ダンジョンセトラーズ   作:高橋五鹿

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5~6月 新たな仲間

 4月末の成績順位、バリスタは59位だった。

 なんと28人抜きである。

 仲間からの投票は確かに大幅な加点だったようだ。

 そして同じく班員5人からの投票を受けたであろう、ブッシュワーカーも60位。

 順位さえ維持できれば、いずれも7月の試験まで残留できる成績だ。

 

「今からする話は前回の試練についてだ。命の危険に晒された貴様には知る権利がある」

 

 バリスタは教官の部屋に呼び出されていた。

 

「なんでオレだけに今頃……」

「貴様の班の5人は全員が除名された。なら、知らないままのほうがいいだろう」

 

 先の階層について見習いに説明しない理由。

 途中で除名される者にまで、教えてやる必要は無いということらしい。

 国家の機密などというものはは、知るだけで危険なこともある。

 それはバリスタにもなんとなく理解は出来る。

 

「迷宮守護者ウールヴヘジンは、本来第二階層の門番だ」

「ウール、ヴ……?」

 

 名前などにさしたる興味はないが、迷宮守護者という呼び名なら知っている。

 ヴェストゥルムの住民には、ある意味身近なものでもあるからだ。

 教官はバリスタの反応を無視して続ける。

 

「我々が余りに容易く試練を突破しようとすると、迷宮がそれを学習して試練の内容を変化させることがある。第一階層試練で起こるとは聞いたこともないが、それを予期できなかったのは我々の落ち度だ。すまなかった」

 

 ――今、謝ったのか?

 

「そしてよくぞ、無事に帰ってきた」

 

 ――もしかして、褒められてるのか?

 

 用件はそれだけだそうだ。

 少し拍子抜けしながら部屋を出ていくとき、教官は小声でこうつぶやいた。

 

「次の試験では、ブッシュワーカーの順番は最後にすべきだな……」

 

 ――やっぱ、教官もそう思ってんのか。

 

 ブッシュワーカーは、第一階層最強とされるリザードが2匹相手でも圧勝したのだろう。

 他の班員の状況からして、恐らくはほとんど1人の力で。

 だから試練の内容が変化し、あの狼男が出てきたのだ。それなら辻褄が合う。

 

 おかげで酷い目にあったバリスタとしては、文句のひとつも言いたいところだが。

 わざとというわけでもなし、言葉にしても仕方のないことだった。

 

 

 

 

 一日の訓練終了後。

 団内の話し相手がすっかり居なくなったバリスタは講堂の自分の席に座ったまま、ぼんやりと疲れを癒やしていた。

 

「少しいいですか、バリスタ」

 

 顔を上げると、2人の見習いが立っている。

 声の主は線の細い優等生然とした男、でも成績は66位の学者。

 もう1人は白髪褐色肌の異種族ハーフデックの少女、72位のウィッチ。

 

 この2人は試練では活躍できなかったようだが、再来月7月の試験に挑める可能性はまだ充分にある。

 それにしても、ウィッチは入団当初の40位から随分順位を落としたものだ。

 

「ああ、別に構わないが」

「単刀直入に言いますが、ぼくらのパーティメンバーになってくれませんか」

「んん?」

 

 パーティの勧誘なのか。

 最下位組の自分に? とは思ったものの、今のバリスタは59位。彼らよりも順位は上だ。

 しかしこれは張りぼての順位に過ぎない。学問も武術も本来バリスタが最下位なのは疑いようがない。

 

「あの……あたし、どうしても、10月の試練に参加したいの。お願い、します!」

 

 普段から気弱そうに歪められた表情のウィッチが、彼女にしては大きな声を出す。

 ハーフデックは顔立ちがいい。ただ、ウィッチは表情と喋り方から察せられるように、人付き合いが苦手なようであった。

 

「ああ……? 10月? まずは7月じゃないのか」

「ぼくもウィッチも、迷宮のより深く――いや、ネームレスタワーの場合はより高くというべきでしょうか。それを見たいんです」

 

 そういうことか。

 

