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「それで、何の用です?」
「そう話を急ぐもんじゃないよ、小僧」
軽快に、何でも無さそうに女は言う。だが売られた喧嘩だ。急ぐ急がないの問題でもない。それにしても、この歳になって小僧とはな。
「ははっ、あんたに言わせたら確かに俺は小僧だな。じゃあ、世間話でもします?」
「笑わせんじゃないよ、そんな柄じゃないだろあんた」
弛緩した雰囲気の中にはまだ緊張感が隠されている。表に出さないだけで、俺もあちらも相手の内側を見透かさんと目を開き続けている。
「するかもしれませんよ?ま、俺の柄なんてのはどうでも良いでしょ」
「そうかい。ああ、初対面なんだ。一応自己紹介でもしようかねえ。知っているとは思うけど、私はポプラ。このアラベスクジムでジムリーダーをしているよ。あんたは?」
「名前はユエヅキ。特に何も無い、ただのトレーナーですね。宜しくお願いします」
「何も無い、ねえ。確かに今のあんたは何も無い。それは事実かもしれないが、過去のあんたには色々あるじゃないか」
過去の俺。確かに俺は色々なことを行った。だがそれはあくまで一般人の粋を出ない。
俺は四天王に勝っていない。やったことは何個かの地方のジム制覇。これを成せる人間は少ないかもしれない。けど確かにいる。ある一定数俺みたいな人間は存在している。スポットライトが当たらなかっただけなんだ。結局運次第でしかない。
過去に何かがあったと言うならそれは、俺よりもあちらの方が大きい。
「ポプラさん、それはあんたもだ。ガラルの魔術師、もう50年以上前か?あのチャンピオン争いは。……まあ、過去がどうあれ俺達は今を生きてるんです。今の話の方が重要だ」
前チャンピオン、マスタードとの覇を競いあったのは彼女だ。俺が若い頃はまだその話は語り継がれていた。あれはまるでダイゴやワタルを見ているかのようだった。彼女はただのジムリーダーじゃない。この年齢までやっていることを考えれば異常なのは分かるんだが。
「………そうさね。そろそろ本題に入ろうか。今回あんたをここに呼んだのは頼み事があるからだ」
「頼み……後継者はもう見つかった筈では?」
「鋭いじゃないか。確かに後継者は見つかったよ。けど、まだまだだ。あの子はピンクの才能はある。けど実力は足りない。時間と共に花開くだろうが、少し期限があるからね」
「それで俺か。まあ、理由は分かりましたよ。ファイナルトーナメントまでには間に合わせたいと。けど俺以外の、他にも実力者はいる」
それこそチャンピオンのダンデなんて、ポプラが言えば快く引き受けるだろうに。基本的に、こういう矢面に立つような職は先達が少ない。年長者に頭が上がらないのは何処も同じだ。
「そりゃ、あんたが一番近いからさ。あの全問正解の子にね」
あ?
ちょっと待て。全問正解なんてユウリしか居ないだろ。本気で言ってるのかこの婆さん。
「近い?俺が?馬鹿言わないでくれよ。あれは所謂象徴だ。究極になるべくして生まれた存在だろ。それと比べると俺はどうにも…………ああ、そういうことか」
「あんたもあの子も、異質なことに変わりはないよ」
つまりだ。俺の戦い方やバトルの雰囲気が異常なのだ。まあ、それはそうだろう。俺の価値観は明らかに日本由来だ。判断基準も知識もあの世界でのやり方を踏襲している。この世界のトレーナーの戦い方とは視点が違うのだ。
おまけに俺はポケモンをプレイしていたからな。主人公sのような技の選択をしている場合があるのだろう。
「ええ、確かに。彼らと俺は源流を辿れば同じ所に行き着くのかもしれない」
「それは私には分からないねえ」
だが実態は全く異なる。あれは俺から言わせれば究極の一。この世界の強さ、トレーナーとしての全てを突き詰めた先に有るものだ。生まれるべくして生まれた主人公。世界が生み、祝福した純正の最高到達点。
それと比べると俺は紛い物。というより邪道だ。自分で考えるのも可笑しいが少々盤外に位置している。戦術や思考がこの世界の人間が辿らないような成長をしている。転生特典なのかもしれないこの記憶は異常だ。
彼ら主人公と俺は似ている、というよりもカテゴリが近い。どちらも異常ではある。他人から見ればおかしい奴らの区別なんてつかないだろう。
「けど俺としてはそれを受けたいとは思えない。あんたが求めてるのは強さだ。今のジム戦での俺を見れば断られるのは分かっていたのでは?」
「そうさね。あんたは今ギルガルドで戦っている。理由は知らないが一向に本気を出しやしない。まあ、そう言われると思って報酬は用意したよ」
「おっ、本当ですか」
「そう目の色を変えるもんじゃないよ」
結局そこなのだ。
