【新約】狂気の産物   作:ピト

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第三話 ウィードの風紀委員

 ──────入学2日目、お昼休み

 

 午前中の授業を終え、お昼休みに突入した第一高校。1年A組には喧騒が現れ、話し声がそこら中から聞こえる。

 

「四葉さん」

「ん?」

 

 隣の席同士の深雪と尽夜。

 

「お昼休みは生徒会室に行かれますか?」

「ああ。そのつもりだが」

「でしたら、御一緒させていただいてもよろしいでしょうか?今朝方、会長より、お昼休みにお話がしたいとお誘いいただいたので」

「それなら構わない。じゃあ、会長を待たせないように行こうか」

「はい!」

 

 2人は立ち上がり、周囲の視線を浴びながら教室を出た。

 

「すみません。兄も一緒に呼ばれているので、寄り道しても構いませんか?」

「了解。お兄さんがいるのか。何年生?」

「兄は私たちと同じ1年生で、E組に所属しております」

「ほう。司波さんは双子だったのか」

「いえ、実は年子なんです。兄が4月生まれ、私が3月生まれ。お互いにひと月でも違っていたら別の学年でした」

「へぇ、珍しいね」

「よく言われます」

 

 最上級の容姿を持つ2人が並んで歩いていると、校内の注目を集めることはもちろん、モーセのように道が形成される。

 

「あ、お兄様!」

 

 深雪はE組に向かっている途中で達也のことを発見する。嬉しそうに破顔しながら、少し足を早めて彼の元へと辿り着く。

 

「これからお迎えに上がるところでした。ちょうど合流できてよかったです」

「来てもらうだけでは申し訳ないと思ってね。すれ違いにならず安心した」

「ありがとうございます。あ、そうだ、お兄様。こちら同じクラスの四葉尽夜さんです」

 

 少し遅れて2人の元へ着いた尽夜。深雪は腕で示して紹介する。

 

「四葉尽夜だ。よろしく」

「噂はかねがね。司波達也だ」

 

 尽夜と達也は手を出し合って握手を交わした。

 

「深雪と仲良くしてくれて礼を言う」

「いや、こちらこそ」

「…御二人とも挨拶もそこそこに参りましょう」

 

 自分から紹介していて何だが、何故か少し恥ずかしくなった深雪は男2人の行動を促す。握手を解き、歩き始める深雪の背後をボディガードの如く着いていく。

 やがて、一行は生徒会室に到着する。深雪が扉をノックした。

 

「いらっしゃい。遠慮しないで入って」

 

 深雪、達也、尽夜の順に入る。

 扉から2歩ほど歩いたところで、手を揃え、目を伏せ、深雪が礼儀作法のお手本の様なお辞儀をした。

 

「えーっと、…御丁寧にどうも」

 

 洗練されたお辞儀に真由美は少したじろぐ。その他の役員と見られるメンバーもその雰囲気に呑まれていた。

 

「どうぞ掛けて。お話はお食事をしながらにしましょう」

 

 達也は深雪の椅子を引き、上座に座らせる。達也と尽夜はほぼ同時に腰をおろした。

 

「お肉とお魚と精進、どれがいいですか?」

 

 達也と深雪が共に精進、尽夜は肉を選択した。それを受け、2年の中条あずさが壁際に据えられた大きな機械を操作した。

 後は待つのみとなったところで、真由美が達也と深雪に上級生を紹介し始めた。

 

「入学式で紹介したけど、念の為もう一度紹介しておきますね。私の隣にいるのが会計の市原鈴音、通称リンちゃん♪」

「………はぁ。もう会長の好きにしてください」

 

 整った容姿だが各々のパーツがキツめの印象で、女性にしては背が高く、手足も長いため、美少女より美人と称されそうな人。

 

「その隣は風紀委員長の渡辺摩利」

 

 上級生の会話が成立してないが、彼女らはいつもの事のように気にした様子はなかった。

 

