ACE COMBAT04 Side Story The Invincible Fleet 作:岩波命自
洋上を航行するFCU海軍第六艦隊の空母〈フォートグレイス〉の甲板上で、クレイトン・〈ダイハード〉・マウザー中尉は愛機F-18Cホーネット戦闘攻撃機のコックピットに乗り込んで、愛機のセットアップを進めていた。MFDの横のボタンを押して計器類、航法装置、火器管制装置、武装、と様々な艤装類を立ち上げ、左右のコンソールパネルのつまみやスイッチを入れて愛機F-18Cのスタンバイを発艦準備を進めた。彼の乗るF-18Cの周りを始め空母〈フォートグレイス〉の飛行甲板全体で黄、緑、赤、白、茶、青、紫と言った色とりどりのジャージとベスト、ヘルメットを被ったデッキクルーがそれぞれの受け持つ仕事に従って全ての動作と立ち回りを予め仕組んであるバレエダンサーの様に甲板を動き回っていた。
≪こちら空母〈フォートグレイス〉CDC。オメガ編隊聞こえるか?≫
≪こちらオメガ1、感度良好。問題ない≫
第一カタパルトにセットされているマウザー中尉が所属する〈フォートグレイス〉空母航空団のオメガ中隊の中隊長、オメガ1ことウォレス・ハーパー少佐が〈フォートグレイス〉のCDC(戦闘指揮所)で航空管制を行う管制官の呼びかけに応じる。
≪風向268度、風速19ノット、発艦に支障なし。CDCよりオメガ1から4へ。発艦を許可する≫
≪ミニボスからオメガ中隊、アルファーストライク。全機発艦始め!≫
艦橋にいるミニボスからGOサインを受け取ったハーパー少佐ことオメガ1のF-18Cの背後でJBD(ジェットブラストデフレクター)が立ち上がる。動翼と言う動翼をぐりぐりと動かし、エンジンノズルから出力全開のダイヤモンドリングを噴出させたオメガ1の機体の横で、エンジン主力上げろのハンドサインを送っていた緑ヘルメット、黄色ベスト、緑ジャージの発艦士官がもう片方の手でカタパルト周辺のデッキクルー各位の安全を指さし確認すると、身を屈め、右手を艦首方向へと伸ばした。発艦士官の発艦良し、の合図を確認した緑ヘルメット、緑ジャージ、ベストの射出要員がカタパルトの射出ボタンを押し、爆装を満載したオメガ1の機体が弾け出す様にカタパルトの上を疾駆した。
続けて第二、第三、第四カタパルトからオメガ1が率いるオメガ1編隊の編隊員のオメガ2、オメガ3、オメガ4の機体の周りでデッキクルーが同じ確認とGOサインを行い、JBDが立ち上がる。動翼を確認する為にぐるぐると回し、エンジンパワーをフルパワーにした機体の横で三人の発艦士官が発艦良しのサインを出すと、第二カタパルトから順にオメガ2、3、4のF-18Cを射出していった。
≪オメガ9よりオメガ9編隊各員、聞こえるか?≫
機体のセットアップを終えたマウザー中尉のヘルメットのヘッドセットから小隊長のケネス・〈コルセア〉・コクラン大尉の呼びかける声が聞こえて来る。
≪オメガ10異常なし、いつでも行けまぁす≫
≪オメガ12、問題無し。機体もパイロットも問題無しです≫
ウィングマンが先んじて応答するのに遅れてマウザー中尉もマスクを口元に寄せてコクラン大尉に応答する。
「こちらオメガ11、準備良し。問題なし」
≪エアボスからの通達の通り、今日はアルファーストライクを実施する。忙しくなるぞ、俺からは何度、何遍でも耳に胼胝ができるくらい言うが全員で今日も生きて帰るぞ≫
オメガ中隊でも古参のパイロットの一人であるコクラン大尉の言葉にオメガ10、TACネーム〈ドライバー〉が軽い口調で答える。
≪小隊長、俺の今日の星座占いは知らないんですか? 今日はとびっきり一番ツイてる日なんですよ。つまりこの小隊もツイてるって事でさあ≫
≪〈ドライバー〉、あんたの過信がアタシらに伝播する程強烈なモノなら、あたしは今すぐにでも転属願いだすわよ≫
辛辣な言葉を返すオメガ12、TACネーム〈コミック〉の脇槍に〈ドライバー〉は口をへの字に結んでいるのが分かる声で言い返す。
≪なんだよ〈コミック〉、今日もつれない台詞だな、そんなに言うんならとっとと退職金貰って出て行けばいいじゃねえか≫
≪生憎、まだ老後を悠々と過ごせる程退職金が溜まってないのよね。あんたが死んで、あんたが溜めている退職金があたしの口座に振り込まれるんなら今すぐにでも出て行ってもいいけど?≫
≪ヴァカ、俺の金は俺のもんだ≫
二人の喧嘩はオメガ中隊での日常風景だ。これでもエレメントを組ませたらこれほどまでにない連係プレーの良さを見せるのだから、人間関係何が起きるのか分からない。
≪ねえ、〈ダイハード〉。あんたなら今日あたしと〈ドライバー〉のどっちが落ちるか賭けない?≫
「どうせ、二人とも揃って帰って来てオッズを巻き上げられるのがオチだから俺は止めておくぞ」
