ダンジョンセトラーズ   作:高橋五鹿

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10月(上) 第三階層・逃走の試練

 9月末に10名が除名され、残る見習いは30名。

 パーティは全6班となった。

 

 上位4班は前回試験と全く同じ顔ぶれ、バリスタ班が5班に昇格し、6班は成績最下位の再編成班。

 最下位といってもここまで残った精鋭揃い。班員たちはすぐにブッシュワーカーを自分たちのリーダーと定め、彼の方針に従って動くことになる。

 班が定まると、直ちに第三階層探索の開始が告げられた。

 

「今回の試験、すなわち第三階層の試練は、階層侵入と同時に開始される。初回は現地での説明も兼ね、一律で2時間の探索となる」

 

 やはり第三階層の試練がそのまま試験に採用されるらしい。

 今までの試練は門番の討伐だったが、今回は事前の説明からして違うようだ。

 

 

 

 

「教官が付き添いなんすか?」

 

 バリスタは驚きの声を上げた。

 

「塔内探索の先導なら今までもしている。人数が多かったから、貴様らを担当するのは今回が初めてなだけだ」

 

 説明によれば第三階層は、言うなれば全てが試練の部屋なのだそうだ。

 長年の研究により、侵入人数の最適解はやはり6人。

 ただし、一定の距離を開ければ同時に複数班が侵入しても問題はない。

 

 6人編成は王子の1班とヴァルキリーの2班のみ。

 付き添いの正規登塔士も含めると人数過多のため、初回探索は2時間のみということらしい。

 先導してもらえるのは初回だけで、2回目以降は見習いのみでの挑戦になる。

 

 現在は5人編成の3班と4班までが三層に進み、3人編成のバリスタたち5班は二層で待機中。

 少し時間を置いてからの侵入となる。

 再編成のしわ寄せで毎度メンバー構成が異なる、ブッシュワーカーの6班は5人編成。

 すぐそばで別の正規登塔士と共に待機していた。

 

「探索回数は、今回含めて今月中に8回、だよね」

「そうです。参加の可否は毎回自由ですが、試験は3日おきに全班同日で、今回のように時間差出発ですね」

 

 ルールを確認するウィッチと学者。

 今回の試練は第三階層内に一定時間以上留まるというもので、一度の滞在時間の長さに応じて成績に加点されるそうだ。

 バリスタは教官に疑問点を質問する。

 

「試練はどれくらい滞在したら突破扱いなんすか?」

「72時間」

「ななじゅうに……?」

 

 だから3日おきの開始なのか。

 以前学者とも話したことだが、魔物復活のサイクルが早いネームレスタワー内に長時間滞在することは危険極まりない。

 ほぼ玄室内にしか魔物が出ない一層はまだしも、二層では寝る場所の確保すら難しいだろう。

 

「……寝るときどうする、の?」

「それは探索中に説明する。だが言っておくぞ。登塔団の発足以来、過去にこの試練を突破した者はただの1人もいない。1日以上滞在した者すらごくわずかだ」

 

 ウィッチのつぶやきに対する教官の返答は、試練の難しさを伝えるに充分な内容だった。

 王国史上、踏破した者の存在しない迷宮。

 次の階層こそが、その実質の終着点なのだと。

 

 ――誰も達成してねえなら、なんで72時間って分かんだよ。

 

 どうせ機密事項とか言われるのだろうし聞いても無駄だと、バリスタにもその辺りの見当が付くようになったので口には出さない。

 

「おかしい。誰も達成していないなら、時間とか分かるはず、ない」

「機密事項だ」

 

 ――ウィッチの奴、声に出して言いやがった……。

 

 空気の読めない者はこれだから恐ろしい。

 そうこうするうち、バリスタたちが出発する時刻となった。

 

 

 

 

「んだよこりゃ……」

 

 第三階層に足を踏み入れた瞬間、目の前に広がる光景。

 それは木々が密生する森林――樹海の如き場所であった。

 

 太幹の威容を誇る樹木の数々は密接し絡み合い、高さ5メートルほどの場所では、うねるように伸びる重厚な枝が空間を埋め尽くしている。

 樹木はそれ自体が発光石と同様の機能を持つのか、薄暗くも視界は確保されていた。

 

「この第三階層――樹海迷宮では、あらゆる魔物が侵入者を排除するために集まってくる。長時間滞在など、不可能なほどにな」

 

 バリスタたちは――いや、この三層を訪れた全ての見習いたちが思い出したであろう。

 2月に行われた森林追跡訓練のことを。

 そして、その訓練で人並み外れた成績を叩き出した見習いのことを。

 

