「ほう――聞き及んでいた情報よりも幾分面白い存在じゃないか」
D.U.地区の一角に聳え立つ大きなビル、その最上階でエミヤはとある男と面会していた。
「てっきり炉の紛い物に堕ちた『崩れ』だと思っていたが、成程、お前自身がそういう存在なのか」
不躾な言葉を並びたてながら品定めでもするかの様にエミヤを上から下まで見る機械頭の男。
「それで用件は買収と聞いていたが、詳しくお伺いしようじゃないか、異邦人」
カイザーコーポレーションのプレジデントと呼ばれる存在を前に、商談に臨んでいた。
「手早いな、プレジデント」
高級感のある革張りのソファーに腰掛け、エミヤは用意された珈琲を口に運びながら観察を続ける。
「まさか昨日付けで会社の組織図が変更され、カイザーローンのブラックマーケット支店が独立企業になっているとは」
エミヤは知らぬ先日のやり取り、ゲマトリアから見限られたカイザーローンのブラックマーケット支店はこの先何かが起きると察知し、カイザーコーポレーション系列から独立企業の扱いへ変更されていた。
ソレも恐らく公表は未だ。いや、公表自体アクションが起こされなければしないつもりなのかもしれない。
元々、ブラックマーケットに銀行を構える様な会社だ。
大企業であるカイザーコーポレーションがブラックマーケットとガチガチに関係がありました……となれば、公然の事実ではあるが、会社という体裁を持つ以上何かしらの対抗策を打たなくてはいけない。
しかし、ソレが独立企業であり、色々とカイザーから借り物で経営されていた物であれば、カイザー自体はノウハウを教えたが関与していなかったという説明で済み、その独立起業を切る選択をすれば一応の体裁は保てる。
それに伴ってブラックマーケット支店を経由してカイザー預かりとなっていた担保はブラックマーケット支店の直接管理に戻され、カイザーPMC理事は突然の事態に混乱しながらも申請書類を猛急ぎで作成している事だろう。
「なに、嫌な予感がしたものでな、その口ぶりからすると予感は的中していたようで何よりだ」
実際はどうでもいい事だった。
予感が当たっていようが当たっていまいが独立企業化は進めていた事であり、結果的に全体の損失に繋がらなければそれで良かった。
「だが解せんのはお前が何故アビドスにそこまで肩入れするかだ」
無機質な紅のLEDが灯る。
「先生、彼ならば分かる。かなり深く入れ込んでいるようだからな、だがお前は違うだろう?お前とアビドスの間に繋がりは何も無い、そうさな、仮に五十億としようか、他の債権などを考えればかなり安くした方だが、それでも大金だ。その額を失ってまでアビドスを救う意味がお前にあるのか?」
「……機械の頭部を持つ割に、私よりもずっと人間らしいじゃないか、プレジデント」
エミヤはLEDの光を受けて尚、目を逸らしはしなかった。
「答えは『無い』、悪いが私が何かを助ける上で理由を求める事はあまり無いんだ」
「理解出来んな、貴様の目的はなんだ?至りたい場所は?それが分からなければ気味が悪い」
エミヤからすれば本当に理由など無い、敢えて言語化するのであれば、
「助けられるからだ」
プレジデントのLEDが激しく点滅する。
「……貴様、いや、お前の、ああ、貴方はそのような、クソッ、どのような、少し待て」
何やらおかしな挙動を始めた事で怪訝な視線を向けるが、何も察する事は出来ない。
「すまんな、それで、お前はそのような視点が何処までも独善的な物であると理解しているのか?」
独善的、言われてみればそうなのだろう。
今回は特に、アビドスの者達の事などロクに知らない、だが、葛木から『お前ならば助けられるはずだ』と言われ、迷いは無かった。
「理解はしている……そういう人生だ」
「……成程、そうか、人か」
訳の分からない所に注目されていると困惑しながらも、エミヤは頷いて返す。
「……理解せずとも、この質問に答えれば金銭のやり取りさえ無くあの企業の権利をお前にやる」
突然の申し出に理解が追い付かず。
「は?」
というあまりにも間抜けな声が出てしまった。
「それだけ我々にとっては危険な代物であり、存在されては困る物なのでな」
そして正直すぎる回答に、エミヤは心当たりを探したが全く思い至らない。
「お前がキヴォトスに至るきっかけとなった書物と陣、先日も同じ様な物が用いられ焼却した様だったが……アレはもう存在しないと考えて間違いないか?」
「……駄目だな、何故聞かれているのかまるで分からん、故に正直に答えよう。本も陣も無い、だが、あの陣は偶然の産物、本が在ったとしても同じ物を用意するのはまず不可能だ」
「何?どういう事だ?」
「そもそも、本に書かれていた陣とアルが書いた物が違うのだよ、類似しているが別物、故に完全な再現は先ず出来ない……本来の陣で得られるのは、もっと、位相を指定して、その上で何かを招き寄せる様な……我々の知る技術であるが実現不可能な代物だったな」
「結論、本は無く、陣も無く、本来の用途自体も使用不可能な欠陥品だと?」
「あぁ、すまないが教えられるのであれば何故そこまでアレに執着するか聞いても良いか?」
「………………嘘偽りない答えの礼だ。お前の発言の通りであるならば、お前はこのキヴォトスを救った」
「なん、だか……それを喜んでいる様に感じるのだが、てっきりプレジデント、お前らはキヴォトスを害する存在だと思っていたが、違うのか?」
「さてな、それは立ち位置による。私からすれば『生徒』の中にもキヴォトスを破壊する者はいる上に、お前が懇意にしている黒服の組織、ゲマトリアはどちらかといえばキヴォトスを守る存在だ。しかしお前の立場から見れば私は今のキヴォトスを破壊する存在であるが、私の立場からすれば世界を取り戻す為の戦いだ」
