シリーズ通して語られるだけの人   作:I'mあいむ

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取り敢えず一区切りです。


画面外の世界で

 

揺れる視界、晴れる景色。やけに左に偏ったこの世界は俺に残された色の繋がり。青空の中で流れていく雲にまでこの会場の熱気は轟いているだろうか。

なんて現実逃避のような何かをしているのは、目の前で起こった現象を受け入れてしまったからだ。

 

「負けたな……本当に」

 

敗北だ。

倒れたラプラスをボールに戻す。何千何万とやった動作は身体に染み付いているものだ。

 

「はは……」

 

思わず苦笑してしまう。これは俺にとって40数年の人生を掛けたバトルだった。口ではなんだかんだ言いつつも、俺はこのバトルに前世の思いまで乗せてしまった。何をしてるんだか。

 

相手が彼だからと、この場に立つんだからと、熱くなりすぎた。ゲーム時代からの夢や憧れなんて持ってきて、負けることなど明白で覆らない事実なのに。

 

たった一つの後悔。炉心にくべてしまった薪は戻せやしない。俺は彼女と戦うことになったら勝ちたいと思ってしまうだろう。

とんでもない間違いを犯したものだ。楽しむにも限度がある。

 

自身の至らなさを痛感させられた。バトルを初めて一年も経たぬ少年に、いやだからこそ才能の差を感じた。分かってたことだよな。世の中そんな上手くはいかない。

 

「……おめでとうございます。私の負けです」

 

それでも、そんな絶望のような心持ちの中でも祝福はせねばならない。どこまでいっても彼は年端もいかない少年で俺は中年に差し掛かるアラサー。負けたのなら素直に言うべきだ。必要ないプライドなど後生大事にするものでもない。

 

「あ、ありがとう」

 

「なんで呆けてるんですか……約束を果たすんでしょう?」

 

まるで信じられないものを見たような顔。そんなに思うところがあったのだろうか。まあ確かにこれだけの規模の会場ともなると体力は持っていかれるな。

 

「……ああ!」

 

「でもその前に、この景色を覚えておいて下さいね」

 

「え、どうしてだ?」

 

「もしあなたが自信を失くしてしまうようなことがあったら思い出して欲しいからです。あなたが掴んだ景色なんですよこれは」

 

「俺が掴んだ…」

 

誰もが称賛を送っている。そこら辺のバトルとは比べ物にならない盛り上がりを見せたのだ。ホップという少年が起こした熱気はここまでのものとなった。それをしっかりと見ておいてほしい。

 

「是非とも覚えておいて下さい。あなたは強い。それだけは確かです」

 

「……それは」

 

「ほら!さっさと行ってください!あなたの戦いはここからですよ!」

 

「うん、ありがとな!」

 

「ええ、それじゃあ、さようなら……」

 

これで終わり。俺の挑戦は今幕を閉じた。一応観客の方々に頭を下げて退場する。俺の健闘を讃えてくれているのだろうか。会場から拍手が聞こえたような気がする。そうだったら、少しだけ救われた気にもなるな。

 

「終わりか」

 

時間は不可逆だ。終わったからこそ見えるものもあるのに、やり直しは効かない。後悔が無いとは言い切れない。負けはどうしたってそういうものを残してしまう。

 

「敵わないな、本当に」

 

歩く、歩く。暗い通路を、明るい控え室を。そうして歩いて、会場を出て、明るい日差しと青空が見える昼下がりの日常に戻ってくる。あの非日常はもう終わりを告げて、これからは新しい日常が幕を開ける。

 

公園のベンチに腰掛け、らしくもなく黄昏る。まるで卒業式のような感覚だな。特に何かがあった訳でもないのに色々なことを思い出す。そこに関して感動もクソもありやしないが、区切りとして少し、少しだけこうしていたい。

 

「思えば、あいつとのバトルが始まりだったか」

 

あの夜、酒精に惑わされてワタルとやったバトル。あの時にうだうだ考えるよりやってから考えた方が良いと始めた物語。心情的には心残りがあるが目的は概ね達成しただろう。トレーナーとして復帰するには十分な結果だ。

 

「もう一踏ん張りだな。ボーナスステージかエクストラステージか、それとも……」

 

