便利屋エミヤ   作:晴れときどき曇り

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第五十七夜 底力

 

 

『エミヤ』

「……後で謝罪するが、今はシロコが無事だったことを喜ぼう」

 事前に葛木から『これは彼女達の戦いだろう、我々は極力手を出さぬよう努めるぞ』と言われていた手前、連絡を貰った時点で助力を願っていたヒフミと己の所属する勢力に関しては伝えてあったが、まさかレイサが来るとは夢にも思っていなかったエミヤは度肝を抜かれた。

 

「おわっ、ととっ、ナイスキャッチ私ぃ!」

 レイサが落ちてくるシロコを抱え、眼を真ん丸にしたシロコが「あ、りがと」とお礼を言って降ろして貰い、

「……誰?」

 と当然の疑問を口にした。

 

「私は宇沢レイサと言います!エミヤさんが困ってると聞いて居ても立っても居られなくって、来ちゃいました!」

「ん、心強い、ありがとう」

 存外早く受け入れてくれたシロコに内心で感謝したエミヤは急いでその場を離れたホシノ、シロコ達を見て安堵、すぐさまナナに指示を出してヒフミと回線を繋いで貰い「ヒフミ、いつでもやってくれ」と一言入れる。

 

 ヒフミに告げた後、オープン回線とつなぐことで彼女の声が対策委員会の面々にも聞こえる様にして、発射のタイミングを全員が分かるようにする。

『えへへ、皆さんブラックマーケット以来ですね』

 呑気な言葉に葛木は胆の据わり具合に驚愕を隠せず、ブラックマーケットで見せた阿慈谷ヒフミがほんの片鱗でしか無い事を確信する。

『今しがた阿慈谷の眼前に熱源を基にしたビナー、今回の破壊対象の周辺MAPを表示したが、見えているか?』

『な、なんですかコレ!?はいっ!見えてます!』

「ん、レイサ何処に行くの?」「皆さんは戦闘に集中を!私は足下のロボットさん達を回収して運んでおきます!」

 葛木がヒフミのフォローに回る一方で、レイサは砂地に埋もれ油断すると足を取られてしまいそうなPMCの成れ果てを回収。てっきり戦闘に参加して活躍するんだと息巻いていると考えていたエミヤは冷静な判断と必要な行動の選択に舌を巻く。

『各自、ビナーからある程度距離を取れ、支援砲撃で支援対象が怪我をしては笑い話にもならん』

 全員の視界の端に着弾予測範囲が映され、赤と黄色の円内から撤退。

 

 ビナーとは小高い丘を挟んだ位置から斜めに放物線を描く形で砲身を傾けるように指示を出し、

「ふぁいあ!」

 掛け声と共に轟音が鳴り、重量ある物質が飛来する時の音が段々と大きくなり――着弾。

 ビナーの装甲の一部が剥がれ、明らかに神秘の篭った榴弾が使用されている。

『エミヤーン、どう?効いた?』『こっちの戦車には私達が砲手として乗っているから安心なさい』『そりゃ皆さんは戦車の中ですけどぉ!私とヒフミちゃんだけお外なんですけど!?』『肉眼での確認が必要なので、仕方ないですね、が、頑張りましょう!』『じゃあコユキ問題、次に私達が撃つ際の最適な角度はなーんだ?』

 突然開かれた専用回線から聞こえて来た聞き馴染みのある声に安堵し、先程の威力も納得がいった。

 

 ヒフミが警戒、コユキが解析、アル、カヨコ、ムツキ、ハルカの四人が砲手、勿論戦車である以上はその他を担ってくれる乗員もいる事だろう。

『射線や着弾位置から割り出される地点から一度後退しましょう!操縦お願いしますね、モフモフ尻尾団さん!』

『おうよ!メフィスト様ァ!』

「モフモフ尻尾団だと!?」

 思わず叫んだエミヤを後部座席のアヤネが体を跳ねさせて驚き「も、もふもふ……?」と反芻する。

 脚の間に置かれた理事が「何故ここであの警備軍団の名が出てくる……?」と無い首を傾げる。

 

『あんたぁまさかあん時の闇に潜みし紅き影(†クリムゾン・シャドウ†)か!?』

「自分で付けていないのに恥ずかしくなる名前は止めろォ!」

『俺達ゃあの後、保釈金を支払ってメフィストの姉御に頭ァ下げに行ったんだ……そしたら』

 

・・・・・・・・・・・・・・・・

 

二カ月前 トリニティ郊外

 

「いきなり連絡して申し訳ねぇ!俺達の荒事に巻き込んだ上にお手を煩わせちまって!まだ解放されてない仲間もいる。アンタの事だ、刑務所にゃ子飼いの(もん)もいるだろう。どうかアイツらには手を出さねぇでやってくれ!ここは、俺の身一つで勘弁してくれェ!」

