「(……なんだろう)」
エミヤはトリニティからの帰り道、バイクを置いたトリニティの駐車場へと向かいながら拭いようのない違和感に襲われていた。
例えるならば、その場に居ない筈の存在に肩を掴まれているかのような……それこそ幽霊の様な存在に憑りつかれている様な違和感だ。
「(……なんだろうかこの、チラチラ視界に映る金色の髪は)」
更には視界の端をチラチラと、揺れる金色の髪が映っている。
思わず背後を振り返れば誰も居らず。
むしろ背後に浮いているというよりも肩にしがみつかれているという感覚。
その違和感に思わず、エミヤは大聖堂へと進行方向を移した。
大聖堂に着くと何人かのシスターフッドの生徒に声を掛けられながらも、目的の人物であるマリーを見つける事が出来た。
何故マリーを探していたのかというと、自分の知る中で最も敬虔な信徒であるからだ。
サクラコはトップを務めている物の、エミヤがこれまで見て来た中では信仰心に篤い印象は薄く。
対してマリーは立ち居振る舞いどれをとっても理想のシスターであり、エミヤにとって相談相手に持って来いであった。
しかし彼女は未だに礼拝中、両手を合わせ膝を着き、ステンドグラスから差し込む光へ向けて熱心に祈りを捧げている。
「……一応なのだがナナ、君のオカルト知識の中に私の肩口にいる存在の正体は無いかな?」
『なんですか肩口にいる存在って……あ、あの、確かに紫外線スペクトラムから検出した物体の位置情報によるとエミヤさんの肩に何かが居るのですが、姿は見えず光の屈折なども起きていない事から、『透明になった存在』では無く元から透明なナニカがエミヤさんの肩に……』
科学的な検証から得られた情報に紫外線を浴びているという事は幽霊では無いのでは?と思い至り、エミヤは少しの安堵を得た。エミヤ的にはスマホのカメラを通して外界を見ているナナであれば肩口の存在の正確な姿を捉えられるのでは?と期待しての質問だったが、コレはこれで収穫有りだ。
その時、エミヤの耳に聞き間違いで無ければ大きな……低い音が聞こえた。
聞こえた方に顔を向ければ、マリーが真っ赤な顔で目を伏せて先程よりも強く両手を握って祈りを捧げている。
首を傾げるエミヤの耳に、追撃とばかりに小さく『くぅ~』と今度は餌をねだる犬猫の様な音が聞こえた。
思わず両手でお腹を抑え、マリーが目は伏せたまま口元を慌てたように『あわあわわわ』と声を出さずに震わせて、再度両手を合わせて一礼をした後に立ち上がり、そこでようやく目を開けた。
「食べなきゃ食べなきゃ」
独り言なのだろう繰り返し呟かれた言葉にエミヤは己の存在感を可能な限り希薄にし、即座に物陰に隠れた。
「ごっはん♪ごっはん♪」
耳をパタパタとさせて何か持って来たご飯でもあるのか楽し気な足取りでこちらに向かって来たマリーに見つからぬ様、エミヤは息を潜めた。
『エミヤさん、肩の部分が震えています!』
スマホから聞こえたナナの声は結構大きく、『エミヤ』という言葉に反応したのかマリーが動きを止め、既に通り過ぎていた物陰にエミヤが居る事を確認したマリーは一度花が開いた様な可憐な笑顔を見せてくれた後に、でもどうして物陰に?と言いたげに首を傾げたかと思えば、思い当たる節があったのだろう耳を天にピンと立てて体もピンと伸ばし目を見開いた後で、赤面し恥ずかしさから目元に涙を浮かべて無言で首を横に振った。
「……ナナ、可愛いって何だろうと思った時はアレを参考にするんだ」
『おっっっっっそろしい子ですね』
その可愛らしさの具現化の様な素振りに恐怖すら感じるナナは、とはいえ確かに参考になると勝手に録画機能を稼働させて映像としてその様子を納めていた。
後にこの事が原因でエミヤのスマホにマリーが恥じらう姿が動画で収められていたという騒動に繋がるのだが、ソレは別の話だ。
「え、エミヤさん……」
そして当の本人であるマリーは潤んだ目で長身のエミヤを見上げ、頬を朱に染めた状態で「ご、ご配慮、ありがとうございます」と、それでもお礼を言う謙虚さを見せた。
