便利屋エミヤ   作:晴れときどき曇り

74 / 75
第六十三夜 Next Stage

 

「すまないな、世話になった」

「……えっと、恐らくですが、私も噂程度にしか聞き及んでおりませんがエミヤさんに憑りついていたのは」

「大丈夫だマリー、百合園セイア――彼女なのだろう?」

「は、はい、ただ何処で何をしているのか、本当に療養中なのか、実際は死んでしまっているのではと噂が流れているので、今回の事は秘密にしておいた方が良いのかもしれません」

 セイアから願いを託され、聞けば能力を発動している際は本体が体力を酷く消耗するとの事なので早く帰れと過去へと追い返したエミヤは借りていた部屋を退室、マリーに礼を述べている。

 

 そこへ、

「あら、エミヤさんではありませんか」

 サクラコの登場により、エミヤは即座に周囲を確認。

 これまでサクラコと遭遇すると高確率で面倒事や厄介事に巻き込まれて来た為、反射的な行動になっていた。

「サクラコ、すまないな少しマリーを借りていたよ」

「ふふ、エミヤさんとのお話であれば大変学びを得られるでしょう。シスターマリー、どのようなお話を?」

 にこやかに尋ねてくる様子にエミヤは「(サクラコ本人には問題とか無いだけどなぁ)」と彼女も苦労しているだろうと胸中で頷く。

 

 対して質問を受けたマリーは今しがた秘密にした方が良いと言った手前、サクラコ相手であっても伝えるのは……と悩み、

「ふ、二人の秘密なので」

 言葉選びが追い付かず出て来た単語は何処かミステリアスな物で、伝えてからマリーは「(い、今のじゃ誤解されちゃうかもしれません)」と赤面してしまう。

「そうですか、二人(・・)密室(・・)になれる部屋の前で、二人だけの秘密(・・・・・・・)とは……」

 こちらはこちらで言葉選びに問題がある上に途中で停めるから意味深に聞こえるが、

「サクラコ、今は我々だけだ、最後まで言っていいぞ」

 と言われれば、サクラコは「むむむ」と頬を膨らませてから深く呼吸をして、

 

「私も仲良くしたいのに、ズルいです」

 

 これには思わずマリーもにっこり、エミヤもにっこり。

「今度御一緒に紅茶などいかがですかサクラコ様」

「ほ、本当ですか?」

「はいっ!一緒にあったかい場所でポカポカしながら紅茶の香りを楽しみたいです」

「……エミヤさん、貴方は神の遣わせた救いの使者ですか?」

「なんだか久しぶりにキリストみたいな扱いをされたなぁ」

 思わずアルの「産んだわ」発言を思い出すエミヤであった。

 

 その後も軽く談笑し、サクラコと別れマリーにお見送りして貰いながら駐車場まで歩く傍ら、

「え、エミヤさんッ!」

 意を決したマリーの声にエミヤは向き直ると、マリーが恥ずかしそうにシスターのベールを外して目線を泳がせながら口元をもごもごさせていた。

 赤面し、両手もベールを持ちながらお腹の前で指を合わせたり離したりを繰り返している。

 

「そ、その、私は先程、サクラコ様に何を話していたのか聞かれても内緒に出来たので……」

 段々と小さくなる声を何とか聴き取ろうと腰を屈ませてマリーの顔の近くへ耳を持っていく。

「……その、褒めて、欲しいです」

 

 のけ反った。

 エミヤはのけ反った。

 ナナはスマホの中でアプリアイコンを叩いた。

 眺めていた黒服は胸元を抑え、マエストロは動きを停止した。

 

 自分の行動でエミヤが返答してくれないと気が付いていないマリーは、余程エミヤに頭を撫でて貰いたいのかチラチラとエミヤの手元だけを見ている。

 そして最終手段に出た。

 自身の髪を持ち上げ、頬の辺りでふわっと手に乗らせて一言、

「ら、ライオンさん、がお」

 しかし恥ずかしくて頭から湯気が出始め、目元は涙で潤みそれでも撫でて貰いたいのか追撃の一言、

 

「頭が寂しい、が、がぉ……」

 

 その時、刹那の時ではあるがエミヤは己の脳神経が焼き切れんばかりの衝撃を受けた。可愛いと感じた感情の爆発が神経を焼き切らんばかりに暴走しようとしていた。

 

 使う時は、今。

 

「Unlimited Blade Works!」

「え!?え!?」

「いや、何でもないんだ」

 ほんの一瞬だけ周辺の景色が荒野に変わったかに見えたマリーは、次の一瞬にはもとに戻っていた視界に混乱の極みに陥った。

 

 突発的に詠唱を破棄して発動した魔術の最奥は魔力消費も半端無く。

 その膨大な魔力消費による虚脱感を利用してエミヤは冷静さを取り戻した。

 運が良かったのはこの場にいるのは危険だと判断した黒服とマエストロが既に撤退してくれていた事だろう。

 

「そうだな、さっきはちゃんと秘密を守ってくれてありがとう、マリー」

 優しく、慈しむ様な手付きで送られたエミヤからの賛辞にマリーは目を細め、とても気持ち良さそうに堪能。

 ポケットに入っているのにナナが『いいなぁ』と発言しているのは聞こえない振りをして、口元が嬉しさからニヨニヨしているマリーにエミヤは癒されていた。

 

 

 

 

 

 数日後

 

 葛木の下に謎の狐忍者っ娘がいつくようになったり、最近アルがしきりにチラチラとこちらを見てくる以外に変化は無く。それならば気になる変化の一つであるアルの視線を解決しようと彼女に声を掛けた。

