艦隊これくしょん―軽快な鏑矢―   作:オーバードライヴ

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さて、新年度のスタートですね。
自分は最後の大学生活に突入です。
皆さんにとって幸多き年度になることを願っています。

……という割には最初からネタ回な訳ですが。
さて、4月1日、新年度初の投稿は軽快に参りましょう。

それでは、抜錨!


榛名「嘘は男と女のスパイスですから」

 

 

 

◆初霜の場合

 

「司令官、おはようございます!」

 

 新年度が始まった一日目、四月一日、航暉は袖のモールなどを張り替えた新品の制服を着て横須賀鎮守府の司令部棟を歩いていた。

 

「おはよう初霜。今日から横須賀528か」

「司令官は……って、もう司令長官と呼ばなきゃいけないですね。司令長官は今日から第50太平洋即応打撃群ですね。ご栄転おめでとうございます」

「なんだか他人行儀だな、所属部隊は違うとはいえ、いつも通りでいいぞ」

 

 航暉が小さく笑ってその頭を軽く撫でた。初霜が一瞬頬を赤くする。それと同時に後ろを歩いていた電の眼が一瞬細められたことには初霜も航暉も気がつかなかった。

 

「で、調子はどうだ?」

「それなんですが……」

 

 初霜は僅かに目線を伏せた。その表情が航暉の不安を掻き立てる。

 

「お前なんでこの部隊に来たんだ? って言われてしまって……」

 

 それを聞いた航暉が振り返る、電がうなづく。

 

「――――――よし、528の司令部は2階だったな」

「なのですね。天龍さんあたりも呼ぶのです?」

「連絡頼む」

「すいませんごめんなさい! 冗談です! エイプリルフールです!」

 

 焦る初霜。それに笑い返す航暉。

 

 

 

 

 今日は4月1日、エイプリルフールである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇漣の場合

 

「まさか初霜があんなことを言うとは……」

「だから部屋を出た後すぐに忠告したのです。でも、あれはつく嘘が悪かったですね。今日だけは疑ってかかった方がいいのです」

 

 電は苦笑いを浮かべてそう言った。「そうするよ」と航暉は肩をすくめて下士官食堂に足を踏み入れた。准将の航暉は本当ならば担当士官がボーイについた白いテーブルクロス付きのテーブルで豪華な朝食を取るのだが、初日早々断っていた。断るにも理由がいると言うことで、航暉と電はこれから艦娘たちの各旗艦を集めての朝食会議(パワーブレックファスト)の予定を組でいる。簡単なブリーフィングと朝食を兼ねて下士官食堂の一部を借りて行うことになっているのだ。

 

「やはり混んでる時間なのです」

「これでもラッシュは外したんだがな」

 

 横須賀鎮守府の食堂はでかい。ここは艦娘とそれに関わる人員だけが使えるにしろ150席をゆうに超える席はほぼ埋まっていた。

 

「あ、月刀さんだ~」

 

 入り口をくぐったところで声を掛けられた、航暉がそちらを向くとピンク色の髪が揺れていた。

 

「ぼのぼのが花見でお世話になったみたいですね~。ありがとうございますですよ~」

「だれがぼのぼのよ!」

「……相変わらずだな漣も」

「いやぁ、三つ子の魂百までって言いますからねぇ」

 

 漣が背もたれに体重を預けるようにして上下逆さまに振り返っていた。その向かいで顔を赤くする曙が漣に突っかかる。

 

「それで~? 海大時代の私を娶ってくれるって約束、いつになったら果たしてくれるんですか?“御主人様”?」

 

 その瞬間、航暉の左後ろからぞわぁ……と妙なプレッシャーが沸き上がった。横目で見なくてもわかる。我らが太平洋即応打撃群総合旗艦、電から稲光が出そうな雰囲気になっている。

 

「司令官さん……」

「いや違うから」

「御主人様は薄情ですねぇあんなことやこんなこと、漣は頑張ったのにぃ~」

「司令官さん」

「だからそんな約束してないからな」

 

 電あたりの気圧が急激に下がっていく。あほくさと溜息をつく曙や慌てる潮、われ関せずの朧あたりは視えていないらしい。

 

「しーれーいーかーんーさ―――――ん!」

「いやだから落ち着け電――――ごふっ!」

 

 腰の入った本格的なパンチが航暉の鳩尾に入り背中をくの字に丸める航暉。それを見て漣が一瞬固まった。電の目線がくるりと漣の方を向いたからだ。

 

「あれ? 漣、からかいすぎた?」

「自業自得ね」

「――――――お説教展開ktkr!」

 