がめつい〈コミック〉の賭けに誰が乗るモノかとマウザーがぴしゃりと返す。昨日だって散々〈コミック〉相手にカードでぼろ負けして食券巻き上げられたのだ、これ以上失ってたまるかと言うマウザーならではの意地がある。
≪それよりよ〈ダイハード〉、俺達FCU第六艦隊とエルジアの艦隊、どっちが勝つか賭けないか?≫
「よせよ、〈ドライバー〉。縁起でもねえ事を賭け事に持ち出すんじゃねえよ」
≪なんだい、ツレねえなだみ声野郎≫
ぶすりと捨て台詞残す〈ドライバー〉だが、本人も恐らくは分かってはいるのだろう。今の自分達の状況を賭け事の対象にするのは不謹慎どころでは無いと言う事を。
だみ声野郎、と言うのはマウザーの声が年齢に反して酷くだみ声である事に起因する。まだ三〇歳にもなっていないのにマウザーの声はまるで歳を重ねた四〇代後半か五〇代後半を想起させる程のだみ声ぶりを見せていた。これはマウザーの生まれつきなモノなのでどうしようもないし、マウザーも既にだみ声野郎と呼ばれる事に関しては少年の頃から諦めて、受け入れている。寧ろ自分からネタにしていく開き直りすら見せていた。彼としてはだみ声野郎と蔑まされようが、気を遣われようがもはやどうでもよくなっていた。それよりも今の彼には軍人として為すべき事があるのだ。
今、彼やオメガ中隊の中隊員皆の故郷であるユージア大陸で勃発した大規模な大陸規模の戦争は、ユージア大陸の西の端の大国エルジア共和国が圧倒的優位に進めている状況だ。エルジア共和国の隣の小国サンサルバシオンに建造された巨大な隕石迎撃砲、通称ストーンヘンジを奪取したエルジアはユージア大陸の空をストーンヘンジの超射程対空砲撃で掌握し、制空権を奪われたFCU(中央ユージア連合)を始めとする独立国家連合軍、ISAFは徐々に大陸東部へ追い出されつつある。四年前の小惑星ユリシーズの地球落着を防ぐ為に建造され、辛うじて地球滅亡を防いだ人類の守護神であるストーンヘンジは今となってはISAF最大の死に神となっていた。ストーンヘンジから放たれる特殊砲弾はエルジア軍の侵攻を押し返そうと空爆を試みるISAF機を悉く木の葉の如く吹き飛ばし、挽肉の様にミンチにしてユージアの空を自由に飛ぶことを阻んでいた。
戦争の発端は実質ユージア大陸規模で発生したユリシーズの欠片の落着により大災害の難民を全てエルジアに押し付けた、FCUを始めとするユージア大陸諸国にある様なものだったが、長年のエルジアとユージア大陸諸国との対立だけでなくエルジア側の不満が爆発した結果からのエルジア兵による戦争犯罪も相次いでいる事から、エルジア=悪と見る世論はユージア大陸諸国内では大きい。
エルジアの快進撃はISAFの全将兵の士気を徐々に削って行っている。現在はISAFは大陸中部の大都市ロスカナスを拠点に防衛線を構築して抵抗している状況だ。そしてオメガ中隊が所属する空母〈フォートグレイス〉を旗艦とするFCU第六艦隊はISAF艦隊の一角として、ロスカナスを南から攻め込もうとするエルジア海軍の大艦隊を迎撃するべく、稼働艦艇と言う艦艇を動員して迎撃を図っていると言う所だ。
エルジア軍の快進撃は主に地上で行われていたから、海軍の出番は中々回って来なかったと言っていい。地上軍支援の為に何度か出撃した事はあったが、今回エルジア海軍の大規模な侵攻が偵察衛星によって確認された事を受けてISAFの司令部は第六艦隊を基軸にしたISAF艦隊によるエルジア艦隊迎撃に進発させていた。
偵察衛星によるとエルジア海軍艦隊は戦艦一隻、空母二隻、巡洋艦一二隻、イージス艦八隻、駆逐艦二〇、フリゲート二二隻、揚陸艦、補給艦等の補助艦艇一九隻と言う大艦隊を送り込んできたと言う。確認されていないだけであって潜水艦も多数潜伏して来ている可能性は高い。これだけの規模の艦隊と言う事は恐らくはエルジア海軍の誇るエイギル艦隊をエルジアは送り込んできた可能性が極めて高い。演習では敵なしと謳われ、事実今の戦争から七年前のユージア大陸紛争ではエルジア海軍のエイギル艦隊の所属戦隊は常勝を誇った前例が存在する。七年前の時よりも遥かに大きな規模で進撃して来るエイギル艦隊を前に立ちはだかるFCU第六艦隊とその他のISAF構成国の連合艦隊は数の上では拮抗している状況だ。エルジアも投入した艦隊戦力全てを戦闘部隊とするとは言わない。上陸部隊を載せた揚陸艦や艦隊の補給物資を満載した補給艦等の補助艦艇の護衛にそれなりの数の戦闘艦艇を割くだろうから、実質攻撃に特化できるISAF艦隊の方が優勢ともとれる。
全力出撃を行う〈フォートグレイス〉の航空団の攻撃隊は全機が対艦ミサイルを山の様に積んだ対艦攻撃兵装特化の状態だ。マウザーの機体にも空対艦ミサイルであるLASMが何発も搭載されている。対艦攻撃に当たっての航空優勢確保とCAP(戦闘空中哨戒)は〈フォートグレイス〉の僚艦である空母〈トウィンクルアイランド〉の航空団が担う。
