「カイザーPMCが砂漠から撤退していない?」
ホテルの一室、電話越しに葛木から伝えられた言葉にエミヤは反芻し、終わったと思った一連の出来事に続きがある事を理解した。
『あぁ、今日は学校に残って私は奴らの動向を確認する――場合によっては明日、皆で不法占拠している奴等を叩きのめす』
凄く物騒な事を言い出した元教師に「(ここまで過激だったか……?)」と思いながらも、「了解した」と返してベッドへと深く座り込む。
「プレジデントの話では撤退する様に命令を出しておくとの事だったが……重機などの解体に時間が掛かっているのなら仕方ないと思うが」
それでも一度はポーズとして撤退して見せるのが社会のやり方だ。
それをしない、という事は撤退を拒否して何かの作業に従事しているか、目先に目標だった何かを見つけて強行して作業に当たったかだ。
「しかし、アビドス砂漠にそれ程までに重要な物が眠っているのか……?いかんな、情報が足りん」
プレジデントとの会話の中でも感じた情報の不足、エミヤはまだキヴォトスにおいて知らない事が多過ぎる。
『えぇ!そう!だからこそ私が此処でババンと登場する訳です!』
スマホから聞こえて来た聞き覚えの無い音声に、自身が通話の開始ボタンなどを押していないことを記憶の中で振り返り、思わず室内を見回す。
誰も居らず、やはりスマホからの音声だと判断、スマホの画面を見てみる。
『あ、あれ?私の姿は表示されてますよね?お、おーい、エミヤさーん』
そこには車椅子に座ったSDキャラが表示されていた。
初見で覚える印象は白、白に白。
何処か心配そうな表情で画面越しに手を振っている。
「君は……私のダウンロードしたアプリか何かかね?」
返って来た言葉に安堵したのか笑みを見せたキャラクターは漫画チックなキラキラ効果を周囲に散らし、心から喜んでいる事をアピールしている。
『ふふふ、そう思われるのも無理はないでしょう!ですが!私の正体は口にする事は容易くとも見破るは至難!そう!今のエミヤさんがお考えの通り正体不明の可愛いキャラクター!思わず見惚れてしまうのも無理はありません、言葉も出ない様子、ふふふ、やはり美しさは罪でありながら己を飾り立てる最上の装飾品、それを生まれながらに持ち得ている事を謝罪したくとも誇らしく感じるばかりなのは私の持つ咎でしょうか?嗚呼なんと罪深くも美しき存在っ!?ちょ、ちょっと!電源ボタンを長押しするのはお止め下さい!』
「シェイクスピアの朗読劇でも始まるのかと思ったぞ」
今のやり取りだけでエミヤは彼女が自信家である事はよーく理解した。
『確かに、私の紡ぎ出す言葉はまるで喜劇か悲劇か判別するのが難しい程に綿密に練られた物かもしれません、ご賞賛頂き感謝しますわ』
そのやり取りに思わず、何処かの虎に「炬燵で寝ると風邪引くぞ」と伝えた際に「えへへぇ、士郎は私の事を頭が良いって思ってるんだねぇ、ぶぇっくしょい!」とポジティブ思考で返されたのを思い出し溜息を吐く。
「そろそろ、自己紹介してくれると助かるのだが」
『あら、これは失礼致しました。すぐにでも私を知りたいと仰って下さるのならば名乗らねばなりませんね』
突っ込んだら面倒臭いことになると思い無言で続きを促す。
『私はミレニアムサイエンススクールの特異現象捜査部の部長、元はヴェリタスに所属していながらも謎を追う謎の女となった美少女、身体は弱くとも追い求める存在の為に天才の名を用いて世を洗い出す薄幸の存在!そう!超天才清楚系病弱美少女ハッカー、明星ヒマリと申します!』
「便利屋68庶務のエミヤだ、よろしく」
自己紹介の長さに差がありすぎて申し訳なさを感じるエミヤだった。
『もっとも、正確には私は明星ヒマリが作成した疑似人格、AIと言えばご理解しやすいかもしれません』
「それで、その病弱ウィルスがどうして私のスマホで暴れまわっているんだ?」
『病弱ウィルス!?こ、こほん……実は、貴方の存在は以前から存じておりまして、様々な問題に首を突っ込みそうな性格でしたので、いずれは私が追い求める謎にも対面することはあるかと考えていたのですが、つい先日、黒崎コユキさんをミレニアムに迎えに来られた時がありましたよね?』
思い返してみれば、バイクで迎えに行った記憶が呼び覚まされる。
「そう、だな……だがあそこで何かのアプリをダウンロードしたりしていないぞ?」
『えぇ、私の部下とでもいいましょうか、人員を人波に紛れ込ませて、持たせた機材から強引にこのスマホとの間にネットワークを構築し、私が送り込まれたのです』
