「成る程なあ……」
あれから二日後。それなりに貯金を切り崩しながら俺は新しい職を探していた。ワタルに言われた通りポケモンスクールの教師なんかを目指そうと思い色々考えているのだ。
俺は当時やらなかったがポケモンSVは学校があったと聞く。あれは……ぱ、ば、うーんと。この本に確か……
「そうだ、パルデア」
うんこんな名前だった気がする。何たらー学園が有ったような無かったような。この『世界ポケモン育成機関大全集!』によればアカデミーというらしいな。つまりなんだ?大学か?うーんこの知識量の浅さ。こんなことならやっておけば良かったなあ。
ただ俺はテラスタルについても詳しくないしここじゃバトルも挑まれそうだから却下。
トレーナーズスクールもバトルに挑まれそうだよなあ。
「何かねえかなあ……」
バトルに挑まれるのも視野に入れないといけないが、今の俺の実力じゃあ不安も残る。ぐぬぬぬ………。
他にも色々な世界中の地方の情報が載った雑誌を捲っていく。パラパラと読んでいくが答えは出ず、選り好みしている時点で駄目なんだろうなあとか思ったり。
ワタルのコネでも頼ってみようかなあと考えるあたり自分は結構な屑だと思う。でもそれはやれない。俺には滑稽なプライドというものがある。仮にもライバルだった男にそんな姿は見せたくない。まあ無職の方がよっぽど酷いのだろうが。
「やっぱりバトルかあ……」
そもそも俺には取り柄という物が無い。自信満々にコンプレックスは語れても世の中で意味は無し。前なら一人前ぐらいには出来るポケモンバトルがあった。しかし今は寂れた無職。事務職なんかは出来なくもないがそれは代用が利きすぎる。
そうして残った物は化石となったバトルの実力だ。俺だって初心者トレーナーになら負けない自信がある。これをもう少し補強すれば活路は見えるのでは?そしてそれを補強する方法も無くはない。手持ちを増やせば良いのだ。
「あいつら迎えにいくかあ」
俺は早速空港のチケットを取ることにした。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
俺の手持ちのポケモン、及び預けているポケモンは少ない。というか預けているポケモンに関しては一匹もいない。それは俺にポケモンと仲良くなる才能、のような物が低いからなのかもしれない。
もちろん強制的に捕まえることも出来るが、それで信頼を築けるかはまた別問題。俺はいけそうだと思った奴を手持ちにしてきたし、それは普通のポケモントレーナーよりも少ないだろう。
だがそれでも今の手持ちは2体だけと少な過ぎる。理由としては元々手持ちだったポケモン達が各地に散らばっているからだ。ポケモンバトルを辞めると言った日、俺はポケモン達にある選択をしてもらった。好きな場所で生きるか、これからも俺と一緒に過ごすか。
彼らは皆一様にバトルが好きだ。自然が好きだ。森を歩けばイキイキとするしバトルになれば目の色を変える。
俺はそんな彼らに窮屈に思って欲しくなくて聞いた。結果としては2体が残った。他の奴らは好きな所を選択してもらいそこまで送り届けたのだ。
その時に彼らに約束したのだ。まあ冗談でもあったが。いつかまたバトルを再開することがあれば呼びに行くと。まあその時に彼らがついてきてくれるのならだが。一応報告だけでもしとかなければいけないのでね。
「ごめんくださーい」
だからこそ今俺はここにいる。
イッシュ地方のカノコタウンにあるアララギポケモン研究所。主人公が御三家を受け取る場所に俺は訪れていた。
「ええ、はいはい。ちょっと待ってねー」
結構元気な声が聞こえてくる。うん、この人も相変わらずのようだ。
「ハーイ!お待たせしたわね。何かの配達かしら?」
出て来たのはブラウンより少し明るめの髪をした白衣の女性。このイッシュ地方における御三家や図鑑の管理を行うアララギ博士だ。イッシュの主人公達に御三家を渡すのもこの人。
以前旅をしてた時にこの人と出会ったんだが……この様子だと気付いて無いらしい。というかそりゃそうだ。あったのはもう十何年前の話。あの頃はお互いまだ若かったんだ。俺はこの人のゲーム姿を知ってるからこそ判別出来るのであって、突然訪ねて来た知人など分かる筈も無し。
