便利屋エミヤ   作:晴れときどき曇り

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第五十一夜 ずるい大人たち

 

 

 

「クソッ……!」

 黒服にコンタクトを取ったホシノは想定外の返答に困惑していた。

 アビドスの借金を肩代わりする代わりに黒服の研究に協力するという条件、ソレはもう認められないというのが黒服の答えだった。

『クックック……私の研究に既に貴女は必要無いのですよ、責任……とでも言うべきですかね、ソレを果たす為にも、貴女の協力はむしろ求めてはいけない物でもありますので』

「どういう事だ……!責任なんて言葉、お前が使うな!」

『――ごもっとも、簡単な資金提供は致しましょう。ですが、貴女に目的があるように私にも目的がある。その為にも全てを引き受ける事は出来ないのですよ』

「……勝手な事を!それじゃあ、それなら、私はどうすれば」

『それこそ、私が口出しする資格の無い事ですね、私は既に、計算を間違えているのですから』

 

 利息分の支払いはしばらく引き受ける。

 それも無条件で。

 

 それを引き出せただけでも充分だろう。

 だが、ホシノが求めたのは解決だった。

 ソレでは延命処置にしかならない、自分が三年生である事を考えると――。

 

 既に部屋から退出させられており、大嫌いな相手だった筈なのに惜しんでしまう自分に吐き気すら覚える。

 答えを出すのが遅かったから、あぁそうだ。

 また、遅かった。

 

 間に合わなかったんだ。

 

 ホシノの頭を埋め尽くす後悔が、まるで重さを帯びているかのように彼女を押しつぶす。

 

「やっぱり……大人は……ッ!」

 握り込んだ拳から血が滴る。

 拳の痛みから記憶が蘇る。

 記憶が、胸に刺す痛みを与える。

 

「分かっていたのに……私は……ッ!」

 痛みが、涙を産む。

 

 

 

 気付けば夜になっており、かつては車が行き交っていた街道をホシノは一人アビドス高等学校の方面へと歩く。

 どうにかして帰るつもりだったのに、どんな顔をして帰れば良いのかも分からないまま。

 

 満天の星空に見守られていようとも、足下しか見る事が出来ない。

 その状況でただ歩き、ただ進み、ただ帰る。

 

 重たい。

 体が重たい。

 心が重たい。

 責任が、重たい。

 

 守るべき四人の少女達を思うと、足が竦みそうになる。

 先輩と呼ばれる度に、己の事と分かっていながらもつい、別の誰かを探してしまいそうになる。

 

 そんな自分が嫌いで、そんな環境が大好きだった。

 

「探したぞ」

 聞こえて来た声は大人の物。

 寡黙で、不愛想で、だけど今日までアビドスの問題に向き合ってくれた大人。

「うへぇ、先生……だよね」

「あぁ、私だ」

 

 その大人は、次の言葉を探しているのか一度黙り、その上で喋り出した。

「借金の事ならば連邦生徒会に掛け合った上でキヴォトス内の問題として取り扱えば暴利に関しては何とかなるだろう」

 こちらを安心させようと言葉を並べているのが分かる。

 嗚呼、この大人はきっと良い人なんだ。

 

「奴等が認めないと言うのであれば、奴等の会社がある場所はどの学園の自治区でも無い……いや、すまん、アビドスの自治区でも無いのは、そうだが、強引に認めさせる手段もある」

 銀行でそうだった様に、生徒に手を汚させない様に動いてくれる。

 信じるべき大人はこういう存在だった筈だ。

「それに、オアシスが砂嵐で枯れるという事は無い筈だ。かつてオアシスがあった場所に砂が堆積して隠れてしまっているのであれば、過去のデータを参照する事でオアシスを復活させ、砂祭りといったか、あの行事を再度行う事も出来る筈だ」

 なのにどうして、私は目先の解決を優先してしまったのだろうか。

 

 いつもよりずっと饒舌な事からも窺える。

 顔を上げたホシノは、無表情ながらも色々と考えを巡らせている葛木の顔を見て、何処か可笑しさを感じた。

「先生まさか、何を言おうか考えないで追い掛けて来たの?」

「……そんな事は」

「うへへぇ、それじゃあ一番最初に伝えようとしていたのは何かなぁ?」

「それは……すまん、分からん」

 

 正直に返された答えに、ホシノは思わず破顔した。

「合理的では無い事は分かっている……伝える事で小鳥遊を元気付けられる言葉も、私は分かっていない」

 その独白に、申し訳なさすら感じる。

「だが、不思議な話だが……今日に至るまでお前達の、アビドス高等学校の様子を見てきて、最初は破産申請をするべきだと、学業に専念出来ない学校生活の不健全さに教師として疑問を感じていた」

