便利屋エミヤ   作:晴れときどき曇り

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第五十八夜 晴天

 

 

 

「馬鹿な」

 呟かれた言葉は侮蔑の言葉では無く、信じられないという感情の表れだった。

「エミヤさんが力を振るえば、ビナーなど軽く倒せる敵でしかない筈」

 ソレはアヤネのドローンをハッキングして見ている映像、黒服は生徒主体で戦う様子に理解が出来なかった。

「確かに、戦闘が始まってからアビドス対策委員会の面々の戦闘力は上昇しているが……彼等は何故、そんな不確かな可能性に賭ける事が出来る?」

 成長というギャンブルに迷わずに全BETする事が出来た思考が理解できない。 

「何よりも……何故私は、彼等が勝つと思っているのだ?」

 無駄死になど見る価値も無い、なのに……いや、だからこそ、モニターから目を離す事が出来なかった。

 

 何処かで勝利を信じているから。

 

 

「ノノミちゃん!」

 ホシノの悲痛な叫びが響く中、十六夜ノノミはその肢体を放り出して砂地に横たわっていた。

 その肩にはビナーの外郭が刺さっており、肩口から出血をしている。

 

「ホシノ先輩、ノノミ先輩は……!?」

 駆け付けて来たセリカも脚に外郭が刺さっている。

「幸い深い怪我じゃ無いけど、セリカちゃんも……」

 

 あれからも攻撃を続けていた一同に対し、ビナーはノノミの攻撃を脅威と認定。

『GRRRRRRRRRR……』

 威嚇の様な声を出すビナーがやった事は剝がされた外郭を身を振るう事で飛ばし、礫として利用する攻撃方法だった。

 結果として盾を構えてホシノを庇ったノノミ、そしてセリカが負傷。

 

「何を基準に攻撃したのか分からないけど、やっぱり明確に意思を持ってる……」

 アヤネはこれまでの行動パターンから何かを必死に分析している。

 

『ノノミ、大丈夫?』

 シロコから通信が入り、倒れていたノノミが膝に手を着いてゆっくりとだが力強く立ち上がる。

「大丈夫ですよ、この程度の痛み――」

 体を支えようとしてくれるホシノを見て、ノノミは口元に勝気な笑顔を作る。

「――むしろ知れたことで、やる気が湧いてきます」

 

 いつもどれだけの痛みを覚えながらホシノが前を守ってくれていたのか、それが知れて良い機会だと言ってのけ、こちらの事情など知った事では無いビナーの突撃に備えて再度盾を構える。

「無茶はしないの!」

 だがホシノに位置を替わられ、その一撃は彼女が受け止めた。

 

『だが、この先にやろうとしている作戦も充分に無茶な物だぞ――出来るか?』

 葛木の言葉に各員は顔を見合わせ、発案者であるシロコは短く「ん」とだけ返す。 

 葛木からしてみれば「そんな事が出来るのか?」と聞きたくなる作戦内容だったが、今のシロコはソレが出来ると思わせる程に、調子が良い。

 

 ビナーの攻撃を紙一重で躱しながら着実に眼を狙い攻撃を叩き込み、類稀なるバランス感覚で砂地の上で縮地の如き移動を繰り返している。

 

 今の対策委員会の主力は攻のシロコ、守のホシノとなっており、二人を活かす為に周囲の者は動いていた。

「作戦が穴だらけなら、臨機応変で埋めればいいよぉ」

 そう言いながら、一瞬だけ盾で尾の攻撃を防いでノノミの首根っこを掴み、盾を敢えて傾ける事でビナーの尾の上をすべる様に攻撃を避け、着地と同時に再度攻勢に移る有言実行をやって見せた。

 

「やはり、戦闘が長引く程にビナーの動きが正確に……エミヤさん、恐らくですがビナーは段々と私達の動きや与えられた役割を理解し、学習し始めています」

 アヤネは集めたデータを基に導き出した結論をエミヤにぶつけた。

「盾を持つホシノ先輩に対する攻撃の威力と、避ける事を前提に動いているシロコ先輩への攻撃、ドローンのカメラで速度や角度の違いを検証してみたのですが、明らかに尾の使い分けを行っています」

 ホシノには力で、シロコには手数と速度で攻撃を行うビナーのデータにアヤネは鳥肌が抑えられなかった。

「それも、段々とホシノ先輩は攻撃を受けられなく、シロコ先輩は回避行動が大きくなっています」

 それが意味するところはこちらの限界を探り、最低限の力で打倒しようとする効率を重視した動き。

 

「それは厄介――だが、シロコの作戦を実行に移すのであれば気にする必要はそこまであるまい」

 エミヤは既に気が付いていたが、それは対策委員会の面々も同じこと。

 ビナーという圧倒的な敵対存在との戦闘自体がそうそう詰める経験では無く。

 勝てない、効かない、倒せない相手との戦いの中で打倒する方法を探りながら、得た情報や得られる情報から必要な行動を取る対策委員会の面々は間違いなく成長していた。

 