「それから書記の中条あずさ、通称あーちゃん♪」

「会長…何度も言いますが、お願いですからいいかげん『あーちゃん』と呼ぶのは止めてください。私にも年上の威厳というものがあるんです」

 

 真由美よりも更に小柄な上に童顔で、本人にはそのつもりはないが上目遣いになる瞳は、拗ねて今にも泣き出しそうな子供にしか見えない。

 達也も深雪も、なるほど、これは「あーちゃん」だろうと思った。

 

「諦めろ中条。市原みたいに受け入れることだな」

 

 摩利が笑いを堪えながらあずさに助言をする。あずさはがっくりと肩を落とし、暗い空気を纏わせて俯いた。

 

「あともう一人、副会長のハンゾーくんを加えたメンバーが今期の生徒会です」

 

 自己紹介が一通り終わると、ダイニングサーバーのパネルが開き、無個性だが正確な料理が出てくる。しかし、出てきたのは6つ。この場には7名。1つ足らない計算になる。すると、摩利がおもむろに弁当箱を取り出し、自分の前に置いた。

 

「渡辺先輩、それはご自分で作られたのですか?」

 

 深雪が摩利に問いかける。

 

「そうだが……。意外か?」

 

 摩利は、少々意地の悪い笑みを浮かべて、逆に問いかける。

 

「いえ、少しも」

 

 間髪を入れずに、深雪は返答した。

 摩利の思惑とは違う方向に返事をされ、彼女は少々戸惑ってしまった。

 

 その後に深雪は何かを思いついたように手を合わせ、顔の横に置き、小首を傾ける。

 

「お兄様、私達も明日からお弁当にしましょうか?」

 

 と、肯定的に返すが、達也は、

 

「深雪のお弁当は魅力だけど、食べる場所がなぁ」

 

 言葉にそれはできないと含ませた。

 

「そうですね。問題は場所ですよね」

 

 そこまで言うと、真由美が食事開始の提案をしたため、各人は自分の前の料理に舌鼓を打つ。しばらく世間話や学内での話をしながら食べていたが、皆の料理がほとんど無くなるという時に本日の本題に入った。

 

「それで、本題なんですけどね。深雪さん、生徒会は貴女の生徒会入りを希望しています。尽夜くんと一緒に1年生の代表として活躍して欲しいの。引き受けていただけますか?」

 

 これに少し苦言を呈したのは深雪だった。

 

「会長は兄の入試の成績をご存知でしょうか?」

 

 真由美は痛いところを突かれたという表情になる。

 

「ええ、知ってます。先生方からこっそり答案を見せてもらった時は自信を無くしました」

 

 その答えに、追従して深雪が言葉を述べる。

 

 

「成績優秀者、有能な人材を生徒会に引き入れるなら私より兄の方が良いと思います。私を生徒会の末席に加えていただけるのなら喜んで加わります。しかし、兄も一緒にというのはできませんか?」

 

 これに対し答えたのは真由美ではなく、鈴音であった。

 

「残念ながら、それはできません。生徒会役員は1科生から選ばれます。これは不文律ではなく、規則なのです。この規則は、生徒会長に与えられた任命権における唯一の制限事項として、生徒会制度が現在のものとなった時に定められたもので、これを覆すためには、全校生徒が参加する生徒総会で制度の改定が決議される必要があります。決議に必要な票数は在校生徒数の3分の2以上ですから、1科生と2科生がほぼ同数の現状では制度改定は事実上不可能です」

 

 淡々と、しかしどこか申し訳なさそうに述べる鈴音が説明し終える。それは、彼女が現在の制度にネガティブな考えを持っている表れでもあった。

 

「…申し訳ありませんでした。分を弁えぬ差し出口、お許しください」

 

 だからこそ、深雪は素直に謝罪を入れることができた。立ち上がり、深々と頭を下げる彼女を咎めるものはいない。

 