目の前の未来にあるのは希望か絶望か。その扉を開けてみるまで分からない。

数奇で愉快な旅はもうすぐ終わりを迎える。十数年ぶりの旅は体に堪えたが、それでも懐かしく思う。

ワタルと出会ったカントー、イブキと戦ったジョウト、ダイゴと出会ったホウエン、モミやゲンの居るシンオウ、イッシュで出会ったアララギ博士。カロスはビオラ……あの地方に関してはウルップさんらへんだな。

色々な出会いがあって、その度に誰かとの思い出があって、もはや忘れてしまった記憶の中にも何か大切なことがあったんだろう。今回も色々な出会いがあった。旅というのがどういうものなのか、思い出すことが出来た。

 

「……変わったな」

 

ふと思う。あの頃と今の自分、別に精神がどうこうではない。身体の変化だ。見えなくなった右目、上手く動かない左手、維持できなくなった体力。だが今はまだそれを受け入れていられる。十数年の月日は長く、心身に浸透させるには十分な時間だったのかもしれない。

 

「なぁ、これで良かったと思うか?」

 

全てを話しはしない。そもそも話すべきことじゃない。自分の中で答えを出すのが当然であるし、その根底にある理論や知識はあの世界の産物だから。けどこいつはもしかしたら何か感じ取ってるのかもしれない。

 

「さぁ、君がそう思うならそれで良いんじゃないか?」

 

嫌な物言いだ。誰の受け売りなのかすぐに分かる。そこに皮肉は込められていなくて、それもまたこいつらしいと思う。

 

「……やっと負けたよ、俺は」

 

「ああ」

 

ただ何を言うこともない。昼下がりの親友との話だ。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

「……来たか」

 

地方中が赤い雲で覆われている。この地方に来てから何度も訪れた平原。ワイルドエリアと呼ばれるこの場所は地獄のような有り様。天災、災いの象徴とでも言うべきその景色の最中、俺は案外平然としていた。

 

「地獄絵図だな」

 

てな訳で起こりましたよブラックナイト。どこもかしこもダイマックスしたポケモンで溢れてる。

ジムリーダー達がある程度食い止めて回ってるらしいが、それでも限度ってものがあるだろう。これ死人が出てもおかしくないな。

 

「化け物め……」

 

俺こんなのに挑もうとしてたのか……いや、まだマシだろう。ここは決してまだクソッタレな地獄ではない。過去四十数年の俺の人生がそう言っている。

 

「もし彼女が来なければ、これが最後だな」

 

俺としてももうこの地方に長居したくはない。ユウリが後10日の内に俺を見つけ出せなければ、それで終わりとなる。

 

「そうなったら、まあ仕方ねえかあ……ん?」

 

何だ?こんなところに人?てっきりもう逃げたかと……へ?

 

「ぅっ、ぐずっ、わああああん!!」

 

「ちょっやばっ、走れ少年!」

 

そこには俺が以前知り合ったヒトツキと少年が泣いていた。いや何やってんの君!?死んじゃうってほんと!!

 

「クソが!サザンドラ間に合わせて!流星群!」

 

咄嗟に判断を下す。今この状況で助け出す為には一撃で決める必要がある。瞬間的に選んだのはうちの特攻隊長。この子の攻撃は災害にさえ届きうる。

 

「あっぶな!無事か少年!」

 

隕石が降り注ぐ中間一髪で少年の元に駆けつける。どうやら腰が抜けて動けなくなったらしい。

 

「全く何でこんなところに……これは、やるしかねえなあ」

 

見渡せば見渡す程絶望的だ。3、4、5体……いや6体に増えた。これだけのポケモンが、しかも推定値10mを越えている奴らにターゲットを向けられている。派手に戦えばまだ増え続けるだろうな。

 

せっかくの縁だ。この子を死なせる訳にはいかない。今の俺には自分以外の命が乗っている。諦めるとか、生ぬるいことは到底言えない。先ずは責務を果たさねばならないから。

 

「みんな、出てきてくれ」

 

残り()()のボールを空に放る。俺が遂に作り上げた6体のフルパーティー。

 

サザンドラ、ニャオニクス、ウルガモス、ギルガルド、ラプラス、そして

 

「みんなは各個で奴らを撃破してくれ。良い?これはまだウォーミングアップだ。けど久しぶりに全力で暴れて欲しい」

 

それぞれが俺の言葉に応えてくれる。良い目だ。闘志と狂喜の入り交じった、前のみんならしい目をしている。

 