 苦し紛れにそう叫ぶとゆらりと一歩距離を詰める電。袖の内側かどこからか滑り出てきた何かを振るとやったらメカニカルな音と共に伸張し片手で扱える警棒となった。小型の鍔までついた本格仕様である。

 

「遺言はそれでいいのです……?」

「朧もこれはちょっと庇いきれないかな」

「漣ちゃんも電ちゃんも落ち着いてぇ……」

 

 背中を丸めたままの航暉を置いたまま食堂の一角で大捕り物が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

■瑞鳳の場合

 

「あーなんか始まってる」

「あれは漣ちゃんと電ちゃんだねー」

 

 瑞鳳はそのやり取りを遠目に見ながら瑞鶴の前の席に腰掛けた。

 

「そういえば加賀さんには渡したの? バレンタインデーのお返し」

 

 牛乳をちょうど飲んでいた瑞鶴が咳き込んだ。

 

「ちょ、ちょっと大丈夫?」

「瑞鳳あんたねぇ……私があの人に何で返さなきゃいけないのよ。貰ったの板チョコよ? 板チョコ!」

「へー、でも今やチョコも高級品だよ? わざわざ買ってきてくれるんだからそれだけいろいろ思ってくれてるってことでしょ?」

「……いい迷惑よ、まったく」

 

 それを聞いた瑞鳳は素直じゃないなぁと言って目玉焼きを口に運んだ。

 

「でも加賀さんの不器用なところとか、瑞鶴のそういうところ、私は好きだけどな」

「ふーん、――――――って、はぁっ!?」

 

 どこか女性らしくない素っ頓狂な声が返ってくる。

 

「え? そんな驚くことかなぁ」

「本気で言ってる?あの偏屈が不器用で済むの? あと私のそういうところでどういうところ!?」

「んー? そうやって相手をこき下ろさないと加賀さんのことがだーいすきだってことがばれるんじゃないかって思って慌てて否定するところとか?」

「ないないないない! 絶対ないっ!」

「えー、案外みんな気がついてるよ? 翔鶴さんも赤城さんも結構暖かい目で見てるし」

 

 それを聞いて一瞬でさぁぁと顔が青ざめていく瑞鶴。言われればそんな気もしないではない。

 

「なんだかんだ言って二人とも好き同士だもんね。ちょっと妬いちゃうな」

「ちょ、頭大丈夫瑞鳳? どこか悪いところでもある? あっ、そうか! 今日エイプリルフールだもんね! そうかそうよね! うん!」

 

 なんだかすごい勢いで納得されて嘘でも何でもないんだけどなぁとは言い出せない瑞鳳だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

□榛名の場合

 

「酷い目にあった……」

「お疲れ様です」

 

 席について溜息をついた彼に榛名が笑いかけた。軽く頬を膨らませた電も続く。

 

「あれ、金剛は来てないのか?」

「髪のセットが上手くいかないらしくて“これじゃ会えないデース”だそうで榛名が代理で参りました」

「あの複雑怪奇なドーナツ風の髪をセットしないといけない訳か、別に俺は気にしないんだがな」

「提督、そういうのは女の子の前ではNGですよ」

 

 榛名の隣に腰掛けた赤城が優しい笑みでそう言った。……のだが、グーの握り箸は何とかならんのかと思ってしまう。

 

「なら赤城さんに朝からその量はどうなのって言うのもNGかな?」

 

 そんなことを言ったのは何気なく航暉の右隣(左隣には当然のように電が腰掛けているのだが)に席を取った川内である。どこか眠そうだ。

 

「朝からそんなに盛られると見てるだけでお腹いっぱいになりそうだうよ」

「なら貴女の分も食べましょうか!?」

「いやいい。少しでも胃に入れとかないとこの後の式典に差支える」

 

 川内がそう言いながら箸をとる。航暉は一通り見回して全員分揃っているのを確認して箸を取った。

 

「それじゃ、いただきます」

『いただきます』

 

 それを号砲かなにかと勘違いしているのか、赤城が衝撃的な勢いで白米に喰らいつく。

 

「今日の式典だが……」

 

 航暉がそう切り出したことを皮切りに話が進んでいく。簡単な伝達事項だけだがここでの情報が各部隊に伝達されていくのだから何気に重要である。横須賀のご飯は食品がふんだんに使えるだけあってかなり美味しい。

 

「それで、司令官さんも祝辞を述べるんですよね」

 

 それぞれが食べ終わるぐらいの時間になって電が切り出した。

 

