シリーズ通して語られるだけの人   作:I'mあいむ

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毎回出す時にこれで良いのかビクビクしてますね。いつもありがとうございます。


落ちぶれた自分とキラキラした他人を比べてはいけない

 

「シロナ、どう思う?」

 

「………何か隠してるわね。悪びれもせずに」

 

「それは前からだね。ワタルにも隠しているらしいし、もう仕方ないと考えよう」

 

イツキ、もしくはユエヅキの居なくなった部屋で彼女達は話す。落ち着いたダイゴに対して興奮するかのようにシロナが答える。

 

「でもその隠してる部分が重要よ。彼が言っていた情報が真実だったとしたら、神話の解釈は大きく変わるわ。ディアルガもパルキアもいたんですもの。アルセウスが居ても不思議じゃないわ!」

 

「あの!さっきから何がどういうことなんですか!」

 

「私も。そもそもあの人のこともあまり知らないわ」

 

大人二人の会話に少女達は着いていけない。先程の話からまだ二人の脳は回復していなかった。

 

「ああ、確かに話していなかったね。でもハルカちゃんは少しは知ってるだろ?」

 

「まぁ、少しだけ。ジムリーダーの人達からも聞いたけど、何だか少し違う気がするわ。そんなに強いようには……」

 

「それは仕方ないさ。何せ10年も前の話だからね」

 

「ヒカリも聞いたことはあったわよね?」

 

「はい、兎に角凄かったって……でもそれ以外は知らないです」

 

「そうね。私も直接会ったのはこれが初めて。人柄はよく知らないし、何をしてるのかも分からないわ。けど彼の功績だけを考えるなら、強いのは確実ね」

 

「功績ですか?」

 

「ええ、彼は昔バトルジャンキーと呼ばれていたの」

 

「バトルジャンキー………あ、ジム最速制覇の?」

 

「???」

 

思い当たりのあるハルカとは対照にヒカリの疑問は深まる。まるで聞いたことの無い単語にヒカリの表情に曇りを浮かべた。

 

「うん、そのバトルジャンキー。流石にヒカリちゃんは知らないか」

 

「もう何年も経ってるから今じゃ知らない人も多いわよ。私達の世代からすれば当たり前だけど、10年もすれば仕方ないわ」

 

「何だか信じられない気分。あんなバトルをするようには見えないもの」

 

三人が思い思いに納得をしている中、自身だけがまるで知らないのはヒカリとしては面白くない。年の近いハルカまで知っているとあっては、自分が無知であるかのようにヒカリは思えた。

 

「公式戦では顔が見えにくいからね。それにインタビューなんかも避けてたみたいだから」

 

「あの……そのバトルジャンキーって何ですか?」

 

「ああ、私達が旅をしてた頃に有名だったトレーナーの別名よ。バトルに対する情熱が異常だったのと、いつも笑顔を浮かべてたのが由来、だったかしら。確かイッシュ、ホウエン、シンオウ……」

 

「あとはジョウトとカロスだね。当時バトルジャンキーと呼ばれていた彼は、この5個の地方のジムを最速で突破したんだ。そして今もその記録は破られてない」

 

「えっ、そんなに!?」

 

ヒカリやハルカは勿論、シロナとダイゴもジム突破の難易度は理解している。

ジム制覇の旅は速さが全てではない。道中の困難や苦楽をポケモンと共に過ごすのも楽しみの一つと言われている。しかし最速ともなれば話が違う。ヒカリが驚くのも無理は無かった。

 

「理由は分からないけど、チャンピオンロードには決まって挑まなかったのよね。それでも当時のトレーナーの中で一番だったわ。一時期彼と戦おうとして探すのが流行ったけれど、結局分からず仕舞いに終わったわ」

 

「今じゃあんな感じで眼帯もしてるし雰囲気も違うしね。似てもにつかないから気付くことも無いかな」

 

シロナとダイゴにとっては懐かしい記憶だ。異彩を放ちながら進むトレーナー、幾つもの地方で名を上げていく姿を彼らは追った。

 

「へぇ……そんな凄い人だったんですね」

 

「まあ、本人はそれ知らないんだけどね」

 

「「「え?」」」

 

「どういうこと?」

 

「えっと、もしかして自覚して無かったとか?」

 

「いや、ジムの最速制覇を達成したことを知らないんだ。だから、何でそんな別名が付いてるんだーって言ってたよ」

 

「じゃああの人があんなにペコペコしてたのって……」

 

