「別に、傘を差しに来ただけだけど、なんだよ、まさか自分が探されてるなんて期待しているんじゃないよな?」
気持ち悪い期待しないでくれよと手を振りながら、慎二は懐から取り出した折り畳み傘を『間桐家ノ墓』と書かれた墓石の手向けられた花を雪に晒さない様に置いた。
あの花は桜が持って来た物だろうか?
だとすれば慎二は、ソレを雪で枯らさない為に?
「……何見てるんだよ」
何処か恥ずかしそうに、だけど口を尖らせて、明確な優しさを誰かに見られるのが嫌いな所も変わっていないらしい。
俺とは違う。
正直、慎二も困っているんじゃないかと心配に思う。
久しぶりに会ったらこんなに肌も髪も変わっているんだ。
俺は、変わってしまった。
「いや、変わってないなぁと思ってさ」
正直に口にした言葉を受けて、肩を震わせ始めた慎二は「あははははっ!」と大きな声で笑い出したので、俺は何かおかしなことを言ったかと自分の発言を振り替えるが分からず。
「そりゃあそうだろ!衛宮が一番変わったに決まっているんだから、それと比べれば誰だって変わっていないさ!あはははははっ!」
「ぷっ、そ、それもそうか、ははっ、あははははっ!」
変わってしまったと思っていた俺の容姿は笑い話に。
ああ、いつ振りだろうかこんな笑い方をしたのは。
場所を移して間桐邸、偶然の再会を果たした慎二は「ウチ来いよ」と強引に誘い、俺を招いた。
以前に来訪した事がある間桐邸とは印象が違っていて、雪に埋もれてはいるが嫌な雰囲気は消えていた。
「気付けば僕がご当主様だったからな、無駄に世界中に散らばった遺産が多くて苦労したよ」
懐かしむ様子で扉を開け「入れよ」と一言、中に入ると執事だろう御老人がコートを受け取ってくれた。
「今では宇宙技術にも活用される蜘蛛糸の生産や加工で有名なマキリコーポレーションの会長って訳だ」
曰く、『お爺様』が遺した世界中の拠点や魔術的に意味を持つ品々、そして世間に公表出来ない研究記録を元から持っていた暗い部分との繋がりで売り払った所、一世代どころか十世代は遊んで暮らせる程の資金が手元に転がり込んできたらしい。
「僕からすれば魔術の家系なんて
聞いてもいないのに話していた口が途端に止まり、自分の中で何か言葉にし辛い事でもあったのか、慎二は言葉を濁した。
「変わらないな、その癖」
「あぁ?」
「桜の為なんだろ?相変わらず誰かの為って部分は濁す癖があるんだな」
「おい勘違いするなよ、誰がいつ桜の名前を出した。そうすれば僕も人生で変なコンプレックスを捨てられるって言おうとしたんだよ、魔術なんて物に縛られる生活とおさらば出来るってな、間違っても桜の為なんて理由じゃあ無い」
そして、本心を隠す時に饒舌になるのも相変わらずだ。
己にその役を与える時や徹する時、慎二は自分に言い聞かせるように早口で饒舌になる。
「そうか」
「そ・う・だ」
慎二の部屋は相変わらず広くて、そこだけで自宅の俺と遠坂が使っていた部屋が入る程の広さをしている。
その部屋の真ん中、天蓋付きのベッドのすぐ近くに置かれたソファにもたれかかって俺達は一息ついていた。
「それで、衛宮はどんな世直し行脚をしてきたんだ?」
ワイングラスを傾けながら聞いて来る慎二に歳月の経過を感じる。
俺達も酒を飲む年齢になったんだな。
「何も凄い事はしていないさ、旅をしながら困っている人が居たら助けて、たまに鉄火場に飛び込んで、必要な事を必要な場所でする――そんな日々さ」
俺もまたお猪口に日本酒を注いで口へ運ぶ。
普段は酒を飲む機会はほとんど無いが、私室に入った際に慎二が「お前はこっち」と渡して来た物を飲んでいる。
「そんな事言って、どうせ色んな所で女に手を出してるんだろ?学生の頃から無自覚に女をたらしこんでいる奴だったからな、そんな奴が世界に解き放たれたんだ。種まきの旅でもしてたんじゃないのか?」
あんまりな言い分だが挑発的な事を言いながらも徳利から俺のお猪口に酒を注いでくれている。
相変わらずコミュニケーションの取り方が粗雑な奴だ。
「悪いがそんな事は無い……たまに、程度だ」
「おいおいおいおい、お前のたまにってどの程度の頻度だ?」
煽りながら酒も煽り、ワインボトルからグラスに注ぎながら言葉を続ける。
「――遠坂がお前の事を僕に連絡してくる程度の頻度か?」
明確な棘がある言葉だった。
「遠坂が、慎二に?」
そんな事があるのか?と思ったのは遠坂が慎二を好いていない、むしろ嫌いな部類に入るからだ。
あの遠坂が慎二に連絡をするなんて、驚きを通り越して世界の夜明けを感じる程だ。
「そうしてまで、お前が無事なのか確認したかったんだろ、ったくなんで僕がこんな事を教えてやらなきゃいけないんだ」
「……遠坂が」
見送られ、見限られた物かと思っていたが、そんな風に気に掛けてくれていたとは……勝手に一人になったと思っていたけれど、そうじゃなかったんだな。
