艦隊これくしょん―軽快な鏑矢―   作:オーバードライヴ

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ホワイトデー編のその後とかいろいろをショートショート風に

1時間クォリティ、期待してはいけない。
ホワイトデー編はいっこ前をご覧ください。

それでは、抜錨!


おまけ それぞれのホワイトデー

□笹原の場合

 

「あー、タカ君は結構デスクワーク派だと思ってたのになぁ……」

「そりゃ司令官が悪いでしょ」

 

 背中を丸めて笹原は木に手をついていた。その横に飛び降りてきたのは川内である。木から木へ飛び移りながら逃げていた(もっとも高峰氏は笹原一人に狙いを定めていたためあまり意味はなかった)のだ。

 

「やっぱり“いやーメンゴメンゴ☆”が駄目だったかなぁ」

「それ以前の問題でしょうが司令官」

 

 じとっとした目で睨めば笹原は頬を掻いた。

 

「まぁ、常識的に考えればホワイトデーの買い出しだよねぇ、青葉の口車に乗った時点で先は見えてるよ」

「よく言う。……わかっててやってたんでしょ?」

「さっすが……よく見ていらっしゃる、川内さんよ」

「本気でトレースすれば司令官なら見つかることなく行ったし、そもそも追いかけなかったでしょ?」

「まぁね。でも気になってたのは確かだよ」

 

 丸めた背を伸ばすと逆に伸びをする。

 

「さってと、後で詫びの酒でも持っていくかな。タカ君、昔の筋も使って最短で助けてくれたみたいだし」

「へぇ、司令官がお酒なんて珍しい」

「そう? けっこう好きだよ。でも私はあんまり強くないけどね。でも“仕事柄”お酒の味と良さぐらいは知ってないとダメだからね」

 

 そういう笹原の顔は川内にとっては見慣れない顔だ。“その顔”は川内の知らない仕事を語るときの顔だ。

 

「そうだ、川内。この後一杯付き合ってよ。君が持ってきてくれた呉鶴を空けようじゃないか」

「私飲んだことないよ?」

「艦娘のあんただから酔っても大丈夫でしょ。最悪修復材叩き込めばすぐ出撃できるようになるんだし」

 

 笹原はそう言って川内の肩に手を回した。

 

「こっちの世界の前哨戦、とでも言おうかな。まぁ話さなきゃいけないこともあるしね」

「無理矢理送り付けたチョコフォンデュのお返しに乾杯、かな?」

「そんな感じだ。委員長とあの子に、祝杯の前倒しといこう」

 

 これは最初からこのつもりだったな。川内はそう思って溜息をついた。それでも口角が上がる。まんざらでもない自分に少し驚いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆渡井の場合

 

 同刻、呉。

 

「た~いげい!」

 

 後ろから抱きつくようにして手を回してきた司令官に大鯨は冗談じゃなく10数センチ飛び上がった、

 

「ひやぁっ! わ、渡井提督っ! いきなり飛びつかないでくださいよっ!」

「仕事中じゃないから階級も敬称もなしって言ったよね?」

「……わかりましたからっ! 渡井さん、割烹着の中に手を入れようとするのやめてくださいっ!」

「はーい」

 

 普段は優秀な潜水隊司令なのだが、と大鯨は肩を落とす。

 

「それで、渡井さんはどうしたんです?」

「いやなに、今日、3/14は何の日かなぁって」

「……数学の日?」

「なんでそんなマイナー所が出てくるのかは聞かないでおくよ。普通はホワイトデーって言うんじゃないの?」

 

 渡井はそう言うとポケットから小さな箱を取り出した。

 

「じゃあ行くよ」

 

 そう言ってその箱を空中に放り投げ、落ちてきたそれをキャッチする。

 

「どっちだ?」

 

 大鯨の前には同じように握られた彼の両の手が差し出されていた。どちらに持っているか当ててみろと言うつもりらしい。

 

「……では、左で」

「―――――やっぱり大鯨にはかなわないなぁ」

 

 彼が左手を開くとそこには小さなコイン。それが立体の像を立ち上げると小さな箱が現れる。その箱が空中でくるくると回って、かぱっと開くと中から現れるのは……銀の指輪。

 

「よくできたホログラムですね」

「そう? そう言ってくれると嬉しいね」

 

 渡井はコインに触れてその像を消す。そのコインを大鯨に渡してその肩を叩いた。

 

「―――――こういうのは遊びでも男は本気だったりするんだよ?」

「え?」

 

 じゃぁ、しおいたちにもお礼を渡してこなきゃねと彼は去っていく。

 

 残された大鯨は渡されたコインをまじまじと見て裏返した。息をのむ。

 

 

――――――いつか本物渡すから今はこれで勘弁。

 

 

「……もう、提督ったら」

 

 大鯨は小さく笑ってそれを強く握りしめた。金属のコインが自らと同じ体温になるまで、強く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

■杉田の場合

 

「よう」

 

 開けっ放しのドアを律儀にノックして杉田は武蔵の部屋を覗き込んだ。

 

「開けっ放しとは不用心じゃねぇか」

「私がいるときにしか解放しないし、とられていいモノしかないのでね」

 