「完全に緊張してるよね。チャンピオンに対して一般人が何かを教えなきゃいけないんだ。彼、君らと会いたく無さげだったよ。失礼があったら首が飛ぶって。そんなことないのにね」

 

呆れるようなダイゴの姿はそれが本当のことであると語っている。三人としてはあまり知りたくない事実だった。

 

「何よそれ……」

 

「じゃあ最初のあれって」

 

「君達が凄い雰囲気だったから怖じ気付いたんだと思う。僕も流石に近づき難い感じだったからね。彼からすれば逃げ出したくもなるかな」

 

出会い頭の行動の理由が自分達だとは思いもしなかった三人。今までの印象とは程遠い人間性。全ての行動に辻褄が合うと共にユエヅキへの幻想も崩れていく。

 

「あー、そういうことなんだ……」

 

「気合い入れたのは失敗だったかしら……」

 

「彼にしてみればチャンピオンってだけでプレッシャーじゃないかな。うん、平静を装ってたけど手が震えてたし」

 

「何だか、悪いことしちゃいましたね」

 

「大丈夫だよ。昔からあんな感じだから」

 

「それは大丈夫なのかしら……?」

 

ハルカ ヒカリ シロナは ユエヅキへの理解度が高まった!

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

「すいません、このサンドイッチとオムライス下さい」

 

「分かりました。サンドイッチがひとつ、オムライスがひとつですね」

 

「はい、お願いします」

 

若い店員に注文を頼んで椅子に体を預ける。一息吐いて天井を見れば昨日のことを思い出した。

 

「やっとマトモな飯にありつける……」

 

昨日の昼にはシロナ達との件があったからな。腹を壊すといけないから飯は抜いてたんだ。そんで疲れて寝たら起きた頃には昼だし。今はもう夕方だ。時間を無駄にした気分。起きてからずっとナーバスだ。あんな大物達と一同に会するなんて流石にキツイ。会社に居たときもあそこまで怖い空間は無かった。

 

「都合良く見つかってくれて助かったな………」

 

美味い物を食いたくなった俺は久しぶりに外食を決めた。いつもはキャンプみたいな形でやってるのだ。旅の頃と同じでテントを広げて野宿をしている。けど今日は違う。こんなに疲れたんだ。褒美の一つや二つ無いとやってられない。

 

キラキラとした店を避けながら路地を歩いてたどり着いたカフェ。何となくご年配の方が道楽で始めたような雰囲気の店だ。若い子じゃなくても入れるのはありがたい。店に居るのは大体が社会人か常連っぽい大学生。おっさんでも入りやすい店ってのはこういうのだ。

 

暇だしゲームでもするかねえ。いや、ここはあれだ。ついったーっぽいあれをやろう。前世じゃ若い癖して全く触らなかったが、これからは生きていく上で大事だろう。サイトウとかシロナのなんか見てみたいな。

 

「えっと?へー、こんな感じなのか。お、グッズなんてあるのか。ジムリーダーってのは凄いな。俺も買おうかな………シロナとカミツレとサイトウと……」

 

え!?タケシいるじゃん!!ワタルなんてどうでも良いわ。そんなことより…………ん?これって

 

「バトルジャンキー?………久しぶりに聞いたが、相変わらず恥ずかしいわ。どんな顔して名乗れば良いんだよこれ……」

 

俺がトレーナーとして旅をしてた頃に付いた別名だ。何で付いたのかは知らない。というか何だよバトルジャンキーって。頭沸いてんのか?人を中二病っぽい名前で呼びやがって!俺別に何もしてねえだろ!?

 

そのせいかワタルとかダイゴとは会えたのに友達は出来ねえし!そんな恥ずかしい名前付けて一人の少年を虐めるが楽しいのかよ。社会の笑われものだよこれじゃ。

眼を怪我して無かったら今でも言われてたのかもしれないと思うと、案外この体でも悪くないのかもしれない。……カミツレさんの所に行ったら頑張ろうかな。

 

「お、これか」

 

画面に写ったのは女性トレーナーのグッズ。イメージカラーのストラップみたいなのが並んでいる。写真がプリントされたファイルなんかもあるらしい。

 

何故かこういうのを調べてると、知ってる人の筈なのに違う人の感じがする。ゲームのキャラとして見てしまうというか、人として見れてないというか、そんな感じ。

 

恐らく、単純に好きな"もの"、前世で言うところのファンや推しという概念に似てる。俺は現実とそれらをキッパリと分けるタイプらしい。違うものとして見てる感覚だ。これってもしかしてヤバいのでは?

