便利屋エミヤ   作:晴れときどき曇り

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第九夜 つま先で脛を蹴るのは止めて欲しい

 

 

「そう、貴方が例の」

 強さが外面に現れるのは筋肉や歴戦の戦士として負った手傷だと、かつて北方にて覇を唱えたヴァイキングは酒の席で歌ったそうな。

「あぁ、そこなイオリとは初対面では無いが、はて何処で会ったか」

「ぬけぬけと……!」

 しかしどうだ。

 筋肉など無く外見も可憐、だというのに彼女から感じる強さの程。

 

「辞めなさい、今回は仕事で来てもらっているのよ」

 エミヤは内心でその少女に対し、警戒心こそ抱いていないが脅威を感じていた。

 ゲヘナ学園三年・風紀委員会委員長 空崎ヒナ。

 足取り一つ取っても強い事が分かる身のこなし、それも沁み付いた自然の物だ。

「それじゃあ便利屋68、庶務担当エミヤさん」

 何よりもエミヤが脅威を感じる理由、それは――

 

「軽く、運動しましょうか」

 

 ――今からこの少女達と、演習をしなければいけないのだ。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 その日、エミヤはカヨコと共にスーパーでの買い出しを終えた後、カヨコが無言でいつもの帰り道から逸れて事務所に戻るには遠回りとなる道を選んだことが発端だった。

 内心で珍しいなと思いながらも、寄りたい場所でもあるのかとカヨコの後を付いていくと、小さな定食屋に辿り着いた。

 

「ここのハンバーグ美味しくってさ、美味しいんだけど隠れ家みたいな立地してるから、便利屋の中でも私だけが知ってる隠れた名店なんだ」

「それは良いな、今度皆で」「だめ」

 思わぬ制止に思わずカヨコを見ると、

「その、此処は私が独占したいから、皆には内緒」

 そう言いながら服の裾を掴まれれば、何も言葉を返す事は出来なかった。

 

 誘われるまま店内に入り、優しげなご婦人?ご婦犬?に案内されテーブルへ、メニューにはオムライスやハンバーグ、スパゲッティなどエミヤの知る街の洋食屋さんで食べられる料理が載っていた。

 先程から鼻孔をくすぐる卵とバターの甘い香り、時折そこに交じる肉を焼いた香ばしさ、口の中は既に食事を待っている。

 

 注文はオススメされたハンバーグ、食べていると、店内の奥から見るからにただ者では無い風格の生徒が歩いてきた。

「げ」

 とカヨコの漏らした声を聴いて嫌な予感が増大する。

「む、ほう……そこいるのは鬼方カヨコか?キキキキッ、珍しい場所に行けば珍しい奴に会う物だな」

 猿の様な笑い方、特徴的な鋭い歯をむき出しにして笑う女に、エミヤはカヨコの知り合いと認識。

「マコト先輩、お店の中で大声出すのやめて下さいよ、あ、どうもお久しぶりですカヨコ先輩」

 その後ろからひょこっと現れた紅毛の塊?ではない、モコモコとした紅い毛を伸ばしに伸ばした少女だ。

「えー!?なに!?だれだれ!?イブキも!イブキもこんにちはしたいー!」

 もう姿は見えないがその後ろでドタバタしているだろう少女はイブキというらしい。

 

 思わずカヨコの方を見て、言外に彼女達は?と尋ねる。

「えっと、私達が所属している学園がゲヘナっていう所なのは知っていると思うんだけど、そこの……トップを務める万魔殿の」

 手前から指を差して、

「議長、羽沼マコト」

 次に紅毛の化身、

「議員で多忙に見えがちな、棗イロハ」

 最後に見えていないが、

「マスコットみたいなのが、イブキ」

 

「ククッ、紹介ご苦労!それで首席合格者カヨコ、こんなところで男と逢引か?」

 首席合格だったのか……と驚くも、そこまで意外でも無くむしろ逢引という言葉にエミヤは眉を上げた。

 否定の言葉を口に出そうとマコトに向き直るが、

「だったら何?ご飯を食べたのなら帰ったら?」

 カヨコに先に言われてしまい、『それだと肯定したことにならないか?』と内心エミヤ心配。

「便利屋と一緒にいる男性……あぁ、貴方が例の肉体美マンさんですか」

 

