酒呑みの鬼神   作:産地直送の焼き鳥

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今は昔、「酒呑童子」と云ふ妖、ありけり

 「さて、今日の授業は呪術高専に登録されている16体の特級呪霊について、だ」

 

 東京の奥地に存在する隠蔽された公立の機関、東京都立呪術高等専門学校。

 昼ごはんを食べて眠気が出てくるような時刻。昼がかりに差し込んだ時刻にて、一つの教室で三人の生徒と一人の教員が授業を行っていた。

 一つの教室内に三人しか生徒がいない、と言うのは何も知らない人間が見たら、疑問に思うだろう。しかし関係者にとってはよくわかる問題だ。

 呪術が使える人間は極めて稀少だ。さらに楽な方向へと逃げたり、補助監督などに発見されず、呪術高専に通えていない者たちもいるため、これだけ少ないのも納得であるだろう。

 

 「五条は家で習っているのだろうが…、夏油と家入は一般出身だ。ここら辺の詳しい話は知らんだろう」

 「先生ー!俺もわかりませーん。教えてくださーい!」

 「なぜお前が知らんのだ、五条!」

 「冗談ですって先生、落ち着かないと血圧上がりますよ?」

 

 教卓に立つヤクザのような容姿をした男、夜蛾正道が話し出す。それに対して白髪と青眼を持つ青年、五条悟がふざけて答える。

 そんな五条の回答に残り二人も苦笑する。

 

 「ははっ、悟。そんなに煽ってはダメだ。先生最近髪の白髪具合気にしているんだから」

 「傑、お前も結構煽ってね?」

 

 一般の家からの出身であり、呪霊操術を持つ青年、夏油傑。そして夏油に対して唯一の紅一点、タバコ好きな家入が物申した。

 夏油は「あ」と口を開けているが、反省するような気配はない。

 

 夜蛾正道は拳骨を落とそうか、と思いながらもひとまずは授業を進めることにした。

 ため息を吐いてから、高専の専用資料室から取り出してきた資料に目を落とす。

 

 「基本として特級、と認定される定義としては一つの都市を壊滅させることが可能。という呪霊を特級と認定している。現代兵器が呪霊に効くと仮定した時、クラスター爆弾でトントン、と言うのは先日授業でやっただろう」

 

 こんな不真面目な生徒たちではあるが、頭脳面ではすこぶる頭がいい。

 公立の高校でそんな態度で受けていたとしたら一発で補導となるだろうが、ここは呪術高専。そんなこと気にする奴もいないし、夜蛾も覚えていれば良いと気にしていなかった。

 

 「そして高専資料庫に登録されているのはその中でも強力な個体だったり、祓われてからの復活のサイクルが早いもの、都市伝説と深く関わっていたりするものだ。

 例として挙げるならばゴキブリへの嫌悪から生まれた『黒沐死』、玉藻前の伝承から生まれた『化身 玉藻前』、近年中高生の間で流行ったコックリさんから生まれた『狐狗狸』などが登録されている。後は天然痘への恐れから生まれた『疱瘡神』などだ。基本としては動物、都市伝説や伝承、病というものが特級になりやすいとされている」

 「そういやー夜蛾センセー」

 「どうした家入」

 

 夜蛾がデフォルト化されたゴキブリや狐、女性と言った絵を黒板に描いている途中に、家入が夜蛾に質問した。

 五条と夏油は桃鉄99年をやって徹夜をした結果、鈍り切った頭に降りかかる眠気を振り払いながらちょっとだけ話に耳を傾ける。

 

 「なんで自然とかの呪霊がいないんですか?」

 

 家入がそう言いながら指差したのは、配られた資料に書かれている「特級呪霊の名簿」。そこには一つも自然由来、海、大地、空、森といった古来からの恐怖の対象の存在が乗っていなかった。

 

 「いい質問だ、家入」

 

 よく気がついたな、とでも言わんばかりの笑みを浮かべて家入を褒める。最も赤ん坊が見たらすぐさま泣き出すような、と言う枕詞がつくが。

 夜蛾は家入の質問に答えるべく、黒板に絵を描いていく。

 

 「現時点において大地、大空、海といった大自然の類や鹿や熊、蜚蠊などの種類の区別でない、獣・虫といった大雑把にまとめた呪霊は確認されていない。

 理由としては二つあるとされている」

 

 やっとのことで生徒三人は真面目そうな表情をして黒板を見つめている。

 暑い日差しが教室内に差し込んでいるなかで、さらに夜蛾の話は続く。

 

