便利屋エミヤ   作:晴れときどき曇り

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第四十七夜 メスガキガス

 

「あっ♡やっと帰って来た~!相変わらず髪が真っ白、頭のお先は真っ暗だねぇ?」

 便利屋の事務所に帰って来たエミヤを出迎えた少女は、全く知らない人物。

 しかし何処か見覚えのある朱槍と紺色のボディスーツ、そして青い髪をしている赤眼の少女にエミヤは見た瞬間から鳥肌が立った。

 

 視線を移してアルを見ると、何故か正座をしておりその手には何かの燃えた切れ端を握っていた。

 表情を確認すれば全く目を合わせる気は無く視線をあちらこちらに飛ばして泳ぎを超越している。

 何よりも困惑するのはその横に黒服までもが正座している事だ。

 

 話を聞きたかったがカヨコは居らず、どうやら自室に籠っている。

 ハルカを見てみると眼を逸らされ、尊敬している対象が起こした不祥事を口にする事を拒んでいる様子。

 ムツキを見ると何処か対抗意識を燃やしているのか件の少女に頬を膨らませながら睨みを利かせている。

 

 コユキは帰って来たエミヤを見て即座に跳び付きコアラ状態、おかえりと言いながら頬擦りしてきている。

 

「あれあれ~?弓兵どうした~?私が分からないとか歳かな?歳なのかな?飛ばすのは矢だけで記憶まで飛ばすのはまだ早いよ~?」

 今すぐにでも拳骨をかまして地面に埋めたい衝動に駆られるが抑え、最早立ち上がっていると足が勝手に動いて蹴り飛ばしそうなのでアルと黒服に視線の高さを合わせて座り込む。

「説明」

「「……はい」」

 

 

 

「折角だからエミヤが居ない内に私達で不要な物を処分しちゃいましょう!」

「この前に描いた魔方陣?だったかしら、これも捨てちゃいましょう」

「失礼します、おや、エミヤさんはまだご帰宅されていないのですね、ゲヘナの風呂場に彼の創作物の朱槍が置き去りにされていたので届けに参ったのですが」

「置き去りにしたなら要らないんだと思うわ、持ってきてくれてありがとう、でも一緒に処分しちゃうからその布の上に置いておいて」

「アル様~、ガレージの方に見覚えの無い薬がありましたけど如何いたしますか?」

「得体の知れない物は処分するに限るわね、一緒に燃やしちゃいましょう」

 

 

 

「と、燃やしている時には魔方陣が光り輝き始めて、ハルカが薬品を投げ入れたからSTOPを呼び掛けたのだけれど、その時には既にその人が居たみたいで……」

「クックック……私も一体何が起きたのやら理解不能でして、ただ何か『やっちまった』感が強かったので正座でお出迎え致しました」

 故意では無いにせよ、処分しようとした矢先に魔力も神秘も宿っているつっかえ棒(ゲイボルグ)を魔方陣に投げ入れてしまった上、ケルトの英雄を召喚する上で持って来いな火まで点けてしまったから召喚式が成立し、そこに投げ込んだ薬品で……。

 

「うっわ♡なになに?どうしたの弓兵、私の事見て、も・し・か・し・て~、私に興味津々?」

 あの吐き気を催す存在が誕生したという訳だ。

 ノータイムで破戒すべき全ての符(ルールブレイカー)でアルとの間に出来ていたパスを切り、後は魔力切れで自然と消滅してくれるのを待つだけにした。

 

 何も小悪魔じみた小娘になった怨敵が気持ち悪かったからでは無く。

 魔力回路の無いアルとの間に強引に結ばれたパスが神秘を代替として存在できる(リソース)としているのならば、アルの身に何が起きるか分からない事からの判断だ。

 

 謝罪を終えたからなのか気が付けば居なくなっている黒服には幸いパスは出来ていなかったから安心だが、消滅を待つまでの間、この勝ち誇った笑みを浮かべるタイツと過ごさねばならないと思うとエミヤは全身の毛穴から固有結界が暴走する思いだった。

 

「ねぇエミヤン!この子誰!?なんだかさっきからエミヤンの事をきゅーへーきゅーへーって知り合いみたいだけど!」

「うぷぷ~♡知り合いなんてもんじゃないよぉ?夜通し一緒に汗を流したことだってあるし、花弁を散らした夜もあったんだから」

 確かに夜間に戦った事もあれば熾天覆う七つの円環(ローアイアス)で攻撃を防いだことで花弁を散らした事もあるが言い方ァ!