 イロハの言葉に、カヨコもエミヤも時が止まる。

「え?イロハ先輩イロハ先輩、その、にくたいびまん?ってなに、なにです?か?」

 お外だし初対面の人もいるので頑張って敬語に訂正、偉い。

「んー、なんでも最近ゲヘナ自治区内でヘイローも無いのにやたら強い人が居て、カツアゲしようとしても逆にボコボコにされるって一般生徒から報告があって、事情聴取したら『均整の取れた体付き』『肉体美の男』『傷は残らない様に紳士的にボコボコにされる』『最近はボコボコにされる為に絡みに行ってる』って、その人が便利屋の事務所を出入りしているってもっぱらの噂なのよ」

 初耳な情報に赤面するエミヤと、笑いを堪えるカヨコ、そして聞いていたのか分からないマコト。

 

「それで、お兄さんが肉体美マン?」「違う!」

「でも凄い良い身体してるし」「断じて違う!」

「でも便利屋と」「そうだとしても違う!!!」

 

 全力の否定だった。

「ふーむ、つまり未所属の男性が我が校の生徒に暴行を働いているのだな?」

「先程の話を聞いていたか?特に最後の変態」

「由々しき事態だなぁ、ふんふん、つまり貴様は滅茶苦茶強い訳だな」

「棗といったか、いつもこうなのか」「はい、大体は」

 無言でエミヤはイロハの普段の苦労を察した。

 なんとかイロハとマコトの足元から身体を出したイブキが、エミヤを見て「イブキだよ!よろしくね!」と挨拶をしてから、エミヤの膝の上に飛び乗った。

「元気だなイブキ、あぁ、よろしく頼む」

「……ふーん」

 膝に乗ったイブキと、微笑みかけてイブキに挨拶をするエミヤをカヨコの視点が行ったり来たり。

 一瞬ピクリと動いたイロハはエミヤのさわやかな挨拶を聞いて「まぁ大丈夫そうだし」と緊張を解いた。

「カヨコ?何故テーブルの下で脚を蹴る?カヨコ?」

 もっともカヨコも緊張をしている訳では無い。

 

「ふんふん、なるほどなぁ……キキキキッ!良い事を思いついたぞ!って貴様は何をイブキを手籠めにしているド畜生がぁ――――!!!」

 あまりにもデカい声が来ると予想したエミヤは即座にイブキのお耳をガード、「なに?」と見上げるイブキに微笑むと何故か抱き着かれ、それに更に加速するマコトの暴言、カヨコのテーブル下アタック、イロハの苦労人を見る目、エミヤの胃痛!

 

「やめんか」

 

 全ての呼吸の間に差し込まれたエミヤの呟きに、一瞬でその場が静寂を取り戻す。

「はぁ、店の人に迷惑だろう」

 おー、と他人事の様に拍手するイロハに「君も止めてくれ」と視線を送り、それで……とマコトへ話を促す。

「良い事を思いついたと言っていたが、一応聞かせて貰おうか」

 エミヤの膝を満喫したのか、今度はエミヤの肩に登り肩車で普段よりも高い視点を楽しむイブキに一瞬だけ目をやり砕けた笑みを見せて、マコトは覇を纏い直して告げた。

「依頼だ便利屋のエミヤ、最近我が校の風紀委員はたるんでいてなぁ……貴殿は聞く所によると勇猛にして紳士、頭脳明晰でありながら仲間思いだと聞く」

「分かってるじゃん」

 唐突なカヨコ。

 

「そこで、貴様に風紀委員の演習への参加を依頼する。期間は一週間、報酬はゲヘナ学園部室棟の空き教室を便利屋のゲヘナ学園支部として貸与、並びにゲヘナ学園自治区内におけるエミヤ個人への取り締まり許可証だ」

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 そんな訳で、便利屋としても旨みがありエミヤ個人も絡まれた際の正当防衛を公的に正当化出来るので依頼を受ける事にしたのだが、一週間の出張となる事を伝えた結果、案の定というか必然というか「勿論私も付いて行くわよ!」と言い出したアルをなだめ、「やーだー!」とエミヤの膝の上で駄々をこねるムツキをなだめ、何も言わずにソッと服の裾を掴んできたハルカをなだめ、「ふーん」ばかりいうようになってしまったカヨコをなだめ、エミヤは何とか依頼を正式に受理するに至った。

 

 依頼初日、ゲヘナ学園までやって来たエミヤを迎えたのはあの日洋食屋にも来ていたイロハだった。

「よくやりますね、これも便利屋の為ですか?」

 あくびをしながら気怠そうに聞いてくるイロハが本当に興味があったのかは分からないが、

「どうだろうな、まだまだ知らない事ばかりだから学園内を見てみたかったのもある」

 真面目に答えても「そうですか」と返して道案内に戻ったあたり、真偽は分からない。

 