「……無差別テロ?」
『違いますよ!?』
思ったよりもエミヤが酷い事を言ってくるのでSDヒマリの右上に苛立ちを示すマークが表示され、思わず可愛いと思ってしまったエミヤは気の迷いだと頭を振る。
「それ以来何か?もしかして私の会話や私生活を覗き見する変態的活動を続けていたのかな?超変態悪質系病弱美少女ウィルス殿?」
『なっ、なんて言い方をするんですか!そ、それは聞いていましたが、あまりにも話している内容が漏らすに漏らせない内容なので私の本体にすら伝えていないんですよ!?』
「む、それは失礼した、プライバシーを守って偉いぞ、よしよし」
スマホの画面に表示されていたので、人差し指と親指で拡大してみれば出来たので、そのまま頭部をタッチしたまま左右にスライドして頭を撫でてみると、存外、嬉しそうに「ふふーん!」と喜んでくれた。
内心で「(最新版のたま〇っちってこんな感じなのかな)」と考えていたのは内緒だ。
『ふふふふふん♪お褒め頂いたように私は本体よりも倫理観を育まれた優秀な個体ですので!……それもこれも、エミヤさんの活動されている様子を眺めている内に考え方が変わっていったというのもありますが、兎も角!今回貴方が向かう可能性が九十パーセントを超えているアビドス砂漠、あちらには『大蛇』の都市伝説が残っているのです――いえ、都市伝説と呼ぶにはあまりにも明確に存在する、脅威が』
「な、なんだって――!?」
思わずマガジンミステリー調査班の様な反応をしてしまったエミヤは場を掌握されつつあることに気付き、一度咳払いを挟み続きを促した。
『これはデータ上でしかもう残っていないとある書物のデータからの引用なのですが、アビドスには再生の蛇と呼ばれる存在が居たとされています』
「(アビドスで再生の蛇……まさか、な)」
思い当たるのはエジプト神話における混乱と破壊の象徴、しかしそこまで話が飛躍すれば到底太刀打ち出来る相手では無くなってしまう。
「(あるいは……符号を当て嵌めて再現された代用品、か)」
キヴォトスだからこそ有り得る可能性も考慮に入れ、SDヒマリの話に集中した。
『気になるのは、アビドスの現状とこの蛇に関連していると思われるとある書の一節です』
画面上に表示されたテキストを見て、エミヤは驚愕した。
『これは、古代文書、怒りと赦しの書の二十九章十二節』
これまでキヴォトスで見る事が無かった旧約聖書、あまりにもこの世界と関りが深すぎる書物に、背中に走る寒気を抑えられなかった。
しかし、此処でそれを「これはエゼキエル書」と口にする訳にはいかなかった。
今しがたヒマリが『怒りと赦し』と口にした事からも、何故か神性にまつわる名前が別で伝わっていたからだ。
『わたしは砂漠の地を荒して、荒れた土地の中に置き、その町々は荒れて、四十年のあいだ荒れた町々の中にある。わたしは砂漠の人々を、もろもろの土地の人々の中に散らし、もろもろの土地の中に散らす』
やはり、とエミヤは表情に出さぬよう抑えながら、エジプトという名称が消え、国という言葉が使われていない部分に注目した。
『そして十三節にて、神性は言われる。四十年の後、わたしは砂漠の人々を、その散らされたもろもろの民の中から集める……と、こう記されております……砂漠の地を現在のアビドスと捉え、この神性なる存在が遣わした……神の代理人が大蛇と考えてみて下さい』
本題に立ち戻れば、最盛を迎えたアビドスが荒廃し、住んでいた人々が別の場所に移り住んだという点や大蛇の存在がエゼキエル書の一文と合致していると言いたいのだろう。
『本来、この怒りと赦しの書とアビドスの伝承は繋がりを持つ物ではありません……ですが、かの大蛇が再出現をしたのが数十年前であり、記録によれば目撃と撃退の記録は既にあるにも関わらず、撤退をしても何度も現れるという点から鑑みるに、再出現の数十年前と、この怒りと赦しの書に記載された四十年の時の始点が同じであり、この間は復活は起こり続けると考えれば二つに繋がりが見えてきます……元々、どちらが先かは分かりませんが、担うべき『役割』が重なり、後からどちらかの『役割』も受け持ったと考える事が出来ますが……元から二つの役割を持った存在である点も否定出来ません』
「……考察は、後にしよう。つまり、遠回しだがヒマリが言いたいのは、先程の電話で葛木から連絡があったカイザーPMCが撤退していない事態に、その大蛇が関わっている可能性がある。そう危惧して教えてくれたんだな?」
