シリーズ通して語られるだけの人   作:I'mあいむ

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分かりにくいと思うんですが、時系列的には主人公がマサラの前でレッドと会った時と前回の研究所の話は別になります。

実はレッドとは二回程会ってることになります。



年老いてから気付くことは多いけどそれって基本手遅れ

 

鍛え抜かれたカイリキーの剛腕が迫る。引き締まった灰色の筋肉は人間では到底出せない威力を出しているのだろう(スーパーマサラ人とタケシは除く)。

 

ジムリーダーサイトウ。笑顔が可愛い(ここ大事)ガラル空手の申し子。

 

「カイリキー!」

 

「強いが……ギルガルド、キングシールド」

 

「くっ!これでもまだ……!一度離れて!」

 

そう、強いがまだ足りない。

圧倒的な天才。戦闘への野性的なセンス、トレーナーとしての才覚、努力家としてひたすらに積み上げられる才能。彼女はそのどれもが凡人とは比較にならない。

 

「ここまでとは……もう、全て壊しましょう!ダイマックス!」

 

「ギルガルド、つるぎのまい」

 

才能ならば俺なんかは彼女の足元にも及ばない。まあ、大抵のジムリーダーに対してはそうなんだが。だけども、それでも俺が勝てるのは彼女に他が足りないからだ。知識と経験、そしてポケモン自体の性能差。

 

俺は何度も命を賭けて戦う機会が有った。

旅をする前に主人公達を探そうとマサラに向かってボロボロ。餓死しかけた時がある。後遺症は残らなかったものの、野生でのバトルによって半年間の昏睡状態になったことがある。

死線を超えるというのは判断力や精神力を鍛えることだ。

 

そして知識。これは俺が日本にいたからということもある。相手が何を出すのか。どんな技が有効なのか。最善や正解を追い求める廃人達の知恵は戦いの構造が代わっても役に立つ。

 

「カイリキー、ダイアーク!」

 

「盛り上げるのは良いが、勝ちたいのならもっと早く切るべきだった」

 

んで一番デカイのが彼女の戦法。格闘タイプのジムリーダーだからなのか捻りが無い。技の工夫はあるが基本的にはパワーで戦おうとする。

 

「くっ、煙で見えない……!」

 

彼女は強い。愚直なまでに一途だ。しかし、死に物狂いじゃない。意地汚く、泥臭く、そういうのをしたくないのなら頭を回さねばならない。まあ、俺は全部やらないと勝てないんですけどね。汚ないと言われようと一線を越えねば正義なんやで。

 

そうして、やっとのことでギルガルドを隠していた煙が晴れる。まあもう手遅れではあるが。

 

「ギルガルド、せいなるつるぎ」

 

「なっ!?」

 

ダイアークによる粉塵や土煙に紛れてギルガルドはカイリキーに近づける。指示をしなくてもそれが出来るぐらいには鍛えたからな。

 

元々の性能差に加えてつるぎのまいまでされれば、キョダイマックスでさえ耐えられない。それは爆発と共に縮んでいく目の前の光景が証明している。

 

「ありがとうカイリキー……」

 

「対戦ありがとうございました」

 

「本当に、お強いですね……」

 

若いから、諦めなかったからなのだろう。彼女が感じる悔しさを俺はもう忘れてしまったが、それでもその感情の概要は分かる。

 

「大丈夫ですよ。あなたは絶対に強くなれる」

 

「えっ……」

 

彼女は諦めることなど無かったのだろう。折られることなど無かったのだろう。我々凡人が屈した壁を彼女は打ち砕いて進もうとする。それだけの力を持ち合わせている。

 

「誇って良い。ほら、周りを見てください」

 

彼女はジムリーダーになった。マスターランクへとのし上がり、その実力を見せ付けた。その成果がこの会場と観客だ。ここに満ちた光景全てが彼女を肯定してくれる。

 

「………」

 

「この舞台が、貴方の強さと努力を証明している。焦る必要はない」

 

「しかし、相手にそれを気づかされるなど……!」

 

ああ、まあそれは確かに惨めではあるだろう。

 

「サイトウさん、貴方は気高い。でも称賛ぐらい受け取って良いのでは?それが例え屈辱的だったとしても、貴方が見ている景色は、貴方が勝ち取った景色は揺るがない。貴方は間違いなく、強いんだから」

 

「それは……いえ、ありがとうございます」

 

「ええ、それでは私はこれで」

 

空気も視界も明るい場所から一転、遠い喧騒と暗影の埋め尽くす世界を歩く。

 

サイトウは普段あそこまで悔しがるような人間ではない。というより表に出さないだろう。大方、主人公勢の強さに焦りを感じたとかだろう。あの化け物共に焦りを感じられるなんて、本当に凄いものだ。一度戦えば戦意喪失、相手によっては廃人。基本そんなものだろうに。

俺なんかとは器が違う。

 

「最初から諦めてちゃなあ……随分格好悪い大人になったもんだ………」

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

「これがザシアンとザマゼンタか?それに後ろのは……あれか、二人の英雄の……」

 