 

「まぁ……明確には私の知り合いはそこの小生意気な娘では無いのだが」

「あ、あの、エミヤさん、あの方が言う花弁を散らしたって……」

 その部分の説明を完全に省いて話を進めようとしていたがそうは問屋が卸さなかった。

「ハルカ、花弁を散らすという言葉に文字通りじゃない意味がある事を勉強していて偉いぞ、ほら、よしよし」

「えへへ」

 卸された。

 

「聖杯によるサポートも無い環境での強引な召喚だ。間違いなくあと三十分と居られないだろうが、せめて自己紹介だけでもしたらどうだ?」

「えぇ~、なんで私が弓兵と仲良くしてる雌に自分の真名を開示しなきゃいけないのよぉ……アタシはくーふーりん、くーちゃんでもふーちゃんでも良いから好きに呼べばぁ」

 こいつ本当にクーフーリンかよとエミヤは頭を抱える上に、エミヤの中で「コレならいつもの男版(アッチ)の方が良い」と思ってしまった事が何よりも悔しかった。

 

「じゃあくーちゃんって呼ぶけどさぁ、くーちゃんなぁにその恰好、お胸もお股もラインがくっきり浮き出てて、女として恥ずかしさとか無いのかなぁ?」

 それは男性のクーフーリンが身に着けているボディスーツと同じではあるが、くーふーりんが着用しているとそこそこ立派な胸部や下着を履いていないであろうラインが見えてしまっている。

「えぇ~?もしかして同じくらいの身長なのに明らかにアタシの方がお胸も大きくてお尻も大きくて、スタイルが良いから嫉妬してるのかなぁ?」

 確かに同じくらいの身長だなぁ程度の感想を持つエミヤと、正座をしながら「あんまりスタイルの事は……」と止めようとするアル、エミヤの肩に顎を置いて小声で「えみゃしゃ」と漏らしながら眠りに着いているコユキ、それを羨ましそうに見るハルカ、ブチ切れ間際なのか笑顔なのに血管が浮かんでいるムツキ。

 

「カヨコは?」

「部屋に籠ってるわ、アナタが帰ってきた事報せてくる」

 アルが自然とアナタ呼びをしている事にコユキが「ふ~ん」と少し表情を変えるが誰も気付かず。

「べっつっにー!?そんな風に無駄にお肉付けて体重増やすよりも私は身軽で動きやすいだけだし~!」

「あっ!本当だー!無駄なお肉が無い分すっごく軽そう!私みたいにぽよんとした部分も無いから動きやすそうだねぇ♡」

「エミヤンこれって人殺しになるかなぁ!?」

 もうブチ切れていらっしゃる。

 

「そ・れ・よ・り・も~♡弓兵どうしたのぉ?なんだかいつもより余裕があるっていうか、アタシを前にしたら眉間に皺を寄せていたのに今日は随分と落ち着いてるじゃん」

 問われて気が付く自分の変化。

「……貴様から見て、そう見えたのか?」

「? うん、少なくともあの戦いのときよりはずぅ~っとね」

 

 そう言われて浮かぶのは笑み、命のやり取りをしなくても良い事が分かっている環境だから生まれる変化なのか、それとも、いや、そこから更にこの土地に来た事で得られた変化。

 長年という訳では無いが、確かに互いを観察し殺す算段を探し合った相手からそう言われれば、その変化は間違いないと確信できる。

 

「(――アル、やはり私はキヴォトスに来て良かったと思えるよ)」

 思わず浮かべた柔和な笑みに、自分を受け入れてくれた便利屋の皆への感謝が強くなる。

 

「……座からも見てたけど、面白い所に来たものね、アナタ」

「……は?」

「座の皆にも好評よ~?超最新鋭の英霊が見た事ない場所で女の子とイチャコラ生活送ってる~って」

「待て待て、座にそんな、分霊として降りた者を見守る場所は無いだろう?」

「元々はね……なんだか最近、へーんな召喚式を使う子達が出てきて、座の在り方そのものが変わりつつあるというか、霊基に余裕があればイジり放題というか……私の師匠も影の国から飛ばしたのが二人、厳密に言えば三人いるし」