オメガ5から8の機体がカタパルトから射出されると、オメガ11ことマウザーら四人の番となった。
黄色ヘルメット、黄色ジャージ、黄色ベストを着た誘導員が誘導を開始し、コクラン大尉以下四人の機体がカタパルトへとタキシングを開始する。
マウザーもスロットルレバーを少し押し込んで、フットレバーと連動して動く前輪を操作して第三カタパルトへとF-18Cを進める。誘導員が両手を手前に振るのを見て徐々に前進させていると、誘導員が止まれの合図を送って来る。ブレーキを踏んで一旦止めるマウザーの前で誘導員がランチバーを下ろせのハンドサインを送って来る。左コンソールのカタパルトランチバー操作レバーを操作し、ランチバーを下ろす。マウザーの機体の機首下部で前輪の後ろにホールドバーを接続した射出要員が、片手をぐるぐると回しながらランチバーがカタパルトの滑走シャトルを噛むまで機体の方を進む様に誘導員に合図を送る。誘導員のちょい進めのハンドサインを受けてマウザーがゆっくりとF-18Cを前進させていると、ランチバーが滑走シャトルに引っかかり、それを確認した射出要員が止まれ、のハンドサインを誘導員に送り、射出要員自身は最後にホールドバーなどの各部を流れる様な指さし確認で確認すると、マウザーの機体の右手側にギャラリーのように並ぶデッキクルーの列に加わった。
誘導員がマウザーの機体の右手前方に立ち退くと、CDCからオメガ9編隊に発艦良しの通告が入る。
≪風向、風速変わり無し。オメガ9、オメガ10、オメガ11、オメガ12へ。発艦を許可する≫
≪よし、行け! 行け! 行け!≫
スロットル全開のバーナーの炎を機尾から延ばしたF-18Cのコックピットでコクラン大尉が喚く。彼の機体左手側にいる発艦士官がパワー上げろのハンドサインを止め、周囲に指さし確認をすると身を屈めて左手を艦首方向へと伸ばした。
カタパルトの作動音と共にオメガ9コクラン大尉の機体が射出され、蒸気カタパルトのスチームがエンジンノズルから噴き出すバーナーによって白い壁を薄らと作り出す。
≪オメガ10、行くぜ!≫
その声と共に〈ドライバー〉のF-18Cが射出され、先に発艦したオメガ9の後を追って空へと飛び立っていく。
次は俺の番だとマウザーは機首右手側にいる発艦士官に目をやった。発艦士官が右手を高々と上げその右手をぐるぐると回して発艦出力上げろのハンドサインを送って来る。マウザーは操縦桿をぐいと押し込み、右手で掴む操縦桿をぐるぐると回し、両足でフッとレバーを踏み込んだ。ラダー、フラップ、エルロンと動翼の全てがパタパタと動き、F-18Cのエンジンノズルの排気口がかっと口を大きく開け、橙色の炎が噴き出した。
発艦士官が指さし確認を始めると、軽く発艦前の敬礼をマウザーに送り、マウザーも操縦桿を掴んでいた右手を離して敬礼を返すと、発艦に備えて右手を操縦桿から離し、キャノピーの枠にある取っ手を掴んだ。左手はスロットルレバーを押し込んだままだ。全ての準備動作を終えた発艦士官が身を屈め、右手を艦首方向へと伸ばすと、一拍置いてぱちんと弾く様な音が機内に響き渡り、ホールドバーが外れたマウザーのF-18Cがカタパルトの滑走シャトルに引かれて一気に時速二〇〇キロ以上にまで加速させる。ゴロゴロと言う車輪が転がる音が響く中、〈フォートグレイス〉のアングルドデッキに備えられた第三カタパルトから射出されたマウザーのF-18Cは空へと躍り出た。
機体が空に飛び出た途端、即座にマウザーは取っ手を掴んでいた右手を操縦桿に戻し、緩やかな機首上げ角を取って上昇に転じる。遅れてオメガ12〈コミック〉のF-18Cが射出され、オメガ中隊全機が発艦を完了した。
空母〈フォートグレイス〉の上空で編隊を組んだオメガ中隊と、ヴァイパー中隊の二個中隊二四機のF-18Cと、もう二個中隊のA-6Eイントルーダー攻撃機二四機が編隊を組んで早期警戒機E-2Cの管制の元、エルジア艦隊へ向けて進路を取った。〈フォートグレイス〉から発艦した四八機の攻撃隊を空母〈トゥインクルアイランド〉から発艦した二四機のF-18Cと二四機のF-14Aトムキャットが護衛に付いた。
九六機にも及ぶ大編隊を〈フォートグレイス〉の艦橋から見送った第六艦隊司令官兼ISAF迎撃艦隊司令官のムーア中将は、前衛を務めるイージス艦二隻、巡洋艦七隻、駆逐艦一〇隻からなる前衛艦隊と、〈フォートグレイス〉〈トウィンクルアイランド〉を中心に輪形陣を敷くイージス艦四隻、巡洋艦八隻、駆逐艦一二隻からなる本隊全艦に向けてマイクを取ると、スイッチを押し込んで号令を発令した。
「旗艦より全艦に達する! 対水上戦闘用意! 前衛艦隊は前進開始、航空部隊の攻撃に合わせて対艦ミサイル攻撃開始」