今回のポプラの頼みは後継者のビートを鍛えてくれというものだ。だが俺としてはチャレンジ期間中は出来るだけ本気で戦いたくない。
手加減するなんて失礼だ、と非難されるのは俺のちっぽけな頭でも容易に想像がつく。そういうのを避けるために外でも基本的にギルガルドでバトルしてきたんだ。
それをある程度知った上でポプラは頼んできている。報酬は少し期待してしまう。
「それで、内容は?」
「アラベスクのジム挑戦を無条件で突破、そして…………これを渡しておくよ」
「引き受けよう」
即答だった。それほど迄に俺はこれを求めていた。否応なしに即答しなければならない物だ。
両端がそれぞれ青と赤に染まった白色の腕輪。それはゲームの頃と比べると酷く乖離した印象を抱く物だった。
「これの出どころは?」
「そう危険な物じゃないよ。私が前から個人的に保管してる物だ」
ダイマックスバンド、この地方特有の現象であるダイマックスをバトルに転用する為に作り出された特殊な機器だ。その構造の神秘は俺程度では計り知ることが出来ない。バトルではなく、日本で言うような一般的な天才が作り出した何か。ポケモンの世界にはちらほらこういう物が確認されている。
「それで、当の彼は?」
「今は少し休ませてるよ」
「なら、必要になったら事前に連絡してくれ。俺は取り敢えず次を目指すんで」
話が終わった空気を感じ取ったので部屋を後にしようと椅子を立つ。しかしまだ何か残っていたようだ。
「最後に聞いて良いかい?」
「何です?」
「あんたは、この地方がどうなるのか知ってるのかい?」
どういう意図で聞いてきたのか、何故それを聞くのか、俺にはどうしても分からなかった。けど、ここで嘘をつく必要を感じなかった。それはもしかしたら負い目だったのかもしれない。
「ええ、知ってますよ」
事前に止められる可能性が俺には幾らでもあった。それに基づいた行動を俺はしなかった。どうせ主人公が解決するからと、そこに生じた多大な犠牲に目を瞑った。
「…………そうかい」
「聞きますか?」
この老婆に、この地方を長く背負ってきた者に答えないのはどうにも卑怯で仕方ない。そんな気がした。
「いや、良いよ。あんたが動かないってことは大丈夫なんだろ?」
「ええ、若い世代の見せる新時代が、また始まります」
「ダンデの頃が懐かしいね」
「……じゃあ、そろそろ」
返事も聞かずに部屋を出る。廊下の静寂が緊張感を霧散させていく。
変な話をしたせいで気分が暗い。正直あまり気にしてないが、このままではいつも通りともいかないだろう。ゲーセンでも行こうかな。よし、善は急げや!
「はぁ………英雄の預言者ね。馬鹿馬鹿しい話だよ……」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「今日は寿司~、うん?どうしたのウルガモス」
なんやなんやそんなに服を引っ張るな。自身の体を器用に操作して服を引っ張るウルガモス。今は手巻き寿司を作ってるんだよ。料理の後にしてくれないだろうか。
「って、成る程。じゃあ少し入っておいて」
キルクスタウンを目指す途中。何番道路か分からないような辺鄙な場所で俺は寝泊まりをすることに決めた。まあこんな場所にくる人も居ないだろうという期待を込めていたのだが、案外そうでもないらしい。
「こんにちは」
「ええ、どうも」
別に然程寒くもないのに、その女性は真冬を思わせるような厚着をしている。白い、純白に包まれた体。まあ、こんな特徴的な服装をしてるんだ。お察しの通りシナリオキャラの一人。ジムリーダーのメロンだ。
「こんな所でキャンプなんて珍しいね」
「あまり人通りで行うのもマナーが悪いものですからねー」
「それもそうか」
初対面、本来なら立場の知らぬ誰かと何気なく交わされる言葉。普通なら異常な場面だがこの世界ではそうでもない。というかこのような寝泊まりをする者にとっては当たり前、らしい。俺には良く分からない文化だがこちらに来てもう三十年弱。まあ少しは慣れつつある。
「寿司酢は……砂糖と塩と、一応顆粒の──」
聞かれると恥ずかしいので小声で呟くよう心掛けながら進める。ここで寝泊まりするような人間じゃないだろうに、さっさと行ってくれないだろうか。
寿司はこの世界にも存在するがまるっきり同じでもない。素材から違うからどうとも言えない部分ではあるし、体を構成する成分も変わっているだろうから感じ方も違う。それでも似せようと努力はしている。まあこんなテキトーに調味料をドカドカ入れているようでは世話ないが。
そういえばこの世界の人間の体は軒並み頑丈だがどうなっているのだろう。
