広がる平原、見渡せば広大な砂漠や湖が視界に映る。ワイルドエリア。このガラルで独自の生態系を確立したかのような場所。本来ならいる筈の無いポケモン達が混じり合う場所だ。どんなに広大な土地でもこの面積でここまで地形が違うのは珍しい。これもガラルの特殊な環境下にある影響だろう。
「くっそ、いないもんだなあ」
先日の最悪のやらかしから数日。俺はまだ見ぬ新たな手持ちポケモンを探していた。
こんなことをやっているのには勿論理由がある。俺はこのガラルである一定の成績。リーグでジムを突破出来るくらいの実力を示したい。それはポケモンの強さに頼るんじゃなくてトレーナーとしての実力だ。
もしカミツレさんの所でトレーナーをやるとしても、このポケモン達で戦う訳にはいかない。あそこはでんきタイプのジムだ。恐らく支給されるでんきポケモンで戦うことになる。だからこそトレーナーとしての実力。やはりここでこの子達に頼る訳にはいかない。この子達はそれこそ緊急用。最悪頼るっていう形になるだろう。
「あら?おいおいおい」
何かルカリオと闘ってる少年いるんだけど。いやあれ大丈夫か?いやあ大丈夫じゃ無さそうだけど。確実に初心者が実力を見誤ったようにしか見えない。
「ごめんウルガモス構えておいて貰える?うん、ありがと」
一応ね。流石にこれで少年が怪我したら不味い。大人としての責任ってものがあるからな。あっ、負けた。次のポケモンは……いないかあ。
「ウルガモス、ギガドレイン」
「え」
「大丈夫?怖かったろ」
何というか俺は子供には甘い。どうにも可愛いからな。別にロリコンとかショタコンなんじゃない。俺は子供には弱い人間なのだ。
「ごめんなルカリオ。今回は引いてくれ」
ギガドレインに絡めとられて苦しそうなルカリオを解放してやる。そのままルカリオはこの場を離れていった。こちらに危害を加える意思が無いことを読みとってくれたようだ。
「それで、どうしたんだ?君じゃまだあのルカリオは無」
「うわああん!!」
「え、あ、そっか、怖かったよなあ。泣け泣け」
溜まってた恐怖が一気に溢れ出たんだろう。まあそりゃ怖いよなあ。まだこの年齢でもしかしたら死んでたかもしれない。
「………そろそろ泣き止もうぜー」
「うっ、ぐすっ」
「ほら、何があったんだ?おじさんに言ってみな」
「そこのっ、ひぐっ、ポケモンっがあ、ボロボロでえ」
「何?」
ボロボロのポケモン?何処に……まさかあの岩場か?
「少年ちょっと走るぞ!」
「えっ、っ!」
いた!こいつは……ヒトツキか!二体も……それに結構な負傷だ。こりゃマズイか?時間の問題かもしれないな。
「取り敢えずは応急処置だな。薬と包帯……クソッ、何にやられたんだか……手持ちのじゃキツイか。ポケセンに行きたいが……空を飛ぶだと耐えられないか?」
何か手は……どうにかならないか?応急処置は終わった。これでまだ持つだろうが、どれだけか分からない。最大で後数時間で……徒歩じゃポケセンまで結構かかるぞ!?ちっ!うだうだ言ってる場合じゃねえ!目の前のことに集中しろ!
「すまん少年!ここにいてくれ!」
「どっ、どこっ行くのっ」
「人を呼んでくる!ウルガモス!」
クソッ!何処かに人は!最悪ポケセンから連れてくるか!?いや機材を運ぶのにどれだけかかるか分からない。ちっ、あれもこれも駄目じゃねえか!何か無いのか!
「あ、あれって……ウルガモス!」
居た居たいた!あれしかない!
「すいません!ソニア博士!」
ビンゴ!特徴的なオレンジ髪のサイドポニテはこの人しかいない!
「え、え?誰?何っ?」
知り合いじゃないし無理か?いや用件を伝えてからだ!
「容態の重いポケモンが居ます!来て貰えませんか?!」
「え……分かった!つれてって!」
よしっ!良く言ってくれた!博士ならもしかしたら……いやどうにかする!