 突然、非通知の番号から呼び出されたヒフミは待ち合わせの場所に行くと、ハルカと共に解決したブラックマーケットの事件、その際に強盗として敵対したモフモフ尻尾団のリーダーらしき人物に頭を下げられた。

 怯え切ってしまい尻尾が脚と脚の間に入り込んでいる様子を見て、その可愛らしさから思わず「ふふっ」と笑ってしまいリーダーは体全体を震わせ始めた。

 

 当然、ヒフミには刑務所に子飼いの者など居らず、一体何をどう誤解したのかヒフミがブラックマーケットにおけるアンタッチャブルだと勘違いしており、

「わ、私はそんな悪い人では」

「いやさ皆まで申さずとも承知の上よ、夢の中で仰っていた通り、アンタぁ悪人じゃねぇ!事実、アンタの前で罪を働けば夢にまで現れて罪を咎められ、そりゃあ頭を下げて済む話じゃねぇってのも分かってる!」

 更に引き続いて身に覚えの無い事の絨毯爆撃にヒフミの脳は誰の話をしているのか分からなくなっていた。

「俺の身で済まねぇってんなら人生まるごとをアンタに捧げる!だからどうか、俺の部下には手を出さねぇでくれ!」

 

 これ以上話を続けても全く理解できないままに混乱が加速すると判断したヒフミは、「それじゃあ……」と顎に指を当てて悩み、

「これからはモフモフ尻尾団の皆さんで、奪うのでは無く守る事をしてみて下さい、治安の悪いブラックマーケットですが、そうした方が一人でも多くいらっしゃれば安心する方もいらっしゃると思いますので」

 浮かんだ案を伝えた所、リーダーはまるで眩しい太陽を見たかのように目を細め、先程とは違いゆっくりと、明確な敬意を抱いてヒフミへと頭を垂れた。

 

「かしこまりましたメフィスト様、何処(いずこ)においてもペロロ様()を見つけ求める執着の悪魔様、拙き身ではありますが、この身に流れるコーギーの血に誓って、真っ当なワンコロになってみせます!」

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

『ってな事があってな、あれ以来、俺達ゃブラックマーケットの用心棒をしてるんだが、これが上手くいった上手くいった!今じゃ戦車も持ってて次の日曜にゃ航空支援の為のヘリも導入予定だ!メフィスト様にゃ頭が上がらねぇって訳よ!』

「そ、そんな事が起きてたのか」

『ち、違いますからね!私は本当に何も関与してなくて、でもお力添え頂けそうだったし、トリニティを巻き込むわけにもいかなかったのでお願いしたんです!』

 

 慌てて弁明するヒフミの声を聞きながらも思わぬ再会と頼れる存在の登場に自然と笑みが浮かぶ。

 

 しかし、

『GYGAAAAAAAAAAAA!!!!!!!』

 その緊張感の緩みを一閃する巨獣の雄叫びに、皆が一斉にビナーの頭部に注目する。

「な、何よアレ……」

 思わず呟いたセリカの眼には、叫びに合わせて激しく光量を増減するヘイローが映されていた。

 

 そして、叫びが止んだと思った一瞬。

 納刀時の甲高い音にも似た、キンとした張り詰めた音が響いたと思った矢先。

 

 先程まで戦車部隊が居た位置から大量の砂柱が立ち上った。

 

 その衝撃で起きた風と、降って来る砂の雨に視界を奪われる中、アヤネの管制指示の為にもバイクで少し離れた位置に居たエミヤはしっかりとその眼で捉えていた。

「あんな速さで熱線を撃てるのか……!?」

 もしもヒフミによる後退の指示が無ければ――そう思うとビナーが如何に危険な存在なのか、増援に心が緩んでいたのかを痛感させられた。

 

 更に、先程までとは明らかに速度の違う体の動きでホシノへと近付き、盾を構えていたホシノを先程のお返しとばかりにかち上げ、反転し勢いの付いた尾で地面に叩き付けた。

「クッ――」

 思わず苦悶の声を漏らす葛木は思考を走らせ、撤退と抗戦のどちらかを悩むが、

「本気を出したって事は余裕がなくなって来たんじゃないかな!ここからが本番だよ皆!」

『『『『はい!』』』』

 砂地から平然と立ち上がったホシノの檄で皆が気合を入れ直す。

 

「――十六夜、小鳥遊の傍へ行き至近距離からの攻撃に切り替えを、あくまでも牽制だ。砂狼は十六夜の牽制の隙を縫ってビナーに効果的な攻撃を与えるよう努めろ、黒見は引き続き全体を捉えてビナーの攻撃時の指示を、奥空はドローンを用いた攪乱と阿慈谷への支援砲撃タイミングの指示を受け持ってくれ、先程の砲撃から大きく散開しなくとも大丈夫だと分かったのでな、それと……宇沢といったか、君は引き続き足下の掃除と、もし可能であれば砂狼と同じ様に効果的な攻撃を狙ってくれ」

