便利屋エミヤ   作:晴れときどき曇り

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この場を借りて先にお伝えしておきます。

本作では、

無名の司祭の目的、カイザーコーポレーションの目的、黒服個人の目的、ゲマトリアの組織としての目的。

これら全てに独自解釈を持って話が展開します。
一応、適当では無く現状判明している事から当たりを付けておりますので、考察班の方がおられましたらこの先の展開を是非ともニヤニヤしながら見て下さい。


第四十八夜 普通

 

 

「それならば私で事足りるだろう」

 カイザーコーポレーションが経営する銀行、カイザーローンを襲うという話が出た時、葛木は突然そんな事を言い出した。

「わ、私もお手伝いします!」

「い、いやぁ~、流石にヒフミちゃんは難しくないかなぁ?それにトリニティの生徒さんに私達の問題を手伝わせちゃうのはおじさんどうかと思うなぁ」

 ホシノが異を唱える一方で、シロコはヒフミをジッと見つめていた。

 まるで何かを見定めるかのようにジッと、見逃さない様にジッと。

 

「ん、私は異論無し」

「えぇ!?シロコ先輩流石に不味いですって!先生が行くのは……なんかもう乗り気だし止めないけど」

 一方でセリカはヒフミの参加には乗り気では無い。

 

 ヘルメット団が使用していた武器がブラックマーケットから流れて来た物である事を突き止めたアビドス対策委員会一行は調査の為に赴き、そこで出会ったヒフミがエミヤの知り合いである事を知りブラックマーケットの案内を頼んだところ、アビドスにやって来たカイザーローンの集金車がヘルメット団にそのまま資金を横流しにしている疑いを持ち、彼らの銀行までやって来た。

 

 そして、やり取りの書類を検めるにあたり生徒に犯罪を犯させるわけにはいかないと考えた葛木は自分が銀行へ向かう事を生徒達に告げた。

 だが、ヒフミはそこで手を挙げた。

「エミヤさんのお知合いであるなら、私には助けるに足る理由です!」

「だからこそ……だ、あの者の知り合いならば尚の事巻き込むわけにいかん」

 その言葉に対して自信満々といった様子でヒフミは言葉を返す。

「ご安心下さい、私は罪を犯しませんので!」

 そして告げる。

 

「きっと、ハルカちゃんならこれぐらいの事、『普通』にこなせると思いますし」

 

 

 

 その言葉を信じた結果、葛木は戦慄を覚える事となった。

 阿慈谷ヒフミが行った事は非常にシンプル、陽動である。

 しかし陽動という行為は非常に繊細である。

 目立ち過ぎれば他に目的があるのではと疑われ、目立たなければ陽動の意味を果たさない。

 

 それを阿慈谷ヒフミはやってのけた。

 いや、今も尚やってのけている。

 まずは入ってくる時、回転ドアに頭をぶつける事で入口周辺の意識を集め、敢えて銀行内部に入ってから「うわぁ~」と声を漏らす事で周囲の認識を『慣れていないトリニティのお嬢さん』で固定。

 

 そして次に順番待ちの番号を排出する機械では無く、建物内の真ん中にある総合受付で緊張して少し声が大きくなってしまった生徒を演じ、その声の裏返りや大きさから更に周囲の注目を集め、待機の為に椅子へ向かおうとした際にわざと足をもつれさせて勢いよく転び、そのせいでリュックからバルーンの『立体型どこでもペロロ様』を落とした風を装い、大音量でステージを始めるペロロ様。

 場合によっては商談、場合によっては懇願、どんな事情があるにせよ緊迫した銀行内に突如として鳴り響く大音量の陽気な音楽に誰もが気を取られた瞬間、音も無く、そして相手の意識の中にも無く動く葛木は易々と各デスクを物色、ヒフミが何とか音楽を止めようと努力する素振りを見せる中で銀行内の空気はそれまでよりも朗らかな物へ、油断を孕んだ物へと変わりつつある。

 

 そして目的の書類を見つけた葛木は静かに銀行内のベンチに座り、一切の淀みない動作で書類を己の鞄へと仕舞い込んだ。

 

 任務完了である。

 

 

 

 

 

