please kill me 〜第零試験部隊〜 作:カゲさん
アリサの着任から1週間が経過した。状況は予想通りに思った通り。順調に多方面へ高圧的態度をまき散らしたアリサはゴッドイーター達から煙たがられ、本人も何食わぬ顔で変わらない態度を取り続けている。その反面、実力は確かなことがまた難儀な点だ。
「ヤナギ、このアラガミは?」
しかし幸いにも第一部隊にはその程度で毛嫌いする者はおらず、サクヤやアキも普通に接しているらしい。元から興味を持たないソーマはまた別なのだが。あとコウタからはたまに「アイツの言葉、結構グサッと来るんですよね…」と愚痴をこぼされたりするが、まあ大丈夫そうだ。
「ヤナギ!聞いてるの!?」
「いてっ」
声に反応しなかったからだろう。アラガミの資料が載っているタブレットが顔面に強く押し付けられ視界が遮られる。首を傾けて覗き見ると、エリナが至極不満そうな顔で睨みつけていた。最近はよく女の子に睨まれる。
「ごめん、なんだっけ」
「このアラガミ!どんななの!?」
再び突きつけられたタブレットは顔面には当たらず直前で止まる。ディスプレイに表示されていたのは『シユウ』の資料が映し出されていた。
「あぁシユウか。俺コイツ嫌いなんだよね」
今俺はエントランスでエリナにアラガミ講座の教鞭をとっている。具体的には公開されているアラガミについての特徴や弱点を教えるというもの。
これは数日前にエリナが希望して始まったもので、遊ぶことなく勉強に勤しんでいる。突然思い至った理由も本人に聞かされた。
エリナは今、ゴッドイーターを目指している。
「下半身も翼も硬くて、攻撃が通りやすいのはこの頭と翼先の手だけ。弱点は小さいしすばしっこいしで厄介な相手だね」
「でも、結合崩壊を起こせばその硬いところも柔らかくなるよね?」
「そうそう。特に銃パーツの破砕系バレットとかは有効だね」
エリナは「ふーん…」と呟きながら膝の上に乗っかってきて、熱心に資料を読み続ける。
どうやらパッチテストでは既に適合と出ているらしく、そのことで父親は頭を悩ませていた。
まあそれは少し先の話だ。本当にゴッドイーターになるのか、あるいは整備士やオペレーターなどになるのかはまだ決まっていない。それにどの職業を選ぶにせよ、アラガミのことを知るのはタメになることだ。
「あ、エリナちゃんだぁ!こんにちは〜」
いつものように元気な声。名前を呼ばれたエリナはディスプレイから目を離して顔を上げる。
「ヤナギさんもこんにちは!」
エレベーターの方からゾロゾロと現れたゴッドイーター達の先頭を駆けて寄ってくる赤毛のアキ。
「こんにちは。みんなも元気そうだね」
その後ろにはリンドウとコウタ、そしてアリサが並んでいた。
「お前さんも元気そうで何よりだ。エリナは今日も勉強か?偉いなぁ」
「ゴッドイーターになるんだから当然よ!」
リンドウに褒められ満更でもないエリナの頭をアキがポンポンと撫でながら横目にコウタを見る。
「だってさコウタ。ゴッドイーターは勉強するのも当たり前なんだよ?」
「うっ……いや、俺だって勉強してるし…」
「でもアナタ、座学ではずっと居眠りしてますよね」
「グハッ………以後気をつけます…」
アリサの追い打ちもあって撃沈したコウタはトボトボと背を向け、他3人もそれを追うように任務へと向かっていった。
そしてその後ろ姿をエリナは憧れの眼差しで見つめていた。
フォーゲルヴァイデさん、どうやらこの子本当にゴッドイーターになりそうです。
◆
迎えの人がエリナを連れ帰っていき、ちょうど予定時刻になった俺は任務へと出発した。
今回はソーマとの合同任務で討伐対象はハガンコンゴウ。コンゴウ属の禁忌種である。こいつもまたシユウ以上に硬い奴で嫌いなタイプだ。だが今回俺の役割は露払いの方。周囲にいる通常のコンゴウ種2体の引きつけと討伐をすればいい。柔らかい敵は大歓迎だ。
「…………」
「…………」
だがこの任務での問題はアラガミだけじゃない。
任務中、つまり移動中もソーマと2人だということ。
これ以上にないほどの沈黙。
『ソーマと2人はすげえ気まずい』
あまりに居心地が悪く、気を紛らわすためにリッカとひたすらメールを交わし続ける。
ソーマは俺に全く口を効かないし、俺自身話すこともない。これが同じ第一部隊とかなら同期としてもしかしたら何か話していたのかもしれない。いや、それも言い訳か。
ソーマは寡黙なタイプではあるが決して喋らない奴ではない。実際、エリックとよく会話を交わしていたのを見た覚えがある。ちなみに目が合ったエリックに巻き込まれそうになった覚えもある。
まあ要するに、俺もソーマも互いに苦手意識があり無為に交流しようという気は無いのだ。
『難しく考えすぎだよ。コウタ君とかアキちゃんと同じように話したらいいじゃん』
『それがすげえ難しいんだよ』
本当簡単に言ってくれる。例えば俺が任務内容とか世間話とかしてみろ。「あぁ」の返事が返ってきたら良い方だ。絶対殆ど無視。
「なぁ」
失礼なことを考えていたのが伝わってしまったのか、ソーマと目が合う。ていうか、今ソーマの方から話しかけてきてる?わぉ感動。
「なに?」
「最近、任務先で妙な気配を感じることはないか」
感動も束の間、よくわからない話題が飛んできた。気配…新種のアラガミみたいなことを言っているのか?
「んー…特に感じたことないけど、どういう気配?」
「いや、ないならいい。聞いて悪かったな」
話を切られた。これは俺が悪かったのか?
以降移動中や戦闘中、一言も会話が交わされることはなかった。オペレーターを務めたヒバリからも苦笑いが伝わってくる。
帰投してから整備室へ向かうと、リッカが呆れ顔で出迎えてくれた。やっぱり俺が悪かったのか?