 「一つ目の理由。そもそも大雑把にまとめられた呪霊は誕生しないという説。虫、獣といった大きい範疇ではなく、熊、蜂、ゴキブリなど分散して顕現するという説。しかし私はそれほどこの説を信じていない。なぜならば楽観的すぎる。

 二つ目の理由は向けられている感情が大きすぎるということ。そこに注がれる恐怖、畏怖、絶望、怒りといった感情の量が大きすぎて器が完成していないという説だ。私はこちらの方を信じている。

 前者の説ならばまだいいかもしれない。しかし後者の説ならばーーー」

 「数百年分の感情が積もった特級が生まれる、ということですか」

 「正解だ夏油」

 

 夜蛾の論弁を先取って夏油が答え、それに夜蛾が正解を出した。

 登録されている呪霊よりもはるかに強いかもしれない呪霊が生まれるという説。しかし夏油と五条は不適な笑みを浮かべながらこう言い放った。

 

 「大丈夫でしょ。だって俺らーーー」

 

 

 「「最強だから」」

 

 

 その言葉に家入は笑って。夜蛾はため息をついて。

 ひとまずは教室内に和やかな空気が入り込んだ。

 

 「お前らは実力に基づいているからいいが…、あまり慢心するなよ?

 まあいい。次に進めよう」

 

 夜蛾が少し忠告するが、二名は気にした様子はない。

 失敗した時に盛大に叱ってやろう、と思いながら授業を再開する。

 

 「さて、これまで呪霊について。術式や呪符、結界術について。呪術界における役割や役職について。そして昨日は『両面宿儺』について、今日は特級呪霊について話してきたが…。ここからは特殊な特級呪霊について話をする」

 「「「特殊な特級?」」」

 

 夜蛾が言った理解できない部分が出てきたため、三人の声がハモる。

 なぜなら特殊な等級の呪霊だから特級呪霊なのだ。そのなかでも特殊とはいかなるものであるのか。

 五条悟も実家でそんな話はされたことがない。

 三人とも先程とは比べ物にはならないほどに集中して夜蛾先生の話を聞く。

 

 「その特級呪霊の名は『酒呑童子』。かの源頼光が倒したとされる、平安の時代に京の都で暴れ尽くした大妖だ」

 「すみません先生」

 「どうした夏油」

 

 夜蛾の発言に対して夏油がふと疑問に思い、手を挙げる。

 

 「どうした夏油」

 「どうして特級”仮想”怨霊ではないのですか?『酒呑童子』は伝承上の存在でしょう?もしかして先生ボケました?」

 

 ブフォ、と音を立てて夏油の隣の席に座る五条が笑うが、夜蛾は対して気にした様子はない。そればかりかその凶悪な顔の頬をあげ、答えた。

 

 「いいや夏油。特級呪霊で合っている。なぜならばコイツは伝承が先に生まれたのではない。先に『酒呑童子』という特級呪霊が生まれ、その後伝承が作られたのだ」

 「「「へぇー」」」

 

 素直に三人が驚いた。その後家入は間違えた夏油を弄り、夏油は飄々とした態度をそのままに受け流した。

 しかし驚くのはまだ早かった。

 

 「お前ら配った資料の17pを見ろ」

 「へ?えーっと…、うわ痴女やん。…ってコイツが『酒呑童子』!?」

 「マジか…」

 「センセーwww、こ、コレ資料ミスじゃないですか?」

 

 夜蛾に言われてみた17pには、誰がどうみても痴女と言える格好をした少女の絵が載っていた。それをみて家入は爆笑し、五条と夏油は純粋に驚いている。大部分は人間といえるが、ただし常人とは決定的に違う点が一つ。

 額に赤々としたツノが一対生えていた。

 

 「いいや、合っている。一般社会に出回っている『酒呑童子』の写真は偽造されたものだ。理由としては噂によって本物の『酒呑童子』をこれ以上強化させないため、だ」

 「え?センセー!『酒呑童子』は源のなんちゃらに祓除されたんでしょ?それだったら気にする必要なくない?」

 

 夜蛾が家入に答えるとすぐさま五条が問い返した。

 五条の質問は真っ当である。祓われていない呪霊に再度恐怖などの感情が向けられれば、格が上がってしまう。しかし祓除された後に発生するのは、伝承から生まれた特級仮装怨霊。本物よりもはるかに劣る。

 しかし五条は先程夜蛾が「特級呪霊『酒呑童子』」と言った所以を忘れている。

 

 「必要があるのだ五条。それと源頼光、だ。

 平安時代安倍晴明の協力の元、源頼光一行が『酒呑童子』を討伐した、と史実にはのっている。しかし本来は討伐していない。封印だ。」

 「え、ほんと?」

 