 更には――再び聞こえた乾いた短い音の後、今度は一点だけが砂柱を上げた。

「短時間照射!?そんな事まで出来たのか」

 思わずといった様子で叫ぶカイザーPMC理事だったが、その驚きが何よりもの証拠である。

 

 やられ具合からいってもPMCの人員がビナーに有効な抵抗を出来ていたとは思えない、それは――そこまでする必要が無い、と判断されたから。

 PMCと比べても此処の戦闘能力が高い今の面々に対しては、エネルギー消費が少し多くなろうとも効果的な攻撃をビナーは選んでいる。

 

 連続して聞こえてくる『キンッ』という音と、その前に聞こえてくる爆発的な勢いで移動するシロコのステップ音。

 ビナーによる連続照射を全く意にも介さずにどんどんその距離を詰めていくシロコ。

 「ぐ、う……!」

 それでも急激な神秘の増大による無理な移動の連続のせいか、段々と表情に陰が差す。

 単発の短時間照射、まるでボルトアクションのライフルの様な速度で撃ち出される熱線が巻き起こす砂煙が視界を奪っていく。

 

「蛇はそんなの――吐きません!」

 ビナーの首を蹴り上がりアッパーを叩き込んだレイサのお陰で、シロコは一息に接近。

 しかし跳ね上げられた事で熱線がアヤネの下へと飛来したが、エミヤによって簡単に弾かれアヤネは眼を瞠りエミヤが戦闘に参加していない事に半ば納得した。

 

「ッそこぉ!」

 更にはホシノが手に持っていた盾をビナーの剥がれた外郭へと思いっきり刺し込み、

「お任せ――です!」

 ガトリングの持ち方を変え、底部で思いっきり盾を叩きより深くに刺す。

「もう一丁!」

 そこに走り寄ったセリカの跳び蹴りが追加で叩き込まれ、伝導に用いられていた回路が傷付いたのか尾の動きが停止した。

 

「ヒフミさん!」

「はいっ――ふぁいあ!」

 アヤネの言葉に応じて再び放たれた砲弾を視界に映し、シロコはビナーの頭部を足場に高く跳び上がり、飛来した砲弾の速度はそのまま――

「今なら」

 ――空中で体勢を前のめりに傾け、ゆっくりとシロコは頭部を地へ向け。

 

 砂漠の宙、ビナーの頭上でまるで大輪の青い薔薇が花咲いたのかと見紛う神秘がシロコの身体から吹き荒れる。

「なんでも出来る!」

 オーバーヘッドキック、というよりは空中かかと落としにより、飛来した砲弾をビナーの眼に向けて蹴り込んだ。

 

『GYGAAッ!?』

 動くことが出来る部位を稼働させ、避けようとしたビナーだったが、

 

「――此処に居るんでしょ、やらせないよ」

 

 突如として周辺一帯が危険地帯に思える程の『恐怖』に晒され、身動きを止めた。

 

 戦車の中、ニヒルな笑みを浮かべて効果的な神秘の運用で不視の一撃を加えたカヨコが居た。

 

 思わずホシノは宙を見上げた。

 砂煙で満たされた視界は、まるでつい先日までの自分の様で目を逸らしたくなる。

 

 だが、それも今日までだ。

 

結果、避ける事が出来なかったビナーの頭部から質量が質量で潰される破砕音が聞こえたかと思えば、

「もういっぱぁあぁあぁああつ!」

 続けて飛来した砲弾も生み出した回転そのままに、既に埋まった砲弾とぶつける様にして蹴り込んだ。

 

「伏せろ!」

 葛木の叫びが聞こえたかと思えば、周囲に巻き起こる大爆発で砂漠に衝撃波が吹き荒れる。

 

 視界の先、ホシノは砂煙の向こうに青空を見た。

 

 独りでは見る事が出来なかった青空、晴れ渡る未来がそこに在る。

「ははっ」

 思わず漏れた笑い声に、どこまでも自然なその笑い声に、傍に立っていたノノミの頬を一筋の水滴が伝う。

 

 宙に居たシロコは煽りを受けて吹き飛ばされるも、

「――コルキス」

 脚部を強化した葛木がしっかりと回収、これまでにない量の神秘を使用した反動からか、シロコは衰弱と言っていい程に弱っており、それでも腕の中で「どう、なった?」と結果を気にしている。

 

 砂煙が晴れ、見えて来た景色は圧巻の物。

 ビナーは頭部が無くなり、突如として現れたアリジゴクの様な渦の中に段々とその身を消していく。

 

「あぁ、勝利だ」

 

 盾を引き抜いたホシノが、ガトリングを砂地に落としたノノミが、景色に見惚れていたセリカが、ドローンの操作で脳を酷使したアヤネが、そして葛木の腕の中でシロコが、一気に脱力し深く息を吐いた。

 

 勝利の雄叫びなどは無く、ただ安堵した。

 守れるんだと分かった事に、自分達だけでもアビドス砂漠という広大な土地を荒らす大蛇からその土地を。

 

