡し、

「テメェこのくらい自分……でぁ――?」

 受け止め下に向いた隙を突き、宙に展開したアロナの障壁を足場代わりに頭上を飛び越え背後に、一瞬で意識を刈り取り、車内を確認。

 スモークで正確には見えないが恐らく残り三人、総勢六名での強襲は戦闘になった際を想定しての人数だろう。

 

『コルキス』

 わざと車の後ろへ回り、勢い良くトランクを開けると後部座席を退かして車内の床に座る者一名と運転席、助手席にそれぞれ一名。

「―――ッ!?」

 座っている者に騒がれそうだったので強化した拳で(チン)に一撃、優しく受け止めて床に寝かせ、背後から助手席と運転席の二人も静かに意識を奪う。

『解除』

 

 静かで効率的な方法でその場を治めた葛木はセリカの下へ戻り、ただ一声。

「無事だな、黒見」

 腰が抜けたセリカは安堵もあり意識を手放しそうになり、その刹那聞こえて来たのは葛木の声、

「攫われる姫の次は眠り姫か、(せわ)しないな」

 何よソレと言いたかったが、途切れ往く意識の中で言葉は告げられなかった。

 

 アビドス高等学校へセリカを送る傍ら、唐突にエミヤから来たモモトークを確認した葛木は空を見上げる。

「アイツは……疲れているのだろうか?」

 

 返信は一言。

『そんな筈無かろう』

 

 

 

 アコとの珍事を終え、久しぶりにゲヘナに来たのだからと訓練を見てやったりイブキの遊び相手を務めたり、ジュリの調理手順を観察して手を出していい調理の幅を共に考えたりとしている内に夜を迎えたエミヤはその日もゲヘナに泊まる事にしたのだが、今は呼び出しを受けてとある人物の私室に来ていた。

 

「ようやく……!ようやくですわ!ようやく貴方とのおう……せを……その、ごにょごにょ……」

 度々エミヤの前に現れたりいきなりモモトークを送ってきていた謎の銀髪の美少女、その人物の私室だ。

 エミヤとしても彼女が一体誰なのか、何故時折見掛ける際にフウカを担いでいたりしたのか気になっていたので、今回の呼びかけに応じる事にしたのだが。

 

「こここここここちらですわ」

 待ち合わせの場所に辿り着いた時も、

「ふふ、私が扉をぎゃっ!?ひ、引き戸じゃありませんの!?」

 寮の入口でさえも、

「こちらが私の私室に……か、鍵を掛けて出て来たのを忘れておりましたわ……」

 部屋に入る時でさえ、

 

 エミヤは起きて来た数々の出来事から何となく察していた。

「(……面白い人だな!)」

 頷きながら少女を見つめるエミヤの視線は相手が抱く感情の欠片も理解していなかった。

 

「わた、わたた、わたたたた、私が黒館ハルナですわ、よりょしくおにゃにゃいしますの」

 行われた自己紹介や口調から非常に上品な印象を受けるが、室内という事もあり胸元のネクタイを緩めようとしている様なのだが先程から上手く解けていない。

「(もしかして、最近無駄に有名になった事で私程度に緊張してくれているのやもしれぬな)」

 そう思い、手を貸してやろうとハルナのネクタイを緩めてやり、

「ふぇっ、あ、あの、え、エミヤさ……ん……」

 思わずエミヤの横顔に見惚れてしまうハルナには気付かず、一番上のボタンを外して首筋に汗が搔いていたので「(水滴だ)」位の感覚で首筋に手を振れた。

「ひゅっ!?」

「あぁ、すまない、首元に水滴があったので」

「い、いえ、ごちそうさまでしたわ」

 もはや意味不明な返しをしている自分でも気付けていないハルナだが、それもその筈、エミヤとコンタクトを取りたいと願って一カ月と少し、その期間ずっとすれ違いを繰り返してきたのだ。

 

「改めて、便利屋68庶務のエミヤだ」

 座り直して自己紹介をするエミヤにさえ見惚れてしまう始末、最初は美味しい食事が心を惹いたのだが、気が付けばその発言や行動、生き様に魅せられていた。

 

「以前は回鍋肉をごちそうになりまして、本当にありがとうございました」

「いや、君の……ハルナの様に美味しそうに食べてくれる人が大好きでな、確か美食研究会といったか?本当に食べる事が大好きなんだな」

 まさかエミヤの方にも知られているとは思わず、頬が赤らんでいくのを自分でも感じていた。

「えぇ、その、勿論食べる事も大好きなのですが、私は未だに良く分かっていない事がありまして……」

 