 どこもかしこも滅茶苦茶だなぁと思っていると、唐突にくーふーりんが手を伸ばしてきた。

「およぉ?あー、今回の召喚がイレギュラーだったからかな?なーんかお花の人がアンタに見せたいってさ」

 

 そのまま触れられて――。

 

 ――見せられた。

 

「……グッ、おっ、いや、え」

 あまりの情報量に吐き気と戦うエミヤは、脳にぶちこまれた総計4TBに及ぶ経験がどんどん処理されている。

 人間一人の人生をデータ化した際でも8TBと言われているのに対して、その半分をいきなり渡されたら普通は脳が焼き切れるか精神に異常をきたすのだが、ソレを耐え切ったのは脳の構造自体が起源や使用する魔術もあり通常とは違ったからだろう。

 

 だが、幾ら何でも主要な並行世界の、いや、並行では無いが別の軸で並行な世界の経験をぶち込むなど。

 イリヤが妹として生活する世界や、別の妹がいる世界。

 己が妖精郷に至った世界や黒いセイバーと戦った世界。

 人理が焼却された世界や過去の己を依り代として英雄が城をぶった切った世界。

 そんな世界の記録では無く経験を、更には依り代とはいえ別の英霊の技術や宝具の扱い方をいきなり脳にぶち込まれれば、アイデンティティが揺らぐ程の衝撃を受けるのも仕方が無い。

 

「――ハァッ!ハァッ!おい、貴様……」

「いやいやいやいや、今のはお花の人の所為だからね!?アタシは何もしてないって!」

 それにしても本当に趣味が悪い、最悪だ。

 だが今を確かめる機会にはなったから最高だが、それでもタイミングという物があるだろう。

 

 最悪なのは、ソレらの中にあの時こんな選択をしていれば、そうなったのかと教えられた事。

 最高なのは、ソレらを見ても尚、今このキヴォトスにいる自分に一切の後悔を抱かない事。

 最低なのは夢魔の魔術師、花の魔術師、世界が崩壊しかけているのにサイトの更新は辞めない畜生だ。

 

 しかし同時に様々な事に対する疑問が解けた。

 

 エミヤは縦のラインで世界を移動してきたという事が理解できた。

 イリヤや凛が居る事が基本な並行世界の横軸とは別、世界の在り方や存在している人が違う全く異なる世界、Xでは無いY軸での世界の移動。

 

 だからこそ、並行世界への移動で問題となる同一存在も居らず、己が知る常識が通用しない。

「新たな知見だな……例の爺さん(並行世界の管理人)が出張ってこないのも納得だ」

 

 そうして見た経験の中には確かに座に居る己の物もあったが、何やら大きなマンションの様な場所でカラーテレビに映るキヴォトス世界の自分(エミヤ)の活躍を、コタツに入った騎士王や征服王、英雄王や太陽王が眺めている地獄を垣間見た。

「(忘れよう)」

 何やら記憶の中で桜に似た、しかし桜よりも発育の良い少女が「せんぱーい!みえてますかー?」と手を振っていたり、セイバー(アルトリア)と同じ顔の人物が少なくとも十人近く居た気もするが、きっと幻覚だろう。

『今すぐそっちに行った俺を止めてくれー!!!』

 と叫んでいる全身タイツの変態が居た様な気もするが、同じ顔が四人は居た気もするしこっちも気のせいだろう。

 

「うふふふふ~♡そ・れ・で?ねぇねぇ弓兵?」

 そっちに行った俺(くーふーりん)はエミヤの胸元を人差し指でくるくると触りながら、「怒っちゃったなら~♡」「ころしたーいころしたーいってなっちゃったならー♡」と言葉を重ねながらわざとらしく体をくねらせる。

「ヤる?」

 

 そこに、一発の弾丸。

 くーふーりんの髪先を焼いたその弾を撃った本人は、自室の扉を開けてゆっくりと歩を進める。

 その扉の横には白目を剥いたアルが銃弾がめり込んだ壁を見て「シンキョ……」と鳴いている。

 

「ヤらない」

 一歩進める度に、段々とその者が身に宿す神秘が増えていく。

「ヤらせない」

 明らかに勘違いをしているが、結果として神秘は増えている。

「私が()る」

 

 鬼方カヨコ、パワーアップして復活。

 

 

多分大筋合ってると思うんだけどミレニアムの第3章書いてもいい?

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