ダンジョンセトラーズ   作:高橋五鹿

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エピローグ 竜と冒険者

「おぬし、アリオトでも好き放題しとったそうじゃな」

「なんでロカが知ってんのさ」

 

 ライシュタットの街、城壁の外側にて。

 樹海迷宮でも抜群の生存能力を誇る種族であるメグレズは、この僅かな期間にも北壁山脈とライシュタットを往復して情報のやり取りをしていたらしい。

 中間地点であるメグレズの里で人員を交代したり、精霊魔法による通信なども併用しているのだろうが、その速さにモリアは恐れ入った。

 

 ときに、モリアがライシュタットに持ち帰った調査報告について。

 

 四方竜の話は、「そういう情報があった」という認識にとどめられている。

 街の上層部にとってそれは、事実というより伝承か何かの類、という解釈のようだ。

 モリアが情報源を曖昧に伝えているせいもあるだろう。

 何しろ話の出処は《ホラ吹き》ラゼルフと、不敬にも創造神の子孫を名乗る魔女である。

 

 街の議会にとって重要な知らせは、樹海を脱出できる方法があるかもしれないということ。

 その方法は危険な上に、一度に三人までしか参加できないという。

 失敗しても何度も試せるほど、この街に人材の余裕はない。

 ライシュタットの窮状を王都へ伝えるべく、いったい誰を派遣するべきなのか。

 緊急の話し合いが持たれることになった。

 

 

 

 

「なんだ。この巻物(スクロール)は」

 

 アニーの宿の自室で、グルイーザは受け取った巻物をするすると広げ、その内容に目を通す。

 こうして見ると、彼女の外見はイルゼとほとんど区別がつかない。

 例の魔導服は、グルヴェイグやイルゼが着ていたそれとは配色と形状が異なるが、同じ系統のものであろうことが分かる。

 

 ある程度読み進めたところで、グルイーザの顔色が変わった。

 

「これは……」

「樹海迷宮の中央部境界線を突破して、南北を行き来する手順だってさ。何通りか方法があるみたい。分かれば通れるってものでもないけど、グルイーザならなんとかなるでしょ。僕はもう覚えたし、それはあげるよ」

 

 当代の《黄金の魔女》は、半目になってじろりとモリアを睨んだ。

 

「これをお前に託したのは誰だ」

「グルイーザのご先祖――の、ドッペルゲンガー」

「メラクのイルゼか?」

「彼女とは別の人。どっちも北壁山脈で亡くなったけどね……」

 

 グルヴェイグとイルゼの物語を、かいつまんで伝える。

 話し終えるまで黙って聞いていたグルイーザは、僅かな思案の後述べた。

 

「十代目グルヴェイグか……。本物のほうは歴代最強と呼ばれる魔女だったらしい。本当か嘘かも分からないような記録が、山ほどある」

 

 確かに、イルゼの母親に対する拘りは強かった。

 彼女にとって、グルヴェイグは常に最強の存在だったのかもしれない。

 

「樹海を出るのは当面先だな。あたしもその氷壁城に行ってみようと思う。今ならまだ、失われた記憶の一部が手に入るかもしれないんだろ?」

「ひとりで? アリオトにはレミーとザジが居ると思うけど」

「そうだな、あいつらが居るうちに協力を頼むか。明日には発つ。お前はどうする?」

 

 忙しない様子の友を眺めながら、モリアはふと浮かんだ疑問を口にする。

 

「グルイーザも、星占いとか好きだったりする?」

「いきなり何言ってんだお前?」

 

 

 

 

 宿の一階、食堂では賑やかな声が響いている。

 

「モリア殿! 投石術の英雄を倒したと聞いたぞ! どうだった? 詳しく!」

「いや……本物と同じくらい強かったかどうかは、今となっては分かりませんし」

 

 テーブルの向こうから身を乗り出すジークに対して後ずさる試みは、虚しくも椅子の背もたれに阻まれる。

 メラクの主要幹部は北壁山脈で全員死亡した、という結果だけを報告したはずなのだが、どこでどう捻じ曲がったのか。

 しかもこの女騎士の妄想は、割と正鵠を射ているから困る。

 しばらく楽しそうに話していたジークだったが、ふと思い出したように。

 

「そうそう、会議の結果を伝えにきたんだ」

 

 この食堂で、普段は街の機密情報をペラペラと喋ってしまうジークではあるが。

 樹海脱出については街の住人にとっても、神経質にならざるを得ない話題だった。

 そこはジークも心得たもので絶妙にぼかしつつ、且つモリアには伝わるよう話す。

 こうした政治的な会話の上手さも、彼女の優れた能力のひとつだろう。

 

 ジークから伝え聞く話し合いの内容は、次のようなものだった。

 

 この街の命運を――いや、もしかしたら王国の命運すら背負う重要任務。

 王国政府に話を聞いてもらうだけの立場と発言力を持つ者が最低ひとりは必須。

 そしてパーティメンバーの三人全員が、樹海を突破し得る実力者でなければならない。

 個人の都合や私情で選ぶような意見、樹海探索のなんたるかを分かっていないような人選は、即座に却下となった。

 その結果、四人の推薦者の意見が最終的な候補に残る。

 

 

 

 王女テオドラが推薦するメンバーは、次の三名だった。

 

『テオドラ、モリア、ミーリット』

 

 まさかのテオドラ自薦である。

 確かに王国での立場は街で一番高い。命懸けの旅に自ら赴くという姿勢も評価はされるべきだろう。

 だが……。

 側近のミーリットはまあ分かる。この中にジークリーセが入っていないのは、街に対する配慮なのか、はたまたモリアとミーリットを連れ回したいだけなのか。

 モリアから見ると、この三人では戦力的に厳しいのではないかとも思う。

 

 

 

 続いて、《戦乙女》ジークリーセの推薦は次の三名。

 

『ジークリーセ、モリア、グルイーザ』

 

 またも自薦だった。

 しかしまあ、樹海を縦断するなら最適な組み合わせと言えなくもない。ジーク自身の王都での立場、発言力も高い。

 ただ、ジークは街に残って人々を守るという役割に於いても、最も重要な人材なのだ。

 難しいところだろう。

 それに、グルイーザはもう街に居ない。

 

 

 

 開拓者組合、エメリヒ組合長が挙げる候補者は次の三名。

 

『ジークリーセ、ギルター、レミー』

 

 ライシュタットが誇る最強の戦士たちである。

 レミーももう街には居ないのだが、提案自体は堅実な組み合わせと受け取られたらしい。

 エメリヒとしては、モリアには街に残ってほしいとのことだった。

 

 

 

 そして。

 議会から最も多くの推薦を受けた開拓者――モリアもまた、事前に推薦意見を提出している。

 そこに記されていたのは、次の三名だった。

 

『モリア、ベルーア、シェイド』

 

 これも自薦ではあるが、残るふたりの名にどよめきが上がった。

 この二名を選ぶという発想自体が、他の者には無い。

 方や引退した高齢者、方や先日まで敵だった人物。

 だが確かに、王国内でのベルーアの影響力は未だ計り知れないものがある。

 シェイドについても、樹海探索という点に於いては最も優れた者のひとりではないだろうか。

 

 

 

「それで、街としての結論なんだが――」

 

 その結果をジークから聞いたモリアは、静かに頷いた。

 王国に帰還するための一歩を開拓者(セトラー)たちは歩み出す。

 北の地に眠る者たちの、意志は受け継がれ――

 

 竜と冒険者の物語は、再び幕を開ける。

 

 

 

(了)

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