便利屋エミヤ   作:晴れときどき曇り

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第六夜 エミヤ非入浴問題

 

 

 その日、エミヤは最大級の難問に直面していた。

 魔術の利便性に胡坐を掻いていたツケが回って来たのだ。

 

 発端はアルの一つの発言、

「お風呂あがったわよー、次の人は入っちゃってね」

 ただそれだけ、たったそれだけの発言に対して悪戯を仕掛けようと考えたムツキが、

「はーい!エミヤン一緒に入ろう?」

 そんな軽口でジョークを放った結果、とある事実が浮上した。

 

「あれ、そういえばエミヤンってお風呂入ってたっけ?」

 

 エミヤ非入浴問題。

 先ず最初に彼の清潔感を守る為にも説明するべき事柄が存在する。

 それは魔術による『保護』と『浄化』だ。

 

 衣服に関しては基本的に『保護』の魔術によって状態の悪化を防いでおり、苦手な部類の魔術でこそあったが本来の『一定の状態を保つ』という仕組みを『構造を理解してその状態を継続する』と曲解し、己の得意分野に落とし込むことで何とか一定水準で使用できていた。

 

 そして『浄化』の魔術により毎日、肉体という意味で全身の異物や汚れを綺麗にしている為に不潔という事は無い、体表皮上の老廃物を対象として指定してもいるので、本来の『浄化』では異物認定されない垢に関してもしっかりと取り除いてくれる。

 

 そもそもでどれだけ毎日『浄化』を行おうとも、肉体では無く衣服に付着した物は『浄化』の判定外となるが、別途衣服に対する『浄化』も行って来た。

 

 魔術によって主観的には清潔感は保たれている。

 

 少なくとも、うら若き女子高生よりも先にお風呂に入ったり、入浴後にお風呂に入ったりすることで彼女達が感じる不快感を失くせるのであれば、コレで良い。

 

 誰かの笑顔の為に私が風呂に入らない事が必要ならば、喜んで風呂に入らないでおこう。

 

 便利屋68で過ごし始めて三日目の夜、ただ一人スーパーで入浴グッズのコーナーの前に立ち、並々ならぬ覚悟を決める成人男性の姿があったとかなかったとか……。

 

 しかし、その非入浴問題に気が付かれてしまった。

 更には問題の論点が『お風呂に入っているか否か』であれば、それは勿論『否』となる。

 

 これが『清潔感を維持できているか否か』であれば『是』だが、入浴したかを問われれば一気に不潔感が増す。

 

「風呂には、入って……いない」

 苦渋、その表情はなんとも苦しそうで、質問を投げかけたムツキは「あ」という表情で固まってしまった。

「だ、だが、魔術でしっかりと清潔感を保っている」

 咄嗟に口に出したが事実、事実なのだが……。

 

「エミヤさん、その、お風呂入ろう?」

「エミヤ!何か悩みがあるの!?お風呂に入れない体だったりする!?」

「あ、あのあの、もしも私がお風呂に入っているから使いたくないとかでしたら死んで詫びますので」

「で、でもでもエミヤンが臭いとかは無いし!私よく登るけどむしろずっと嗅いでたくなる落ち着く香りがするし!」

 

 各々が早口で忠告や心配、謝罪にフォローをしてくれる中、エミヤは心の中で涙を流した。

 

「その、だな……君たちは嫌では無いのか?成人男性が同じ浴槽を使用しているというのは」

「それは」「全然」「不快感は無いです」「掃除してるのエミヤさんだし今更」

「むぅ」

 

 確かに清掃はエミヤが進んで買って出ている。

 洗濯に関してもエミヤが行っているし、確かに今更と言われれば今更だ。

「ま、まぁ、お風呂上りとか上半身裸で室内をうろつかれたら、あの腹筋とか……その、エミヤって筋肉質だし目のやり場に困るけど、一緒のお風呂を使う分には大丈夫よ!」

「そうだよね、エミヤンって筋肉凄いし裸体で歩かれたらちょっとねぇ」

 

「ちょっと待って」「ヒゥッ」

 

 カヨコ's ちょっと待って、唐突に発せられた謎のプレッシャーによりハルカが即座にエミヤの背後に隠れてしまう。

「ムツキは登ったりしてるから分かるよ、社長?」

 呼ばれ、アルは「え!?え!?」と困惑しながら視線が右へ左へ、ムツキも笑顔なのだが何かプレッシャーを感じる。

「どうしてエミヤさんの腹筋を見たことがあるみたいに話してるの?エミヤさん、基本的にTシャツで肌に密着するタイプの服じゃないから、浮き出たりすることも無いと思うんだけど」

 それは至って純粋な疑問、どうして知っているのかを聞きたかっただけなのだが、その疑問に対する執着が強いあまり謎のプレッシャーがカヨコから放たれていた。

「ねぇ、どうして?」

 