あまりにも人として出来過ぎている心の在り方にエミヤは感服、何があってもマリーの事は守り抜くことを胸の内で誓った。
「その、私にご用事ですか?」
おずおずと尋ねて来たマリーに頷き返し、
「実は肩の辺りに何か憑いている気がしてな、いっそのこと強引に消し飛ばしても良かったのだが……もしも無垢な少女や少年の霊であればソレはあまりにも残酷だと感じてな、もしも祈りや別の手段があればマリーに頼りたくて来たんだ」
言葉を受けてマリーが肩口を覗き込み、首を傾げながらエミヤの肩に背伸びをして手を伸ばす。
「ん、うーん?なんといいますか、確かに何か居りますが、霊や呪いというよりも……どなたかの、見知っている方の神秘の様な……?」
「つまり、誰かしらの能力ということか?」
「はい、なので祓ったり滅したりしてしまうと、恐らくはその方も多大なるダメージを受けてしまうかと」
そう言われて思うのは、
「……無許可で人の生活を覗き見している訳だろう?良いんじゃないか?」
当然の帰結だった。
『エミヤさん!その肩の変なのエミヤさんから離れようとしています!』
ナナから入った指摘に即座にエミヤは手に魔力を纏わせて謎の存在へ手を伸ばし、
「お、掴めた―――た――――?」
見事にキャッチする事に成功したが、
『わわわわわわわ私が悪かったからどうか危害は加えないでくれ』
触れた事でその存在が明確に見える様になったエミヤの視界に映ったのは、
「……アコの親戚か?」
キヴォトス内に二人は流石に居ないだろうと思っていた奇怪な服を着ている少女だった。
『そもそも何故触れられるんだ……?てっきりこの状態の私は物理的な干渉を受け付けないのだと思っていたが、やはり貴方が特別なのか?』
場所を移して大聖堂の個室の一角、エミヤは見えた少女の特徴をそのままマリーに伝えた所、酷く蒼褪めたマリーが案内してくれたのがこの部屋だった。
「私は外で誰か人が来ないか見張っておきますので、その方とお話をしてあげて下さい」
そのように言われればエミヤは頷くほかなかった。
まずは自己紹介、と思ったが向こうはこちらを知っている様子だったので、エミヤは相手に求める事にした。
『私は百合園セイア、今の私は昏睡状態で、ミネ団長に庇護下で匿われている状態だよ』
エミヤの体に触れている間は存在を安定させることが出来ると説明を受けたので、霊体の様なプラズマ体の様な不思議な発光をしている少女をエミヤは膝の上に乗せて話を聞いている。
「……まぁ、色々と聞きたいことはあるが、何がどうしてこうなったんだね?」
セイアの耳をつまんで尋ねると、少しくすぐったそうにしながらも『私は未来視、他者からは予知夢とも呼ばれる能力を持っていてね』と話を始め、
『此処に居る私は過去の私が飛ばした意識とでも思ってくれたらいい、たびたび生徒達が噂をしているエミヤさんを見掛けたので触れてみたら、いつもならあまり自由に移動が出来ないのに体が引っ張られてね、それで肩をお借りしていたのさ』
そう説明を受けながら、エミヤは違和感を覚えた。
「……君の、その、視界だが」
『ん?私の視界?』
「あぁ、もしも未来視や予知夢という物ならば、幾重にも渡る私達の行動が……そうだな、透けたガラスに描かれた絵を何重にもした様に見えていると思うのだが、例えば私が次の瞬間に起立する世界と着席したままの世界が同時に見えていたり、その認識で合っているか?」
『……んん?いや、私に見えているのは常に同じ未来だけど、確かに言われて見れば枝分かれする世界の中で一つの世界しか見えていないのは……私の能力は未来視や予知夢では無い?』
空白。
その中で、エミヤは何となくの当たりはついていた。
連邦生徒会長が言っていた能力、未来を経験する事で、自分が存在する限りその未来に辿り着くことが確定してしまうという未来視と呼ぶよりも運命確定に等しい能力。
エミヤはセイアもその類の能力を持っているのだろうと推測していた。