 鬼方カヨコの内に潜む恐怖は拒絶、離別、乖離、不信、不快、不義など、恐怖に繋がる物の全てが詰まっている。

 彼女はソレを抱えながらも生きて来た。

 時には神秘を宿した弾丸、つまりは己の抱える恐怖を撃ち出す事で敵にも恐怖を与えて来た。

 

 コユキの言葉から、カヨコはソレらと向き合おうと考えたが――。

「(……うーん、コレ無理だ)」

 ――結論は、無理。

 

 怖い物と向き合おうが怖い物は怖い。

 その段階はとっくに歩んできたカヨコにとって、これ以上どう向き合えば良いのか分からなかった。

 怖い物を感じる為に部屋を暗くして便利屋の皆との接触を断ち、色々と思考(・・)錯誤してみたが進展は無く。

 

 遂にアルからエミヤが帰って来たと聞かされて相談しようと思った矢先、

「は?」

 何やら中々に乳がデカくてエロい恰好をした知らない女がエミヤの胸元を弄っているのを目撃。

 更にはムツキが威嚇の体勢にある事から敵と判断。

 

 悩んだ末に上手くいっていない己の修行と、仲間との接触を断っていたストレス、更には帰って来た親愛の情を抱く相手への過度な接触、そして、

「ヤる?」

 性交渉の持ち掛けの場面を目撃し、カヨコの思考はドス黒い物で満たされた。

 

「(人が恐怖と向き合おうとしている傍らでこんな事が行われていたっていうの?同じ建物の中でエミヤさんに対して性交渉を持ちかけるってどれだけ節操が無い女?そもそも私やムツキやコユキがいるのにエミヤさんとそういう事が出来ると思っているって事は舐められているって事よね?社長が私を呼びに来たのももしかしてヘルプの要請?よく見ればデカい槍を持っているし確かにここで暴れられたら折角の新しい居場所がボロボロになる。つまりアイツは私達が嫌がる事が何なのか分かっていて、その上でエミヤさんにちょっかいを掛けているって事よね?)」

 脳内で弾き出される視界に映った事から判断できる情報に、カヨコは段々と己が抑えられなくなり。

「(恐怖と私が向き合うのは一旦置こう)」

 その目付きを剣呑な物として、思考を切り替える。

「(怖がるなら怖がりなよ、私がアンタにとっての恐怖になってやる)」

 それが(キー)だった。

 

 恐怖と向き合うよりも、恐怖になるという選択。

 己の神秘の在り方を受け入れるのでは無く己の神秘に自ら近付くという選択。

 それが、カヨコの潜在的な能力を開花させた。

 

 牽制の為の銃弾を一発。

 

「ヤらない」

 一歩進める度に、段々とカヨコが身に宿す神秘が増えていく。

「ヤらせない」

 明らかに性的交渉と戦闘交渉を勘違いをしているが、結果として神秘は増えている。

「私が()る」

 

 物理でバンバンしているキヴォトスに突如として概念系能力者が誕生した瞬間であった。

 

 

 

 己の神秘が増大している事に気が付き、カヨコはその性質を感覚的に理解。

 己の脚部に神秘を集中させ一瞬でくーふーりんの懐に入り、蹴りで以て壁ごと彼女を事務所の外へ。

 眼から涙をドバっと溢れさせたアルの下にエミヤが駆け寄る一方で、ムツキはとても嬉しそうに「GO!GO!」と囃し立てている。

 

 言われるまでも無く外へ、路面に着地していたくーふーりんは二階から飛び降りて来たカヨコに対して槍での迎撃を行おうと待ち構えたが、突如としてその選択が危険だと判断してその場を飛び退いた。

「は……?」

 自分でも理解できない自分の行動に戸惑いながらも、悠然と降りて来たカヨコを見て判断を誤ったと知る。

 

 カヨコから弾丸を放たれるも性別と年齢が変われど元の霊基が持つ矢避けの加護もあり当たる気はしない。

「ぷぷぷー♡全然当たらないよ~?」

「そう」

 ならばと接近戦へと持ち込むが、くーふーりんは自分から攻撃を仕掛けようとはせずにカヨコの振るう拳や蹴り、近距離からの射撃を全ていなしてみせる。

 いかにカヨコがパワーアップしていようとも相手は大英雄、素の能力が違い過ぎる。

「あははっ♡おねーさんどうしたのー?ムキになって手も足もブンブン!あたんなーい!あたんなーい!悔しい悔しいしちゃうねぇ♡」

「――――こう、かな?」

 煽り散らすくーふーりんを他所に、カヨコは模索していた。

 己の能力の使い方を。

 

