「ああー、体が」
大きく伸びをして辺りを見回せば人、人、人。やっぱり都会の空港は忙しい。
カロス地方。所謂メガシンカの発祥の地だな。
そしてスッゴい大都会がある地方だ。
その名もミアレシティ
至るところにビル群が立ち並び中心には………名前は忘れたが、エッフェル塔みたいなのが建ってる。地理的にも物流的にもカロスの中心地であるここは観光地として有名。そこら辺の店でショッピングしても大満足、みたいな所だ。
この地方はそんな感じで観光名所とか結構あるが、今回は全カット。この地方には面倒臭い奴がいるのだ。最速で立ち去らねばならない。ただ会っておきたい人もいるから悩み所だ。
ジムリーダーも代替わりしてる……というかカロスは若い人が多いからな。昔は多かった知り合いもみんな隠居してるのだろう。取り敢えずあの子を迎えに行こう。話はそれからだ。
バッグから懐かしい動作でボールを取り出す。うん、いつ見ても良いなあこいつは。
「ウルガモス、行けるか?そう、あの花畑までつれていってくれ」
降り立ったのはある花畑。色とりどりの花が咲き誇るここはポケモンのむら。ポケモン達の楽園だ。人がほとんど訪れることの無い、森や滝に囲まれた秘密の花園。
一度ここに連れてきた時にあの子はとてもここを気に入った。
「………相変わらず気持ちの良い場所だ」
今もここにいるのかは定かじゃないが……まあ、探すだけやってみようかな。
ここにはゲーム時代伝説のポケモンがいた。あのミュウツーだ。この花園を越えた先の洞窟に居る筈だが……うん、居ないみたい。伝説のポケモン特有の圧倒的な存在感が無い。これなら大丈夫だ。
そんな感じで数分歩き回ってみたが見つからない。ここでは叫ぶのが余り良い行為じゃないからな。こうやって歩くしかないんだ。だってこんなに平和な場所を部外者が壊すなんて最悪だからな。
そうやっているとふと人の気配を感じた。でもここに来るような人なんてそう多くない。
「老けたねえ、ウルップさん」
「………あれだよ、お前さんもだ」
白く伸びた髭に水色のジャケットをきたじいさん。氷のジムリーダーウルップがこちらを見ていた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「久し振りだな」
「ああ、本当に。それにしても良く俺だって分かったねえ」
「あれだよ、そりゃ、雰囲気が変わらん」
「その口癖も変わらねえな」
俺は一旦ウルップさんのジムに行くことにした。折角会った知り合いだからな。この人には世話になった。というかカロスの上の世代の人達とは何かと知り合いが多い。まあ今の世代を知らなすぎるだけだが。
「それでお前さん、今回はどうしたんだ?」
「ああ、ニャオニクスを探していてね」
「お前さんのか?」
「そっ、以前、と言っても10年くらい前にね。あの花畑に置いてきたんだ。あの子がそこに居たいってさ」
「………あれだよ、おう。あんなとこに居るなんて珍しかったからな。覚えてるぜ。今も居る筈だ」
「まじか!?ありがてえ、流石だぜウルップさん」
ウルップさんは定期的にあの花畑を見に来てるんだ。ポケモンの密売なんかをしてる奴らからすれば格好の的だからな。このじいさんは優しいってことだ。
「それよりだ。お前さんのその目。どうした?」
「………ニャオニクスを置いてきたのと関係があってなあ、あー、ビオラに言うなよ?」
本当、あいつバレたらだるいんだ。今回カロスで一番面倒な手合いだ。出来るだけ、というか絶対に見つかりたくない。またあいつに引っ付かれるのは勘弁だ。
「ああ、分かっとる。あれだよ、俺も面倒だ」
確かにそりゃそうか。ウルップさんには何度迷惑をかけたのか、まあ俺が悪いわけでもないけどな。
「なら良いぜ。えっとなあ───────」
「────────」
「──ってな訳だ。まあ久し振りに頑張ろうと思ってね。目は治らないからキツイけどね」
「だから言っただろう。あれだよ、氷ってのは硬く、脆いものだ」
ああ、確かに言われたなあ。そして俺にとって氷ってのは硬かった。まあそれにしたって桁違いだった。俺だって結構な地方を旅したんだ。伝説のポケモンはアレ以外にも少しは戦った。けどそれと比べても別格だ。
「んなこと言われてもありゃヤバかったぜ。フリーザーでもああはならねえよ」