「それじゃ、帰ろっか」

 

 劇的な言葉など無くていい、ただ帰ろう。

 ホシノが見せた無垢な笑顔とその言葉が、何よりも少女達に勝利を実感させた。

 

 

 

「うおーーーー!やったー!勝利―――!」

「レイサ、ちょ、ちょっと落ち着け、ほらサッカーボール」

「ぬおおおおお!?エミヤ貴様、その少女はスカートだろうサッカーなどやらせるな!」

『そこなんですね……』

 締まらない面々も居る模様。

 

 

 

 

 

 アビドスの面々が帰って行った後、エミヤと便利屋の面々、そしてレイサとヒフミは何故か砂漠に残っていた。

 そこには頭部だけの理事もおり、忌々しげに残った者達に「気付いていたか」と漏らす。

 

「当り前だ、彼女達にとっての終わりはアレでいいが」

「だよねぇ、警戒するしかないよね、アレを見ちゃうと」

 エミヤの言葉にムツキが応じ、

「恐らく皆さんは敵が気絶するまで銃弾を叩き込んだりした事が無いんじゃないかと」

「……むしろアンタみたいな純粋そうなトリニティの生徒が経験あることに驚きだよ」

 ヒフミの言葉にカヨコがドン引き、

「ゆ、油断とかでは無いですし、普通の敵ならさっきの攻撃で倒れてますので、コレは経験の問題かと」

「にははは、依頼によっては徹底抗戦も当たり前でしたからね、あんな可視化されたヘイロー、消えてなければ嫌でも気付きますよ」

 ハルカとコユキは経験から残った理由を告げる。

「さ、どうせ少ししたらまた来るわ、そうしたら――潰すわよ」

 そしてアルは、先程のビナーを見た上でそう言ってのけた。

 

「私はエミヤさんに褒めて欲しかったので残りました!褒めて下さい!」

「あぁ、来てくれて嬉しいぞ、よーしよし」

 レイサは犬の様だ。

 

「おいエミヤ、貴様私をどうするつもりだ?まさかこのまま頭部だけの存在としてマスコットキャラにするつもりでは無かろうな」

「貴様は自分がマスコットキャラに相応しいとでも思っているのか……?後日、プレジデントに渡してやるから大人しくしていろ」

 アヤネが徒歩で学校に向かった事もあり、何処か寂し気に後部座席で声を張る理事。

 エミヤとしては再びプレジデントに合わなければいけない事が少し気の重くなる事案だったが、ここまで来たらなる様になれと考えている。

 

 そして、アリジゴクが再び現れたかと思えばその中から現れたのはビナー、大質量が地から這い出てきたこともあり砂煙とセットだ。

「コユキ」

 膝を立ててライフルを構えたアルはコユキの名を呼び、

「んーと、この角度で、全力で」

 コユキはアルの腕に手を添えて角度を調整し、

「それと、エミヤさん」

「あぁ、了解だ」

 そしてエミヤがアルの近くに同じく膝立ちになり、ライフルにとアルの背に手を添えた。

 強化の魔術がアルの持つライフルへと走り、アルの広背筋から腕に掛けても強化を掛ける。

 

「ん-、これかな、ハルカちゃん!」

「は、はい!」

 ハルカとムツキは小さなボールの様な物を取り出すと、ソレを砂煙に向けて投げて射撃し、空中で爆発した事で巻き起こっていた砂煙を一時的だが吹き飛ばし、

「そうしたら私は身動きを封じるよ」

 カヨコは己の能力で周囲に恐怖を感じさせ、ビナーの動きを牽制。

 

「まだ――」

 コユキはアルの耳元でタイミングを指示、

「3」

 ビナーが恐怖を感じた事で動きを止め、

「2」

 周囲に対して目視で危険を確認、

「1」

 ライフルを構えるアルを見つけ、その頭部を向けて威嚇の為に鳴き声を上げようとした所を、

「Fire」

 

 地から空へと昇る流れ星、アルのライフルから撃ち出された神秘を伴った弾丸は本来以上の質量を持ってビナーの頭部を消し飛ばし、今度こそ継戦が不可能になったのだろう。アリジゴクに呑み込まれるでも無くその場に倒れたビナーはヘイローも消え、鳴き声一つ無く動かなくなった。

 

「さぁ、私達も帰るわよ」

 立ち上がり砂埃を払うアルは仕事を一つこなした後なのにいつもの調子だ。

「あぁ、お疲れ様」

 

 空間ごと削り取ったのだろう。突然生まれた無の空間を埋める為に動いた周囲の大気が砂煙を弾道に集め、便利屋とヒフミ、レイサの周囲には砂煙は無くなっていた。

 

 

 

 

「所で私達って、もしかして戦車(コレ)で帰るのかしら?」

 微妙な雰囲気の中で、視線が集まったヒフミはゆっくりと頷いた。

 

 

 

 




次回本編更新は2/22を予定しております。

多分大筋合ってると思うんだけどミレニアムの第3章書いてもいい?

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