「ええっと、それじゃあ、深雪さんは生徒会に加わってくれるということでよろしいですね」

「はい。精一杯務めさせていただきますのでよろしくお願いします」

 

 もう一度、深雪は今度は少し控えめなお辞儀をした。それにより、真由美は笑顔が戻る。

 

「会長、少しお伺いしたい事があるのですが」

「はい、なんでしょう?」

 

 話を聞いていた尽夜が横から発言する。達也の背筋に悪寒が走った。

 

「任命権の1科生という縛りは生徒会のみですか?」

「ええ、そうよ。風紀委……」

 

 真由美は手を顎に当てて考え始める。少し経つと机を音を立てて叩き、立ち上がった。

 

「そうよ!尽夜君、ナイスよ!風紀委員なら2科生の達也君を指名してもなんら問題はないわ!摩利!生徒会は達也君を風紀委員に任命します!」

 

 急過ぎる展開に達也は動転するが、それは一瞬のこと。

 

「ちょっと待ってください。俺の意志はどうなるんですか?大体、風紀委員が何をする委員なのかも説明を受けてませんよ」

 

 直感的な危機感に従い達也は抗議をする。

 

「妹さんにも生徒会の仕事について説明はしていませんよ」

「…いや、それはそうですが」

 

 しかし、それは鈴音によっていきなり出鼻をくじかれた。

 

「まあまあ、リンちゃん。いいじゃない。達也君、風紀委員長は学校の風紀を維持する委員です」

「……」

「……」

「それだけですか?」

「聞いただけでは物足りないかもしれないけど、とてもやり甲斐がある仕事よ」

「いえ、そういう意味ではないのですが」

「はい???」

 

 真由美は本気で分からないと首を傾げる。達也は視線をスライドさせる。鈴音には同情が、摩利には面白いものを見る様な目が向けられた。彼はあずさにピントを合わせる。彼女は目に見えて狼狽するが、達也は逸らさない。あたふたと左右に動く瞳を捉えて、覗き込む。

 

「あ、あの、当校の風紀委員は校則違反者を取り締まる組織です」

 

 見た目通りの気弱さだった。

 

「風紀といっても、日常の服装や遅刻といったものは自治委員会の週番が担当します。風紀委員の主な任務は、魔法に関する校則違反者の摘発、魔法を使用した争乱行為の取り締まりです。風紀委員は違反者に対して罰則の決定にあたり生徒側の代表として生徒会長と共に懲罰委員会に出席し意見を述べます。いわば、警察と検察を兼ねた組織です」

「凄いじゃないですか、お兄様!」

 

 深雪は喜々とした態度を見せる。

 

「いや、深雪……そんな『決まりですね!』みたいな感じになるのは止めてくれ。一応確認しておきたいのですが」

 

 達也は風紀委員長である摩利の方に体を向け疑問を投げかける。

 

「何かな?」

「今の説明ですと、風紀委員は喧嘩が起こると力ずくで止めなければならないということですよね?」

「そうだよ。魔法が使われなくてもその対象だ。魔法が使われようとするならその前に止めることが望ましい」

 

 この説明により、一層眉をひそめる達也。

 

「あのですね、自分は魔法実技が芳しくないから2科生なのですが」

 

 彼は、実技の劣る2科生が魔法を使われた際に上手く対処できるかは疑わしい、という当たり前の事実をぶつけた。

 

「構わんよ」

 

 しかし、摩利から返ってきたのは非常にあっさりとしたものだった。

 

「力比べなら私がいる」

 

 ドンッと摩利は自分の胸を男らしく叩いた。

 

「お兄様は理論試験のみが優秀ではありません。現代の実技評価の基準がお兄様に見合っていないだけなのです。展開中の起動式を読み取ることも出来ますし、体術であれば一級品!決して実戦で劣ることはあり得ません!」

 