俺が知っている世界よりは明らかに身体能力が高い。それに比べて俺はあちらのままだ。勿論それが目立つ、という程でもないのだが、あちらで鍛えた人間の身体能力が一般的な世界だ。俺の身体能力はこちらの病弱な人間ぐらいに相当するようだ。まあ病気にかかりやすいわけでもないから不思議。
「あら、手際が良いんだね」
「食べますか?」
「うん、じゃあ有り難く頂戴するよ」
あ、試しに言ってみただけなんだけど食うんだ。じーっと見つめられてると落ち着かないから丁度良いや。まあこの地方じゃ物珍しい料理だからな。興味を惹かれはするかもな。
「あんたのギルガルド凄いね」
「何ですか。最初から言って下さいよそれ」
どうやら俺のことを知っていたらしい。まあ、彼女もマスターランクに近いトレーナー。今最も上位のジムリーダーに近い人間の一人でもあるからな。俺を知っていても不思議じゃない。
「はは、あんた言うねえ。次はポプラさんのとこだろう?」
「あー、実は次は息子さんの所なんですよね」
「何だい、あんたも知ってたんじゃないか」
「そりゃそうですよ。ジムリーダーキバナへの無敗に始まり、ワタルやイブキ達にさえ勝ち越している。あなたの強さは充分理解してますから」
前にあいつらの愚痴を聞いた時に出てきた言葉。ガラルの氷使いは恐ろしい程やりづらい、と。ドラゴンタイプへのメタやトレーナー自身の戦略が非常に高レベルで構成されている、とはイブキの愚痴で散々聞かされた。
「あんた、あいつらの知り合いなのかい?道理で強いわけだ。まだ隠してる物があるね?」
「隠してるというか、出せないんですよね。ほら、世の中思う通りにいきにくいこともありますから」
ギルガルド一体での制限は一度破ってしまえば意味を無くす。この挑戦は最初から最後までやり通さねばならないタイプの誓いだ。
「ややこしいことだよ。あたしとしては本気でやりたいもんだね」
「ええ私としても困るんですが、人生が左右されるものでして」
「あの子もあんたぐらい追い詰められてくれれば違うんだけどね」
「まあ、人には向き不向きがありますよ。まずは認めてあげてはどうです?あなたにとっては大切なお子さんでしょう?」
親子仲ってのはどうにも難しい。一度拗れてしまえば解決は不可能に近くなってしまう。それは許容範囲が広い分、そこを超えてしまった時の反動が大きいのだ。家族関係ってのはそういうものだ。まあ、俺が円満な関係を築いたことなど無いが。
「まだ取り返しも効きますよ。実際、迷ってるのでは?」
「………その年の子からそんな言われるなんてね。少し考えてみようかね」
そう言って彼女は立ち去った。失敗したからこそ言えることもあるもんだな。何だか不思議な1日だ。
「な、ウルガモス」
「?」
「ははっ、ごめんね」
もしこれで親子仲が直ったら、もしかしたらマクワが強くなる可能性もあるか?
「そん時はそん時だな」
直りつつあるブランク。あの感覚はまだ戻る兆しが見えないが、実力は少しずつ上がってきている。この調子ならブラックナイトまでにはもしかしたら………
「希望的観測だな……」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「ヨシっ!次にお届けするのは現在白熱中のガラル地方のジムチャレンジについてダー!」
カラフルな髪色にコイルのような何かが見られる女性が喋っている。動画配信という物を行っているようだ。画面から見える幾つもの情報と色合いは、彼女の卓越した技術が隠されているのだろう。
「前回話したように今大注目のトレーナーユウリ氏!ガラル地方は新たな世代と無敗のチャンピオン、ダンデ氏率いる世代で激しい戦いが繰り広げられているよ!」
映されるのはガラル地方において新進気鋭のトレーナー達。凄まじい勢いで人気と強さを勝ち取る者達に対し、ジムリーダー達が立ちはだかる構図となっている。
「そんな中ガラル地方に新たなスター!?何とたった一体でジム挑戦をしている人がいるらしいゾ!?それがこいつだ!」
また変わった画面には男とギルガルドのバトルが映っている。試合の画面からは男の表情は窺えない。
「うーん、あんまり顔は写されて無いけど凄く強いね!この人はユエヅキ氏!何とダイマックスやメガシンカを使わずに、一体で複数のジムを突破しているらしい!挑戦の速度が遅いからあまり人気は無いけど、ボクはビビッときたヨー!」
「もしかしたら、まだ何か隠してるのかも!今一番謎なトレーナーとして注目度抜群だ~!!皆の者はどう思う~?コメントしてね~。さて、次の選手は───」
彼女の動画はまだ続く。彼女の名声が他地方へ轟くのもそう遠く無いだろう。
もうガラルも終わりが近いですね。そこまでは出来るだけ書ききりたいです。そこから後はちょっと分からないので期待しないで下さい。