エミヤがプレジデントとの会談に臨んだ翌日、アビドス砂漠で大規模に部隊を展開させていたカイザーPMC理事は自身の携帯端末に送られてきた命令に困窮していた。
「な、何故……お任せして下さると仰っていたのに……!」
そこに記されていたのは本日付けでの撤退指示、そしてアビドス砂漠の権利は全てカイザー所有では無くなったという事実。
「な、ならば結果だ!結果で示せばいい!結果さえあれば御考え直し下さる筈だ!」
だがその事実は到底認められるものでは無く。カイザーPMC理事が選んだのは結果を出す事だった。
既に目星の付けた地点は幾つかあり、確実性とデータの為にその他の地点を探していたが、こうなれば一縷の望みに賭けるのみと行動に移す。
「A~Fの地点に今すぐ爆薬を仕掛けろ!」
それが、眠れる蛇を起こすとも知らずに。
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「えっと、つまり……?」
頭の上にクエスチョンマークが浮かんでいる表情で葛木に再びの説明を求めたセリカは、「シロコ先輩分かった?」と尋ねるが、「ん、皆目」検討も付かないらしく葛木を見上げた。
「つまり、ブラックマーケット支店は独立企業になり、カイザーコーポレーション預かりだったお前らの土地に関してもかの企業が預かる事となった」
「その、それってこれまでと何か変わるんでしょうか?」
軽く手を挙げて質問をしたアヤネを見て、葛木は頷きながら答えを返す。
「変わる部分は多いが、それは追々、次にブラックマーケット支店の銀行だが、建物ごと無くなる予定だ」
「はい!?それじゃあ何処に返せば良いのよ!?」
セリカの驚きに予想通りの反応で少し嬉しそうな葛木は次の話に移る。
「そもそもの部分、独立企業となったカイザーローンのブラックマーケット支店の権利はとある人物に移譲されたので、今後の返金はその者に対して行う事になる」
「それは、先生にですか?」
「いや、私では無い――が」
突然小声になり、
「信用できる人物だ」
チラと扉の方を向く葛木に、つい皆も釣られて目線を向けると、ぼかし窓の向こう側に誰かが居るのが見て取れた。
「へぇ~」
当人の前では言わないんだろうなぁとニヤニヤするホシノを強く睨む。
「……睨まなくたっていいじゃん」
ぶーたれる様子に溜息を吐き、「入って来い」と先程よりも明らかに声を大きくして告げると、扉を開けてその人物が入って来た。
「コイツ……もとい彼がブラックマーケット支店、もといベンリヤコーポレーションの会長兼庶務、衛宮だ」
「あっ!?」「この人って……!」「ん、エッチな音声の人」「わぁ~、有名人さんですね」「お~、お久しぶり~」
それぞれがリアクションする中、エミヤの視線はシロコに釘付け。
静かに首を振るエミヤに「寝かしつけの人?」と言い直すシロコ、まだその方がマシだと頷いて返す。
「紹介に預かったエミヤだ。説明にあったようにこれからは私に返金して貰う形となるが……同時に一つ提案をさせて貰いたい」
エミヤの言葉を葛木が引き継ぎ、
「今回、ベンリヤコーポレーションはブラックマーケットから撤退、金貸し業自体を取り止め、現在ある債権の回収は続ける物の、基本的には業務内容を便利屋68の物に移す方針だ」
「便利屋68……確か、何でも請け負うゲヘナの?」
調べた事でもあるのか反応したシロコに「なんで知ってるの?」と尋ねるホシノに、「懸賞金の掛けられている犯罪者を一緒に捕まえようか検討中」と返答、ネットに広告を出してから依頼件数は増えているし、目の前で成果が確認出来てエミヤも満足気だ。
「とはいえ、何でも屋に関しては我々で出来るのだが、債権回収に関してはロボットの人員などをカイザーが権利の譲渡の際に自社に移してしまったので、現在人員が足り無くてな」
なんて口では並べているが、実際にソレをプレジデントに提案したのはエミヤだ。
社員に将来的に敵対するかもしれない組織の息の掛かった者がいるのは流石に受け入れられなかった。
「そこで先程の提案だ」
エミヤは持参したビジネスバッグから五枚の用紙を取り出すと、対策委員会の面々へと手渡した。
「君達には債権を返しながら、我が社の社員として債権の回収を手伝って貰いたい」
コレが葛木が導き出した答え、エミヤと相談し、彼女達が学校生活を送りながら借金も返せるようにする為の策。
「無論、あのような暴利、というよりも回収を目的としている為、利息自体が無くなる」
エミヤからすれば初期投資がゼロなので回収できればそれで良いという計算、そもそもで、アビドス以外の債権を合わせれば軽く百憶近い回収額になる以上、最早利益を求める必要も無い。
「君達には社会学習の一環として債権回収を担って貰い、給与から天引きする形で段々と借金を返してもらうシステムを作り上げる」
やらせる内容が少し学生には負担が大きいかとは思いながらも、コレも彼女達の事を思えばこそ。