「なあ」

 

自身のエースに話かける。唯一無二の相棒。ただ一体、俺が運命だと信じるこいつに。

いつからか、何を話して良いのか、どうにも分からなくなってしまった。それはきっと負い目だった。バトルとの決別に走った自分がお前に胸を張っていられなかったから。

ワタルとの戦いで二度、こいつには力を貸してもらった。あの時もまだ心のどこかで感じていた不安。十年の月日が俺を変えたように、心にも壁が出来ていた。

 

でも最初から決めてたんだ。お前ともう一度戦うなら、この時だって。それまでには絶対に間に合わせるって。

 

ピンと逆立つ髪は赤から黒に染まっている。黒い肌に狐のような顔、ねめつけるような青い瞳はどこと無く優しさを孕んでいる。俺の言葉をただ待ってくれている。

 

「俺、やっと戻ってきたよ。お前が期待した通りとはいかなくても、もう一度やれるくらいにはさ。だからさ、もう一度俺と戦ってくれないか?」

 

きっとこんなことを言わなくてもこいつは戦ってくれただろう。ただの俺の自己満足。この子達に追い付きたくて、こいつにもう一度良い姿を見せたくて、下らない理想に追い縋った。

でもやっぱりそれで良かったんだ。こうでもしなきゃ、こいつはきっと笑えないから。

 

こいつのこんなに嬉しそうな顔は見れなかったから。

 

「ああ、やろうゾロアーク。ナイトバースト!」

 

揺れる赤髪、歪んでいく視界。幻影が現世の境界を蝕む中、暗い衝撃波が辺り全てを飲み込んでしまう。加速する災害、何処かから広がる火の手、巨大な氷雪が遠くに見える。それがあいつの見せた虚像なのか、天災による被害なのか定かじゃあない。

ただ一つ確かなのは、空に跳んだその姿は真に混乱の中で輝く。それが俺の相棒だ。

 

 

 

 

 

 

「やっと、終わったか……」

 

暗雲が晴れる。天災の象徴であるような赤が去り、白い陽光が天から差す。

 

「流石だな。主人公」

 

全てが終わり危機は過ぎ去った。

 

思わず膝から力が抜ける。ドサッという音を鳴らしながら尻餅を付いていると周りの景色が良く見えた。

 

「ふ、ふふっ、ははははは!!」

 

どうやら俺をまた生き残れたらしい。やはりあの頃とは違う。命を掛けるのも久しぶりだったが、鈍くなった感覚が少しだけ戻ってきた気がする。

 

「おじさん?」

 

「ああ、少年。大丈夫だった?」

 

この子もどうやら無事だったらしい。何とかこの子を守りきれたのには少しくらい胸を張っても良いだろう。あの時は失ったが、今回は五体満足。挑む相手も違うからそりゃそうなんだが、全盛期を過ぎ去ったにしては頑張ったんじゃないか?

 

「そういえば、どうしてこんな所に居たんだ?」

 

「……実は、その」

 

うん?何か言いにくいことだったのか?

 

「言ってみな。別に怒りはしないよ」

 

「僕も強くなりたくて。バトルが」

 

………嗚呼なんでだろうなあ。こんな大切な記憶さえ忘れていた。そうだよな。俺だってこんな顔をしてたんだ。最高にワクワクして、見たことも無い景色の為に進んでた。その筈だった。

 

子供の頃の記憶なんて覚えてられないし、ましてやその時に感じたことなんてもっと忘れていく。でもやっぱ大切だよな。あんなに楽しんでたんだから。それがこの世界に来てからも俺の根底にあるんだから。

 

「なあ少年」

 

「?」

 

「いつか、いつかさ。君が大きくなった時に、それでもバトルをしたいって思ってた時の為に、これあげるよ」

 

自身の左手に巻いていたものを外して彼の手に付ける。これはもう俺には必要ない。誰かの思いをまた次に託す為に。こういう代物はきっと継承されていく。

 

「え、これは」

 

「返さなくて良い。使わなかったなら捨てちまいな。君はこれからも本当に楽しい経験をして、本当に苦しくて死にたくなるような経験もすると思う」

 

「そうなの?」

 

人間はきっとどんな人間にもその人なりの苦労がある。苦楽を越えて行ける人も居れば、その過程で力尽きて淘汰されてしまう人も居る。どちらも、幾らでも、星の数ほど居るんだろう。