ソレは『正義』の在り方にも似た回答だった事から、成程確かに答えは無いと知る。
「もう一つ質問をしても良いか?」
「なんだ?」
「何故ここまで全てを答える?」
その質問に、相対する機械面の男は肩を震わせる。
「自信だよ、エミヤ」
その言葉は、確かに自信に溢れていた。
「分かるか?例え何が立ち塞がろうとも最終的に目的を達成するのは我々だ」
膝を組み、深く座る。
「太古の遺産も、再興の計画も、各教義に沿った様々な物でさえ、我々には利用価値がある」
言葉の意味は分からずとも、エミヤが把握している以上にキヴォトスを知っている事は伝わってくる。
「全ての計画を最終的に最後に我々が利用できれば良い、その為ならば雌伏の時を過ごすのを我々は慣れている」
軽く挙げた掌に、まるで全てを乗せているかのように振舞うプレジデント。
「だからこそ、お前に全てを教えようとも何も問題は無い、最後に勝つのは――我々だ」
「……まるで、全てを見透かしたような発言だな」
「エミヤよ、大半の物はお前の敵として立ち塞がるだろう。だからこそ教えてやる――調月リオには気を付けろ、奴の目的が果たして何なのか、私でさえ測りかねているが、場合によっては奴は禁忌を犯そうとしている」
「禁忌……?」
「少なくとも、どのような法則の下に生きていようともソレだけは禁忌の筈、私でさえいかなる理由があろうともソレの可能性は捨て去るだろう」
ここまで自信をひけらかすプレジデントが警戒する程の物となれば、自然と警戒心も湧く。
「……話し合いはここまでだ。カイザーローンは今日からお前の会社だ。わが社との関りも無い、心置きなく好きにしろ」
「感謝する……本当に金銭は良いのか?」
「エミヤ、お前は社会的に言う良い奴なのだろうな、私と腹芸をしに来たのかと思えば知らぬことを話された際は己の内で噛み砕いて理解しようとしきりに頷いていた」
「……情報を話しながら、私が何処まで把握しているのかも探られていたという訳か」
「その通り、そしてやはりお前は現状、敵対していない事が分かった――お前という
その情報は馬鹿に出来ない、将来エミヤと敵対する事があった際に把握していない武装を用意するとなれば……はたまた、知り得ている範囲の物に知り得ない物を混ぜる事で対応を誤らせる事すら可能となる。
それと比べれば、カイザーという大きな企業が持つ末端の企業など安い物だ。
「私はお前を評価している――ヘイローが無いという点もな、何処ぞの迷子とは違うという訳だ」
一体プレジデントが何を指して言っているのかは分からないが、エミヤは見ている情報の段階が違うと判断。
今を解決しようとしているエミヤと、先の先まで見通して話すプレジデント、この場において情報戦ではエミヤの敗北といって間違いない。
「表情には出ない様に気を付けていたが、私もまだまだ未熟だな」
「いや、実際三ミクロン程の頷きだ。人間相手であれば間違いなく誤魔化せるレベルだとも、安心しろ」
自我を持った機械という存在に対する警戒心を強め、その商談は終わった。
エミヤが去った部屋で、プレジデントは一人キヴォトスのマップを開き、愉快そうに肩を揺らす。
「先生が『先導者』ならばエミヤは『守護者』、黒服は『探究者』であり『落伍者』といった所か」
思った以上に収穫の多かった商談の席を思い返し、自分の言葉を振り返り思わず笑いを漏らす。
「はは……ならば私は『先導者』で『守護者』で『探究者』という訳だ」
そして、もう一人の要注意人物に関しても評する。
「そうなれば奴はさしずめ『設計者』といった所か、奴が居れば我々の目的の達成は確実だというのに」
評された者、ミレニアムサイエンススクール、セミナー会長の調月リオは膝を抱えながら己の頭の中で計算を働かせていた。
「――コユキに自覚させたのは早急だったけれど、学籍の移籍は行われていないみたいだし、まだ良いわ」
彼女の目的は幾つもあり、その中にコユキの存在は必要不可欠。
いや、正確に言えばエンジニア部とセミナーの三人さえ居れば理論上はいずれ解には辿り着く。
だが計算装置やシステムの構築にはヴェリタスの面々も必要であり、最終的には防衛の為にC&C も必要となる。
そもそもで、リオが求める物をコユキが例え解を得たとしても、ソレは長い……または至るまでの計算が重要である以上、端的な答えであればユウカの計算能力が、長い場合はノアが必要である。
「皆が幸せになる為には、必要な事だもの」
その眼が見据えるのは未来、そして過去。
目的を達成する為の目的に対する予備の目的とその解を得る為に必要な問題。
そして予備の目的を使用する上で観測すべき星々。
「きっと私は何処かで間違うからこそ、必要なのよ……」
膝の間に埋めた顔に、どんな表情が張り付けられているのか、それは誰も知らない。
Wordのデータが吹っ飛んだのでしばらく更新できませんごめんなさいWindowsはくたばれ
多分大筋合ってると思うんだけどミレニアムの第3章書いてもいい?
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いいよ
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だめだよ
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やってみろ
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エロ書け