 

「え、こんなキッチリ別れる?ちょっと怖いんだが」

 

普通こういったものって現実で会えた、やったー、キャーってなるやつじゃねえの?………いやこれ恐怖で感じてる暇が無いだけだ。俺に主人公達の記憶が無かったら普通に盛り上がってたんだろう。

 

「そう考えるとこの知識も損だな」

 

そうすれば彼女らに近づくことへの躊躇いが少しは軽くなっていただろうに。今の俺にとっては完全な危険人物だ。

 

「サンドイッチとオムライスです」

 

「ありがとうございます」

 

お、来た来た。何の変哲もないオムライスにサンドイッチ。色とりどりではあるものの、誰もが良く知るやつだ。綺麗に切り揃えられたパンに、ふんわりとした卵と艶を放つソース。これで良い。というより何でも良い。今は美味い物が食いたいんだ。

 

「………ぁあ」

 

美味い、美味い!俺はまだ生きている!昨日から生き延びたのだと実感出来た。あんな大事とあってはまるで生きた心地がしない。それがやっと否定された。安堵と幸福が押し寄せてくる。

自分の体で感じる酸味や甘味。物が喉を通る感覚、シャキシャキとした野菜の食感。思わず感動に体がうち震えた。

 

「また頑張ろう……」

 

俺はこのカフェの常連になった。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

「え!結婚!?二日後!?」

 

「はい、実は二年前から交際してたんですが──」

 

懐かしい声が電話口から聞こえる。まだ会わなくなって半年程度の筈なのに、数年ぶりに感じるのは色々なことがあったからだろう。

 

「おめでとうございます!!それじゃあお祝儀送りますね!」

 

「先輩は来て戴けないですか?」

 

「えっと、実は今ガラル地方に居まして……」

 

「え、ガラル?」

 

「はい、その───」

 

何故か連絡先を教えていない以前の同僚から電話がかかってきたかと思えば、何と結婚をしたらしい。同僚の中では一番仲が良かった間柄だ。プライベートで何かをする機会は無かったものの、俺みたいな奴にまで気さくに話し掛けてくれた人だ。本当におめでたいことである。

 

「披露宴をガラルで!?」

 

「はい、まさかこんな偶然があるなんて。是非来てもらえませんか?」

 

「ええ、そういうことならお願いします。それでは」

 

「はい、よろしくお願いします」

 

ということは会社の人達も来るのか?流石に会いたくねえなあ。というか勢いで行くと言ってしまったが、俺あの人にクビになったことすら伝えなかったんだよな。最後の一ヶ月では偶然会うことが無かったし。

 

番号は………上司経由か。会社で伝えたのなんてあの人以外にはいない筈。そこまで関係の無い同僚の連絡先なんていらないだろうしな。しかも退職したような奴の。あの人も会社での付き合いだったから連絡先の変更とかいらないと思ってたんだが、案外そうでも無かったらしい。

 

「何万包もうかな………?」

 

スカスカの財布を見ながら出費が嵩むのを考える。金の玉でも売ろうかな。

 

 

 

 

 

 

 

そんなこんなで披露宴当日。何となく知ってる顔ぶれが見えるが気にせず席につく。今日の俺のやることは新郎新婦への挨拶だけだ。もしかしたら上司から話し掛けられるかもしれないから、その時は対応すれば良い。わざわざこちらから話し掛けても気まずいだけだろう。

 

「こっからは耐えだな………」

 

先ずは仲の良い人間達が新郎新婦への挨拶をしている。時間も経てば落ち着くだろうからある程度待ってから行くか。たぶん俺は最後の方に挨拶に向かった方が良いだろう。

 

それにしても、元同僚に見つかったら最悪だ。彼らと俺の仲はそこまで良くない。仕事も出来ない障害者が会社に居座ってたんだ。居なくなって清々としていただろうに。こんな場でまた見ることになるなんて嫌だろうからな。

 

俺としても披露宴なのだから幸せな気持ちでやって欲しい。分かりにくいように眼帯を外して色の付いた眼鏡をしてきた。眼帯で隠していた傷が見えてしまうかもしれないが、気づかれるよりはマシだろう。

 

特に何かを話すこともなく、ただ耐久するだけの時間が続く。折を見てスマホをいじったりもするが、それだけじゃこの時間は過ぎ去らない。

暫くすると会場全体が騒がしくなり始めた。何だ?