と言っても少しイタズラがしたい。
「あー、私株式会社○○のユエヅキと申します。今回実はこの商品を」
「えっと、家はセールスはいらないからお断りさせてもらうわね。ごめんねユエヅ、キ?ユエヅキ?………え!?ユエヅキ君!?」
綺麗な二度見だったね。俺にある程度若い頃の面影を感じたんだろう。まああの頃と比べて随分社畜然とした風貌になったからな。目の下に出来た隈は消えないし髪も伸びた。そりゃ分かるわけがない。
「すいません、お久しぶりですアララギさん」
「久しぶりってあなた!今まで何処に……!」
「ええ……何でそんなキレてるんです?」
「よくもぬけぬけと………はあ、まあ良いわ。あなたが無事だったなら。取り敢えず入って話しましょ」
「はい、お邪魔します」
前回来たときは何か変わったような気がする研究所は薄れていた記憶を呼び起こしてくれる。いやぁそうかあ。色々忘れてたけどあの頃は本当に若かったんだなあ。
「それで……あなた今まで何処に居たのよ。今更になって現れて」
「何処に?ええと、カントーの方に」
「カントー!?何でそんな所に……そりゃ見つからないわけね」
「いや見つからないわけって。何かあったんです?」
何だ?微妙に何かが噛み合わない。プラズマ団とかなら俺は全く関係ないんだが。
「何かあったって……だってあなた突然居なくなったじゃない!どういうつもり!」
「あ」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「誠に申し訳ありませんでした」
いやあやらかしたね。まさか別れを告げて無かったとは。この地方を去る時は色々バタバタしてたからそのまま空港行っちゃったんだった。まさか十数年前の失態がここで襲いかかってくるとは思いもしなかった。
「まさか忘れてただけだなんて……あの子達が聞いたらどう思うか」
「あの子達?ああ、もしかしてジムリーダーの方々ですか?別に何とも思わないでしょう。そこまで関わり無かったですし」
「………そうね」
「何ですその間。怖いんですけど」
「いいえー、何でも無いわよ」
絶対何かあるなあと思いつつも自分の発言に間違った点が無いかを確認する。うん、何も間違っていない。イッシュ地方に関しては関わった人も少ない。一人孤独旅だったのだ。
アララギさん、もといアララギ博士とは何度か話す機会があった。食事なんかも行ったし、もしかしたら付き合える可能性も微レ存なんて思いもした。因みに今でも好き。
でも冷静に考えて原作キャラに手は出さない方が良いよなあとか、女性経験無い癖にそうやって勘違いするのがいけないと思い踏みとどまった。前世でも今世でも彼女いない歴=年齢なのは非常に悲しいが仕方ない。告白も出来ないチキン童貞、それが俺にはお似合いだ。
これ以上考えてるとコンプレックスの災禍に飲まれるから止めておこう。
「それでどうして私の所に?」
「ああ、折角イッシュに来たんでふらっと寄っただけです。まあ後はお土産も」
「あら嬉しい。そ、でもイッシュ来た理由は?」
「ウルガモスを迎えに来たんですよ」
「ウルガモス?あなたの?」
「ええ実は──」
「そんなことがあったのね……じゃあやっぱり」
「ええ、左手は治らなかったです。でも久しぶりにバトルを再開しようかと思いまして。仕事に使えそうなのなんてこれぐらいなんで」
「そう。働く場所を探して………じゃあ、じゃあうちで働いてみない?」
!?
「え、本当ですか!?」
「へ!?あああのえっとその、いえ、ああー………ええ、本当よ」
はっ!?マズイ思わずアララギ博士の手を取ってしまっていた。これはセクハラ……俺の人生もここまで、いや?何かそうでも無さそうだな。
「すいません!つい興奮してしまって」
「いえ……良いのよ。うん、あなたが良いならもっと……いえしっかりしないと」
おいおいマジかよ!こんなところで食い扶持が見つかるなんて。………いや待て。これは本当にそうか?選り好みではあるのだろうが……しかし不安が募る。そうだ!ここは研究所だ!俺が出来ることなんて無いじゃないか!
となるとだ。はっ!?見えてきたぞ未来が!