「ウルガモス戻ってくれ!」
「そのポケモンって……」
「二体のヒトツキです。応急処置はしましたが……たぶんあと数時間です」
ここまでヤバいのはクソみたいなデスマーチが続いて40連勤した時以来だ。頼むからどうにかなってくれ。
「……マズいわね。運ぶのも難しいかしら?」
「徒歩なら何とか。空を飛んだら耐えられないかと」
あの状態じゃ衝撃に耐えられない。剣部分に罅が入っていたからな。数分間で折れてしまうだろうな。
「そう……分かったわ。取り敢えず手持ちの薬で何とかするけど……」
「必要なのがあったら言って下さい。一往復程度なら空を飛べば間に合います。ポケモンセンターに言えば何とかなると思いますから」
最悪ワタルの名前でも使ってどうにかするしかない。あいつに取り合って貰えば何とかなる筈だ。
「最悪の場合ね。ポケモンセンターも基本的には動かないだろうし……出来るだけ市販の物で何とかしたいわ」
よし、見えてきた!
「ええ、そうですね。あそこの岩場です」
「あそこ?良く見つけたわね」
「経緯は少年にお願いします。私も良くは知りません。ウルガモス!うん、お願い!」
そのまま高度を下げていく。よし!何もなってないな!
「………これは、確かに酷いわね。必要なのはこれと、これとこれと」
「少年大丈夫だったか?ああもう泣いて良いから。うん偉いぞ」
「うう………ポケっ、モン、大丈夫?」
ここで大丈夫と言えればどんなに楽か。だがこの子を傷つけても言わねばならない。これからこの子はそういう場面に出くわすことになるだろうし、俺も何度も立ち会った。
「分からない。博士ならもしかしたら……けど、状況は厳しい」
「そっ、うえっ、えっ、そんな、僕のせいでええ!」
「すみません博士!ちょっと離れますね!薬とかはそこにあるので!」
「ええ!お願い!」
流石に治療中の人のところにこんなに気が散るような子を居させられない。集中が必用な場面でそれはきついだろうしね。
「なあ少年。何でルカリオと戦ってたんだ?」
基本的に人間ってのは話をそらして違うことに目を向ければ感情が収まる。一旦何とかなっただけだが、まあ今はそれで良い。
「ヒトツキがボロボロなのが見えて、ルカリオがいて、通ろうとしたらルカリオが来て、どうにかしたくて、それで、それで」
「なるほどな。うん、分かった。少年は偉いなあ。後で博士に褒めて貰いな。良く頑張った」
「本当?」
「ああ、けど何か困ったら人を頼るんだ」
「頼る?どうして?」
「さっき少年はルカリオから逃げなかった。勇気ある行動だ。でも少年じゃまだあのルカリオは倒せない。やっぱりそういう時は大人を頼るんだ。勿論助けてくれない酷い人もいるから、頑張って探すしかないけどね」
「うん………次からは頼る」
「そう、なら良い。兎に角今日は頑張ったね。後でお菓子買ってあげる。何が良い?」
「お菓子?本当?」
「そっ、アイスでも食べる?」
「アイス!?やった!」
やっぱり子供は良いね。こういう元気な感じが子供らしさだ。悲しいだけの人生じゃあ壊れちまう。
「………たぶんまだ理解出来ないだろうけど、あと数年したら分かるようになると思うから」
「?」
この世界は優しいから大丈夫だと思うが、もし、もし最悪な理不尽に出会ったら。そういうのは何処にでもあるにはある。運が悪ければどうにもならない。主人公なんてその最たる例だ。
「さあ、泣き止んだらそろそろ……」
ソニアが戻ってきた。さて、どうなったか。覚悟は決めてあるが……
「どうにかなったわ。安静にしてれば回復する筈よ」
「本当!?」
「…良かったな少年?」
「うん!」
「一応ポケモンセンターに行く必要はあるけどね。それでどうしてこんなことになってるの?」
「少年がヒトツキを見つけまして、後から私が到着して応急処置を。そこからは博士の知る通りです」
「そう……じゃあ次。あなたは誰なの?」
どう答えたものか。大人としての身分を証明出来るものが無いからな。職に就いてないってのはこれだから……
「あー、私はまあ………しがない無職です」
「えぇ……」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「え!?ジムチャレンジャー!?」
「はい、今はそうですね」
目の前で忙しなく表情を変化させる女性、ソニア。剣盾の博士であるマグノリアの孫であり、現チャンピオン、ダンデの幼馴染みという中々に凄い経歴を持つ彼女。昔はバトルをしていたらしいので恐らく強い。