前衛艦隊の司令官を務めるイージス艦〈アゲンスト〉艦長のリッジウェイ大佐から了解の返答が返され、イージス艦〈アゲンスト〉以下、一九隻にも上る艦隊が本隊に先んじて加速をかける。
「早期警戒機より報告。敵前衛艦隊前進を開始、敵空母二隻からも大編隊発進を確認」
エルジア海軍エイギル艦隊旗艦戦艦〈タナガー〉のCICにオペレーターの報じる声が上がる。
「予想通り出て来たな」
エイギル艦隊司令官のグレープ・アルマゾフ少将は戦況モニターに表示される彼我の艦隊と接近するISAF機の大編隊のマーカーを見て呟いた。早期警戒機が探知したISAF空母艦載機の数は二隻の空母合わせて九六機。大所帯だ。全機が対艦装備では無いだろう半数は護衛機と見るべきかもしれない。
「空母〈ジオフォン〉〈スキョルド〉に命令、防空隊を発艦させろ」
アルマゾフの指示に直ちに艦隊参謀がエイギル艦隊に属する二隻の空母〈ジオフォン〉〈スキョルド〉へ防空隊発艦を伝達する。
防空隊発艦始め、の命令を受け〈ジオフォン〉〈スキョルド〉の二隻から次々にラファールM戦闘機が発艦していった。既に発艦して戦闘空中哨戒についていた八機のラファールMに加えて、上げられるだけの数のラファールMが空中へと上がって行った。エイギル艦隊の最も広範囲にわたる艦隊防空戦力が二隻の空母から発艦したラファールMだった。次いで艦隊の防空を担うのはイージス艦〈レイブン〉以下六隻のイージス艦だった。更にその内側は巡洋艦、駆逐艦、フリゲートの艦対空ミサイルの担当範囲となる。
エイギル艦隊はロスカナス南方の沿岸都市へ侵攻しISAF地上軍に二正面作戦を強いるべく、上陸作戦を決行する為の揚陸艦隊と補給艦等の補助艦艇の護衛にイージス艦二隻、巡洋艦三隻、駆逐艦四隻、フリゲート全艦を割り当てているので、ISAF艦隊に挑む本隊の戦力は旗艦戦艦〈タナガー〉、空母〈ジオフォン〉〈スキョルド〉、イージス艦〈レイブン〉以下六隻、巡洋艦〈ベルガ〉以下九隻、駆逐艦〈ハーン〉以下一六隻の計三四隻となっている。
「提督、この状況。好機と見るべきかと」
戦況モニターを見つめるアルマゾフに意見を具申する男がいた。旗艦戦艦〈タナガー〉の艦長、マティアス・トーレス大佐だ。
「何か策でもあるのかね艦長?」
「敵の艦隊の数は我が方とほぼ同数です。ですが、敵は航空戦力に期待をかけ過ぎています。我が方は全艦載機を制空戦闘に投じられるのに対し、敵は対艦ミサイルを抱いた攻撃隊とそれを護衛する護衛隊に二分され、当然ながら制空戦闘能力では我が方の防空隊よりも劣ります。防空隊とイージス艦で敵の航空戦力を防げれば、残るは敵水上艦隊。
我が方とほぼ同数の艦隊を敵は二分しています。これはつまり敵艦隊の数は我が方よりも一個一個当たりの総数は劣り、各個撃破が可能と言う事です。そして何よりのアドバンテージが本艦です」
そう言ってトーレスは不敵な笑みをその顔に浮かべた。エイギル艦隊にも属する駆逐艦〈ハーン〉の砲術長として大陸紛争では勲章を賜る程の砲術の技量を見せた若き大砲屋の艦長だ。自身が指揮を執る旗艦〈タナガー〉の持つ大口径の艦砲一六インチ三連装主砲三基の大火力に期待をかけているのだろう。
アルマゾフは不敵な笑みを浮かべるトーレスの顔を見返して、にこりと微笑んだ。
「よかろう、総大将が前線に出てこそ、兵の士気は上がるものだ。全艦に命令! 対空戦闘用意! 敵の対艦攻撃を凌いだらISAFの木っ端な艦隊を我が艦隊の総力を持って各個撃破する!」
AEW機に誘導されたエイギル艦隊の防空隊総数四八機のラファールMは、LAAMの発射点に到達するとISAFの攻撃編隊に対して射撃を開始した。
「コバルト1、FOX3!」
先頭を切るラファールMのパイロットがミサイルの発射ボタンを押し、発射信号が送られ胴体から切り離されたLAAMが空中を駆けだしていくのが、戦闘開始の狼煙となった。
「FOX3!」のコールが四七人分続き、四八発のLAAMが空中に無数のミサイル煙の軌跡を連ねた。撃ちっ放しが可能なLAAMを発射したラファールMはLAAMが必要最低限の母機からの誘導から自立誘導モードに入ると、二発目のLAAMを発射した。長距離から得物を狙撃するハンターの如く長射程の空対空ミサイルを放つラファールM各機のコックピットにミサイル警報が鳴り響く。ISAF側の護衛機、恐らくはF-14の応射のLAAMが発射されたのだ。F-14は撃ちっ放し可能なLAAMを同時に六発誘導可能なレーダーを備えている。だがドッグファイトする事も考えての兵装だとしたらISAFのF-14が搭載するLAAMの数は多くても二発が限度だろう。