『ユエヅキあなたってそんなに使えなかったのね』
『ユエヅキさん、もう少し仕事ぐらい普通にこなしてくれません?』
ぐっ、ぐああああ!?!?!
何てことだ!これは圧倒的な罠じゃねえか!無能な俺がリストラされる未来が見える!
くそっ!アララギ博士は善意の筈なのに俺に学が無いせいでこんなことになるなんて……!
「ぐっ!くそっ!」
「えっと、どうしたの?」
「すいません!俺の力が及ばないばっかりに……!」
「????」
「すいません博士、俺ではこの研究所に力不足でした。本当に有難いんですが今回は遠慮しておきます」
「そ、そう。………そうなのね。やっぱり私じゃ無理かしらね」
「ええ、俺には研究なんて無理だと思うので。あっと、それじゃあ俺はそろそろ」
「えっ、もう?」
「ちんたらしてたら金も無くなりますから。それじゃまた来ますね!」
「あ、うん。またね」
「はい!」
「相変わらずそそっかしいなあ。けど、そっかあ。最初に私の所に……ふふ、あの子達がちょっと可哀想ね」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
さて、そろそろ疑問に思った人が多いだろう。ユエヅキって誰やと。このユエヅキってのは俺ことイツキの偽名だ。理由はどこぞ四天王と名前が被ってたから。その四天王が登場する前から俺はこの偽名を使っている。対策はバッチリだ。今じゃ知ってるのは俺の故郷の人間とワタルぐらいだろう。
という訳で俺のポケモンの一体、ウルガモスを探しに来た。何故最初にウルガモスを選んだかっていうと、空を飛ぶを覚えてるからだ。あれがあると移動効率が上がるからね。是非とも先に誘っておきたかった。
あいつが居るのは恐らく……うん、やっぱりここだろ。
イッシュ地方の四番道路。砂嵐が吹きすさぶこの場所は古い遺跡群がある。砂が目に入りそうで怖い。
俺のウルガモスはこの遺跡が妙に好きだった。最後に別れた時もここだったしな。
ゲーム内に登場する遺跡の最奥にいたウルガモスって俺のじゃないよね?もしそうだったとしたらもうここにはいないかもなあ。イッシュの主人公に捕まえられたかもしれない。
「………んー、そんなことはなかったらしいね。久しぶり」
綺麗な鱗粉が俺を出迎えてくれた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「え、あいつが生きてる!?」
「博士本当ですか!?」
「ええ、この前研究所を訪ねて来たのよ」
「えっと、誰です?」
「あ、そっか。チェレンは知らないもんね」
それは少し不思議な、しかしイッシュの人間であれば誰もが一目置いてしまう集団。若きジムリーダー達と博士。ただの集まりと言うには豪華過ぎた面子だろう。
「今あいつは何処に?」
「さあ?ウルガモスを探すとは言ってたけど、相変わらずその後は行方知れずね」
「ウルガモスってあの人の?」
「みたいね」
「結局誰なんですか?」
「バトルジャンキー、って言えば良いのかしらね」
カミツレが思い出すのは10年程前、突如現れたジムを最速で突破していく男。まだジムリーダーではなかったカミツレが出会ったのは偶然だった。
その当時彼の名はトレーナーの間で轟いていたのだ。もしかしたらチャンピオンを突破するかもしれないと噂が立つ程に。
「?」
「10年くらい前にイッシュのジムを最速で制覇したのよ」
「でもチャンピオンは変わってないし……」
「それはチャンピオンロードに挑まなかったからよ。確実にそれ以上だったわ」
「何ですかそれ……」
「うーん、他の地方のジムも制覇したらしいけど、チャンピオンロードには挑まなかったらしいし。何か理由があったのかもねー」
フウロも朧気ながら覚えている。確かなバトルの強さで一体も倒すことの出来なかった男とポケモン達を。
「でもその人って………亡くなったんですか?」
「いや、突然居なくなったんだよ!本当に突然!」
「何だかよく分からない人ですね」
「そうね、でも今までカントーにいたらしいし、別れを言うのを忘れてただけらしいわ」
「ええ……」
「あいつ会ったら覚えときなさいよ……!」
チェレンとしては何も分からない謎の男だった。
取り敢えずはポケモンを集めていきます。