「聞いたことくらいはある。かつては迷宮踏破を目指して入団する見習いもいたって。アンタらはその手合いってことか」

「あ、あたしは仕官も目指してるから、なるべく長く除名されずに残るのも、大事」

「地域や家にもよりますけど、ハーフデックは苦労が多いんですよ」

「そうなのか」

 

 普通の人間の家系でも、先祖返りで生まれることがあるハーフデックは、美貌ゆえに庶民の人気はある。

 だが、そう思わない者も少なくないのだろう。

 家柄を重んじる貴族ともなれば尚更だ。

 

「それで、返事は? パーティに、入る?」

「……どうして、オレなんだ?」

「実力を見込んでと言いたいところですが。あぶれているのが、ぼくらと君くらいなんですよ」

「凄く分かりやすい理由だ。いいぜ」

 

 そんな理由で許可を貰えるとは思っていなかったのか、学者とウィッチは顔を見合わせる。

 

 成績変動によるパーティの再編は常に行われている。

 今回あぶれたのは――

 試練で投票されなかった2人と、投票で辛うじて生き残った1人。

 

 バリスタにとっては成績を争う日々の訓練も戦いだ。

 それならこれは、意外と悪くない組み合わせかもしれない。

 単独で闇雲に成績上位を目指すより、仲間がいたほうが幾らかマシというものだろう。

 

 

 

 まずは情報交換から始めることになった。

 学者とウィッチからは、バリスタに不足している学問について。

 バリスタからは、地元民としてネームレスタワーにまつわる情報を提供する。

 

「迷宮守護者ガーゴイル……。名前は知っているし、実物も一応見てはいます」

「塔の外壁にたくさんある、石像だよね。地上からは小さくしか、見えないけど」

「そうだ。アレがいるから、塔を外から登るのは無理」

 

 ガーゴイルは翼を持った悪魔のような外見をした石像である。

 実際に見たわけではないが、塔の壁を登ろうとすると、空を飛んで襲いかかってくるのだとか。

 

 過去には壁を登って塔の頂上まで登ろうとした者もいたが。

 すぐに引き返した者以外は、悲惨な末路を辿ることとなった。

 地元民なら当然知っている過去話。

 彼らにとって、塔を登ろうとする者は愚か者と同義である。

 

「ガーゴイルは迷宮守護者といっても、単体の実力は大したことはないでしょう」

「なんで分かる?」

「大量配置された守護者はそういうものだからです。でも歴戦の戦士であったとしても、壁を登りながら空を飛ぶ複数の敵とは戦えない。だから外を登るのは不可能というわけですね」

 

 学者とか呼ばれるだけあって、妙に詳しい。

 

「バリスタが遭遇したっていう、狼男は?」

「恐らくは迷宮守護者ウールヴヘジン。これもガーゴイルと同タイプと考えられます」

「えっ」

 

 ――機密情報とかじゃなかったのか……?

 

 狼男の存在自体は、先月の時点で皆に話してしまっている。

 ウールヴヘジンの名前そのものは、知られていてもおかしくはない。

 それにしても。

 

「アレが、大して強くない守護者だったってのか……」

「相対的な意味ですよ。上位の守護者はそもそも、人間が立ち向かえるような存在ではないのですから」

 

 そんな相手には会いたくない。

 そう思いながら、バリスタは溜息をついた。

 

 

 

 

 5月末に成績下位者の10人が除名され、見習いの数は70人に減った。

 

 座学や魔法の訓練に於いて秀でたウィッチは、順調に成績を回復し除名を免れた。

 このままのペースなら学者共々、7月も登塔団に残れそうである。

 むしろ圏外に落ちるかもしれないバリスタのほうが、必死に勉強をする羽目になっていた。

 学者からは、短剣を用いた体術の基礎も教わっている。

 

 ――貴族って、短剣術まで習うものなのか?