 ゾクリと、右のストレートを放とうとしているカヨコを前にくーふーりんは己の脇腹に嫌な予感を感じた。

「(ははーん、ストレートはフェイントで後ろに下げた脚が本命ね)」

 動物的な直勘でこうした危険を察知する事が多かったくーふーりんにとっては慣れた感覚、スキルとして保有せずとも経験から身に付いている歴戦の証。

 

 ソレを信じてストレートを警戒しながらも槍の構えを脇腹を守る物へと変えるが、

「ぷぎゃっ!?」

 そのまま突っ込んできたストレートに顔面を捉えられた。

 

「あれ?どうしたのクソガキ、鼻から血出して」

「こっの……!」

 己の経験を信じた筈がソレを上回って来た相手に、くーふーりんは警戒を強める。

 この頃、座では「うわダッサ」と言われた誰かが叫びながら床の上を跳ねて悶えていたという。

 

 そのまま其処に居てはまずいと感じ動き出すも、その動いた方向にカヨコは回り込んでおり次は蹴りをまともに喰らってしまう。

「ふーん……そういうことか」

 その口振りに、くーふーりんも流石に理解する。

「なにそれぇ、アンタの力か何か?錯覚させる……?みたいなの?」

 それでも自分から攻撃を仕掛ける事をしないのは誇りが故に、倒すという宣言もしていない相手に武器を振るうなどケルトの名折れ。

 しかし、相手の力が分かったからと言って対抗策を講じる事が出来ないのが厄介な点。

 

「(要するに経験則とか直勘とかは信じない方が良いって事よね……防御一辺倒で眼だけに頼るのは結構しんどいんだけど……)」

 少女とはいえ相手は一瞬で懐に入り込んでくる程の強者、魔力による強化だけでも使うかとほんの少しだけ体に魔力を走らせるも、そもそもで契約を切られた以上、そこで魔力を使うと現界していられる長さが減る事に気が付き歯噛みする。

 

 チラリと建物からくーふーりんを見たエミヤは「(よし、もうすぐ消えるな)」と確認し、

「カヨコー、昼飯はハンバーグにするがチーズはどうするー?」

「いる!」

 余裕のやり取りを目の前で行う始末。

 

「舐め……やが……ってぇ!?」

 その時、メスガキガスとでも名付けられようか薬品の効果が切れ、くーふーりんの体が見る見るうちに男性の物へ、

「お……おぉ!?おぉおおお!」

 それに合わせて自我も戻り、メスガキから普通のクーフーリンの物へ。

 

 ボディスーツを除いてしっかりと霊基が男性の物へと戻り、クーフーリンは己を取り戻す事に成功した。

「おおおぉおおお!やったぞーーー!俺だーーー!」

 両手を挙げて歓喜のあまりに涙を流すクーフーリンを見て、カヨコは目を逸らした。

 未だに建物から顔を覗かせていたエミヤは大人の男性へと戻ったクーフーリンに安堵しながらも、その姿を見て眉を寄せる。

 

 思わず建物から路面に降り、クーフーリンの下まで近寄ったエミヤはその肩を叩く。

「お、おおう!悪ぃな迷惑掛けて!でも戻れたからもう安しっ―――!!?」

 途端、己の下腹部に感じた激痛に倒れ込み、金色の粒子となって座へと戻り始めるクーフーリン。

「ケルトの英雄が全裸で少女の前で喜ぶのは駄目だろ……」

 

 エミヤなりの優しさであった。

 

 

 

 

 

「……エミヤさんの肩で寝てたからガッツリ見ちゃったんですけど」

 

 コユキなりの悲しさであった。

 

 

 




全く関係無いけど部屋の掃除をしていたらスクールランブルの漫画が出て来て久しぶりに読んだら表情の描写が上手すぎて感動しました。

多分大筋合ってると思うんだけどミレニアムの第3章書いてもいい?

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