後方に展開するEA-6Bプラウラー電子戦機がISAFのLAAMに対してECMをかける。長射程の空対空ミサイルの誘導方式は電波誘導だ。F-14の発射するLAAMならなおこの事ECMがてきめんに効く。それでも一応、ラファールM各機は回避運動を行いつつ、チャフを打ち出し防御手段を講じる。
ISAFのF-14が放ったやや古いLAAMはエルジア側のEA-6BのECMで目標を失探し、その全てが悉く外れて行った。
LAAMを撃ち尽くしたISAFの護衛隊が次に放ったのはF-18CのMAAMとF-14のSAAMの二種類の中距離空対空ミサイルだった。だがやはりECMによって正確な距離が把握出来ず、直ちにロックオンする事が出来ない。加えてECMのせいで早期警戒機、コールサイン・ビッグパイプとの通信も出来ない。データリンクまで死んでしまっている状況下、攻撃隊は早期警戒機の支援も無しにエルジアのラファールMの攻撃に晒されていた。
おっとり刀で、〈フォートグレイス〉から電子戦機EA-18Gが上がって来て、カウンターのECMを炊いた事でEA-6Bの電波妨害は解決されたが、直後に別のECMが護衛隊のレーダーの眼を潰した。
前進して来たエイギル艦隊のEA攻撃によるものだった。機上レーダーによるECMよりも遥かに高出力のECMが〈ベルガ〉以下九隻の巡洋艦から浴びせられ、強烈な見えない電波の攻撃を受けたISAF攻撃隊はMAAMとSAAMでエイギル艦隊の防空隊をロックオンする事が出来なくなった。
F-14のRIO(レーダー迎撃士官)やF-18Cのパイロット、EA-18GのECMO(電子妨害士官)がコンソールと格闘して、何とか各機のレーダーを復旧させた頃にはラファールM四八機は攻撃隊の上方を取り、更に発射済みのLAAMがISAFの攻撃隊に襲い掛かっていた。
対艦ミサイルを抱いていたA-6EとF-18Cが次々に爆散し、砕け散った機体の残骸が黒煙を引きながら眼下の海へと落ちて行くのが見えた。
「クソ! 敵のECMで何も見えない」
いくらマウザーがカウンターECMを焚こうが、前進して来る敵艦隊と敵の電子戦機のECMのダブルパンチでレーダーには何も映らない。目を潰された状態では敵機の放つLAAMや敵艦隊の艦対空ミサイルを早期に検知するのは無理だ。味方の電子戦機が何とかECMによる目潰しを除去しようと奮戦しているが、レーダー画面は一向に良くなる気配が無い。盲目の状態で前進せざるを得ないISAF攻撃隊に敵の長距離ミサイルが一機、また一機と命中し、被弾した味方機が大破炎上しながら編隊から次々に脱落していく。
≪オメガ1よりオメガ中隊各機、敵機の襲来が予想される。全機、必要に応じて爆装を投棄して応戦しろ≫
ハーパー少佐から緊急時の対応に対する指示が飛ぶ。対艦攻撃部隊である自分達が対艦ミサイルを捨ててしまっては、任務を果たす事は出来なくなるが、その代わりパイロットは生き延びる事が出来る可能性が上がる。
その時、護衛のF-18C一機が味方機に向かってバンクするのが見えた。バンクしたF-18Cは増槽を切り離し、編隊僚機を率いて上昇に転じた。
≪タリー・ワン・オクロック・ハイ! 上から来るぞ!≫
オメガ9コクラン大尉の警告が飛ぶ。一時方向上方からエルジアのラファールMが襲い掛かって来るのが、コントレイルから見て取れる。幾つものコントレイルから更に複数の煙がISAF攻撃隊の方へと延びて来る。レーダーロック警報はならない。この距離なら短距離の赤外線誘導空対空ミサイルだ。
≪オメガ1より全機、ブレイク! ブレイク! ブレイク!≫
「オメガ11、Defending!」
操縦桿をぐっと右に倒し、フレア射出ボタンを押す。右にブレイクする彼のF-18Cの機尾からフレアがばら撒かれ、そのフレアに向かって短距離空対空ミサイルが突っ込んでいく。無線からオメガ中隊の中隊員が回避機動を行う旨の無線が飛び交う中、マウザーは対艦ミサイルを装備している分、挙動が重いF-18Cを何とか右に左にブレイクさせて襲い来るミサイルを躱した。
だが、左に急旋回する彼の視界内で見覚えのある機番のF-18Cがミサイルを食らって左主翼を叩き折られて回転しながら落ちて行くのが見えた。
≪オメガ1が撃墜された!≫
≪少佐! ベイルアウトして下さい! 聞こえてますか少佐!?≫
駒の様に回転しながら墜落していくハーパー少佐の機体のキャノピーが飛び、そこから射出座席が飛び出す様子はない。被弾時の衝撃で気を失ったのか、中隊長であるハーパー少佐は愛機と共に海上へと真っ逆さまに落ちて行く。
≪クソ、オメガ2より中隊各機、俺が指揮を引き継ぐ。全機、低空に降下して敵機の目標探知システムをかく乱するぞ≫
悲しむ暇なく指揮を引き継いだオメガ2が低空へ逃れるよう指示を出す中、更にオメガ4とオメガ7が撃墜される。フレアを吐き出しながら鈍重な旋回をする二機の上方からミサイルが突き刺さり、オメガ4は胴体を真っ二つにされ、オメガ7はエンジンが爆発して木っ端微塵になった。