「とはいえ2時間程度の滞在なら、ここまで来れた貴様らが恐れるほどのことはない。魔物の襲撃は、時間と共に苛烈さを増していく」

 

 アーチ状に絡み合う樹木の通路を、教官の先導により進む。

 途中で犬猫くらいの大きさの動物――四肢の間に広げた膜を使って空中を滑空する獣の襲撃を受けた。

 頭上に張り巡らされた枝の間から、突然襲いかかってきたのだ。

 ウィッチの操る魔法の風がそれらの獣を叩き落とし、教官と学者がとどめを刺していく。

 

「いや、この時点で結構強くねえか?」

「同感です。先が思いやられますね」

「学者が弱気な発言とは珍しいな」

「色々と、嫌なことを思い出したんですよ……」

 

 学者はこの先の危険さを予見するかのように、深刻な表情を見せた。

 その後しばらく進み、とある樹の前で教官が立ち止まる。

 

「この樹をよく見てみろ」

「ん……? なんか違うような?」

「光、少なくない?」

「他の樹は迷宮石でいうところの発光石の役割を担っているが、この樹は降魔石の性質を持っている」

「つまり、この周りには魔物が近寄らないのですか?」

「そうだ」

 

 迷宮における安全地帯。

 第一階層で通路に魔物が出ないのは、床材に魔物避けの石が用いられているからだ。

 改めて、その重要性が教官の口から語られた。

 

「あー、そういう仕組みだったのか」

「その石。持ち帰れば、魔物避けに、なる?」

「残念ながら、元の場所から動かしたら無効です。降魔の障壁は失われた技術ですので」

「その通り。もちろんこの樹を切り出したところで同様だ。そしてここからが肝心だが、この樹の性質は時間と共に変化する。この場で眠っていたら、いつの間にか効果が消えていた、ということも起こり得る」

 

 つまり、同じ場所にずっと留まって72時間をやり過ごす、という攻略方法は使えないのだ。

 

「えっと、この樹が出現する場所とか時間に法則はあるんすか?」

「ない。その都度探すことになる」

 

 少しの沈黙の後、学者が口をひらく。

 

「もし仮に……人為的にこのような安全地帯を作り出せたなら、この試練は簡単に突破できるのではないですか?」

 

 それを聞いたバリスタとウィッチは首をひねる。

 そんな方法は無いと、学者自身が言ったばかりではないか。

 しかし教官は、その疑問にも真面目に返答した。

 

「何らかの手段を用いて半永久的に魔物をやり過ごした場合、試練突破とは見做されない。かつては降魔樹の出現にも法則性があったのだが、それを利用した攻略法は無効とされ、試練の内容はより難しいものへと変化した。今貴様が考えた方法は、恐らく逆効果でしかない」

 

 ――なんだそりゃ。

 

 知恵を絞って攻略しても、相手が納得するような方法でなければ合格ではないというのか。

 なんという不公平性。そして悪い意味での人間臭さ。

 そう。バリスタが薄々考えているように、()()()()()()()()には明確な意思があるのだ。

 

「今日はこの降魔樹のことだけでも覚えておけ。そろそろ引き上げるぞ」

 

 

 

 

 3日後。2度目の三層挑戦(アタック)の日。

 6つの班は、今度は正規登塔士の先導なしに、自分たちの力だけで三層に滞在しなければならない。

 

 見習いたちはそれぞれ、森林訓練で用いられたものと同じアミュレットを携帯している。

 所有者の居場所と状況を術師が特定できる呪符魔法だ。

 ただし、この試練では不正のしようが無いので半ば無意味。

 救助の必要ありと判断された場合は、たいてい手遅れというおまけ付きだ。

 

「試験結果に反映される滞在時間は、最も長く滞在した回の時間だけだ。よって、最初のアタックから長時間滞在する必要はない。じっくりと観察することが、無駄な死を回避するコツだ」

 

 教官からの教え通り、各班は6時間ほどで探索から帰還した。

 最長は4班の8時間だったが、ほとんどは降魔樹の近くで過ごした時間だという。

 バリスタたちも安全地帯を探したが、この日は一度も見つけることが出来なかった。

 

 

 

 更に3日後。3度目のアタック前。

 

「滞在時間の異なる者同士が合流した場合、常に挑戦者側に不利な条件が適用される」

 

 同日出発の理由を聞いた見習いに対して、教官はそう答えた。

 例えば三層に侵入したばかりの挑戦者と、1日以上滞在した挑戦者が合流したとする。

 その場合、合流した者たちに襲いかかる魔物は、1日以上経過した挑戦者に対するそれとなる。

 