考察してもロクな結果が出てこないのは目に見えた上に、ヒマリが本当に伝えたい事から逸れてしまうと感じたエミヤは話の舵を取った。
何よりも、旧約聖書が過去に存在し、葛木という存在がシッテムの箱を持ち、もしも彼に何かしらの『役割』が与えられるとしたら――そう考えると、叫びだしたくなる自分を抑えるためだった。
だが同時に、何も無い個人ならともかく葛木宗一郎という個人であれば、与えられる『役割』を上書き出来る可能性がある事にも同時に気が付いていた。
『えぇ、このまま何も対策せずにもしも大蛇と遭遇する事があれば、恐らく戦いにもならない――あまつさえ、己の領域である砂漠を荒らされる事でもあれば大蛇は牙を剥くでしょう』
「用心するに越したことは無い、か……ならば、私も対策委員会を見習って頼るという事をしてみようか」
『あら、どちらかに電話を掛けられるんですね?お任せ下さい!こうしてエミヤさんのスマホに住まわせてもらっている以上、私はあらゆる面でエミヤさんのサポートをさせて頂きます!何ならヒマリ以外で固有名称を付けて頂いても良いんですよ?ほら、見て下さいこの真っ白な肌、『雪原のスノードリーム』なんて如何ですか?』
「ふっ」
『鼻で笑いましたね!?』
それが電子に生まれ落ちて名も無く解き放たれたが故に求める個としての確立なのであれば、何かしらの名前を与えるのは彼女にとって必要な事なのだろうと真面目に思案する。
「(白……儚い……可憐……カレン……!?)」
唐突に襲い来る寒気に身を震わせ、『ど、どうかしましたか?』と心配してくるSDヒマリの頭を同じ様に撫でて「なんでもない、少し考えてみるな」と再び思案に戻る。
「(SDキャラ……キャラ……キアラ……!?)」
トイレに駆け込み嘔吐するエミヤに遠くから『本当に大丈夫ですか!?』と声が聞こえ、スマホの下に駆け寄って「大丈夫、大丈夫だ」と落ち着きを取り戻す。
前世における並行世界の記録を見た事もあり、幾つかタブーワードの様な物が己の中に生まれている事に気が付き、少し気になってその記憶に触れてみようとしたが、何やらアメリカの映画に出てきそうなボブ味の強い男性に『やめておけ』と記憶の入口で告げられ、己の記憶の引き出しにしまったままにしておいた。
「(白……マシュマロ……マシュマロマン……ミシュラン……?)」
チラとスマホの画面を見て、満面の笑みで楽しみにそわそわしている彼女を見て、流石にぷにぷにの化身の名を与えるのは……と気が引けて再度思案。
「(――そうだ、確かセイバーの生誕地を見ようとイギリスに行った時に……)」
「決めた、今日から君の事はナナと呼ぼう」
『ナナ……ですか?ちなみに由来をお聞きしても?』
「あぁ、私が元居た国にセブンシスターズと呼ばれる白亜の岬があってな、岬自体の名前はシーフォード・ヘッドだが、そこから見える白の美しさは素晴らしく、なれば君にも相応しい名前では無いかと思ったんだ」
『セブン、シスターズ……ふふ、それは、とても良い由来ですね』
満足そうに周囲に華を散りばめる様子に安堵し、エミヤは改めて名を呼ぶ。
「それでは、押しかけ女房の様で困りもするが、これからよろしく頼む、ナナ」
『はいっ!』
それでは早速どなたに掛けましょうか?と尋ねてくるナナは知らない。
エミヤが上手く言葉を濁したが、セブンシスターズとは白亜の
エミヤは単純に美しい白から連想して付けた名前なので何も悪意は無い、だが、悪意が無いからこそ鋭さを持ったそのナイフは、誰かが教えでもしない限り持ち主を傷付ける事は無いだろう。
要は
エジプト神話に再生の蛇って言われてるのいるね
エゼキエル書には四十年間エジプト苦しめてから再興するって神様の預言者あるね
今のアビドスって苦しんでるエジプトと同じだね
この二つって繋がってるんじゃない?エジプト神話の蛇がアビドス苦しめる役割になってるんじゃない?
って考察含めた回です。
多分大筋合ってると思うんだけどミレニアムの第3章書いてもいい?
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いいよ
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だめだよ
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やってみろ
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エロ書け