 

 そんな疑問が浮かぶが、貴族のことなどよくは分からない。

 分かっているのは、これまで全敗だった模擬戦の訓練で、ぽつぽつと勝てるようになってきたことだけだ。

 武術指導者としての学者の腕は、確かなようだった。

 

 

 

 6月に入って間もなく、教官から次の試験の説明が行われる。

 

「来月7月の試験についてだが、前回と大きくは変わらない。第二階層の最上階で門番を倒す。出現する魔物は同階層の魔物と同程度だが、第一階層と最も異なる点はそこではない」

 

 一旦言葉を止めると見習いたちを見渡し、強調するように続きを告げる。

 

「最後の部屋に入れば扉は閉ざされ、試練が終わるまで撤退は不可能。つまり――敗北は死を意味する」

 

 衝撃的な内容と裏腹に、ざわめきは少なかった。

 覚悟を決めている者も居れば、元より不参加、つまり潮時だと感じている者も居るのだろう。

 ここまで残った者たちだ。今更、慌てふためくようなことはない。

 

「試練に挑むパーティの人数は6人までだが、少ない分には自由だ。前回のような投票は無いから、数が少なくて不利ということはない」

 

 その後は、塔内訓練の準備時間となった。

 

 

 

「パーティの上限は6人か。オレたちは半分しかいないけど、どうすんだ?」

「投票があるなら他班との合同も考えましたが、必要なさそうですね」

「あたしも、そう思う。大事なのは、頭数より連携。人数不足のパーティは、他にもいる」

 

 学者とウィッチは、前回の試練で手も足も出なかったから成績を落としている。

 なのに何故、こうも自信満々なのか。

 

「まあ、いいか……」

 

 この2人はある意味、以前の仲間たちよりもずっと強い。

 第一階層の試練で実力を発揮できなかったことについては、相応の理由がある。

 教官の話によれば、第二階層の門番で最強と目されるのは迷宮守護者ウールヴヘジンとのこと。

 バリスタは前回この相手を倒しているので、理屈の上では今回も突破できるはずだ。

 

 

 

 翌日より、第二階層の探索が訓練に加わった。

 試練の部屋にある扉を抜けて階段を上るとそこは――

 石壁で構成された第一階層と異なり、自然石や土などで構成された、まるで天然の洞窟のような場所であった。

 

「建物の中だってのに、なんでこんなことになってんだ。これじゃまるで地下迷宮だろ」

「石壁より、造るの大変そう。むしろ」

「閉じられた空間にひとつの世界を創る、というのが迷宮生成術の焦点のひとつですからね。この分だと、上層はどうなっていることやら」

 

 引率の正規登塔士は、学者の言葉に目を丸くする。

 

「ほお……お前さん詳しいなあ。それに勘もいい」

「勘、と言いますと?」

「いや、ここよりも上の層――っと、失言だった。今のは忘れてくれ」

 

 ――第三階層は、ここより更にけったいな場所ってことか。

 

 そして、その場所に至る前に除名される者が、それを知る必要も無いのだろう。

 

 第二階層の敵はそれなりに手強く、まともな前衛の居ないバリスタたちの訓練は順調とは言い難い。

 だが、それこそが今の彼らには必要だった。

 見習い登塔士たちはそれなりに優秀なため、第二階層までは後衛が戦闘経験を積む機会に欠ける。

 あるいは精鋭を集めるという方針こそが、登塔団の弱点なのかもしれなかった。

 

 

 

 

 週に一度の壁上射撃も、すっかり馴染みの訓練となった。

 どこから集めてきたのか、ブッシュワーカーは色々な矢を弩弓の前に並べてみせる。

 普通の弓で使われるものからクロスボウの短矢、攻城兵器で使われそうな長い矢など様々であった。

 

「なんだそりゃ?」

「この弩弓が生産された昔の頃には、正式な『矢』があったはずなんだ。今使われている矢は最近生産されたもので、本来使われていたものとは性質が違う可能性もある。だから色々な矢を試して、その使用感を掴んでおいたほうがいい」

 

 ――納得できるような、できないような?

 

 結局は今ある矢を使うのだから、そんな練習に意味はあるのだろうか。

 しかし様々な矢を試してみたいという点は、バリスタも同じ気持ちだ。

 

 入団から半年が経過した6月末。

 見習い期間は、残すところあと半分となっていた。

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