 だが、続いて出た言葉に少し苛立ちを覚える。

「私自身、本来であればその道を勧めるだろう。だが、恐らく私は今回、ふむ……妥当な言葉が思い付かないが、想いに触れた」

 黙って、耳を傾ける。

「小鳥遊、お前達は凄い……お前も含め、先代、先々代の代表者達は皆、諦めずにアビドスの存続を願い、学生の身には過ぎた金額と向き合って来た。常ならばその責務は重すぎる故、何処かの代で諦められていてもおかしくない物を、お前達は……」

 自分の中で言葉を整理し、選び、その上で話しているのだろう。

 時折つっかえながらも並べられる言葉には嘘偽りは無く。

 本当にこの先生はその事実に心を動かされたのだと感じる。

 

「その上で、私ならばカイザーコーポレーションを潰すか、この借金を踏み倒す為に動いただろう」

 次いで出て来た言葉にホシノは驚愕を隠せなかった。

 踏み倒すという選択肢を最初から持ち合わせていなかったのもあるが、先生という立場の人間がそんな事を言っていいのか?と驚いた。

「だがお前らは、真っ当な手段で返そうと、その努力を止めなかった」

 当然だと思っていた事を褒められ、ホシノはどう反応すれば良いのか分からなかった。

「だが、カイザーコーポレーション側が犯罪に手を染めていた以上――容赦する必要は無いのだぞ」

 そうして示された道は、確かに明るかった。

 

 ズルをしても良いんだと認められた。

 その提案は黒服がしてきた物と同じだったはずなのに、何故か明るい物に感じられた。

「利子の分は、払ってくれるって人がいるんだ」

 だけど、

「だからさ、後は私達で頑張るよ」

 何故か、手を伸ばせない。

 

「そうか……」

 伸ばしていない手を掴むことは、流石の葛木にも出来ない。

「……だ、そうだが、どうだ?」

 だからこそ葛木は、その身体ごと抱き上げる。

 

『――任せておけ』

 一人では助けられないかもしれない。

『誇りたくは無いが、金ならある』

 だが、今の葛木には戦友がいる。

 

「せ、先生、私達は自分で……」

 理解が追い付かないホシノに対して、葛木は大きな手で頭を撫でてやり、丁度朝日が昇り始めたのか後光の中で変わらぬ無表情で告げる。

「いいか、小鳥遊」

 無表情で。

「――大人はな、ズルいんだ」

 少しだけ、微笑んだ気がした。

 

 

 

 

 

「もう、そんなぶーたれ無いの!」

 D.U.地区、SRT特殊学園統括センターにて、SRT特殊学園一年生の小隊であるRABBIT小隊は長期任務から帰還し、自分達が不在の間に起こっていた事のあらましを聞き、

「別に拗ねてません」「ただ先輩方、水臭いっていうか」「あぅ……言って下さればお力になりたかったです」「まぁー、私達が出来たのって当日の防衛くらいな気はしますけどねぇ」

 言葉とは裏腹に拗ねていた。

「ふふ、でも安心して、貴方達の次の任務はもう決まっているから」

 そう言いながらニコが取り出した書類を受け取るのは月雪ミヤコ、RABBIT小隊の隊長を務める少女だ。

 

「これは……護衛依頼ですか?」

「そうそう、とはいっても本人から要請があった時に出動するだけで、基本的には各自待機だね、逆に貴女達が自分で護衛しに行く事も許可して貰ってるから、どちらにしても一度顔を出しておいてね」

 その書類には『葛木宗一郎』という名前が記載されていた。

 

「新しくシャーレに赴任された先生ですよね……存じておりますが、個人武力にも優れているとネットで拝見したのですが」

「あー、えっとね、エミヤさん……私達の恩人から聞いた話だと徒手空拳が戦闘手段らしくて、スナイパーや地形上接近出来ない相手には投擲しか対抗手段が無いからもしもの時は助けてあげて欲しいんだってさ」

「成程……かしこまりました」

 

 ミヤコは書類に貼られた写真に写る葛木を見て、その無表情な様子から少し怖いと感じた。

「エミヤさんの活躍は拝見してますが……この方も、信頼できる大人の方であれば嬉しいのですが」

 葛木は未だ、キヴォトスでは試される立場である。

 

 彼が一つの事を成すまで、あと少し。

 

 

 

多分大筋合ってると思うんだけどミレニアムの第3章書いてもいい?

  • いいよ
  • だめだよ
  • やってみろ
  • エロ書け
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