「そうか……まあ良い。取り敢えずだ、お前さんのニャオニクスの所に行くぞ」
「おっ、ありがてえ。そうだ、みんな元気?」
「ふん、お前に心配されずともな」
花畑に向かえばそこには青いシルエット。少し不安そうな顔を浮かべた子が居た。でもその姿は周りの花と相まってとても綺麗だ。どうやら待っていてくれたらしい。10年越しでもそれくらいは分かる。
「ごめんね、また、ついて来てくれるかい?」
差し出された手は了承の合図。待っていたと言わんばかりの笑顔だ。本当に可愛いなあこの子は。ちょっとツンデレだけど。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「お前さんこれからどうする?」
「あとはー、まあフクジさんは良いや。この怪我がバレたら怒られる」
「だろうな。ふむ、ならば少し鍛えていくか?」
「お、まじ?じゃあチケットを取ってきたらまた来るぜ」
よっしゃ!ウルップさんなら安心だな。ワタルみたいにバトルバカじゃない。加減の分かる人とのバトルは良いねえ。
俺はまた空港にとんぼ返り。流石にウルガモスの疲弊が心配だが、まあこいつなら大丈夫だろう。というか心配するだけ無駄だな。バトルになったらこいつらは無茶をするんだ。
「すいません、カントー行きのチケットって──」
「はい──」
ここ最近こういう手続きを良くやっている。ま、そりゃそうか。必用なことだし、ガラルに行くときはもっと面倒だからな。ワタルか誰かに推薦状で書いて貰わないといけない。
「ありがとうございました」
何となく店員に御礼を言ってしまう癖は前世からだ。人によっては嫌いな人もいるからやめた方が良いんだけどなあ。どうにも自分を良く見せたいなんて見栄が剥がれない。30手前の癖に恥ずかしい限りだ。
ふと周りを見渡して見ると椅子が空いていたので少し休憩する。ふー、流石にちょっと疲れたかもなー。ぼーっとしながらどこにも焦点を合わせずにいると何故か目につく集団があった。
ん?あれって………おいおい、カロス主人公じゃねえか。えっと、確かカルムだっけか?今はカロス四天王だった筈だ。あっちは……サナにトロバ、お、セレナもいるのか。あれ、ティエルノは?あ、来たみたいだ。
いやあ良いねえ。遠目に見てても何とも思われんわ。カルムが有名人だからね。周りの人達も見てるわー。あの世代、というか主人公達とは軒並み知り合いが居ないからな。それは俺の努力もしっかりと実ってるっていう意味でもあるな。
あー、青春だねえ。若者の特権だ。あの子達みーんな笑顔。今が楽しいって顔をしてる。それに比べ俺は、前世も今世も灰色の……果ては頭のおかしい男に絡まれる始末……。ちくしょう!まあ良いさ!俺にはこいつらがいるもんね!
そういえば俺って主人公に勝てる部分一つも無……やめよう。悲しくなる。そのまま自己嫌悪に陥っていると彼等の方にも異変があった。
彼等はどうやら人を待っていたようだ。しかも俺にとっては都合が悪いやつを。
ビオラお前……何で居るんだよ。うわしかもカルネまで。状況がクソすぎる。だけどまだ気付かれてはいない。距離も相応に離れてる。前とは服装も髪型も違うしいけるな。
俺はひっそりとその場を後にした。
「師匠?」
「どうしたんですかビオラさん」
「ううんごめん、何でも無いわ」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「はー」
命拾いした……。全く、何て心臓に悪いんだ。今日は厄日かと思いつつ息を吐く。
しかし初めて生で見たな。レッド以外の主人公を見るのは初だったが、やっぱイケメンだなあ。
こう、ジムリーダーとかはみんなイケメンなのはズルいと思うのだ。どこも及ぶ余地の無い主人公ってのは確かに人の意思を砕くだろう。もし彼に負けたら……言い訳のしようがなかったら、そう思うと怖くなる。廃人になってしまってもそりゃ仕方ないな。
「取り敢えずやるかあ」
まずはウルップさんとの修行だ。と言っても本当に短い期間だが、取り敢えず勘を取り戻したい。ガラルでのジムチャレンジまでには少しは出来るようにならねえとな。俺は主人公でも優秀なトレーナーでも無い。それなりに時間をかけなきゃ結果は出ないからな。
さあ、やるぞー!