 予想していなかった答えに、五条は驚きを隠せず声を上げる。

 なぜなら五条家には呪術の歴史書が大量にある。その中には当然源頼光の活躍も載っており、『酒呑童子の討伐』以外にも強大な呪霊を倒した記録が載っていた。その記録からでも十分強さは伝わってくるため、五条悟も幼い頃戦ってみたいと思っていた。

 だからこそ他二人よりも驚きが隠せなかった。

 

 「『酒呑童子』は呪の王と称される『両面宿儺』とも交流があったらしく、その力は強大だった。源頼光以下五名が死力を尽くして戦ったが、『酒呑童子』のみ倒せず安倍晴明の協力の元、特級呪具『神便鬼毒酒』の中に封印されたのだ。

 今もなお『酒呑童子』の本拠地とされる大江山の近くの神社に、一般には秘匿されながら高専の監視の元封印されている」

 

 一般出身の夏油、家入はあの『酒呑童子』が女性であった、という事実に驚愕し、御三家の一つ『五条家』産まれの五条は源頼光が討伐できなかったと聞き驚きを隠せなかった。

 五条の驚きは源頼光が討伐できなかったことではなく、源頼光以下五名を合わせて討伐できなかった、ということ。

 

 大江山に向かった者たちは当時の都で一騎当千のものたちばかり。かの『金太郎』で有名な坂田金時も討伐に向かっていた。

 だというのに討伐できず封印。

 親友である夏油と自分、最強である二人でならば倒せると思ってみたはいいものの、せめて『赫』、欲を言えば『茈』が欲しいと感じていた。

 それと家にあったのは遠縁に当たる源頼光の体面を取り繕うためのものだと感じ、正史の資料を当主となったら取り寄せようと感じたのであった。

 

 「それと『酒呑童子』に関して伝えねばいけないことはまだある。例えばーーー」

 

 夜蛾が口を開こうとしたと同時に終わりのチャイムが鳴る。

 

 「むっ、時間か…。少し中途半端だが仕方がない。夏油と五条には任務が。家入には治療の依頼が入っている。それにそろそろ繁忙期だからな。次できるのは…一週間後、と言ったところだ」

 「えー、そりゃないよ夜蛾センセー!中途半端だしさぁ。もっと聞ーきーたーいー!」

 

 珍しく五条が授業に興味を示して、駄々をこね始めた。

 新たな強い奴候補を見つけられて嬉しいのだろう。ただまあ男子高校生が駄々をこねるほど見苦しいものはないが。

 

 「私ももっと聞きたいですわ!夜蛾正道様!」

 

 それに便乗して夏油が裏声を使い、お嬢様口調で授業を要求する。

 当然家入は「きっしょ」、と笑ってはいたが。

 

 「いいや、任務が先だ。そんなに授業が受けたいならば後でテストを作ってやろう!

 では解散!」

 「うえっマジかよ」

 

 そんな声が教室に響きながらも、なんか締まらない形で今日の呪術高専二年生たちの授業は終わったのだった。

 

 

 

 

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二年生呪術科目授業における資料 16p

東京都立呪術専門高等学校 専用資料庫 『特定済み特級呪霊』より

記録番号:壱 特級呪霊『酒呑童子』

 

京の都にて暴虐を繰り返したため、安倍晴明、藤原保昌、及び源頼光とその部下四名に対し、討伐任務が一条天皇から下された。

結果としては都随一の呪具職人『仙人』作の特級呪具『神便鬼毒』の中に封印。

大江山付近の鬼嶽稲荷神社を『酒呑童子』以外の三体の鬼の神社として、酒呑童子の封印箇所を隠蔽。

天元様に協力していただき、『隠す結界』を設置。結界内に神社を設置して、神社本殿・鳥居・灯篭・木々と池を外郭、『酒呑童子』が封印された特級呪具『神便鬼毒』を核として封印機構を作成した。

以後『桜華園家』が封印及び結界の管理を行うものとする。

 

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同書類 17p 『酒呑童子 立ち絵』

黒鮮やかな小学生くらいの身長である女性の絵が描かれている。その姿は鮮明に描かれており、細部まで手が加えられていることがわかる。

額には一対のツノ。着物を着てはいるがギリギリを攻めるような服装であり、胸の部分は大部分が隠せておらず、際どいところだ。

足にも装飾らしきものをつけており、美しさとともに華奢な印象を受ける。

 

 

 

しかし六眼持ちの五条には見えた。対面していないにも関わらず、その絵からくる強大さを。




今回は竹取物語から

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