オメガ中隊の残存機が低空へと逃れる中、F-18Cよりも鈍重なA-6EにラファールMが襲い掛かり、三〇ミリ機関砲や短距離ミサイルを撃ち込んで次々に撃墜していった。護衛のF-18CとF-14も空対空ミサイルと機関砲を駆使して、襲い掛かるラファールMを迎え撃つ。F-14の発射した短距離ミサイルがラファールMのエンジンノズルの熱を探知して鍵穴に鍵を差し込む様にスっと入り込むとエンジン内部で爆発し、ラファールMの機体を砕いた。ラファールMの機体下部を取ったF-18Cの機首の機関砲が二〇ミリ弾を浴びせ、ラファールMの機体に無数の破孔を穿ち、蜂の巣にされたラファールMが制御不能になって眼下の海へと転げ落ちて行く。
徐々に護衛機の反撃で襲撃して来たエルジアのラファールMにも被撃墜機が出始める中、低空へと逃れたオメガ中隊は低空へと逃れた事で敵のECMの範囲外に逃れられたのか、レーダーで敵艦隊を捕捉していた。
対艦ミサイルに敵艦隊の位置情報を入力していると、ミサイルロック警報が鳴り響いた。敵艦隊からレーダー照射を受けている。イージス艦の対空レーダーに引っかかったらしい。艦対空ミサイルが飛んで来る、とマウザーが生唾を飲み込んだ時、前方の海上から白煙が幾つも上がって来るのが見えた。
≪敵艦隊がミサイルを発射! 全機回避機動!≫
オメガ2から回避運動に入るよう指示が飛ぶ中、敵艦隊のイージス艦が発射した艦対空ミサイルがオメガ中隊に襲い掛かる。
マウザーが左フッとペダルを踏み込み、操縦桿を左に倒して機体を横滑りさせながらチャフを射出していると、〈コミック〉の叫ぶ声が聞こえた。
≪〈ドライバー〉、チェックシックス! ミサイルがケツからあんたを狙ってるよ!≫
≪くそったれ、こんなところで死んでたまるかってんだい!≫
チャフを打ち出しながらオメガ10〈ドライバー〉のF-18Cが回避機動を取る。彼の背後で艦対空ミサイルが海面に突っ込んで水柱を突き上げる中、再度チャフを打ち出した彼の機体のすぐ傍で、艦対空ミサイルが近接信管を作動させて無数の鉄の欠片を〈ドライバー〉の機体に浴びせた。
≪食らっちまった! 操縦不能、操縦不能! ベイルアウトす≫
彼が言い終える前に、機体は上下逆さまの状態で海面に突っ込んでバラバラになった。
≪〈ドライバー〉!≫
コクラン大尉の悲痛な叫び声が飛ぶ。
仲間の呆気ない最期にマウザーはマスクの下で罵声を吐きながら、HUDに表示されるターゲットコンテナを見つめた。MFDには対艦ミサイルがロックオンした敵艦が表示されている。駆逐艦だ。近距離防空ミサイルと主砲、個艦防御ミサイルくらいしか持たない対空戦闘能力はそれ程でもない。
操縦桿のミサイル発射ボタンに指をかけ、機首を少し引き上げてミサイル発射態勢を取る。HUDに「SHOOT」の表示が出て空対艦ミサイルが敵艦をロックオンした事が表示された。
「ロックオン、オメガ11、Fox3!」
ミサイル発射ボタンを二回押すと、両翼のパイロンにつられた対艦ミサイルが左右一発ずつ切り離される。
オメガ9コクラン大尉とオメガ12〈コミック〉も、戦死した〈ドライバー〉の仇と言わんばかりにミサイルを発射し始めていた。
駆逐艦に対艦ミサイルを発射したマウザーは次に巡洋艦に狙いを定めた。HUDとMFDを交互に見ながらミサイルのシーカーが巡洋艦にロックオンするのを確認すると、再び「Fox3」のコールと共に空対艦ミサイル二発を発射する。
刹那、彼の機体に黒い影が覆い被さり、マウザーは咄嗟に左に操縦桿を倒し、左ロールした。コックピットの風景が左に九〇度傾く中、マウザーがキャノピーの右手に首を向けると、上方からラファールM二機が太陽を背に襲い掛かって来るのが見えた。
≪コーション! 敵機二機上方より接近!≫
≪見えた!≫
コクラン大尉のF-18Cが右に機体をスライドさせ、上方から迫って来ていたラファールMの射線方向から逃れる。だが対艦ミサイルを発射中の〈コミック〉は回避する暇が無かった。
「逃げろ、〈コミック〉!」
僚機に叫びながら対艦ミサイルを撃ち尽くして身軽になったマウザーはスロットルレバーを全開に押し出し、操縦桿を手前に引き寄せて急上昇すると、上方から襲い掛かるラファールM一機と相対した。距離が近い、ミサイルロックが間に合わないと即座に判断し、機関砲に切り替えたマウザーの眼がHUDを睨む。レティクルが表示され、ラファールMの一機に合わさると、HUDに「SHOOT」の表示が出る。
「ガンズ・ガンズ・ガンズ!」
マウザーが機関砲のトリガーを引き絞るのと、ラファールMの翼端からミサイル発射の煙が出るのは同時だった。猛牛の唸り声の様な機関砲の射撃音が響き、撃ち上げられた二〇ミリを浴びたラファールMの機体がぼろぼろと部品と破片を無数に散らしながら、マウザーのF-18Cとすれ違い、引き起こせないまま海面に突っ込んで水柱と砕けた機体の残骸を残して海中へ没した。