俺としては主人公達のその後、みたいな設定があるのでは?と思っている。だって10年無敗のチャンピオンの幼馴染みだろ?恐らくライバルポジションかヒカリとコウキみたいな関係だ。ダンデを主人公に据えたとしたら申し分無いしな。
「あの子達と同じ……」
「生きる為には恥も捨てる必要もありますから……」
「そ、そうよね!うん!」
これだよ。世の中はどうにも風当たりが強い。やっぱり無職が挑むなんて無理があるよなあ。世知辛い、というかそれが当たり前なのは何処も一緒だな。
「本当に博士が来てくださって助かりました。このお礼は絶対にしますので……もし何かあったら言って下さい」
「良いわよ別に。それが私の仕事でもあるもの。そう言えば私達初対面よね?それに私ってまだ助手なんだけど……」
あっ、マズイ。そう言えばそんな設定あったわ。この人って主人公がチャンピオンになったぐらいで博士になるんだっけ?うわどうしよ。てきとうに嘘でもついとくか。背に腹は代えられん。
「この地方に来る前にダイマックスについて少し調べまして、予備知識も必用でしたから。マグノリア博士のことについてもある程度知っていった時にソニア博士のことも。てっきりもう博士なのかと思っていました」
「そう、確かにガラルではダイマックスが……え、もしかして他の地方から来たの?」
あれ言ってなかったか?まあ言わないか。基本的に情報は秘匿するのが主義だ。何処から俺の不審さに気付かれるか分からんしね。
「あ、はい。一週間程前に」
「結構ギリギリだったのね。じゃあ推薦状は?ガラルの知り合いなんて居ないだろうし」
ワタルって結構有名だと思うんだけど、最近は主人公達が凄いからな。ルビサファの主人公、つまりハルカなんかはチャンピオンに就いてるし、カロスじゃ最強無敗の四天王が誕生した。
他の地方の奴らは基本的に聞かないが英雄としての名は広まってる。カントーなんかはレッド伝説があるからな。ワタルなんて知らないかも。
まあチャンピオンってだけで納得してもらえはするか。
「ジョウト地方って分かります?」
「うーん、知ってるけど……あまり詳しくは知らないかな」
「そこのチャンピオンにワタルっていうのが居まして、そいつに書いて貰ったんです」
「え!?ワ、ワタル!?」
「うおっ!ど、どうしました?」
「いやどうもこうも……ジョウトのワタルって、あなた何者なのよ!?」
おお、やっぱりチャンピオンは知られてるか。良かったなワタル。こんな美人に知られてるよ。羨ましいなあ。良いなあ。
………けっ!そうですよーだ!俺は一生モテない独り身だよ!
いや、努力をしてもいない俺がそんなこと思うなんて失礼か。でもあいつ昔からモテてるし、やっぱ納得いかねえわ。Fuck you.
「あー、あいつのジムチャレンジ時代のライバルなんですよ」
「もしかしてあなたって強い?」
「色々勝手が違いますけど、ワタルとの戦績は私が勝ち越してますね」
「本当に強いのね……まさかそんなに強い人が参加してるなんて思わなかったわ………あの子達大丈夫かしら」
聞こえてるが、まあ見ないふりだ。この人の心配は杞憂だしな。どうあろうと俺は負ける。セミファイナル敗退は確定だ。この子達と戦えないとなると尚更な。
「トレーナーとしての実力はまた別です。今の私じゃあいつとはとても張り合えないですから」
「そう、色々あるのね。じゃあ今回は修行も兼ねてるのね?」
「そうなりますね。博士の方も色々あるようですね」
「うーん、まあね。あら、目が覚めたみたいね」
どうやらヒトツキ達の目が覚めたらしい。さてこいつらどうしたものか。
「取り敢えずヒトツキ達は私がポケモンセンターまで連れて行きます。ありがとうございました」
「うん、分かったわ。でもあの子は?」
「たぶん着いてくると思います。こちらで責任を持って見ますので」
「そっか。私も用事があるし申し訳ないけどお願いね」
「ええ、お疲れ様です。それでは」
「うん、またいつかね!」
そのままソニアは行ってしまった。やはり学者関係ってのはそれなりにキツイらしい。それであそこまで身なりに気を使っているのだから凄いものだ。彼女もまだ若い。恐らくは二十代前半だろう。
「さて少年、俺達も行くか」
「何処へ?」
「ポケモンセンター、ヒトツキ心配だろ?」
「うん!」
何とも不思議な一日だ。大変で、色々あって、まあこんな日も時には悪くは無いのだろう。
「え、ついてきたいの?」
その後ヒトツキ達はそれぞれ少年と俺のポケモンになった。ポケモンゲットだぜ!
ガラルの女性は美人が多いですよね。