 それに、不届き者に負けるつもりもないしな。と武蔵は笑う。

 

「それでもお前は一応性別女だろうが」

「おや、兵器に性別を付けるのかい?」

「昔から英語圏では船の代名詞はSheと決まってるんだ」

 

 杉田はそう言うと背中側に隠し持ってた箱を取り出した。

 

「それに、兵器は上官に贈り物をしないし、送られた上官はお返しをしようなんて思わない」

「……なんだかんだ言って勝也は保守的だね」

「そうかい?」

 

 杉田はそう言って肩を竦めた。その反応がいかにも杉田らしいと思いながら武蔵は受け取る。

 

「……それで、勝也は何を贈ってくれるのかな?」

「開けてみろ」

 

 それなりにサイズのある箱を開ければ、中には小さなビンやランプ、キャンドルが詰まっていた。シンプルなデザインのそれらを見て武蔵は首を傾げた。

 

「……これは?」

「アロマランプ。知らんのか?」

「アロマ……香油を焚くのか?」

「そこからか……」

 

 武蔵の反応に頭を掻く杉田。

 

「しゃーない。使った方が早いな」

 

 杉田は武蔵の手からアロマランプを取り上げると武蔵の部屋の奥のベットサイドにある小さなローテーブルにそれを置いた。

 

「なぁ、武蔵。お前は兵器としての一面もあるだろう。それでも戦場を離れている間はそれだけじゃなくてもいいんだぜ?」

「……そんな気障なセリフ、どこから拾ってくるんだか」

「いいじゃねぇか。男の意地もあるんだよ」

 

 杉田はそう言うとアロマランプの天板に数滴オイルを垂らした。左手一本でアロマの入ったガラス瓶の蓋を閉じつつ、右手でマッチの箱を取り出した。それを器用に右手一本で擦った。その火をキャンドルに灯す。

 

「オイルはカモミール・ローマンだ。……って言ってもわからんか」

「まぁな」

「だろうな」

 

 杉田は武蔵を手招くとベッドに座らせた。

 

「……リンゴのようなにおいがするんだな」

「カミツレ自体の語源が大地のリンゴだしな」

 

 横に腰掛けて杉田がそう言った。

 

「……香りを楽しむことなんて、なかったからな。なんだか新鮮だ」

「そうかい」

 

 杉田が僅かに笑った。その肩に武蔵が頭を預ける。僅かに驚いたような表情を杉田が浮かべれば、彼女は上目づかいでそれを見返す。

 

「……嫌、だったか?」

「すこし驚いただけだ。……清霜あたりが見たら腰抜かすぞ」

「戦場から離れている時は兵器じゃなくてもいいんだろう……?」

「あぁ……いいぞ」

 

 その後は言葉もなかった。ゆっくりと夜が更けていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇高峰の場合

 

「うぅ……ひどい目にあいましたねぇ」

 

 青葉は疲れ切った顔で自分のデスクに戻ってきていた。

 

「笹原中佐が捕まるなんて予想外でした。これさえなければ今ごろ寝れたんですが……」

 

 笹原を解放するために他の案件を放り出して高峰が対処したため仕事が残っているのだ。高峰はそれを青葉が処理することを条件に不問に処すと言いつけた。

 

「まぁ、楽しいところ見れたんでいいですかね」

 

 青葉は目の前の仕事の量を見て笑った。……なんだかんだ言って自分の上官がある程度仕事を減らしていることに気がついたのだ。この量なら2時間もあれば終わる。

 

「……あれ?」

 

 仕事を片付けようとデスクの引き出しを開けると入れた覚えのないものが入っていた。

 

「全く、高峰さんったら」

 

 小さく笑いがこみ上げる。紙袋に入ったそれにシールで張られたメモには『休息と食事だけは抜くなよ』とだけ書かれている。中身を見れば裸のクッキー。一枚口に含むとホロホロと崩れて砂糖と小麦の素朴な味が広がった。

 

「なんだかんだでこういうところ、嫌いになれないんですよねぇ……」

 

 青葉はそう言って食べかけをさっくりと全部口に含んだ。

 

「さて、さっさと終わらせてゆっくりコーヒーでも飲みながら残りを頂きたいものです」

 

 青葉は1時間半で仕事を終わらせることを決意しながら目の前の書類に向き合った。

 

 

――――――だが、その通りにはいかない。

 

「やっぱり動きますか……」

 

 青葉は目を細めた。

 

「さて、前哨戦が始まる前には面子を揃えないとだめですかねぇ」

 

 徹夜(オール)の気配を感じさせる情報に青葉は前倒しで珈琲を淹れるのだった。

 

「……笹原中佐に連絡入れますか」

 

 

 

――――――新たな物語の歯車が転がり出した瞬間だった。




ホワイトデーの司令官勢でした。
蛇足かと思いましたがカッとなってやった、後悔はしていない。

ちなみにこの話勝手にエーデリカ先生の『艦隊これくしょん~鶴の慟哭~』のホワイトデー編(第三章嘘予告)とリンクさせてもらっています。エーデリカ先生すいません。

感想・意見・要望はお気軽にどうぞ。
それでは次回お会いしましょう。
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