please kill me 〜第零試験部隊〜 作:カゲさん
アラガミには数多の種類があるが、中でも危険な存在として接触禁忌種が存在する。禁忌といっても、破ったから罰則が下るわけでもない。これはもっと根本的な理由で禁忌とされている。
『遭遇すれば確実に殺されるアラガミ』
として接触禁忌種とされているのだ。
しかしそんなアラガミでも討伐する必要はある。勿論並のゴッドイーターにそんな任務は任されない。
「おっ、見ろよヤナギ。レアものだ」
今回同行することになったリンドウが嬉しそうに神機で喰らったソレを見せてきた。
後ろでは任務の討伐対象であるアラガミが死体となって転がっている。おおよそのフォルムはボルグ・カムランと似ているものの、全体的に青白く、盾は神機の捕喰口のように、尾先は剣のように変化している。
禁忌種の中でも強力なものとして分類される「第一種接触禁忌種』または『指定接触禁忌種』に分類される『スサノオ』というアラガミだ。
このアラガミはアラガミ化ゴッドイーターの成れの果てなんていう説がある。また、ゴッドイーターの神機を喰らうという習性から『神機使い殺し』なんて言われたりもしている。どこかで聞き覚えのある呼び名だ。
「早く帰ろうよ。ここ、暑くて嫌いなんだよね」
今回の戦闘地域は『煉獄の地下街』と呼ばれる場所で、かつては地下鉄やアーケードが並んでいたところなのだというが、今はそこかしこで崩落し溶岩が溢れ出している。常人であれば生存すら困難で、ゴッドイーターも死にこそしないが茹だるようななんて言葉じゃ生優しいと思えるほどの暑さに見舞われる。
「おいおい、せっかく久々に2人っきりの任務なんだしゆっくりしていこうぜ」
「その言い方やばいでしょ」
リンドウの言葉に呆れつつ、こちらも喰い取ったアラガミ素材をアタッシュケースいっぱいに仕舞い込む。レアものは出なかったが、スサノオは全ての素材が希少で価値が高い。
「そういや、明日また新型のゴッドイーターが配属されるんだが、知ってるか?」
「また?アキが入ってからまだそんなに経ってないけど、新型ってそんなポンポン見つけれるものだっけ」
「いや、どうもロシア支部の方から転属してくるらしいな。支部長が招聘したんだとよ」
思えば確かに新型適合者が極東地域で見つかったなら適合試験の監視任務が入っているはずで、リッカの整備室には新型神機が調整用に置かれているはずだ。だが、それらは一切目に入っていない。
「支部長頑張ってるなぁ。やっぱエイジス計画のため?」
「………ま、そうだろうな。一応うちで面倒見ることになったんだが…手が空いてる時でいい。ヤナギ、その新人のこと気にかけてやってくれないか」
リンドウの妙な申し出に首を傾げる。
わざわざ他部隊の俺に特定の誰かを指定してそんなことをリンドウが言うなんて思いもしなかった。
「それって、エリックの時みたいに何かあったらその新人の話に乗るとかそういう話?」
正直、それなら隊長として頑張れよとは思う。
「まあ、そういう話といえばそうなんだがな……その新人の名前、『アリサ・イリーニチナ・アミエーラ』ってやつでな」
「……………あー、そういう……ね」
アリサ・イリーニチナ・アミエーラ。その名前はよく覚えている。
「もう6年経つんだっけ」
「あの時が初陣だったお前もソーマも、今じゃデカくなったもんだなぁ」
「リンドウは身も心も年寄りになったみたいだね」
「いや21はまだ年寄りって感じじゃないだろ」
2065年に行われた、アラガミ掃討作戦。フェンリルの台頭により衰退の一途を辿っていた、旧ロシア地区連合軍が先導していたのだが敢えなく失敗。作戦地域に集結していたアラガミの大群が各地へ散り、民間人に大きな被害を出すことになった。
当時俺は第一部隊員としてリンドウ、ソーマ、そしてツバキと共に応援としてロシアに赴いていた。作戦失敗の後、第一部隊は民間人の救出作戦を決行。その最中でアリサと出会った。
彼女の両親が、目の前でとあるアラガミに喰われた後で。
「ゴッドイーターになったのか……あの事、トラウマになってるとか?」
「どうもな。今はカウンセリングとかのプログラムでなんとかなってるらしいが…」
「へぇ………まあ向こうはこっちの顔なんて覚えてないだろうけど、一応気には止めておくよ」
「おう、お前なら安心して任せられる」
リンドウは俺の胸をトンと叩き「そろそろ帰るか」と言って地上の方へ歩き出した。その後ろを付いていきながら、俺は当時遭遇したアラガミのことを思い出す。
名は『ディアウス・ピター』。ヴァジュラ属の接触禁忌種であり、初陣での戦闘は何が何でも回避すべき強敵。アリサの存在に気づいて逃げることも出来ず、あの時はなんとか撃退は出来たものの、かなりの手傷を負ってその後は戦闘に参加できなかった。
「…今なら確実に」