 

「うん、そう。そしたら俺のことなんて忘れてるだろう。でもこいつのことは覚えておきな。もしかしたら君を助けてくれるかもね」

 

俺が忘れたように、君もきっと忘れてしまう。でも自分の手元にある間はその存在を覚えておいて欲しい。所詮衰えた人間の願望だけれども、その力は窮地を脱する物に成り得るから。

 

「……ありがとうおじさん!」

 

「うん、じゃあね」

 

いつか何処かでまた出会えるなら君とバトルが出来るような、それぐらいの人間で居たい。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

それは、暖かな日差しにとても気持ちの良い風の吹く、誰にとっても何でもない一日の話。晴天ではなく遥か彼方に雲の吹き抜ける、しかし青空に覆われた空。きっと今日は過ごしやすい日になるのだろうと分かった。

 

道を行く人々はあのチャンピオンシップがあったことも、死者こそ出なかったものの多数の被害を出した災害があったことも、何もかもが無かったように目の前のことに必死に目を向けている。きっと人間は何か、本当に致命的な何かが起こるまでそうなのだろう。

 

「うん、美味い」

 

七日前、物凄い歓声と祝福の中で稀代の天才はチャンピオンとなった。現在彼らが何をしてるのか、何に巻き込まれているのか俺は何も知らない。もう何もかも無関係なのだ。

俺と彼女を繋ぐのはあの細く脆い約束だけだ。それ以外の、まあネズ以外に関しては会うことも無いのではなかろうか。今日の夜には空港を発つ。彼女が来ないのならきっとその方が良いのだ。彼女の選択こそが正解なのだろうから。

 

俺は目の前のパスタを平らげることに意識を向けていれば良いのだ。うわっ、このカルボナーラ美味すぎ?

 

「あれ?あなた、ユエヅキさん?」

 

「……ああ、どうも」

 

前言撤回。どうやらこの人とは何か縁があるらしい。相変わらずのお洒落な服装にオレンジ髪。何処か少し大人びたように見えるのは彼女が今回の修羅場をくぐり抜けたからだろうか。

 

「ここ良いかしら?」

 

「そんなそんな、貴方のような方が許可なんていらないですよ。ねぇ、博士?」

 

「あ、あはは。知ってたんだ。結局あなたの思ってた通りになっちゃったよ」

 

彼女の名前はソニア。そう、ガラルの歴史について言及したことで晴れて博士となった偉大な女性だ。

 

「そんなことよりさ、こんな所でどうしたの?てっきりまたワイルドエリアに居ると思ったのだけど」

 

「……特にこれといったことも無いですよ。ただ、そうですね。今日この地方を離れるので、空港の近くに居ようかと思っただけです」

 

「え、今日!?」

 

「はい、今日付けでこの地方の生活も終わりになりそうです。ソニアさんにはお世話になりました」

 

この人には恩があるからな。女性に払わせるのもあまり良いことではないのだから、今回は奢っておこう。

 

「……そうなんだ。もしかしたらまた会うかも、なんて思ってたんだけど」

 

「まあ、人は何処で会うかも分かりませんから」

 

本当に巡り合わせとは分からないもので、思いがけない所で旧友と会うなんてこともあるのだ。

本当に、平和なものだな。彼女の表情が強張っていないのもその一つ。あの災害でどれだけの覚悟を彼女は持ったのか。もし叶うなら彼女とも一戦交えたかったな。

 

「そういえば、どうして本来の手持ちを使わなかったの?」

 

……………へ?

 

「…ぶっ!ごほっ!?」

 

「ちょっと大丈夫!?」

 

本来の手持ち!?おいおい待ってよ聞いて無いぞ!この地方であいつらを使ったのなんて、それこそ片手で数えられる筈だぞ。なんで知ってるの!?

