「……私がシャーレの非常勤担当ですか?」
そこは矯正局、檻の中には声の主。
反省を促す矯正局で横になって肘を立てて部屋の中のパイプベッドを楽しんでいる。
「カヤ、せめて人の話を聞く時は姿勢を正して頂戴」
不知火カヤ、先に起きた不祥事が原因で矯正局送りにされた人物は「はいはーい」と適当な返事を返して体を起こした。
眼前で繰り広げられる怠惰を前に現連邦生徒会長代理である七神リンは溜息を吐いた。
「いやいや、だって何を企んでいたら信頼ゼロの私をシャーレなんてぶっ飛び組織の非常勤に選ばれるんですか」
一応指摘されたからと姿勢を正しては見せたが、持ち掛けられた話があまりにも突拍子が無い上に任せる相手を間違えているとしか思えず話半分に聞く姿勢だ。
「私も貴女に任せるのは嫌とさえ言ってしまいたいわ、だけどね、葛木先生が出張に出ている際に業務を円滑に進める事が出来る人材はどうしても必要なの」
言わんとしている事は理解出来る以上、カヤとしても頷きを返す。
しかし、それならば何も犯罪者たる自身に任せなくてもいいだろうというのがカヤの意見。
何より矯正局という環境は確かに教養を再び身に付ける為に知っている事を再度学習させられたり、内職じみた細かな作業を繰り返し行ったりと正直な所、先日自分が収監される際に脱出した七囚人が羨ましくなることもある。
だが、命じた事をロクにこなせない部下に悩まされることも無ければ、急な命令で予定を狂わされることも無く。むしろソレまでした事の無い作業に従事する新鮮さもあり、なおかつ充分な食事と毎日のシャワーが許可されている。
学習という名目で様々な書物を読み耽る事も出来る上に、過去のレポートを参照する事で様々な事件を垣間見て知的好奇心を埋める事も出来る。
学生の身でありながら働き詰めだった以前と比べると実に自由な生活にカヤは「(あれ?案外悪くないんじゃ?)」とすら考え始めていた。
そこに持ってこられた多忙極まるであろうシャーレでの非常勤、非常勤とは言っても葛木の居ないタイミングが主な業務のタイミングとなれば、非常勤が居るというバックエンドアシスタントを得る事で出張の頻度は増え、カヤ業務量も出張によりシャーレに頼る人が増えるごとに増えていくことは予想できた。
「それなら現在の連邦生徒会から回せば良いじゃないですか、何故わざわざ私を?」
全身から面倒臭いしとオーラを全開にして問い掛けたカヤに、リンは認めたくはないけれどと前置きをして答える。
「貴女は仮にも防衛室長として働くことが出来る程度には優秀、同じことが出来る人はそう何人も居ないのよ……だからこそ、貴女の対応能力の高さを活かしてシャーレの非常勤をやってもらいたいの」
「へ、へぇ、そうですか♪」
眼に見えて機嫌を良くしたカヤにリンも苦笑、もう少し人からの褒め言葉に対して謙虚さを持った方が良いとアドバイスしたかったが、それでは「本当は貴女にそこまでのスキルは無いけれど」と言っている様になってしまうので抑えた。
実際、不知火カヤの処理速度はとても早い。
連邦生徒会の防衛室長を任されていただけはあり、業務中に余計な悪巧みや別企業とのやり取りをしていた余裕があるのが何よりの証拠だ。
「(逆に言えば、そうやって反旗を翻す隙を敢えて与えていたようにも思えますが……)」
今は居ない
「それで、シャーレの基本的な業務内容を教えて貰っても?」
「えぇ、シャーレでは各学園の生徒からのお悩み相談や、連邦生徒会に提出される書類の一次受けを行っているわ、陳情、費用請求、報告などね、ソレらを正しい部署に送付されるように手配して貰うのがメインの業務になるわ、お悩み相談に関しては葛木先生に取っておいて構わないわ」
伝えられながら渡された書類を見てみれば、元々連邦生徒会で働いていたカヤからすれば仕分けの様なその作業は児戯にも等しかった。
「……ん?ぎょうせい……失礼、リン会長代理、これじゃあアオイ財務室長は受け取ってくれないと思いますけど」
そう言いながら返した書類は確かに申請時に必要な情報が不足しており、このまま提出しても受理される事は無いだろう物だ。
「――はぁ、何で貴女はそんなに有能なのに、あんなヘンテコな計画を考えたのか」
頭を抱えるリンは檻の鍵を開けカヤを外に出すと、手首に白いブレスレットを付けて過去に着用していた衣服を手渡した。
「カヤ、試しに『連邦生徒会クソ喰らえ』と言ってみてくれないかしら?」
「は?そりゃ喜んで、連邦生徒会クソ喰らえばばばばあばばばばばあばば!?」
リンは少し体を振るわせた後で、
「そのブレスレットは発信機が付いていて、もしも貴女が処罰に値する発言をした場合、超高圧の電流が流れる仕組みになっているわ」
ネタ晴らしをした。
体から煙をもうもうと上げながら「そういえば大概良い性格してましたね貴女……」と睨み付けるカヤ、こうして不知火カヤのシャーレ非常勤としての日々が始まった。
・・・・・・・・・・・・・・
「せんせーい、いるー?」
カヤがシャーレで仕事をしていると、聞き覚えの無い女性の声が聞こえて来た。
自動ドアを開けて執務室に入って来た彼女を見て、そしてその露骨に露出した脚を見て、
「……葛木先生なら出張でアビドスですが、貴女は何処かの学園のハニートラップ担当ですか?そんな太いふとももを惜しげもなく見せて、確かに肉感は大切かもしれませんが、やはり手練手管と弁舌で行う方が長期的な効果はありますよ」
とんでもない失礼をぶちかました。
「あら、あなたは、だれかしら?」
やって来たのはミレニアムサイエンススクールの早瀬ユウカ、先生に名前で呼ばせる事に成功している数少ない生徒の一人だ。