「半壊したパーティ同士が迷宮内で合流して生還した例もある。条件が異なるパーティ同士では、片方が協力しないという危惧もあるだろう」

 

 侵入して間もないパーティが、長時間滞在したパーティを追う魔物を押し付けられたらたまらない。

 そういうことだろう。

 緊急時に助け合えるよう、出発日時は出来るだけ同じ時間とされているのだ。

 

 この日バリスタたちは、三層内の上階へと探索の幅を広げた。

 上の階といっても、そういう建造物があるわけではない。

 木々の枝で構成された床を上がっていくと、上階部分に相当する高さまで塔内を登ることが出来る。

 そのような構造が上へ上へと続いているのだ。

 

「塔の外装から推測するなら、この階層にある樹木は最高30から40メートルということになりますか」

「上に登る意味、ある?」

「安全地帯が見つからなけりゃ、登らざるを得ないんじゃねえかな」

 

 試験開始から10時間。

 現れる獣の強さは徐々に増している。そのうち歯が立たなくなるかもしれない。

 この階層では、敵から逃げ続ける能力が求められている。

 

 安全地帯を発見はしたものの、一泊して滞在し続けるには準備不足なのではないか。

 誰からともなく、その日は帰還する方向で話がまとまった。

 

 

 

 

 10月も半ばに差し掛かる頃。4度目のアタックが開始される。

 

 この回の探索でバリスタたちは、降魔樹の観察に力を注ぐ。

 安全地帯の効果時間を発光の様子から推測するため、降魔樹のそばで休息しつつ過ごした。

 

 光っている部分が多くなるほど残り時間が減少し、やがて他の樹木と区別が付かなくなり効果が終了する。

 それ自体は教官から教わったことだが、見ただけで残り時間を推測するには慣れが必要だ。

 

「2本目の降魔樹、見つけた」

「ツイてるな。最長記録いけるか?」

「効果の残りは4時間ほどですかね。休息した後、すぐに引き返しましょう」

 

 帰り道に出会った獣の群れは手強く、学者が初めて呪符魔法を披露する。

 煙を撒き散らして敵の感覚を鈍らせるというその魔法の効果により、バリスタたちは辛くも逃げおおせた。

 第二階層への脱出時の時間は16時間。

 現時点で2位の成績である。

 

 1位の19時間を記録した4班は、死者こそ出さなかったものの。

 3名の班員が試験の続行を拒否し、同班は今回の探索を最後に棄権することとなった。

 

 

 

 5度目のアタック。

 バリスタ班の休息中での会話にて。

 

「きたねえよな、迷宮はさ」

「どゆこと?」

「なんでもかんでも挑戦者が不利なように試練のルールを設定して、抜け道を見つけても無しにしちまうんだぜ?」

「悪徳領主、みたいだねえ」

 

 挑戦時間は20時間を超過しているが、慣れとは恐ろしいもので、バリスタとウィッチの会話には余裕すらあるように見えた。

 学者がその会話に口を挟む。

 

「否定はしませんが、逆ということもあります」

「とゆうと?」

「迷宮はその気になれば、最初から強い獣をけしかけてくることも出来ます。つまり、我々は手加減されているんですよ」

「なんでそんなことすんだ?」

「古今、試練というものは――必ず突破できるよう、作られているものだからです」

 

 この迷宮の敵を影で操る、黒幕のことを信用している。

 学者の発言は、そのような意味に聞こえないこともない。

 

 この回の試験でバリスタ班は24時間――丸一日の壁を突破したが成績は惜しくも2位。

 最長記録である28時間を記録した3班は、これ以上の成績は望めないとして、今回を最後に試験から脱落していった。

 

 

 

 6度目のアタックに挑むパーティは全4班までに減った。

 ここまで残った者たちは皆引き際を弁えており、第三階層の仕組みを少しずつ飲み込んでいく。

 

 全ての班が滞在時間30時間を突破した。

 更にバリスタたちは、試練達成に必要な72時間のうち半分――36時間を記録し試験成績1位となった。

 これは快挙ではある、が。

 

 ――これでもまだ半分なんだよな。

 

 出現する獣の手強さを思えば、滞在時間は限界に近い。

 こんなものが学者の言う突破可能な試練だとは、とても思えなかった。

 

 

 

 それから3日後の試験日。

 ネームレスタワーに向かう前、全員が揃っていない状態で教官が告げる。

 

「第6班の班員たちが棄権し、同班は解散となった」

 

 皆が意外な報告に耳を疑った。

 この試験が開始された頃、6班は最も有力なパーティだと予想されていたからだ。

 わけてバリスタは衝撃を受ける。

 

「ブッシュワーカーの班が、棄権……?」

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