「良い師を持ったな、俺は」
「はぁ~……そうだな!!!」
「痛ッ!?なんで蹴るんだよ!?」
「なんでだろうな!全くお前は本当に昔から馬鹿だよ、馬鹿衛宮!」
「は、はぁ!?良い歳して何言ってんだこの馬鹿慎二!」
それに対して俺も蹴り返してソファーの上で軽く掴み合いになり、ある程度そんな絡みをした後で互いに顔を見合わせて同時に吹き出す。
「「ぷっ」」
「あははははは!子どもかよ衛宮!」
「はははははっ!お前だってそうだろ慎二!」
互いい腹を抱えながら笑って、ひとしきり笑い終わってから徳利から酒を注ぎ、慎二もワイングラスに注いだところで何故か二人してソレらを手に持った。
「全く、遠坂が浮かばれないな」
「そっちこそ、どうせ今でも桜に食生活とか心配されてるんだろ?」
口の端を上げて「なんでわかるんだよ……」と気まずそうな慎二にお猪口を向ける。
「何にだよ」
「さぁ?再会に?」
「祝う程の事じゃないだろ、ばーか」
そう言いながらも、慎二はワイングラスをこちらに向けてお猪口と合わせてくれた。
そこには乾杯の言葉は無かったが、慎二の言った『祝う程の事じゃない』という言葉の意味を察して、俺は嬉しさから笑みを隠せなかった。
だが、慎二はソレをわざわざ揶揄っては来ない、そういう奴だ。
「桜はどうしてる?」
「……秘書」
「それは、大変そうだな」
「伝えておくよ」
「勘弁してくれ」
「藤村の先生には会ったのかよ」
「いや、会えなかったんだ」
「へぇ、あの人毎日の様にお前の家に通ってるぜ?」
「マジか……行き違いになったかな」
「国を出る前には会っておけよな、会わなければ僕が来ていた事を伝えといてやるよ」
「遠坂とは結構連絡を取り合ったりしてるのか?」
「……半年に一度くらいかな、毎回衛宮の事を聞かれるよ」
「それは……迷惑かけてるなぁ」
「お前が外国で魔術を使う度に位置を特定出来そうだって言ってたぞ」
「あぁ、そういえば魔術の行使を調べる魔術みたいなのもあったな、気を付けよう」
「そういえば今日は確か桜が帰って来る筈だけど、会っていくか?」
「会うっていうか、今日は泊まるつもりになっていたんだが」
「はぁ?お前の背丈にあった服なんて無いぞ、そんなに背が伸びてるなら事前に教えろよな」
「良いさ、向こうじゃ何日も同じ服なんてよくある事だ」
「慣れてるのは良いけど人の家に泊まりに来た時の服装として適していると思うなよ?」
「坊ちゃま、どうにも空調の調子が悪いようで、業者をお呼びしても構いませんか?」
「衛宮」
「……はぁ、分かったよ」
その後も俺と慎二は飲んでは語り、呑んでは騙り。
気が付けば二人してソファーの上で重なり合う様に寝てしまったらしい。
そんな俺達にブランケットが掛けられていて、起き抜けに風呂場で顔と体を洗おうと思ったら桜に遭遇。
そのまま一緒に風呂に入って、その……そこまでは言わなくても良いか。
部屋に戻ると未だ慎二は寝ていて、申し訳ない話だけど、起きている時にどうやって別れを言い出せばいいか思いつかなかった事もあって俺は逃げる様に荷物を纏めた。
部屋から出ようとドアノブに手を掛けた時、これだけは言っておかなければと思い、ボソっと口にした。
「ありがとうな、慎二」
返事は無く。
ドアノブを下げて部屋から出ようとした時、
「勝手に帰る場所を失くすなよ、衛宮」
背後から聞こえて来た声に、その意味に、俺は思わず足を止めた。
「桜
なんだかんだで、優しい奴だ。
昨日の一夜は俺にとって幾年ぶりかの楽しいと心から言える時間で、本当にありがたいと思っていた。
だけど、その居心地の良さから旅立てなくなると危惧すら覚えた。
「また会いに来るさ」
背を向けたままそう伝えた俺に、
「行ってこい、ばーか」
慎二が伝えた言葉は、送り出す言葉だった。
「あぁ、行ってきます」
いつの間にか、帰る場所を自分で旅立つ場所にしていた。
それに気づかせてくれたのは他でもない長年の悪友で、きっと、これから先も俺と慎二の関係は変わらない。
変わったと思っていたのに、変わらない物もある。
その安心感が、俺を前に進ませてくれる。
まずは藤姉に会いに行こう。
久しぶりに叱られるのも、悪くないだろう。
多分大筋合ってると思うんだけどミレニアムの第3章書いてもいい?
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いいよ
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だめだよ
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やってみろ
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エロ書け