 

「す、すいません。大丈夫ではありますが……ほ、本来の手持ちってどういうことです?」

 

待てよと。ちょっと待てよと。俺がこの地方であいつらを使ったのは……あ、そうかソニアさんの前でウルガモスは出してるんだった。ああなんだ焦ったー。そういえば言ってなかったもんな。

 

「え、だってウルガモスも出さなかったから。どうしたんだろうなって思ったんだけど」

 

「あー、実はですね────」

 

 

 

「え!?手加減!?」

 

話さない方が良かったかもなあ……。

 

「有り体に言えば、まあ。言い訳のしようもありません」

 

「あ、いや別に責める気は無くて!」

 

「ありがとうございます……。やっぱり良くない行為でしたかね……」

 

「まあ、私的にはアリだと思うわよ。人間手段を選べない時もあるしね!」

 

……なんか、意外だな。清濁併せ呑むというか、こういうグレーさを許容できる人だったんだな。もしくは今回のことで少し変わったとか?いや、以前のこの人をあまり知らないんだから考えても答えは出ないよな。

ま、人を変える程の騒動であったのは確かだろう。一応怪我人は出ているし、被害も無い訳じゃない。

 

「……大変でしたよね。この地方も」

 

「そうね……本当に」

 

「どうでしたか、ガラルの歴史は」

 

「とっても楽しかったわ。ポケモンのことをもっと好きになれたし。本当に今回は旅をして良かった」

 

よし、じゃあ少しからかっても大丈夫かな?

 

「なら良かった。そんな博士に少し話をしましょう。遥か昔宇宙から飛来したナニカ、ムゲンダイナ。それにより起こされた被害はとても大きいですよね。さて、それでは問題です。それよりもっともっと前、このガラルを統べていた王様は誰でしょう?」

 

「え?」

 

「それに、ムゲンダイナっておかしいと思いませんか?正直ポケモンとしての、生物としての法則に反するような存在。さて、ムゲンダイナって何処から来たんでしょうね?」

 

「え?」

 

「ムゲンダイナが見せた最後の姿を覚えてますか?あの時放つエネルギーによって時空間が歪んでたんですよね。つまりはまあ、あれがムゲンダイナの本来の姿な可能性もあります。隕石で飛来した時はどっちの姿だったんでしょう?」

 

「ちょっ」

 

「さて最後にヒントを。アローラ地方には随分キナ臭い事態があったらしいんですよね。あそこのエーテル財団という組織の研究も凄く興味深いものでした。ああ、そういえばホウエン地方のルネという隕石が落ちた場所があるんですが、何やら流星の民という方々が居るんだとか。面白そうですよね」

 

「……」

 

とまあ、これらのことに関しては大半は真偽不明だ。だからこそこの謎を学者様に投げかける。いつか彼女が解き明かしてくれることを信じて。俺達では辿り着けなかった真実を知れるのは、この世界の住人に他ならないのだから。

 

「あら、どうしました?」

 

いつの間にか黙ってしまった。少々やり過ぎてしまったか?

 

「………知ってたの?」

 

「何をです?」

 

「私が調べたこと。最初から、会った時から全部知ってたんじゃないの?」

 

………まあね。そりゃ知ってたさ。貴方の書いた本を見たからこそ、これなら言っても大丈夫だと思ったんだしな。けどそれを言ったところでなんにもならない。わざわざ自分の立場を危うくしたくもないので、いつも通りすっとぼける。

 

「さあ?こんなどうでも良い与太話、真に受けない方が身の為です」

 

「ええ……そこまで言ってるのに」

 

「私としては、博士には知っておいて欲しかっただけです。そういうのもあると。ただそこに何が待ち受けているのかは分かりません。誰だって命は惜しいでしょう?」

 

特に、そう。エーテル財団。あそこはヤバい。SMをプレイしてないから詳しくは知らないが、神話関係に関しては考察やら何やら良く見かけたからな。ネクロズマとかかがやきさまとかな。

 

「選択した上で、ってこと?」

 

以前少し調べようと思ったんだが………手を出さなくて本当に良かった。

あそこは"悪の組織"だ。人殺しさえ厭わない程の。あの時もう少し深く踏み込んでいたら、あの情報が少しでも遅れていたら確実に勘づかれていた。もしかしたら……死んでいたかもな。

 

「ええ。可能性も知らないままより、知っていてもいかない、という方が良いと思いまして」

 

俺としては人の選択は尊重したい。そっちの方が納得出来る気がするからな。まあ、知らぬが仏なんてことも世の中あるけど。

 

「そう、確かにそうかもね……え?あれって」

 

うん?俺の後ろに何か

 

「ユエヅキさーん!」

 

この声は……ああ、遂にか。緊張するなあ。

 

「来たんですね……」

 