その言葉遣いは丁寧だが明確な怒りが滲んでおり、怒りの矛先にされる事に慣れているカヤからすれば「この位で感情を表に出す辺り、ただスタイルの維持が苦手なだけでハニートラップ要員では無さそうですね」と認識を改めた。
「私は不知火カヤ、此処シャーレの非常勤職員として赴任された……いわば葛木先生が出張の際のヘルプです」
「そう、私は早瀬ユウカ、今日は当番だったからシャーレに来たんだけど、室内に入ったら女児……じゃなかった、胸の大きさが私が小学生の頃と大差ない人が居たから驚いちゃったわ」
口撃は当たり前とばかりにやり取りをする二人だったが、互いに仕事をしに来たと分かったので一旦休戦。
互いに仕事の速さが常人とは比にならない程であり、競う様に書類を分けていたらその日の業務が昼前には片付いた。
折角なのでとユウカの誘いでシャーレの食堂で食事を共にする。
「ユウカさん、聞いておきたいんですが葛木先生ってどんな方なんですか?未だ会った事が無くて」
カヤからの質問を受けて、スパゲッティを呑み込んだユウカは少し悩み、
「……根が善人なのを隠しきれていない眼で人を殺せる不愛想」
「貴女、先生に懐いていそうなのに結構な評価をしますね」
「会えば分かるわよ、それにカヤさんだって根は善人に思えますけどね」
「は?私が?言ってませんでしたが私、矯正局の反省活動の一環で此処に居るんですよ?」
伝えはしたが、ユウカは「ふーん」と受け流す程度の反応しか返さない、
「ふ、ふーんって、犯罪者ですよ?」
「え?まぁ、犯罪者でも良いんじゃないの?」
とんでもない事を言ってのける目の前の生徒にカヤは「私の常識がおかしいのかしら?」と頭を抱える。
「ふふ、ごめんごめん、葛木先生からの受け売りなのよ」
二皿目のカルボナーラを口元に運びながらユウカは続ける。
「前に、ヴァルキューレからの要請で拘留中の生徒に先生がお話をする時があって、私とノアと、あと最近たまに見かける猫耳を付けたパーカー姿の子、カズサちゃんだっけな……その日の当番生徒も付いて行ったんだけど」
飲み干す様にカルボナーラを一掬いに絡め捕り口に入れ、ロクに噛まずに呑み込んでユウカは「あれが『先生』なんだなぁって、自分の学園に居る教職の人達もつれて来たいと思ったわ」と運ばれて来たラーメンを受け取りながら続けた。
「一室に集められた拘留者達に最初に先生が言った言葉は『貴様らは凄い』だったわ」
一言の後に謎の吸引音が聞こえ、ユウカが傾けていた容器をテーブルに置いた時にはラーメンもスープも無くなっていた。
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『良いか、これは犯罪を褒めている訳では無い、だが貴様らは間違いなく将来優秀な人間になれる逸材だ……何故か分かるか?』
誰も手を挙げる物は居なかった。
『答えはシンプル、貴様らは犯罪に手を染められるからだ』
先程の葛木の言葉を受けていた生徒達は、『犯罪、凄い!』では無く、『犯罪という選択肢を選べるの凄い!』という意味合いだと理解。
『人間、どれ程に困窮していようとも犯罪を選択できる人間は限られている。それは倫理観やギャンブル性、他者への迷惑を考えるからだ――だが貴様らは、そのぶっ飛んだメンタルが必要な事をやってのけた』
何も機嫌を良くしたくて美辞麗句を並べ立てているのでは無く本心を曝け出している。
『貴様らは踏み出す勇気を持っている。勿論、犯罪の為にソレを用いたのは誤りだと言わなくてはいけないが、強い意志と己の決断を進み続ける気概を持っている貴様らであれば、社会に出た時に活躍できることは間違いない』
その本心に悪意は無く、ただ純粋な善意で語り掛ける。
『間違いは学べばいい、己を諦めるな』
その眼はしっかりと、拘留されていた生徒達へ向けられていた。
・・・・・・・・・・・・・
話し終わったユウカは鼻息荒く「むふー」としており、「どう?葛木先生って素敵でしょ?」と何故か自慢気だった。
「まぁ……そうですね」
会った事もない相手、その人物の話をされたところでカヤは何かを感じる事は無いと思っていた。
だが、間接的とはいえ自分の行いが全て無駄に終わったのでは無く、自分の意思の強さを示す事が出来たように感じた。
「素敵かどうかはともかく、悪くは無いんじゃないですか?」
少なくとも、会ってみたい――そう思う程度には興味を抱いた。
自分の様に間違えたと評される人物にとって、『先生』は救いになるのかもしれない、と。
「あぁ、それとカヤさん?」
食事を終えてデザートに石焼ビビンバを食べるユウカは思い出したように伝える。
「明日、SRT特殊学園の一年生が葛木先生に挨拶しに来るから、代わりに対応お願いね」
「はい……?」
それはデザートの様に甘くなく、己の罪に向き合わねばならない展開だった。
いつもお読みいただきありがとうございます!
誤字報告含め非常に助かっております!
これからも拙作をどうかよろしくお願いします!
多分大筋合ってると思うんだけどミレニアムの第3章書いてもいい?
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いいよ
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だめだよ
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やってみろ
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エロ書け