「スプラッシュワン!」
身体にかかるGを歯を食いしばって堪える中、背後で爆発音が響いた。バックミラーにオメガ12〈コミック〉の機体が右主翼をへし折られ、燃えながら墜落していくのが見えた。マウザーがガンキルしたラファールMが撃墜される直前に放ったミサイルを被弾したらしい。
≪操縦不能! 操縦不≫
ベイルアウトする間もなく〈コミック〉の機体の燃料とミサイルなどの弾薬に引火して再度爆発し、黒い爆炎とバラバラに砕け散った機体の破片が残された。
あっという間に〈ドライバー〉〈コミック〉の二人を失った事実にマウザーは、一瞬呆然とした。そんな彼の視界の端に、撃墜したラファールMの片割れがコクラン大尉の機体を追っているのが見えた。
「畜生、やらせるかよ!」
怒りの声を上げながら、機体をインメルマンターンで反転させ、コクラン大尉の機体を狙うラファールMの背後に付く。
≪オメガ9より11、援護を頼む! 三つ数えたら俺が右にブレイクするからその隙にミサイルをぶち込んでやれ!≫
「了解!」
≪いくぞ、三、二、一、今だ!≫
コクラン大尉のF-18Cが機尾からフルバーナーの炎を吐き、右へとハイG旋回でブレイクする中、マウザーはラファールMのターゲットコンテナに短距離ミサイルのシーカーキューが合わさるのをじっくりと待った。ビーと言うロックオンの音が鳴り響き、HUDに「SHOOT」の文字が現れる。
「オメガ11、Fox2!」
発射コールとともに左の翼端レールから短距離ミサイルがするっと滑り出し、噴煙を残しながらラファールMへと迫る。ミサイルに気が付いたラファールMは軽快な動作で右にロールしてフレアを打ち出すが、短距離ミサイルがフレアに反応するには若干タイミングが遅かった。フレアに向かう事無くミサイルがラファールMの機体に突き刺さり、爆発してそのデルタ翼の機体を爆砕する。
≪ナイスショットだオメガ11、よし、今のうちに退散しよう≫
「ですが、〈ドライバー〉と〈コミック〉が」
≪……俺達に出来る事は無い。俺達の機体は救難ヘリじゃないから捜索救助は無理だ……≫
明らかに二人が生きている可能性はない。それを加味した上でもコクラン大尉は戦死したと直接言わずに、今自身とマウザーが乗る機体では出来る事が無いと言う事だけを諭した。
さっきまで会話していた二人が、もうこの世にいない事にマウザーが敗北感と喪失感を覚えていると、視界の横に敵艦隊に向けて飛翔して行く物体が見えた。味方艦隊の発射した対艦ミサイルの群れだった。
ISAF前衛艦隊一九隻の艦隊から八〇発近い対艦ミサイルがエイギル艦隊へ向けて発射されたのを早期警戒機で探知したエイギル艦隊は、ISAF機が発射した複数発の対艦ミサイルと合わせて迎撃を開始した。イージスシステムを備え、多目標同時対応が可能な防空艦であるイージス艦〈レイブン〉〈ミーミル〉〈メティス〉〈ギャラルホルン〉〈プライタプス〉〈メッグパイ〉の六隻から艦対空ミサイルが次々に撃ち上げられ、ISAF艦隊の発射した艦対艦ミサイルを迎撃していく。中でも〈レイブン〉は艦隊全艦の防空管制艦である事もあり、イージス艦の様な多目標同時対応能力を持たない巡洋艦が備える艦対空ミサイルの誘導管制も行えた。データリンクで〈レイブン〉と接続された〈ベルガ〉以下の巡洋艦から、〈レイブン〉の射撃管制システムの指揮の元、艦対空ミサイルがVLSや単装発射機から間断なく撃ち上げられ、対艦ミサイルへ向けて誘導され、八〇発の艦対艦ミサイルと、オメガ中隊の放った三〇発の空対艦ミサイルに激突していった。六隻のイージス艦のイルミネーターが艦対空ミサイルの終末誘導を行い、イージス艦六隻と九隻の巡洋艦から発射された艦対空ミサイルが対艦ミサイルの九九パーセントを撃墜した。残りの対艦ミサイルにはやはり〈レイブン〉の統制を受けた駆逐艦の短距離艦対空ミサイルが対処し、これを全て撃墜した。
結局ISAF艦隊とISAF機の空対艦ミサイルは一発もエイギル艦隊の元に届く事は無かった。防空隊の攻撃を受けたISAFの攻撃隊は爆装を捨ててドッグファイトに入るか、撃墜されるかのどちらかとなり、対艦攻撃を行えたのはオメガ中隊だけだった。
≪ビッグパイプより攻撃隊全機、RTB。帰投しろ≫
≪ビッグパイプ、敵艦隊に命中した対艦ミサイルはあるか?≫
ようやく早期警戒機との通信とデータリンクが復旧し、ビッグパイプに戦果を確認するコクラン大尉にビッグパイプから残念そうな返事が返る。
≪ネガティブ、オメガ9。全弾迎撃された。一発も命中していない≫
≪……了解した≫