「ソレは恐らく私が召喚された際にボディスーツを着用していたからだな、一応今もボディスーツだけは着ているが、ほら」

 そう言って、Tシャツを捲って内側のボディスーツを見せるエミヤ。

「わっ」「ほわぁ」「そ、そうよ!」「ん……」

 傍目から見ればいきなり服を脱ぎだした様にも見えるのだが、エミヤとしてはボディスーツを見せているだけで直接肌を見せている訳ではないので問題は無いと判断しているが、

「エミヤン、なんかソレ、エッチ」

 やーん、と顔を掌で覆いながらも指と指の隙間から覗いているムツキが、ごめんね、と舌を出しながら指摘。

「その、今やった動作を別の人がやったらどう映るか考えてみて」

 更にカヨコからも追撃。

 

「あ、アル様、今のってエッチなんですか?」

「……え?いや、私はそんな……そ、そうね!エッチよ!」

 他方では反応しているのが情緒的にも感性的にも大人な面子である事を見てアルが意見を変えていた。

 

 そして言われたエミヤは一応の事考えてみる。

 自分と同じくらいの体格で、ボディスーツを着用している考えやすい対象で想像してみる。

『おいどうした?俺様の腹筋が見たいってか、仕方ねぇな……槍だけが伝説じゃ無いって所、見せてやるぜ』

 

 吐き気に襲われた。

 

「すまない、本当にすまない、これほどまでに強烈な不快感を与えてしまったとは」

 額に手を当てて猛省、半ば想像した相手が戦った事もあった為に様々なポーズを想像できてしまった。

 いくらアイツでも槍の先端で腹筋の凹凸をなぞる事はしないだろうと思いながらも想像してしまった。

「そ、そこまで反省しなくても」

「だが、ナルシズムここに極まれりといった行為だっただろう……」

 わーい!とムツキがエミヤへと飛び込み、「エミヤンのナルシストー」と揶揄いながら背中に張り付いて頬っぺたをつんつんし始める。

 ちょこっとだけカヨコの表情が硬くなるが気がつく者はいない。

 

「は、話を戻すけれど、エミヤもお風呂入って頂戴よ、嫌よ仲間外れなんて」

「そうです!エミヤさんは護身術を教えて下さった後など私にお風呂を勧めてくださいますが、ご自身も入られて良いと思います!」

 純粋勢からの攻撃は善意からの物で、非常に断りづらくもあり天を仰ぐ。

 

「そうそう!何なら一緒に入ろうよ!エミヤンそういう目で見たりしないでしょ?」

「……そう、だね、背中とか、流してあげたいし」

「背中の流し合い……良いわね!!!」

「わ、私の貧相な体じゃ……うぅ……」

 

 ムツキは「髪の毛洗ってもらいたい!上手なんだろうな!」とワクワクして、

 カヨコは「感謝の気持ちだから、別に、触れたいとかそんな、何も無いし」と自分を誤魔化して、

 アルは「良いわね!仲間って感じがして素敵じゃない!」と非常に素直に、

 ハルカは「お見せするのが申し訳ないなぁ」と悲しみながら、

 

 全員が全員、一緒にお風呂に入る事に対するハードルは低かった。

 

「待て待て待て待て、それは違う!一緒にお風呂は話が違うだろう!?」

「なんで?嫌?」「そっか、嫌なんだ……」

「嫌とかそういう問題か!?私は成人男性だぞ!?浴場ということは裸になるんだぞ!?」

「……確かに!や、やっぱりなしよ!恥ずかしいわ!」

 まともな感性を取り戻したアルが即座に撤回するが、ムツキはエミヤの背でふくれっ面だ。

 

「分かった、一緒に入るのは諦めるからせめてお風呂は使ってよ……そういう所で遠慮されるの、なんか嫌」

 ジトっとした目で見られ、何も言えなくなる。

 此処が妥協点か……そう判断するが、ソレがカヨコの駆け引きであることは言わずもがな、

「分かった。ただ私が風呂に入るタイミングは君たちで決めてくれ」

 後ろ手にガッツポーズを作っているのは当然、何せ当初の目的は達成しているのだから。

「……くれぐれも、一緒にとか、時間が被っていて一緒じゃないけれど遭遇しちゃうとかは無しだからな、ムツキ」

「ぶーーー!」

 

 結果として、風呂掃除をしているエミヤが一番最初に入るのが妥当!という結論に至った。

 

 だが結局のところ、

「この後の湯浴みは君だったかなアル」

「え、えぇ!」

 風呂上がりのエミヤという年頃の女の子には中々に刺激が強い色香が日常のワンページに追加され、誰一人仲間外れにはならず頬を紅潮させる事になるのだった。

 

 

 




いっぱい感想貰えてうれしいです。

色んな人にお気に入り登録もしてもらえたみたいで、年の瀬に嬉しい事が起きてくれて幸せです。

本当にありがとうございます。

多分大筋合ってると思うんだけどミレニアムの第3章書いてもいい?

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