ジム戦が終わり一段落した所でラテラルタウンの壁画のあった場所に来た。あった、と過去形なのはその壁画が崩れているからだ。

 

シナリオの通りビートはチャレンジャーとしての権利を剥奪、壁画の破壊は未遂に終わったと思われたがその後に耐えきれず崩れたらしい。

そしてそこから出てきたのは遥か昔の遺跡。ガラルの二人の英雄と二匹の伝説のポケモンを称えた石像だ。

 

「ほーん、これは……」

 

まあ、この遺跡が発見されたのはもう幾分か前の話だ。最初の頃は調査や封鎖が為されていたのだろうが今ではガラガラ。見る人なんて俺くらいだろう。

 

かつての伝説キッズである俺はこういうのに目がない。やっぱ伝承とか伝説はワクワクする。男だからしゃあないんや。

 

「特にこれといったところは無し、か。ブラックナイトの伝承もねえか。ターフの方は分かりやすいのになあ」

 

「ふぅん、あれが何か知っとると?」

 

「あー、そりゃあ………あ?」

 

何だ今の。周りには誰も居ない筈……いる!?えぇ……何でおるん?

てか随分見たことある格好してますね。

黒ジャケットに黒髪とかもしかしてあの人のファンの方?あーらピンクのスカートまで。再現度高いねえ。いやあ、ファンができるのが早いなあ。流石将来のジムリーダー!

 

「………」

 

「何でいきなり黙っと?」

 

「えっと、あの石像についてですか?」

 

「そうったい」

 

「うーん、私も分かりません。それを知る為にここに足を運んだんですが」

 

申し訳ないが答える義務が無いので虚偽申告で済まさせていただきます。わざわざ本当のことを言って白い目を向けられるのは御免だ。

 

「そう……あんた、もしかしてジムチャレンジャーじゃなかと?」

 

わあ、喋り方まで似てますね!?凄い!でもその問いには答えたくないなあ!

 

「……いえ?そんなこと無いような気がしますね」

 

「なして誤魔化すと?」

 

「そういう貴方は?」

 

面倒だ。非常に面倒な事態だ。この仮説がもし……そう、もし現実となった場合最悪な結果を呼び寄せることになる。あいつのこともあるし……

 

「あたしはマリィ」

 

「のコスプレイヤー?」

 

「何ねそれっ!?」

 

これは諦めた方が良いのかもしれない。でも一応最後まで抗うのが大和魂なので可能性に賭けます。

 

「………あたしはマリィ。今回のジムチャレンジャーの一人。お兄さんは?」

 

さようなら俺の優雅な休日。

いやちょっと待て。何でここにいる?もうサイトウは突破してるだろこの子。何かの動画で見たぞ。

それにしても自己紹介ねえ。正直主人公の知り合いに近づくのは……って、もう手遅れだな。

 

「私はユエヅキと申します」

 

「ユエヅキ?あんたが?」

 

「え?ええ、はい。そうですが」

 

ん?何だいきなり?

 

「じゃあ、ちょいと付き合ってよ。ユウリ達から強いって聞いとるけんね」

 

は?

 

おいおいやってくれたな主人公てめえ!

どうすんだよこれ。やんなきゃいけないの?なあ?俺ジム戦したばかりなんだが?

でもここで断るのも外聞が悪いというか、マナーがなってない感じがするしなあ。

 

「………分かりました。そんなに期待しないで下さいね?」

 

「分かっとるけん、いくよ!」

 

 

 

 

 

「これで、私の勝ちです」

 

「ああっ!?モルペコ!」

 

突如始まったドキドキッ!?マリィとバトル!!、は俺の勝利に終わった。ギリギリではあったもののギルガルドで押し切ることが出来たのは嬉しい。まあ、本当に一瞬の差だったから運が無ければ負けていたのは俺だった。俺でも途中のライバルぐらいまでは通じるらしい。

 

「どうです?満足しましたか?」

 

「うん、あんた強いね。ユウリに聞いてた通り。付き合ってくれてありがと」

 

「いえ、そういえば、マリィさんは何故ここに?もうアラベスクのジムは突破したんじゃ?」

 

「何ね、私のこと知っとったと?」

 

そりゃゲーム時代から知ってますよ、なんて言える筈もなく。

 

「まぁ、今回のジム制覇候補の一人ですからね」

 

「そう。あたしもここの壁画を見に来たの。ビートもここで何かあったらしいし」

 

「成る程、ビート選手ですか。確かに彼は少し問題のある方ですしねえ」

 

少々性格に難アリって感じのキャラだろあいつ?俺としても関わりは持ちたくない。

 

「それはあたしも思ったかな。でもあいつも事情があったんやろうし、仕方ないけん」

 

「そうですね。それは、仕方ないのでしょう」

 

彼もまた被害者ではあるからなあ。今回はマクロコスモスのトップ、つまり剣盾の黒幕が悪い部分もある。まあそれでも壁画をこわすのは愚行だな。

 

「うん、それとあんたにはまだ謝ってなかったね」

 

「謝る?それはどういう……」

 

俺に謝られることなんてあったか?