もしあの時あの場にいたのが今の俺なら、アリサの両親すら救えたかもしれない。その傲慢な考えと呼応するように、右手に握る神機が微かに震えた。
◆
任務から帰還して整備室でリッカと適当に雑談してから、小腹が空いてきた為少し早めに夕食を取ることにした。食堂は勿論まだ人が少なく、席はそれなりに空いている。元々ごった返すことはそれほどないのだが、比較的に…というわけだ。
そして俺自身は相変わらず1人で料理を突っついていると、こちらも相変わらず白スーツをピシッと着こなしたツバキ教官がプレートを持って歩み寄ってきた。
「相席いいかね」
「勿論。俺の周りはいつも空いてますから、混雑時には是非ご利用ください」
「皮肉が過ぎるぞ。最近は霊代とも仲がいいと聞いたが?」
「他と比べたら、ですよ。第零の任務については知りませんから」
ゴッドイーターを殺してるなんて知れば、アキだって多少の距離は置くはずだ。自分の気味悪さはよく理解している。
「あまり斜に構えようとするな。ヤツがどう受け取るかはまだわからんだろう」
「…了解致しましたぁ教官殿」
「茶化すな」
それから暫し互いに黙々と食事を摂っていたが、なんとなく居心地の悪さを感じて咄嗟に話を振る。
「アキと…コウタでしたっけ。2人はツバキさんから見てどんな感じですか」
「…まあ、概ね満足できる結果を残している。藤木はまだ危うい点が目立つが、アレはいずれ大成するタイプだろう。霊代の方は……」
そこで言葉が切れる。いつもハキハキと話す彼女には珍しく、顔を伏せて言葉選びに努めている様子だ。
「アレは……正直わからん。適合率も訓練も確かに優秀だったが、初戦の戦闘記録は平均的なものだ。………だが、その翌日からヤツの動きはまるで違うものになっていた」
歯切れは悪いが、それでも話を続ける。
「成長速度が桁外れといえばいいのか…初戦は緊張していただけなのか……まるで正解への最短ルートを見つけたような…」
そこまで言ったところで、ツバキはハッと顔を上げてこちらに目を向けた。
「……お前か」
「はい?」
「確か初任務後、作戦地域に侵入してきたボルグ・カムランをお前が討伐しただろう。その一部始終をヤツはリンドウと見ていたはずだ」
確かにそんな出来事は起こっていた。だが、それが一体何の問題になるのだろうか。
「不味かったですか?」
「いや、それ自体は何の規則も破ってはいない。むしろ安全確保としては無闇に離れようとしない方が正しいと言える。だが、その件で霊代はお前の動きを見た。思えば、今のヤツの動きはお前とよく似ている」
「俺と……いや、言っても一回見ただけですよ?」
俺が直接戦闘を見せたのは初任務のあの日だけ。以降はそれほど同じ任務にはついていない。顔を合わせたりもしたが、もう戦闘はしていなかった。
「あぁ、全く同じではないから私も気付かなかった。だが、お前と似た動きをしているのは間違いない。それが出来てしまうのは、ヤツの能力と言うほかないだろうがな」
果たしてそんなことが可能なのか。少なくとも一度見ただけで動きを模倣なんて俺には難しいだろう。だが、類似を指摘したのは雨宮ツバキだというのなら間違いではないはずだ。
「……まあ、だとしたら良いんじゃないですか?アキの能力も分かって、戦力も上がってる。討伐実績もついてるんですよね」
「…昨日はサクヤの援護こそあったが、コンゴウの2体を討伐している」
「すごいじゃないですか」
コンゴウといえば『単独討伐すれば一人前』と言われるアラガミだ。まあ、極東支部においては最近強力なアラガミが増えすぎて『コンゴウくらい倒せて当然じゃね』と言われたりしてるが、新人で同時討伐は十分素晴らしい戦績だ。
「そうなんだがな……少し1人で背負い過ぎてしまう気質を持っているという話も聞く。そんなところまでお前に似なくて良いと思うんだがな」
「いやぁそれこそ大丈夫じゃないですかね。第一部隊にはリンドウとサクヤいますし、ソーマはちょっとわからないですけどコウタは良い同期になってると思いますし。…あ、俺も別に大丈夫ですからね」
「……そうか…そうなら良いんだがな。お前も、私が言えたことじゃないがあまり背負い混み過ぎるなよ」
「お気遣いありがとうございます。それじゃあ、俺はこれで」
平になった皿だけが乗るプレートを持ち上げ、小さく頭を下げる。
最近リッカから「アキの神機は誰かを守ろうとしてついた傷が多い」と聞いた。全体の傷と比較して多いということではなく、文字通り傷だらけという意味で。
ツバキさんにはあんな風に言ったが、アキが1人で背負い込むという気質はいずれ何かしらのアクシデントを起こすだろう。だがそれはきっと周りが言って治るものではなくて、アクシデントが起きても第一部隊であれば対処は可能だと思う。少なくとも、他部隊の俺が口出しすべきところじゃない。
俺はまあ、何かあったらその時はその時だ。