「アル、何をそんなに視線を向けているんだ?」

 問い掛けに慌てながら、アルは下手くそな口笛で誤魔化しているのか息が漏れる音だけをさせながら近付いて来ると、「そそそそそそういえば」と不自然な話の切り口を見せた。

「エミヤって料理上手かったわよね?いいえ、上手いわ、上手いもの!毎日美味しいご飯をありがとうね」

「え……あ、あぁ、なんだ急に?」

 自己完結の上に唐突に褒め始めたアルに不気味さを感じながらも、何か怒られるようなことでもしたのかと疑いを持つ。

 

「実は、山海経高級中学校での料理補助の依頼を受けたんだけど……」

 目を逸らしながら話し出したアルに近付いていき、

「ひっ、そ、その、受けたは良いけれど私ってあまり料理が得意じゃないし、この中でまともに料理が出来るのってエミヤくらいだし」

 後ずさるアルを壁に追い詰めて尚も近付き、アルの胸の形が変わる程に追い詰めて上から見下ろす。

「だだだだだだからエミヤに出張で山海経に行ってお仕事をこなして来て欲しいというかお仕事はもう受けちゃったというキャンッ!?」

 拳骨一つでお叱りは済ませ、エミヤは溜息を吐きながら「準備しておくが、いつからいつまでの予定なんだ?」と尋ねてみれば、

「きょ……今日の午後♡」

 

 アルの頭部のたんこぶは二つになった。

 

 

 

 そして、百鬼夜行における少しの事件を解決したこの男の下にもまた、新たな問題が舞い込んでいた。

「……カヤ、少しいいか」

 基本的には葛木の居ないタイミングでヘルプで入る予定のカヤを矯正局からその日は呼び、共に業務に当たっていた。

「はい?お仕事の質問ですか?珍しいですね」

 カヤ自身、矯正局から出られるというのが嬉しいのと同時に、自身を犯罪者として見てくることの無い葛木と空間を共にする事は非常に気が楽で、尚且つ時折の談笑にも慣れていないながらに応じようとしてくれる目の前の男性をカヤは好ましく思っていた。

 

「いや、仕事……そうだな、ミレニアムから長期の依頼が来ているんだが」

 渡されたタブレットに記されていたのはゲーム開発の協力をお願いしたいという文言、最初に感じたのはミレニアムは正気なのか?という感想。

「先生、ゲームとかってされますか?」

「……お前と打つ将棋くらいだ」

「――ッ! そ、そうですか」

 自分としか行っていない行為があるという唐突な優越感に口元が二ヨるのを抑えながら、「でもそれだとゲーム開発は難しくないです?」と尋ねる。

 

「だが、廃部の危険と書かれてはな、彼女達はやりたい事をやる為に部活を作っているのだろう?」

「まぁ、そうですね」

「ならば、自分が最も自分らしく輝ける場所を守るのも、教師の――『先生』の役割だろう」

 良い言葉が聞けたと思いながらも、

「いや、だからゲーム開発は難しいですよね?」

「……難しいな」

 問題から視線を逸らすなと窘められ葛木は少し落ち込んだ。

 

「誰かお知合いにゲームに強そうな方は居られないのですか?」

「……そうだな、ユウカは得意ではないだろうし」「ユウカ?」

 突発的に差し込まれた言葉に葛木は思わず首を傾げる。

「あぁ、早瀬ユウカ」

「……そうですか、遮ってすいませんでした」

「いや……」

 四文字と二文字のどちらが呼び方として効率的か?で名前呼びを手に入れたカヤとしては、自分以外に名前呼びをされている生徒の存在に少しムッとしてしまったが、ユウカはカヤにとっても多少なりとも仲の良い相手、複雑な心境だった。

 

「……あぁ、もしかしたら得意かもしれない者が一人だけ居るな」

 そう言い、携帯を手に連絡を取り始める。

 

 

『はい、いかがされましたかぁ?』

「私だ」

『……先生の声のトーンでソレを言われると本気で背筋が冷えるので、もう少しソフトでマイルドな余裕をもってお願いできると手前は嬉しいのですが』

「それはすまない、実は力を借りたくてな」

 

『おや?おやおや?おやおやおやおやぁ?もしかしていつぞやお話した時の言葉を真に受けて?猫の手を借りたくなってしまわれましたか?やはり手前の持ち得るスキルのどれもが眩しく見えてしまったのでしょう?重ねた歳の数だけ求めたくなる星の光が如き私の才能を!伏してお願いするというのであれば』「やはり結構だ、失礼した」

 

 ふぅ、と息を吐いた葛木を見ていたカヤは、少しだけ聞こえて来た音声に「クソガキねぇ」と直球な感想を抱きながらも「そういえば」と思い出す。

「葛木先生、この前お話したRABBIT小隊覚えてます?」

「あぁ、確かSRTの部隊でシャーレの任務を最優先に動いてくれるという……」

「そうですそうです、あの隊員の中に一人、電子系に強そうな子がいたと思いますよ」

 言われて考え、誰の事を言っているのか思い当たった葛木は早速連絡を取る事にした。

 

 そうして動く葛木を見ながら、カヤは一人溜息を吐いた。

「……私が自由に動けたら、付いて行けたんですけどね」

 どうして罪を犯すような真似……と、無自覚の内に反省する事が出来ているのを、カヤはまだ気づいていない。

 

多分大筋合ってると思うんだけどミレニアムの第3章書いてもいい?

  • いいよ
  • だめだよ
  • やってみろ
  • エロ書け

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。