「月の回収額に問わず給与は一律として、インセンティブなどは無いので無理な取り立てだけはやめてくれればそれで良い」
そうは言いながらも月の給与は三桁万円であり、ボーナスは年に四回という破格の待遇。
「シャーレとも連携する事で各学園の自治区における活動を可能として、恐らくは君達の後輩にもこの業務は引き継がれていく形になるが、少なくとも返す宛と学校での生活は守られる形になる……更に」
葛木に視線を送り、シッテムの箱からホログラムでアビドス砂漠を表示する。
「気温、地質、砂粒の体積量、人口推移から過去にオアシスがあったであろう場所を割り出し、将来的には会社の金でオアシスの復活と、アビドス全体をベンリヤコーポレーションのアビドス支社で再興していければと考えている」
借金を返すのはゴールでは無く過程、最終目標は彼女達の知らない多くの人々が笑うアビドスの景色だ。
「主にはプラントを作成……植物プラントや畜産プラントを築く事で安定した供給を実現し、アビドス内での自給自足率を最低でも七十パーセントまで回復したい」
どこぞのトリコロールの国の様に二百パーセントを超える事は難しかろうが、百を切って輸入する必要があり他学園と連携が必要なくらいが丁度良い。
「という訳で、スカウトの話に戻ろうか」
呆然とする対策委員会の面々を前に、エミヤは各自にペンを手渡しながら尋ねる。
「私と一緒に働いてほしいのだが、如何かな?」
砂狼シロコは断る理由を見つける方が難しいと思い、奥空アヤネは既に乗り気で契約書を読んでいる。黒見セリカは自身がしているアルバイトの事を気に掛けたが、
「アルバイトは続けて良いさ、いずれアビドスに人が戻って来た時、君の様な存在が居なければ商業自体が再興できなくなってしまう」
エミヤからお墨付きを貰いアルバイトを副業に社員として働くことを許可された。
そして、十六夜ノノミと小鳥遊ホシノは、手を止めていた。
他の三人が様々な質問をエミヤに投げ掛ける中で、まるで二人だけが別の空間にいるかの如く、静寂の中に居た。
十六夜ノノミからすればこの提案は満点とはいかずとも理想に近い形での問題解決への道を作ってくれたと感謝していた。これならば学生として生活を送りながら、授業の一環という名目で社会勉強……もとい債権回収を手伝いアビドス高等学校が抱える借金の返済も行える。更にはオアシスの復興など対策委員会が目的としている活動も継続する事が出来る。
なのに、ノノミの眼はそれまで葛木が見て来た中で、一番――苛立ちを孕んでいた。
原因は、隣に座る先輩。
「……これって、私達で返すって、言えるのかな」
小鳥遊ホシノの煮え切らない態度だ。
小さな呟きに、
「言えますよ、働いてお金を稼いで返すんですから」
間髪入れずにノノミは返答した。
それでも、
「だ、だけど、結局先生とエミヤさんの力を借りて、返し方を作ってもらって」
小鳥遊ホシノは、認めたくなかった。
「それは、紫関ラーメンの大将が開いたお店で働いているセリカちゃんと何が違うんですか?」
何かの理由を探して、
「何もしていないのに利息だって無くなって」
何かの苦しさを求めて、
「元からの暴利、そもそもの契約がおかしかったんですよ?」
何かを、認めたくなくて。
小鳥遊ホシノは泣きたい気持ちでいっぱいだった。
そこにあったのは感謝では無い、悔しさだ。
簡潔な返済方法をかつてノノミに提案され断った時とは違う、目の前にある希望は自分達で掴み取る希望。
エミヤも葛木もそのための階段を用意してくれたに過ぎない。
それが分かっていながらも、悔しさが胸を占めた。
「でも、これじゃあ……」
持っていても仕方のない悔しさが、認めない理由を探させた。
「いい加減にして下さい」
探す事を、止める者もいる。
何故なら、認めないという事は伸ばされた手を振り払う事。
「貴女は……伸ばした手が何も掴めない事がどれほど虚しいかを知っているのに……」
救いを求めているのに、救おうと伸ばされた手を振り払う。
「私の時だってそう、手を取れば救われると分かっていたのに、自分からソレを断って」
十六夜ノノミには、それこそ認められない。
「自罰なら勝手にすればいい……だけど、貴女が救われることを望んでいる人が居るのに、どうして気付けないんですか!?」
小鳥遊ホシノは、俯いたまま。
己の愚かさと向き合う。
「うへ……だって、さ」
内面を、そのまま吐露する。
「私、ずっと頑張って来て、馬鹿みたいな可能性でも、拾ったりしてさ」
その弱さを、そして強さを。
「――最後に、自分の力以外で救われるってさぁ」
「私のしてきた事って、本当に、ちょっぴりの頑張りで……今目の前にある希望からしたら、無意味だったのかなって」
強く。
拳を握り締める。
「そんなの、馬鹿みたいじゃん」
血が滲む程に、床に音を立てる程に。
殴打。
パイプ椅子に座っていた小鳥遊ホシノが転げ落ち、頬に手を当てる。
「そんな事、絶対に認めない……!」