振り向かなくても、声で理解る。今現在俺を訪ねてくる人など一人しかいない。ここからがこの旅の集大成だ。

 

「え?ユウリ?なになに、二人で何かあるの?」

 

「あ、ソニア博士!」

 

「……まあ、うん。それで、二人はどうしたの?」

 

そこに居たのはブラウン色の髪をしたボブカットの少女、ユウリ。可愛らしいのが人気で、今では多くのファンが彼女の虜になっているんだとか。

 

「ユエヅキさんとバトルしに来たんだよ!」

 

「あ、そうなんだ」

 

「ええ、前に少し約束をしまして」

 

「へぇ、でも凄いね。チャンピオンと戦えるなんて」

 

「………ソニア博士。もしこの世に主人公が居たとして、あなたはその人に挑むことになったら、どうします?」

 

「今度は何の話よ……」

 

確かに。本当に意味の分からない問いかけだ。これはきっと、自問自答でもあるんだ。

 

「はは……すみません。さて、ユウリさん。あなたは晴れてチャンピオンとなりました。遅れましたが、おめでとうございます」

 

本当に、おめでとう。これから起こる困難さえも貴方はきっと越えて行ける。殿堂入りをしたトレーナーなんて、百も居ないだろう。それだけのことを、歴史に名を刻む偉業を果たした。

 

「う、うん。ありがとう」

 

祝福し、約束を果たそう。貴方が望むのなら。

 

「ポケモンバトル、やりますか?」

 

「勿論!」

 

「………そうですよね。それじゃあ先ずは自己紹介から」

 

彼女がボールを構える。応えるようにこちらも取り出す。この動作に、嫌という程行ってきたこの動きが、この世界で唯一積み上げてきたものの証明。

 

モンスターボール。赤と白と黒という単純な配色で構成されたそれは、その実非常に高度な技術の上で成り立っている物だ。その中に捕まえたポケットモンスターを用いて強さを競いあうこと。それがポケモンバトル。

 

これから行われるのはきっと、俺にとって一生忘れられないバトルになる。

 

「え?」

 

「ああ、そちらは結構です。ただ少しだけ、チャンピオンに名乗らないのも失礼ですから」

 

「ユエヅキさん?」

 

本来の名を言う。最早どれだけの人が覚えているのか分からない、あいつ以外に明かすことの無かった言葉。

 

「俺の名前はイツキ!ポケモントレーナーとして、全力であんたに挑ませて貰う!」

 

「!?」

 

誰よりも、何よりも、これがかけがえの無いものだと分かっている。今がどれだけ幸福なんだとか、良く知っている。この行為がそれを壊すとしても、後悔をしている暇は無い。時間は待ってはくれないから。

 

「さあバトルをしようか、主人公!!」

 

俺は今を生きている。それなら今だけは

 

「はい!!」

 

愚かであろうとも構わないさ。

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

ゲームの世界に転生したらどうする?この世に主人公が居たらどうする?その世界が思ったより過酷で、それでも生きたかったらどうする?

 

ポケットモンスター、縮めてポケモン。この星の、不思議な不思議な生物。火を吐いて、水を操り、雷を纏う。そんな夢のような力を持った生き物と人が共存する世界。

じゃあこんな不思議な世界に主人公と運命があって、それに敗れたとしたら、果たしてその後は存在しているのだろうか?

喋らぬ置き物になるのか。ただそこに居るだけの、主人公の積み重ねを見るための記録になってしまうのか。

 

そんな訳がない。その先も人生は続く。長い長い道のりが続いている。彼らに目を向けられなくなっても、変わることなく時間が進む。

 

こんな世界でも人々は歩く。脇目も振らず、自分の人生で手一杯なんだ。でもその隣にはきっと、頼れる隣人が居てくれることだろう。

 

不思議で奇想天外なポケモンの世界、その画面外の隅っこで、俺は今も生きている。

 

「……あ、もしもし博士?ちょっと飲みに行きません?」

 

「ええ!?」

 

彼らと一緒に。

 





これで今作品は完結、とはいきませんが続くかどうかは分かりません。ビオラや怪我などのちょっとした伏線が残ってるので回収はしたかったんですが、綺麗に終わる感じがしなかったのでこうなりました。やるなら閑話か二章的な形ではじめようと思います。それでは長くなりましたが、今作を見て下さりありがとうございました!
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