『まぁ、答えの分からない事を気にしても仕方あるまいよ、それよりも私がミネ団長に匿われている訳なのだが――話しても構わないかな?』
「……アリウスなのだろう?」
『うん、話が早くて助かるね、その通りアリウスの生徒から襲撃に遭って、紆余曲折はあったけれど私は昏倒、アリウスの生徒には私が死んだと伝わっている事だろうけれど、実際は死ぬまでは至っておらずミネ団長に匿われているという訳さ』
「それは分かったが、まさかと思うのだがセイア、その話ぶりからするに本題は別にあるといった所かね?」
エミヤからは見えないセイアの口元に笑みが作られ、『本当に話が早くて助かるよ』と呟き、セイアはエミヤの胸にもたれかかった。
『今、トリニティ総合学園にはアリウスからの転校生が存在する――言ってしまえば、スパイだよ』
「……消すのは、不味いか?」
『ふふ、エミヤさんがとてもトリニティを愛してくれているのが伝わって来て嬉しいが、消す程の危険分子では無いさ、私の死亡を偽装するのにも協力してくれてね、私は相も変わらず意識を失っているが、彼女が協力してくれなければ私は今頃こうして話す事も出来ない状態だ』
「そういう生徒もアリウスには居るのだな」
安堵の反面、自分の意思とは関係無く暴力的な行為を行っている生徒がいるのだとしたら、一体どんな理由があるのだと疑問と憤りを感じるエミヤに、セイアは『思った通りに優しい方だな』と瞼を閉じる。
『――未来、その生徒が酷く傷付く事が起きる』
「……どうしろと?」
『なに、私が頼みたい事はたった一つ、それも、私自身が信じる事が出来ていない未来に辿り着いた時にしか意味を持たない物だ』
告げられた内容から、余程絶望的な未来を見たのだろうと予想しながらも話そうとはしないセイアに、エミヤは未来視や予知夢、未来に干渉する能力者だけが知り得るタブーを犯さない様にしているのかと用心し、敢えて踏み込むことはしなかった。
「そんなポジティブなお願いなら喜んで受け入れるが、どんな内容かね?」
『あぁ、それは――』
「アレが、エミヤか」
「えぇ、作り手の貴方からすれば些か許し難い存在かもしれませんが」
時は少し戻り、ナギサとの会話を終えて帰ろうとしていたエミヤを遠くトリニティの校舎の屋根から眺める二人の、頭部だけを数えれば三人の影があった。
「いえ、むしろ実物を見て――興味が湧いた」
「ほう、興味?」
「ああ、まるで私が産み落とした歪な作品の様で、それでいて完成されている……なんと不出来な完成品」
「クックック……やはり、私とは視点が違いながらも、好意的に収まりそうですね」
つい先日、エミヤを理解者とした少女が居たように、此処にも一人、彼を理解者として求める者が居る。
「黒服、お前の追うデカグラマトンも非常に興味深いが、私が求める崇高は理解者があってこその物――であれば、必然的に求めるのはキヴォトス外の存在となる」
「先生では足りませんか?」
「……恐らくは、キヴォトス外から訪れて尚、神秘に等しい物を有しているエミヤこそ、私が至りたい崇高をよく理解しているだろうな」
その男が目指すのはある意味ではデカグラマトンの目的に近しくとも、至ったと認識を得るには他者の視点が必要、そしてソレを知り得ているのは――エミヤだ。
「では、マエストロ――貴方も」
「あぁ、覚えねばなるまい」
二人がその手に持つのはスマートフォン、最新鋭の文明の利器を手に至って真面目な顔でマエストロは告げる。
「電源の付け方から教えて貰うぞ」
「機能的で美しく必要な者が詰まっているとは、素晴らしいなこのすまーとほんという物は」
「えぇ、ですがマエストロ、SIMの契約はしましたか?」
「なに?」
「SIMですよ、ネット通信を行う上で必要になりますよ」
「利便性の裏に束縛があるとは、どこまでも現代社会という物は表現者に枷を嵌めたがる物だな」
「いえ、そういう物では無くて……」
多分大筋合ってると思うんだけどミレニアムの第3章書いてもいい?
-
いいよ
-
だめだよ
-
やってみろ
-
エロ書け