余程急に動いたのか、髪が乱れてしまっている。
「今、此処に居る私達を前にして、貴女自身がソレを言う事を……私は絶対に認めない!」
ノノミのその眼には涙が、小鳥遊ホシノが流す事を忘れた涙があった。
「認めないなら、どうして……」
「無意味じゃないから、私が入学した!」
ノノミもまた両手を強く握り込み、腹の底から声を張り上げる。
「貴女が作り上げた線が、貴女しか知らない時代と私達を結び合わせて、私も、シロコちゃんも、アヤネちゃんも、セリカちゃんも、皆が此処に居られるまでを繋ぎ止めたじゃないですか!」
目元の涙を乱暴に拭い、ホシノを正面から見据える。
「私が認めないのは、無意味だって事……貴女の頑張りが私達をこれまで助けてくれていたのに、ぐすっ」
倒れてそのまま横を向き、動こうとしないホシノに跨り胸倉を掴んで言い聞かせる。
「それが無意味だったなんて、言わないで下さい……!」
言いたい事は言えた、それでも涙は溢れてくる。
動こうとするエミヤを、葛木が制止する。
眼で「だが、あれでは」と反論するが、葛木の眼はただ「信じろ」と告げて来た。
頷きで、返す。
ホシノの心に、響いてはいる。
「私が、皆を助けたかったんだ」
だからこそ、より深い部分の弱さが見えてくる。
「私が、受け継いだ物だから」
しかしその弱さを露呈しても尚、
「だから、変にこだわっちゃってたのかな……」
ホシノは涙を、流さない。
受け入れる。
ホシノはようやくその選択肢を選ぶしかないのだと悟った。
ノノミの言葉を受けて、対策委員会の皆と出会うきっかけを得られたのは、これまで自分が頑張って来たからだと冷静に理解する事が出来た。
ああ、無駄じゃ無かったんだ。
そう思えた。
そしてそこで初めて、眼を、向けた。
「……ノノミちゃん、泣いてるの?」
跨るノノミの頬に手を当てて、流れてくる涙を受け止める。
「どうして」
「貴女が、大好きだからですよ……!」
止まらない涙を、拭おうと擦る。
「独りで頑張って、私という後輩が出来て、段々と先輩になっていく貴女を見て」
止まらない涙は想いの表れか、それとも悲しさから来る物か。
「私達に決して弱さを見せない
――不安な事はあるけど、うん!大丈夫!
――ほらもっと笑って~?えへへ、ホシノちゃん可愛い~!
――あんまり前に出過ぎちゃ駄目だよ、ホシノちゃん
忘れていた訳では無い、自分を大好きだと言ってくれる存在を。
彼女から受け継いだ物を守って、彼女から受け継いだ物を自分が助けると頑張ってきた。
「そんな貴女が、自分が救われることを拒むから」
そんな彼女が、今の自分を見たらどう思うだろう?
幸せになって欲しいと、砂漠の風に乗って――声が聞こえた。
「そんな貴女が、涙を流さないから」
想いが、溢れる。
「
後輩の前では、泣かないと決めたのに。
ぎゅう と、抱き締める。
「ありがとうっ……ノノミちゃん」
嗚咽交じりの声、ノノミですら初めて聞く声。
「わたし、たすけられてばっかりだっ……」
そんな事は無いと伝えたかったセリカは、ゆっくりと二人を包み込み。
「もうっ、もうどうか、泣かないで」
アヤネは走り寄り、転びながら皆を抱き締める。
「わたし、もう、泣けるから」
シロコは葛木に目配せをして、目礼をしてゆっくりと皆を包む。
「なみだっ……ながせるからぁ」
ゆっくりと、エミヤと葛木は教室を出る。
独りで頑張って来た少女には、気が付けば後輩が出来て。
後輩を不安にさせまいと、余裕を持って事に当たって来た。
エミヤは独り、校舎の屋上に向かう。
その
気付かない筈が無い、状況が状況だ。
「聞いていたか、黒服」
それでも気付かない振りを続けたのは、気付けば彼女が崩れてしまうから。
誰かの為に在る事で己を保っている彼女の弱さを受け入れる余裕が、その時は無かった。
『――えぇ、認めざるを得ませんね、私が間違っていたと』
しかし、今は違う。
未来に光が差した今、独りが強く在る必要は無い。
みんなで強くなればいい。
『失った物ばかり、見ていたようです』
その為に必要な涙は流れた。
『クックック……エミヤさん、死者の声という物を、信じますか?』
後は、手を取り合って向かうだけだ。
「嗚呼、信じているとも」
『私もね、今しがた聞こえたんですよ』
「なんと?」
誰かが望む、その未来へ。
『幸せになって欲しい、と』
多分大筋合ってると思うんだけどミレニアムの第3章書いてもいい?
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いいよ
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だめだよ
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やってみろ
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エロ書け