 達也が過小評価されてることが気に食わなかったのだろう。深雪は拗ねた子供のように反論を展開した。突然のことに呆気に取られた面々だが、その内容を素早く理解した摩利は達也に向けてニヤリと笑った。

 

「そうか。期待以上に君は逸材のようだな」

 

 達也は居心地が悪そうに目を逸らした。

 

「展開中の起動式が読み取れるのであれば、魔法の程度が事細かに分かる。つまりだ。公平な裁きに容疑者をかけられると言う訳だ」

「そうなれば、今まで風紀委員会の裁量に委ねられていた罪の程度に明確な基準を設けられるわ!凄いじゃない達也くん!」

 

 真由美がキラキラとした目で達也を褒めた。

 

「…っと、そろそろ昼休みが終わるな。放課後話の続きをしたいんだが構わないか?」

「分かりました」

 

 達也はこの状況では了承以外の選択肢を取り得なかった。せめてもの腹いせに、尽夜に向けて瞬きを数回して『やってくれたな』と表現した。すると、尽夜は笑いながら返事の瞬きを返す。

 

 

 

 ──────放課後

 

 3人は昼休みと同様に生徒会室へと向かう。IDカードは認証システムに既に登録済みの為、そのまま中へと入る。

 まず達也が入ると、明確な敵意を孕んだ鋭い眼差しに迎えられた。彼は深雪と一緒の時間を昔からよく過ごしてきている為、こういう視線には慣れている。しかし、いくら彼とてずっとこのままなのは居心地が悪い。

 ポーカーフェイスを保ったまま黙礼すると敵意は嘘のように霧散した。とはいっても、それは達也のあとに入ってきた深雪と尽夜に関心が移ったからであり、決して達也への敵意が解消された訳ではなかった。

 視線の主は三人へ近づく。その男子生徒は、昼にはこの部屋に不在であった生徒会副会長、その人であった。

 身長はほぼ達也や尽夜と変わらず、やや細身の体型をしている。彼の身の回りの空気を侵食するサイオンの輝きは、彼が1科生であることを納得し得るものがあった。

 

「生徒会副会長、服部刑部です。司波深雪さん、ようこそ生徒会へ」

 

 達也のことを無視した挨拶に、深雪の背中からはムッとした気配が伝わってくる。服部はそれに気づくことなく、自分の席へと戻っていく。

 

「三人ともいらっしゃい。早速だけど、あーちゃん、お願いね」

「………ハイ」

 

 あーちゃん呼びの抵抗が諦めの境地に達したあずさは、哀しそうに目を伏せ、ぎこちない笑顔で頷くと深雪を壁際の端末へと案内した。

 摩利は同時に達也を連れ、風紀委員会本部に向かおうとしていた。

 

「渡辺先輩、待ってください」

 

 呼び止めたのは、服部副会長。

 

「なんだ服部刑部小丞範蔵副会長」

「フルネームで呼ばないでください」

 

 新入生三人は真由美の方に一斉に向く。その視線に気づいた真由美は首を傾げる。まさか『はんぞー』が本名だったとは3人は思いもしなかったのである。尽夜も、服部の本名を聞いたのは初めてであった。

 

「お話したいのは風紀委員補充に関してです」

「なんだ?」

「その二科生を風紀委員に任命するのは反対です」

 

 摩利は眉をひそめる。

 

「おかしな事を言う。司波達也君を風紀委員に生徒会推薦枠に任命したのは七草生徒会長だ」

「過去にウィードを指名した例はありません」

「風紀委員長の前で禁止用語を発言するとはいい度胸だな」

「取り繕っても仕方がないでしょう。それとも全校生徒3分の1以上を摘発しますか?それに、ウィードとブルームの間には区別を根拠付ける明確な実力差があります。風紀委員は違反を犯した生徒を取り締まる組織です。実力で劣るウィードには務まりません」

「確かに風紀委員は実力主義だ。だが実力にも様々なものがある。君の理屈なら、もし私が暴れたらどうなる。止められるのは部活連の十文字か会長の七草だけだぞ。それとも私と戦ってみるかい?」