「あぁ、その文面はすでに提出済みだ」

「あー、その文章にも検閲入るんですね」

「当然だろう。……満を持しての本格的な攻勢組織の設立だ。軍にとってはこれをしっかりとアピールしたいところだろう。一言一句規定されている通りに話さねばな」

 

 航暉はどこか皮肉じみた声でそう言った。

 

「難しい話はそれで終わり?」

 

 川内が味噌汁を置きながらそう言った。

 

「こういう話は苦手か、川内」

「苦手って訳じゃないけど朝っぱらから硬い話はちょっとね」

「まぁ朝っぱらだからというのもあるけどな」

 

 ごちそうさん。と言って航暉が席を立つ。

 

「あれ、もう行かれるんですか?」

「用意もあるし、コーヒーを飲んでいる所を金剛に見られるとうるさいしね」

 

 苦笑いをしながらそんなことを言えば榛名がクスリと笑った。

 

「もう、そんなことを言っていると榛名、准将のことを嫌いになっちゃいますよ?」

「おや、そうかい? 寂しくなるね」

「ふふ、冗談ですよ」

 

 航暉はそう言うと横を見る。電がすごく描写しにくい顔をしていた。

 

「……司令官さん」

「うおっ、飯食った後に腹バンをしようとするのはやめろって、危ねぇ!」

 

 航暉、今度こそ自業自得である。

 

「ふふふっ、なんだかんだでこの二人ってからかうと面白いんですね」

「それをさらっとやれるあんたに驚きだよ、榛名」

 

 川内が呆れたようにそう言うも榛名はニコニコ笑うだけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

▼高峰の場合

 

「まったく、今日はなんだっていうんだ」

 

 月刀航暉はそう言うと式典会場脇の控え室に足を踏み入れた。

 

「若葉までホラ吹いてくるとはどういう状況だよ……」

 

 微妙に脇腹が痛い。電の接近戦能力が最近急向上しているよなぁと想いながらも航暉は控室の椅子に座った。

 本当に今日はいろいろ言われまくった。若葉からは駆逐艦にも艦載機の使用が許可されたらしいとか真顔で言われ、途中でしょんぼりしている阿武隈とすれ違えば“エイプリルフールで好きな人ができたのと言ったら本気で落ち込まれた、嫌われたかもしれない”なとど本気(ガチ)の相談を受け、エイプリルフールの本場であろうヨーロッパ出身のビスマルクからなぜかお菓子をせびられ(ホワイトデーと勘違いしていたらしい)、ある意味散々だったのである。

 まぁその中で雷のように“ペンギンが空を飛んでたの、ホントよ?”とか明らかなホラだと気楽に受け答えできるからそれくらいに抑えてほしかった。

 あとはさっき会った弥生がかちんこちんに固まったまま「し、司令官なんか嫌いです、怒ってます。嘘です。嫌いじゃないです、怒ってなんかないです……!」とか言ってきたのには正直頬が緩んだ。後ろで望月と如月がニヤニヤしていたからやれと言われた様子だった。そこで「弥生のこと、嫌いにならないですか……?」と上目づかいで聞いてきたタイミングで睦月がやってきて、いろいろややこしいことになったのも一緒に思い出す。

 

「まぁ、冗談が通じる相手って思われているのはいいことだな、距離を取られるよりは大分いい」

 

 そう言って持ってきていた祝辞への返答に視線が落ちたタイミングでいきなり無線が開いた。無線についたタグには高峰春斗大佐と出ている。

 

《カズ――――――緊急で出撃命令だ》

「……エイプリルフールじゃねぇよな?」

 

 航暉が聞き返すと無線の奥で切れてはいけない線がキレる音がした。

 

《んな深刻な嘘を誰がつくか馬鹿野郎! さっさと乗船用意しやがれこのシスコン!》

「同期とはいえその罵倒は心外だぞ!?」

《うるせぇ! 妹可愛さにデレデレの奴なんかにゃこれで十分だろうが! さっさと用意しやがれロリコン司令官!》

「さらにひどくなってねぇか!?」

《どっちも酷さじゃ変わらねぇだろうが!》

「ああもう、なんで異動初日はこうもバタつくかな……!」

 

 航暉がぼやきながらも席を立つ。その頃には警戒態勢を示すサイレンが鳴り始めていた。

 

 

(啓開の鏑矢ANECDOTE001に続く……?)

 

 

 





はい、エイプリルフール編でした。

啓開の鏑矢のほうの第4部ANECDOTE001とリンクしているとかしていないとか……。

感想・意見・要望・はお気軽にどうぞ。
次回は演習編、こちらは早めに更新予定です。
それでは次回お会いしましょう。
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