 連れてこられたのは一つの建物。

「この建物自体が風紀委員の管轄にある物で、前面の運動場は演習場、建物の後ろにはプールもありますし、そのプールを超えれば学園所有の森があって、そこでも演習をしているみたいですね」

「ここまで環境が整っていてたるんでいるのか……?」

「聞いたところによると、海沿いの橋の上で風紀委員を歯牙にも掛けなかった肉体美マンがいるそうですけど」

「その呼称は止めてもらえるか……えー」

「イロハでいいですよ、私もエミヤさんって呼ばせてもらいますし」

「ふむ、ではイロハ、ここまで案内してくれてありがとうなのだが……風紀委員の方で私は誰に声を掛ければ?」

「一応、アコ行政官とヒナ委員長には話を通してあるので、どちらかを見つけて下さい」

「どちらも外見が分からないのだが……」

 少し考えてからイロハは、

「バカみたいな恰好した青い髪の女と、季節関係無く厚着した白いチビです」

「何か恨みでもあるのかね?」

 

 それではーと去っていくイロハに手を振り、改めてエミヤは風紀委員の管理する建物へと入った。

「それじゃあアコちゃんに書類を渡しておいて、私はこの後パトロール……あ」

「あ」

 ちょうど建物から出てこようとしている人物とばっちり目が合ってしまった上に、なんだか見覚えのある子だなぁと思い返したエミヤは思い出すに至った。

「拡声器の……イオリといったか?」

「待てなんだその二つ名みたいな覚え方は!そ、それよりもどうして貴様が此処にいるんだ!自首か!?」

「いや、万魔殿の依頼で風紀委員の演習へ参加を依頼されてな、バカみたいな恰好した青い髪の女と、季節関係無く厚着した白いチビを探すように言われているのだが、思い当たる人物はいるかね?」

 

 勿論、この時イオリは誰の事を指しているのかすぐに理解した。

 だが、その伝聞で誰なのか分かって良いのかと疑問が生じた。

 もしもこれで連れて行って、目の前の宙飛びビニール落としマンが口を滑らせよう物なら間違いなく後々に怖い事が待っている。

 だが、連れて行かなかったときの方が面倒そうだし、どうしようかと悩む。

「い、い、いや、居ないな、それにしても依頼されたって、えっと」

「エミヤだ、こちらからはイオリで構わないか?」

「あ、う、うん……その、エミヤは便利屋なのにどうしてそんな事をお願いされたんだ?」

「羽沼マコトといったか?あの少女が良い事を思いついたと言っていたが、具体的な狙いまでは分からん」

「そうか……もしかして、エミヤは強いのか?あの時も欄干が凹む程の威力で跳躍していたが」

 凹ませてしまっていたのか……と内心反省するエミヤ、その問い掛けをされるのはムツキ以来だなと思いながらも、目の前の少女に対して当然の様に応える。

 

「あぁ、最強だ」

 

「って自信満々に答えてました」

「そう……丁度今日は演習がこの後で控えていたわよね」

「はい!」

 

 流れるままに連れてこられた風紀委員会委員長室。

 成程彼女がヒナ委員長、確かに……言われた通りだな。

 

「そう、貴方が例の」

 ヒナは内心、思ったよりも全然強そうじゃない……と期待を裏切られた気持ちもあった。

「あぁ、そこのイオリとは初対面では無いが、はて何処で会ったか」

「ぬけぬけと……!」

 しかしどうだ。

 強そうには見えなくとも、脳内でシミュレートした時に彼に一撃も与える事が出来ない。

 

「辞めなさい、今回は仕事で来てもらっているのよ」

 少し前にイオリが完全に取り逃したと喚いていた相手、イオリは決して無能じゃない、相手が並であれば問題無く仕事をこなせる。

 だが、美食研究会や温泉開発部の様にネジが外れまくっていたり、行動力が高すぎて手が読めない相手になると教本では通用しなくなり、後手後手になってしまうだけだ。

 

 つまり、この目の前の男性は教本では相手取れない、常識では測れない。

 面白いかもしれない、つい笑みを浮かべそうになるのを我慢して、期待と共に胸に抱いた。

 

「それじゃあ便利屋68、庶務担当エミヤさん」

 私がなりたかった何かに、近づけるかもしれない。

 

「軽く、運動しましょうか」

 




最後までお読みいただきありがとうございます。

万魔殿のキャラ実装もっと欲しいですね。

多分大筋合ってると思うんだけどミレニアムの第3章書いてもいい?

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