『『『『了解!』』』』

 各自が動き出し、ノノミが丘から降りてホシノの近くへと寄り射撃を開始しようとして、ホシノが頭部から血を滲ませているのを見て目付きが変わる。

 

「――ぶち、のめす」

 羽織っている服が下から持ち上がる程に足下から神秘が立ち上り、体表面をエメラルド色の光が覆う。

 放たれた弾丸は一発ごとにビナーの外郭を削り飛ばす。

「うへぇ、頼りになる後輩だぁ」

 そしてビナーによる反撃は隣にいるホシノが確実に盾で防ぐ。

「そちらこそ、頼りになる先輩ですよ」

「うへへぇ」

 

「ちょっと待ってノノミ先輩!そろそろリロードしておかないと弾数的にまずくない!?」

 セリカはしっかりと全体を俯瞰できており、弾数に対しても意識を向けている。

「一度私がドローンで気を引きます!その隙にリロードを!シロコ先輩は頭部を狙えそうですか?」

「ん、今ビナーの体に張り付いたから、このまま登る」

 互いに連携する中でシロコはとんでもなくアグレッシブな事をし始めている。

 

「それなら私はおっぱいさんが削った所を――!」

 レイサはノノミが削った部分を攻撃し、明確にビナーに効いているらしく苦しみ体を暴れさせている。

 

 段々とだが、しっかりとビナーにダメージが蓄積されているのか暴れ方が乱雑になっている。

 

 各自が見せる底力に、見守りに徹していたエミヤは安心を覚え始めながらも――違和感を覚えていた。

 

「――なんでかな」

 シロコはそうして、皆が頑張る姿を見て、小さく呟く。

「今なら、何でも出来る気がする」

 

 ビナーの体の上を走り、時には跳び、

「おぉ!?マフラーさんやりますね!蛇さんこちら!銃鳴る方へ!」

 レイサがソレをフォローしながらもビナーの頭部を向けられればしっかりと素早い移動をして回避に専念する。

「動き、止めちゃおうか――!!!」

 そして、ホシノは盾を背負いビナーの外郭と胴の隙間に手を差し込み、純粋な腕力で暴れようとするビナーを抑え込む。

「そんな滅茶苦茶な……だけど、面白いですね!」

 それでも振るわれた尾が軋む音を響かせながらホシノへと向かうが、ホシノの背から盾を取ったノノミが庇う様に立ち塞がり、尾の一撃を防ぎ切る。

 

「黒見」

「あ……先、生……」

「お前も行きたいのだろう、行ってこい」

「――ッ!」

 ビナーと距離を零にしながら底力を発揮する皆を見て走り出したい衝動に駆られていたセリカの背を葛木が押し、セリカは牽制がてらに乱射しながら皆の下へと走っていく。

 

そしてシロコは遂にはビナーの頭部に取り付いた。

「これで――」

身体から蒼い炎の様に神秘が立ち上り、ソレが渦を巻きながら銃口へと集中する。

「――沈め!」

 

 そして零距離射撃を眼へと撃ち込み、ビナーが一際大きな叫びを上げた。

 

 だが、

「――クソッ、足りない」

 シロコは手応えを感じられなかった。

 

『GYGAAAAAAAAAAAA!!!!!!!』

 射撃を再開したノノミにより更に外郭を削られ、既に全体がボロボロになりつつある中で全員が感じていた。

 

 あと一手が足りない。

「シロコ先輩離脱を!今のボロボロな状態なら砲撃で――ヒフミさん、お願いします!」

 

 再び神秘を纏った砲弾が便利屋の乗る戦車達から射出され、しっかりとビナーへと着弾し遂にビナーはその身を砂漠へ横たえた。

 しかし油断はしない、未だビナーのヘイローは消えていない。

 

 それどころか逆に、ビナーはこれほどまでに激しい攻撃を受けながらも先程の高速の熱線を見せていない。

 油断云々の前に、警戒を解くことが出来る訳が無い。

『エミヤさん、いけません攻撃の手を緩めては……!倒れたとしても攻撃を続けないと!』

 聞こえて来たナナの声にエミヤはビナーに目を向けると、砲弾により立ち上った砂煙の向こうから発泡スチロールを砕いた時の様な乾いた音と共に、砂地に落ちているビナーの外郭が奴の身体に宙に浮いて戻っていく様子が見えた。

「再生の蛇、か」

 

 ゆっくりと体を持ち上げ、強引に暴れ対策委員会の面々から離れ再び叫びを上げたビナーを見て対策委員会の面々が疲弊の色を隠せない。

 

「これでも足りないのか……」

 葛木は正直、今の横たわる程のダメージがあれば撤退していくだろうと踏んでいた。

『先生――私に、考えがある』

 

 その状況で、未だに身体から蒼い炎に似た神秘を立ち上らせるシロコは鋭い眼差しを変えずにビナーを睨み続けていた。

 

 




本編の次回投稿は2/20になります。

多分大筋合ってると思うんだけどミレニアムの第3章書いてもいい?

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