 ハルナの分かっていない事、それはエミヤに見守られながら食べた食事が不思議にも忘れられない事だ。

 エミヤより美味しい料理を食べた事があるのは間違いないのに、エミヤの食事が、いや、あの時間がハルナの脳裏から離れない、放したくない。

 

「もし良ければ、また私と一緒に食事をしてくれませんか?」

 ハルナ自身、エミヤが忙しい事は知っていた。

 だからこそ、断られても仕方が無いと思っていた。

「あぁ、勿論だ」

 だが、エミヤであればそう言ってくれると信じていた。

 そして期待に応えてくれる人だとも。

 

 故に、今の聞き方は卑怯だと感じた。

「(卑怯だと……分かっているのに……)」

 感じていながらも、その問い方を変えられなかった。

 断られたくなかったから。

 

 男性を自室に招く。

 その時点で不埒な行いだとは感じていた。

 しかし今、当のエミヤは何も意識した様子無く部屋の中にいる。

「と、ところで、二人きりですわね」

 少しは意識して欲しいと思い口にした言葉に、ハルナはむしろ自分で二人きりである事を意識してしまった。

「そう……だな?」

 対するエミヤは事実確認かな?程度の認識。

 二人きりである事を強調するなど何かしてくださいとお願いしている様な物だと更に顔を赤らめるハルナを前に、エミヤは考える。

 

「(早く飯を作れという事か……?)」

 もういっそフライパンで頭を叩いた方が治療と呼べるのでは?というレベルの鈍感野郎は室内を見渡し、一方でいきなりエミヤが室内を見始めた事にハルナは何か変な物を置いていないか心配で硬直。

 

 冷蔵庫を見つけたエミヤは無造作に立ち上がりそちらに向かい、エミヤがいきなり立ち上がった事で変な物を見つけられた勘違いしたハルナは行き先を塞ぐように立ち上がり、エミヤは突然立ち上がったハルナに驚き動きを止める。

 

「な、何故(料理の為に)向かわせてくれない」

「だ、だって……(何か見つけた物を)見るつもりですわよね!?」

「(料理を作る為に)そりゃあ、中身を見るつもりだが」

「(中身を……タンスですの!?)な、中には何もありませんわよ!?」

「(冷蔵庫なのに)何も入れていないのか!?」

「下着くらいしか入れてないですわよ!?」

 

 静寂。

 エミヤからすれば冷蔵庫に、ハルナからすればタンスに、下着しか入っていないという認識。

 

「……それは、流行りの健康法か?」

「(もしかして、下着を付けない文化圏の方……?)いえ、キヴォトスでは皆そうですわ」

「本当か……!?だが便利屋の皆はそうでは無かったぞ!?」

「便利屋の皆様ってそう(下着を付けないん)ですの!?」

「それ……ならば、見るのは申し訳ないな」

「えぇ、何も変な物は入っておりませんので」

「(下着を冷蔵庫に入れるのが普通なのか)そうか」

 

 末恐ろしい勘違いをしながら、その後も軽く雑談をして、今度美食研究会の皆を招待して食事会をする事が決定してその日は解散となった。

 

 便利屋の部室に戻る傍ら、エミヤは葛木に連絡を入れた。

『葛木、今日知ったのだがキヴォトスでは冷蔵庫に下着を入れるのは普通の事だ』

 

 

 

 

 

 

 専門家に頼むと言ってのけたロボット姿の大男は、室内の電話に手を伸ばした。

 黒服は見守りながら大男が掛ける電話番号を眼にして、小刻みに肩を震わせる。

 

『はい!ゲヘナ寿司です!』

「便利屋68で間違いないな?」

『はい?ゲヘナ寿司です!』

「……待て、この電話番号は便利屋68の物では無いのか?」

『え?あぁ、彼女達なら引っ越しましたよ?今はゲヘナ寿司がその建物を引き継いで使っています!』

「……その電話番号は分かるかね?」

『寿司の注文じゃないなら死ね!』

「クソが」

 

 電話機が破壊される傍らで、黒服は膝を叩いて笑っていた。

 

 

 




皆も事務所を移転する時はしっかりと書類を提出して各所に掲載した電話番号の変更を忘れない様にしよう!

ウチはその所為で今住んでいる所を昔事務所として使っていたリフォーム業者宛の電話が掛かって来るぞ!クソが!

多分大筋合ってると思うんだけどミレニアムの第3章書いてもいい?

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