「遂に、だな」
「遂に、っすね」
「……?」
広大な土地があった。
迷宮が発生し、人間の生息域が大きく制限されたイスラリアではありえない程、雄大な土地だった。その上に広がっていたのは、畑である。恐らく地の底に埋まっているのであろう植物たちの頭だけが、ひょっこりと顔を覗かせている。
その目の前に、ウル、ジャイン、ラビィンが並び立っている。
今までの深刻な状況にあった夢の中とは全く違う様相を呈した光景に、ウルは首を傾げる。だが、何となく何が起きているかはわかっていた。ジャインの趣味──家庭菜園が、拡張された果てなのだろう。
「収穫だ。気を抜くなよ、ウル」
「……あぁ」
ただ植物をひっこぬくだけの作業で気を抜くも抜かないもあるのかと聞いてみたかったが、やめた。ジャインの瞳は嘘を吐いているようには見えなかったのだ。
「行くっすよ~!」
ラビィンが元気に畑へと駆け出し、そうして収穫は始まったのだ。
◆
といっても、収穫は収穫だ。
抜いても出てくるのは単なる野菜だし、普通にしていれば終わ……
「あ、それヤバいっす」
「え?」
ラビィンの直感。時には予知にも至る程のその力が捉えたのは、単純な命の危機。
ウルが引き抜いた植物は、作物というよりも何というか、蛸であった。八つの触手をうねうねと動かしたかと思えば、ウルに向けて口をすぼめる。そこまで来れば、直感も未来視も必要なくこの先起こる出来事を予測できるというものだ。
「【揺蕩え】!」
蛸の口から放たれた墨。
それが、空中で狂い、あらぬ方向へと吹き飛んでいく。
地面に着地した墨はただ汚れを巻き散らかすのみかと思われたが、その結果は意外にも。
「「うっわ」」
墨が付き、
いくら冒険者と言えど、強酸に当てられて無事で済むはずもない。
「……殺していいのか?ジャイン」
「良いが、打撃では殺すなよ。味が落ちる」
「食うのかよ」
これを???
◆
「おい、しょっと!」
一際重たい植物を引き抜く。
そこから現れたのは、頭蓋。というか、人間まるまる一つの骨だった。
普通の人間が見れば泡を吹いてひっくり返ってもおかしくはない光景なのだが、ウルはその見覚えのあるしゃれこうべに一つ溜息をつき、問いかけた。
「何やってんだ、ロック」
『カッカッカ!!』
「……ジャイン、お前の作物だろ。どうにかしろ」
「骨の種を埋めた覚えはねぇ」
『手伝ってやろうか?』
妙に協力的な骸骨が仲間になった。
ちなみに、分身じみたことができるというロックの性質上効率が何十倍にも膨れ上がった。こいつもこいつで結構インチキだな……と思いながら、これと相対しなければならないかもしれない未来の自分に思わず呆れてしまった。
「ロック」
『なにカの?』
「ホントに、悪かったな。アレに付き合わせて」
『……ん?』
きょとん、と首を傾げるロックを前に、少し決意を固めなおして。
◆
「最後だな」
「ここまで長く……は無かったっすね」
「ロックが居たからな」
最後。
全員が全員、見て見ぬふりをしていた作物が今目の前に在る。それはジャインの巨体から見ても尚巨大な、大きすぎる作物だった。
「……埋めた覚えは?」
「ある」
「そうかよ」
ロックのような紛れものではないらしい。
ならもっと問題だが??
「……っし、行くぞ」
全員が手をかける。
小さな子に好まれる童話のように植物に手をかける四人だが、そこから現れたのは……
「まぁ、知ってたよ」
「そうっすよね」
『やっぱりじゃな』
「埋めたからな」
予想の通り、デカい蛸だった。
「構えろ!!」