「私の話をしているのではなく、彼の適性の話です」

「実力にも色々あると言っただろう。達也君には展開中の起動式を読み取り発動される魔法を予測する目と頭脳を持っている。つまり彼は魔法が発動されなくてもどんな魔法を使おうとしたかが分かる。彼は今まで罪状が確定せずに結果的に軽罪となっていた未遂犯に対する抑止力になる」

「…しかし、実際の現場では魔法の阻止はできないのではないですか?」

「それは一科生も二科生も同じだろう。いったい何人が真由美のように発動中の起動式を壊すことができる?」

 

 副会長が押し黙るが、今度は矛を会長へと向ける。

 

「会長、私は副会長として、司波達也の風紀委員就任に反対です。渡辺委員長の主張が一理あるのは認めますが、風紀委員の本来の目的はやはり校則違反者の鎮圧と摘発です」

「待ってください!」

 

 副会長が意見具申しているところへ、待ったがかかる。

 

「兄は実技試験での成績は芳しくありませんが、それは魔法師の評価方法が兄に合っていないからです。実戦なら兄は誰にも負けません!」

 

 ヒートアップする深雪は一気に弁を捲まくし立てる。

 

「司波さん、身内に対する贔屓はある程度なら仕方ないが魔法師を目指す手前、身贔屓に目を曇らせないようにしなさい」

「なっ!?私は目を腐らせてなどおりません!」

「──深雪」

 

 達也は深雪の肩に手を置き、副会長の方へ向く。

 

「副会長、俺と模擬戦をしませんか?」

 

 

 

 

 ──────模擬戦中の生徒会室

 

 

「では、こちらの議事録にはそっちのデータを転送してください」

「かしこまりました」

 

 生徒会室には事務処理を真由美に押し付けられたあずさと、手伝いを申し出た尽夜が作業していた。あずさには若干尽夜に対する恐怖心や戸惑いが感じられるものの、だんだん慣れてきた様子が感じられた。

 

「四葉くんは見なくてよかったんですか?」

「ん?ああ、勝負は見えてますし、それに中条先輩だけに仕事を押し付けるのは忍びないですから」

 

 努めて優しく、にこやかに喋る尽夜。

 

「四葉君は優しいんですね」

「ええ、もしこれからもそう思っていただけるのなら、もう少し怯えずに会話できるといいですね」

 

 今度は苦笑して。あずさは「ひぃ!」と頭を手で守った。

 

「す、すみません。私っていつもこんな感じなのでご容赦を…」

「いえ、構いません。徐々に慣れていってください」

 

 最初に出会った頃のような恐怖一択感じでは無くなったあずさに満足感を得た尽夜は、腰に挿した銃型で漆黒のところどころ紺色の線をあしらったCADのせいで座り心地が悪く感じ、一度立ち上がり、取り出す。

 すると、横から今まで感じたことのないような熱烈な視線が突き刺さった。

 

「な、中条先輩?」

 

 その正体はもちろん、あずさだった。

 

「もしかして、四葉君のCADは『シルバー・ホーン』じゃありませんか?」

 

 遠慮気味に、しかし目は熱を帯びてギラギラさせたあずさは尽夜に喰いかかるように尋ねる。

 

「そうですけど………」

 

 するとあずさは遠慮気味ではあったことを全く感じさせない程の表情になり、彼女とは思えないぐらいの饒舌さで喋りだした。

 

「そうなんですか!シルバー様といえば、フォア・リーブス・テクノロジー、通称FLT専属、その本名、姿、プロフィールの全てが謎に包まれた奇跡のCADエンジニア!世界で初めてループ・キャスト・システムを実現させた天才プログラマ!あ、ループ・キャスト・システムというのはですね、通常の──

 

 

 