母艦へ帰投するオメガ中隊の編隊は中隊長機以下五機を失い、七機にまで数を減らしていた。オメガ中隊だけではない、他の飛行中隊も大きく数を減らしている。攻撃隊と護衛機合わせても半数程度しか残っていない。多くのパイロットが帰らぬ者となった。
「ミサイル全機、撃墜されました」
TAO(戦術行動士官)が無念そうな声でリッジウェイ大佐に報告する。
「届かなかったか……」
拳を握りしめて戦況モニターを見つめるリッジウェイ大佐は爾後の行動をどうするか、腹を決めていた。対艦ミサイルは撃ち尽くしたが、まだ各艦には主砲がある。この〈アゲンスト〉含むイージス艦二隻だけでも一二七ミリ単装砲が二基備えられている。
「戦術、主砲の弾薬はたんまりあったな?」
「はい艦長。本艦含め各艦の弾薬庫には対空弾から徹甲弾までフル装備です」
「宜しい。では昔ながらの砲術でエルジア艦隊に挑むとしよう」
「了解。砲術長、砲戦用意!」
TAOが砲術長に砲撃戦用意を命じる一方、リッジウェイは艦隊各艦に向けてインカムを掴むと通話スイッチを押して、砲撃戦に移行する事を伝えた。
「前衛艦隊旗艦〈アゲンスト〉より各艦に伝達! 最大戦速、砲撃戦用意! 全艦、日頃の砲術訓練の腕前の見せ所だ、大砲屋魂を侵略者共に見せてやれ!」
リッジウェイの命令は一九隻の艦隊全艦に伝達されると、各艦のCICと艦橋で「最大戦速!」の号令が下り、前衛艦隊各艦の機関が唸り声を高め、艦尾から滾らせる航跡の飛沫が大きくなり、長い航跡を後ろへと伸ばしていった。
最大戦速へ加速して一〇分後、先頭を切る〈アゲンスト〉の艦橋で見張り員が水平線上に砲煙が上がるのを確認した。
≪艦橋よりCIC、水平線上に発砲炎を確認!≫
「発砲炎だと……?」
訝しむリッジウェイ以下〈アゲンスト〉の幹部各員が首を傾げた時、六つの巨大な飛翔体が前衛艦隊旗艦〈アゲンスト〉の直上から迫る轟音が、艦内部のCICにまで響き渡って来た。乗員が何の音だ? と見えもしない天井を見上げた時、轟音は金切声の様な鋭い音を立てながら〈アゲンスト〉の左右の海上にまとまって落着し、巨大な水柱を突き上げた。衝撃波と近距離に現出した水柱によって木の葉の様に大きく揺さぶられる〈アゲンスト〉の艦内で、吹っ飛ばされた乗員達の悲鳴があがり、被害報告の怒号が飛び交った。
≪左舷第四甲板にて浸水発生! 損害は軽微、ダメコンチーム、防水作業急げ≫
「今のは一体……?」
したたかデスクに打ち付けた脇腹をさすりながらTAOがヘッドセットを被り直した時、艦橋からリッジウェイ達CICに向けて新たな報告が入った。
≪艦橋よりCIC! 艦隊前方に敵艦隊を視認! 敵艦隊のうち一隻は……≫
「第一射、第一目標挟叉! 次弾装填完了次第、斉射に移行します」
モニターの向こうに映る敵イージス艦の艦影を見つめながら〈タナガー〉の砲術長が告げる。第一射で挟叉となれば次弾は確実に直撃すると言っていい。敵からすれば死刑宣告を言い渡されたも同然だ。
「いいぞ、砲術長。巨大な鉄の塊で敵を打ち砕け!」
大砲屋人生極めり、と言った顔でトーレス艦長は砲術長に檄を飛ばす。
イージス艦四隻、巡洋艦五隻、駆逐艦八隻を引き連れた大艦巨砲主義の申し子である戦艦〈タナガー〉の第一、第二主砲搭の砲塔内部で、一六インチ主砲弾が揚弾機で弾薬庫から上げられてくると、ラマーで砲身内部へと押し込まれ、更にその後ろから同じように弾薬庫から別の経路で砲塔内部へ上げられて来た装薬が同様にラマーで押し込まれ、再装填が終わった主砲の尾栓が閉鎖される。
海上を重油燃焼ボイラー八基と蒸気ギヤードタービン四基、機関出力二一万二〇〇〇馬力のパワーを伝達された四軸のスクリューで驀進する戦艦〈タナガー〉の艦上で主砲発砲前の警告ブザーが鳴り響く。甲板上に誰もいないとは言え、既定の手順通りに散開のブザーが鳴り響いた後、一拍の静けさを置いた〈タナガー〉の艦前部で、目くるめく閃光と、巨大な真っ赤な火炎、鼓膜を割らんばかりの轟音、濡れ雑巾で顔面を引っ張叩く様な衝撃が走った。
戦艦〈タナガー〉の第一、第二主砲の斉射の轟音をCICで聞きながら、アルマゾフが呟いた。
「これが、一六インチ……」
「我らがクラブへようこそ、アルマゾフ司令官」
にっこりと笑みを浮かべながらトーレス艦長はアルマゾフに振り返って言った。
砲術士官が弾着までのカウントダウンを始める。それは即ち、狙われた旗艦〈アゲンスト〉がこの世に存在できる余命のカウントダウンに等しかった。
ISAF艦隊が〈タナガー〉のものと比べ遥かに小口径で豆鉄砲と言える主砲で応射を始めた時、カウントダウンをしていた砲術士官が「五秒前」と告げる。
「五、四、三、二、一、弾着、今!」
普段、艦これの艦娘と言う女性だらけの戦場を描いているので、息抜きに男が多い現代兵器の戦争を取り扱ってみたくなり、息抜きがてらに書きました。
感想評価ご自由にどうぞ。