 

「おい、あれって……」

 

「ああ、チャンピオンの……」

 

チャンピオン?へえ、もしかして何処かの地方のチャンピオンが来たのか?もしかしたらあいつらかもしれないな。目立つのもあれだし、他人のフリで良いだろう。

 

そんなことよりも次のジム戦のことを考えよう。依頼は果たしたからギルガルドで挑むことが出来るだろう。そうなるとキングシールドが「ちょっと良いかしら」

 

「え?」

 

こんな時に誰だよ。今話し掛けんな感出してたと思うんだが………

 

「あらやっぱり。ユエヅキさんじゃないですか」

 

振り替えるとそこには黒い服装をした麗人。最近どっかで見たような顔をしている方だなあ。今俺の頭の中では『戦闘!シロナ』が頭の中を駆け巡っているよ。

 

何でこんな所にいる?この人完全に俺を○しにきてるのか?まあ良い。ここは披露宴だ。シロナでも流石に変な行動はしないだろう。まあ最大限抵抗はさせてもらうが。

 

「す、すいません。ひひ、人違いではありませんでしょうか?」

 

「その手はもう食らわないわ。眼帯をしてないからって目に傷があるんだから分かります」

 

ちっ!相変わらず鋭い……しかしまだ活路はある!大人を舐めるなよ!

 

「いえいえいえ、私の名前は」

 

「ここにユエヅキって書いてありますよ。もしまだ何かあるのなら国際警察に「こんにちはシロナさん。どうしてここに?」

………………ただ挨拶に来ただけよ。知り合いに挨拶をするのは普通でしょ?」

 

「そうでしたか。ならそろそろ新郎新婦の方に挨拶に行かれては……」

 

「ユエヅキさんもまだでしょう?折角だし行きましょ」

 

美人に連れられて歩いていくなんてシチュエーションは、正に俺が憧れたものだ。相手がチャンピオンなんかじゃ無ければな!!

何故最近の俺はこうも運が悪い?どうなってんだクソ邪神。

 

「久しぶりねユウカ」

 

「久しぶりシロナ!それでそちらの方は……」

 

「お久し振りですシュンヤさん」

 

「久し振りですね先輩!こちらは会社の先輩のユエヅキさん」

 

「そうなのね。あ、こっちはまあ知ってるわよね。シンオウのシロナよ」

 

新郎新婦に挨拶に行けば仲睦まじい二人の姿が見れた。どうやらシロナは新婦と知り合いだったらしい。

 

「うん、聞いてはいたけどまさか来ていただけるなんて、ありがとうございます!」

 

「ええ、丁度ガラルに来ていたから」

 

何とかダイゴとの日程をずらせば良かったのかもしれない。俺は何てミスをしているんだ。完全に墓穴を掘っている。今さら過ぎるが後悔でもしなきゃ体が持たない。

 

「それにしても、先輩もチャンピオンと知り合いなんて、凄いですね!」

 

「ははっ、もう先輩じゃないですよ。シュンヤさんもご結婚おめでとうございます」

 

「私からも、ユウカおめでとう」

 

「うん、ありがとうシロナ」

 

「そうだ、折角だし、バトルでもして盛り上げようかしら」

 

え?何言ってくれちゃってんの?いやそういうのが一番駄目なんだって。新郎新婦よりも目立とうとすんなよおい。

 

「でもあなたとバトルなんて出来る人はいないわ。前の貴方なら良いけど、今じゃ誰も相手にならないわ」

 

そうそう、もっと言ってやってくれ新婦さん。流石にバトルを披露宴でやるなんて非常識だ。

 

「あら、ここにいるじゃない」

 

「「「え?」」」

 

シロナが指を指したのは俺の方。ふむ、後ろに何か……

 

「ユエヅキさん、約束しましたよね?」

 

「私、約束って破るためにあると思うんですよ」

 

「あら、確かヒカリとハルカちゃんが居ないなら大丈夫って、今から呼びます?」

 

「是非!是非胸を借りるつもりで行かせて頂きます!よろしくお願いしますチャンピオン!」

 

(悲報)俺氏シロナの噛ませ役になるのが確定した模様

 

さようなら俺の社会的地位。さようならパトラッシュ。

 

「ひ、披露宴の余興ですから、一体だけにしませんか?」

 

「ええ、分かりました!」

 

………今の俺の顔にはきっと死相が映っているのだろうな。

 

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