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
吹きすさむ吹雪。恐ろしい程に雪景色。だがそれは意図的に放置する。この程度どうでも良い。例え視界を塞がれても一瞬ならばどうにか出来る。
「ユキノオー!」
「サザンドラ」
「手元にかえんほうしゃ」
「ウッドハッ……!」
それが勝負の決着だった。サザンドラの放ったかえんほうしゃはウッドハンマーを発動させずそのままユキノオーを落とした。巨体が崩れ落ちることで雪が舞う。
「すまねえなユキノオー……あれだよ、どこが弱くなってるんだ」
「やっぱり右が弱い。そこを突かれたらどうにもならねえよ」
加減はしてもらったが普通に勝てた。けどこれはこいつらの強さだ。俺がまだついていけてない。
「とてもそうは思えねえな。お前さんそれを予測と直感で補ってるだろ。相変わらずそのやり方は変わらねえ」
「まあ、自然とこの形になっちまったからな。ただ咄嗟の判断には向かねえ。これじゃ覆される」
「だろうな。そして何よりその目、お前さん本調子じゃあ無いな。あれだよ、熱が足りてない」
「………やっぱ分かるかあ。本調子じゃあ無いって言うか、執念みたいなのが無いんだよ。だけど冷静でいられてはいる。そういうのは年齢と共に抜け落ちたんだろ」
バトルから離れたことで抜け落ちた何か。目の前のことに狂気的な程の執念を見せる熱。そういうのが以前の俺にはあった。けど今の俺は良い意味でも悪い意味でも冷静だった。
「バトルジャンキーも見納めか。確かにお前さんなら今の状態でも良いかもな。判断は鈍らない。だが、あれだよ、お前さんのポケモン達とは相性が悪い」
「そうだよなあ……」
そう、そこだ。俺のポケモン達はバトルになると少し変わる。そこに関しては以前の俺と似ている、または何か違う要因で熱を見せるのだ。俺の熱と彼等の熱は相性が良い。思考が一致するというか、動きが早く伝わる。
「でもそこに関しては大丈夫だと思うぜ」
「なに?」
「そこまでの強さは求めてない。俺はジムを制覇出来れば良いんだ。あんな強迫観念みたいなのはもういらないからな」
「そうか、確かにな。チャンピオンに勝ちたいわけでもない、か。それも変わらんな」
「まあね。ありがとうよウルップさん」
「ああ」
なーんとなく、何となく感慨深くて。どうにも言えなくて。でもそれがどれだけ下らないことか気づいた。つまり、こういうことだ。
「老けたねえ、俺達は」
「あれだよ、それも良いもんだ」
少し寂しくて何度も諦めて、けど少しの幸福と笑顔がある。これは、つまりまったくそれでいいのだ。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
さて、早めに出発したは良いものの空港はあと数時間後だ。何かしたいことがあるかと言われれば無い。また一人でファミレスとかに入るのは抵抗があるし、かと言ってお洒落なカフェなんて柄じゃない。
………いや本当にどうしよう。そうだ、ポケモンセンターに行こう(唐突)
今まですっかり忘れてた。そういえば行ってないじゃん。回復薬とか必要だもんな。ついでにこの子達も見て貰うか。
最寄りのポケセンに入ってあたりを見回せばちらほらと客がいる。いつも見慣れた物ではなく、すっかり懐かしいと感じるのは地方毎によって中の造りが違うからだろう。
それにしても目立つ人がいるねえ。物凄い身長がデカイ人がいる。なんかホームレスみたいな格好してるけど本当に大丈夫?
推定3メーターの巨躯に身じろぎしつつもそのままカウンターへと向かう。
「すいません、ポケモン達の検査と回復お願いします」
「はい、ではポケモンをお預かりしますね」
今いるポケモン達のボールを差し出し、自分は少し暇となる。今のうちにショップなんかを見ておきたい。
いやあ、ジョーイさん達は大変だ。彼女らは物凄いブラックで激務だ。人手が足りない所だと何連勤させられてるのか想像も付かない程に。
だからこそそれを知ってる大人達はプライベートの彼女らには触れない。一言も話し掛けないし、あちらから話し掛けられたら愛想良く対応する。彼女らの悲惨さは良く理解してるからね。
「お、わざマシン。へー、最近はこんな物まで……」
「どうしますか?」
「じゃあげんきのかけらとかいふくのくすり、あとこのグミ貰って良いですかね?」
「はい、ありがとうございます」
そんな感じでお会計。ゲームの時とは違って普通にお菓子とか売ってるから有難い。
「すまん、ちょっと良いか?」
「え……うおっ……」
話し掛けられたから見てみたら居たのは巨人。さっきのめっちゃデカイ男だった。………てかこいつあれやんけ。
「あんたもしかして……AZか?」
「ああ、久し振りだな」
いや久し振りて……!?
お前そんな気軽に話し掛けて良い奴じゃないでしょ!一応3000年前の王様だろうが!……まあ良いか。取り敢えずカロスのシナリオは終わってんだし。驚きはあるが特段害も無いだろうしな。
「フラエッテは帰って来たんだろ?今日はどうした?」
「………礼が言いたかっただけだ。確かに、希望が現れた。お前にあの時言われたように、諦める意味など無かった」
「だろ?ま、話があるなら行こうぜ」
この地方の物語は何もかも終了した。だからこそ話せることもある。死んだ人間とほぼ不死身の人間ってのはちょっと不思議な組み合わせだ。