 

「ほら、ホテルで迷惑かけとった奴らがいたでしょ?あいつらあたしの知り合いなんよ。本当にごめんね」

 

「いえいえ!そんな謝罪なんて大丈夫ですから!」

 

マリィに頭を下げられるがこの場でそれはちょっと不味い!少女に謝らせるおっさんなんか外聞が酷すぎる。最近は何処に目があるか分からないからな。

 

それにしてもホテルって…………あの時か。確かにエール団が邪魔だったからバトルしたが、この子が謝ることじゃない。本当、良い歳した大人の癖にこんな少女に謝らせるなんてゴミでしかないな。

 

「なら良いけど。あの後あんたは行っちゃったってユウリとホップから聞いたけん。ジムチャレンジャーだからいつか会えたら良いなと思っとったんよ」

 

「あの二人ですか」

 

やめてくれよと言いたい所ではあるが、恐らくマリィ自体はそんなに危険じゃないから許そう。というかこの子めっちゃ良い子!!美少女だし良い子だし日本で人気だったのも納得だわ。

 

「あの二人が強いって言うからやってみたけど、まさかここまでとは思わなかったたい」

 

「そんな褒められても飴しか出ませんよ?」

 

「チョコも出とるね。全く、ありがたく貰うけど」

 

丁度良く持っていたお菓子を数個マリィに渡す。ちょっと量が多かったので押し付けたいという理由はあるが。

 

「どうです?ジム挑戦の方は」

 

「ある程度順調。やっぱりバトルは楽しいけん。でも、まだまだあたしは強くなりたい。あんたは?」

 

「私は、まあぼちぼちですかね。ただここからが難しいかと」

 

次はアラベスクジム。そしてあそこからジムリーダーの強さが変わる。ここからが本番と言い換えても良い。

 

「あんたでも難しいと?なんか理由がありそうね」

 

「ええ、少し条件がありまして。これを達成するのがどうにも……」

 

ギルガルド一体でジム制覇とか普通に考えて無理だよなあ。何で俺はこんなことしてるんだ?頭おかしいんじゃねえかな。

 

「あんたも目的があるんやね。私も、超えたい壁がある」

 

超えたい壁か。パッと思いつくのはやっぱり彼女だな。

 

「ユウリさんですか?」

 

「それもそうだけど……」

 

それが違うとなると、もう一人の方らしい。まあユウリを超えるよりは相当楽だろう。あくまで可能ではあるのだから。この少女の実力なら尚更だろう。

 

「お兄さんの方でしたか」

 

「え?」

 

マリィの兄はスパイクタウンのジムリーダー、ネズだ。彼女とエール団に関係があるのはあの町がエール団の本拠地だからでもある。

 

「ネズでしょう?」

 

「……アニキのこと、知っとったんやね」

 

「まあ、何となくそういうのは知っているものです」

 

嘘だ。ゲームの知識もそうだが、まあ他にも理由は色々ある。俺自身あいつとは少し関わりもあるからな。

 

「マリィさんの進む道は険しいですね」

 

「そう、かも」

 

「ああ、きっとそんなに不安にならなくても大丈夫ですよ」

 

「何でそう思うん?」

 

「貴方には最高のライバルが居るじゃないですか」

 

「!……そうやね」

 

良い笑顔だ。やっぱりこのぐらいの年齢の子はもっと子供らしくないとね。さっきまでの思い詰めたような表情が嘘みたいだ。夕日と重なったその顔は非常に可愛らしく年相応。まるで映画のヒロインの様だった。

 

「それじゃ、私はこの辺で」

 

「うん、またね」

 

「ええ、ネズによろしく言っといて下さい」

 

「え、あんた兄貴と何か………って、行っちゃった」

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

「は?ジム戦をしなくて良い!?」

 

「ええ」

 

「すいませんどういうことです?」

 

「ポプラさんからはこちらに通すようにと言われております」

 

どういうことだ?

アラベスクタウンについてから数日。アラベスクジムでの挑戦をしようかと準備して来たところだった。

受け付けが言うにはどうにもここのジムリーダー、ポプラからの指示らしいが……どうにもキナ臭い。何か嫌な予感がするというか、策略の匂いがする。

 

「ポプラさん、例の挑戦者が来ました」

 

「入っておくれ」

 

着いたのはジムにある部屋の一室。ここが客室なのかジムリーダーの部屋なのかは扉の外からは分からない。確実なのはポプラが中に居るということだけ。

 

「失礼します。どうぞ、お入り下さい。」

 

「あ、はい。失礼します」

 

「それでは私はこれで」

 

出ていくスタッフの人を横目に中に居た人間を見る

 

そこに居たのはとても特徴的なご老人。けばけばしい、と言える程に色鮮やかなピンクと水色の服に紫色のマフラーをした人。一見すれば頭のイカれた女性だろうが、それは違う。

あの目だ。老獪ながら信念を宿したあの目には強さがある。正真正銘ジムリーダーとして長年トップに立ち続けた強者の圧があの目に宿っている。

 

「お互い、初めましてだね。バトルジャンキー」

 

「人をからかう癖は若い頃からか?クソ魔術師」

 

「……へぇ、言うじゃないかい」

 

それは我ながら最悪の初対面だった。

 

 




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