 ──それに現行の市販モデルですらプレミア付きで販売されるぐらいなんです!それに四葉君のCADは通常のシルバー・ホーンより銃身が長い限定モデルですよね!?それに限定版は銀色以外発売されて無い筈です!いったいどこで手に入れたんですか!?」

 

 一気に止まる事なく、最後は尽夜の肩に掴みかかり、迫った。

 尽夜は驚きながらも、優しく頷きながら聞いていたが、最後にあずさから掴みかかられて、彼にしては珍しく少し慌てた表情をした。

 それが喋り終えたあずさは自分の冷静さを取り戻すきっかけとなった。

 すぐにパッ!と離れ、顔は赤の絵の具を塗りたくったように真っ赤に染め上がった。

 

「す、すすすすすみません!私、デバイスに目がなくてですね。ご迷惑でしたよね………」

「いえ、とても興味深い話でしたよ」

 

 小動物のように小さく縮こまるあずさに、尽夜は気にしていないと対応をする。

 

「中条先輩、触りますか?」

 

 そう言って彼はあずさに漆黒のCADを差し出した。

 

「い、いいんですか?」

 

 そう言って嬉しそうに受け取り、全体を舐め回すように観察し、それが終わると今度は細部をくまなく視る。それを見ていた尽夜にある考えが浮かんだ。

 

「それはですね、俺にツテがありまして。だから他の人より比較的簡単に手に入るんですよ」

 

 尽夜のぶっちゃけにあずさは愕然とする。

 

「う、羨ましい!」

「で、ですね。一般タイプなら家に何個か余って使わないものがあるんですけど………」

 

 チラリとあずさの方を見ると、キラキラとした幼児のような眼差しで尽夜を見ていた。

 

「誰か1つか2つ大切に使ってくれる方はいないですかね?使われずに眠っているだけよりも、使われた方がデバイスとしても嬉しいでしょうから」

 

 わざとらしく声を出しながら今度は体ごとあずさの方に向く。彼女は幼児から犬の待てのような状態にまで堕ちていた。まじまじとあずさを見つめると今度は正気に戻ったようで、顔を勢いよく逸らせた。

 ちょっと時間がたったとき、あずさが口を開いた。

 

「よ、四葉君?私達は先輩後輩ですよね?そうですよね?」

「そうですね」

 

 恥ずかしそうに、しかし、欲求が抑えられないあずさは両手の人指し指をくっつけ、もじもじしながら、

 

「ここにデバイスが大好きな先輩がいるわけですよ」

「そうですか」

 

 尽夜は何を考えているのかも分からないような無表情で応答する。

 

「その先輩はですね、CADをとても大切に扱うらしいのですよ」

「そうですか」

「なので、その〜、私が貰うっていうのは、だ、駄目でしょうか?」

「いいですよ」

 

 尽夜は即答した。もともと、あずさに貰ってもらう予定だったのだが、反応があまりにも面白く、少し長引かせてしまった。

 

「えっ、いいんですか!やっぱりダメとかはなしですからね!絶対ですよ!」

「はい」

 

 返答を聞き、あずさは満面の笑みを浮かべ、天に飛び上がるがごとくジャンプした。

 

 

 

 

 

 ガラッ!

 

 

 

 

 

 

 ちょうどその時、生徒会室の扉が開き、あずさは深雪、真由美、鈴音、服部と目が合う。

 

 時が止まった。

 

 あずさの顔は人生のなかで体験したことのないほど羞恥の色に変わる。

 おずおずと椅子に座わるあずさ。

 そこへ、尽夜の悪戯心いたずらごころが擽くすぐられ、羞恥に耐えるあずさの耳に口を近づけた。

 

「じゃあ、また持ってきますね。あーちゃん」

 

 今度は別の意味であずさの顔が、ボンッと音を立てたかのように急激に赤みが深まる。尽夜は囁き終わると、呆然としている扉の前の4人に声をかけた。

 

「お早いお帰りですね」

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