「成程、その男は恐らく衛宮、お前が対峙する相手になるだろな」
プレジデントとの会談が終わった当日、葛木に事の次第を話した所、返って来た言葉はその程度の物だった。
ホテルの一室、打ち合わせもあるからと一緒の部屋で寝泊まりをしているエミヤと葛木は互いに作業に追われている。
エミヤは権利の譲渡に関する書類に対してのチェックと、自分が管理する事になる債権の把握。
葛木は今回の事でアビドスの所有となる土地の詳細なデータと、それに合わせて現在展開しているというカイザーPMC の動向をチェックしていた。
「納得すると思うか、彼女達は」
エミヤからの問い掛けに、葛木は一度手を止めて思案を巡らせる。
「小鳥遊は……難しいかもしれんな、何があったのかは分からんが、過去に起きた何かが幸せになる事を彼女に拒ませているかのような……そんな印象を受ける」
「……ああ、確かに幸せな過去であろうとも、気が付けば道を限定する事は往々にしてあることだ」
「だからこそ、鍵があるとすれば――十六夜だ」
「……あの、ほわほわというか、柔らかな印象を受ける生徒か?」
エミヤの返答に葛木は一際鋭い視線で睨み返し、エミヤが「な、なんだ?」と問えば「貴様、未成年の女生徒を相手に柔らかいなど……」と一瞬にして不審者の様な扱いで返された。
「砂狼曰く、彼女は小鳥遊の過去を知っているらしい……だが十六夜は幸せになろうとしている。あの場の皆で明日に向かう心持ちで今回の一連の騒動に立ち向かっている」
「同じ経験をしているのかは分からないが、確かに小鳥遊の心を動かせるとしたら……十六夜ノノミになるか」
その相談はまるで生徒を利用しようとする物にも聞こえるが、ソレは違う。
己等では成し得ない説得という行為、己の無力を受け入れて尚、頼る事で事態の解決に繋げようとしているのだ。
「だが、十六夜ノノミは何処か……仮面を被っているというか、小鳥遊ホシノと似た部分がないか?」
「それは私も感じている事だが、必要があっての事だと私は認識している」
二人が言う仮面、それはノノミが見せる喜怒哀楽の薄さにあった。
いや、喜に関してはむしろ感受性豊かに人一倍楽しもうとする姿勢が見受けられるが、その他の感情に関しては何処か余裕を持つ事で平静を保つようにしていると印象を受けた。
「我々がアクションを起こす必要は……」
「無い、あまり彼女達を見くびるな、衛宮」
そう断言されてしまえば、エミヤに出来るのは短い間に随分とアビドスの面々への理解と信頼を強めた葛木に対してのニヤケ顔だけだった。
「あぁ、それと葛木、コレは恐らくホシノかアンタに相談するべきだと思ったんだが」
「む?」
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「ふむ、それは明日彼女達に話す際に提案としてみれば良いのではないか?」
「だがそれこそ、ホシノが受け入れるか?彼女は全額を負担される事や、アビドス以外の力で借金を返すのは否定的だったのだろう?」
エミヤがしたとある相談は、葛木から見れば良策、ホシノから見れば駄策の案。
「職務の内容は少し気を遣ってやる必要はあるが、我々がしてやれる最善手では無いか?」
「……そう、だよな」
「なんだ、嫌に自信が無さそうだが」
「SRTの存続もそうなんだが、こっちの世界に来てから武力以外で人助けが出来ている事が……嬉しくもあり、実感は少なく……」
勝利!勝鬨!みたいな分かりやすさは無いが確かに救われた人が居る。
しかし、どうしても武力や魔力や圧力での解決が多かった前世からすると実感が薄れてしまう。
それは喜ばしい事であり、自分にこんな事が出来たのかと可能性の広がりも感じていた。
「……私が教師として勤め始めたばかりの頃、一人の生徒が私の下に相談に来た」
突然始まった葛木の自分語りに「(珍しいな)」と思いながらも耳を傾ける。
「相談内容は進路の事、当時の私は『生きて行く上の教師』として無難とも呼べる回答をした」
葛木の視線は窓へ向いており、その窓の向こうに懐かしき過去の映像を見る。
「今となっては何と答えたのかも分からん、その生徒は『ありがとう』などと礼を述べていたが……相談を受けて数日、私は助けとなる答えを言えたのか気になり始めた」
目頭を揉み、天井を仰ぐ。
「学期末、その生徒は『先生のお陰です』と私の助言が有効に働いたことを教えてくれた……だが」
溜息を深く吐き、深く椅子に座り込む。
「愚かにも私は何を伝えたのか覚えていない、しかしそれからは『高校教師』として生徒からの相談には正面から向き合う様にした」
シッテムの箱を人差し指で触れて、アロナの頭を撫でている様だ。
「実感が欲しかった。私は上手くやれているのだと、何故礼を言われたのかと……もっとも、上手くやれていると気付いたのは二十四になってようやく、多くの生徒から『ありがとう』と言われ経験を重ねるまで、私は生徒からの『ありがとう』を信じる事が出来なかった」
視線を移した葛木は、エミヤを見つめる。
「お前はどうなのだ?『ありがとう』は受け取ったか?どれ程の回数、ソレを繰り返せばお前は実感を得られる?」
「……そうか、俺は実感を感じるのではなく、誰かに与えられて初めて、助けたと実感を得られるのかもしれん」
FOX小隊の面々とのやり取りを思い出し、己の手を握り込む。
「そうか……そうか……」
その手の中には、実感を確かに得ていた。
「それにしても、未だにお前も『生徒』か?」
「勝手に『先生』をしたのはアンタだろうに、えぇい、書類仕事に戻るぞ」
時代が変わり、世界が変わり、関係に変化が見られようとも、葛木にとって衛宮が教える事の無くなるまで、『生徒』であり続けるのだろう。
十六夜ノノミにとって、アビドス高等学校への進学は望んだ物だった。
その裏に血族としての責任があろうとも、彼女は一つの星を追った。
数十年前、人口の増加にかこつけたとある企業の土地売却運動、それによる多数の企業の流入と資源の搾取。それは間接的にではあるが、砂漠化を進行させる手助けをしてしまった。
最盛期に至り、経済的に発展したアビドスにおいて『この時代を作ったのは我々だ』と宣言した事で、全ての歯車が狂い始めた。
らしい。
そんな過去の話はノノミにとっては覚えておかなければいけなくとも、自分の行動を変える理由にはならない。
そうした過去から多額の借金を得ても尚、進級の時を独りで迎えた生徒がいると聞き、彼女は時を紡いで尚も守り抜かれる誇り高き愛校心に胸を打たれ、そのような先輩の下で高校生活を送りたいと願った。
だが、待っていたのは。
「よろしくね、ノノミちゃん」
目元に隈を作り、休めばいいのに体を酷使して、
「駄目だよ、ソレは私達で返す物で、誰かに任せて良い物じゃ無い」
差し伸べた解決策をふいにする人で、
「うへへぇ、ノノミちゃんももっと笑って笑って」
誰よりもつらい筈なのに誰よりも余裕を持っている様に振舞って、
「……ノノミちゃん、この学校に来てくれてありがとうねぇ」
「本当に、ありがとう」
流したい涙すら、後輩の前で流そうとしない。
とても、頼りない先輩だった。
多分大筋合ってると思うんだけどミレニアムの第3章書いてもいい?
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いいよ
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だめだよ
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やってみろ
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エロ書け