please kill me 〜第零試験部隊〜 作:カゲさん
今日も今日とてリッカの整備室に入り浸る。様々なゴッドイーターの神機を整備したり改造したりする彼女の後ろ姿をボーッと眺め、時折り構ってくれることに甘え、暫くすればまた後ろ姿を眺める。
今どこかの民間人が入ってきてこの状況を見られたらさっさと働けと叱責されるだろうが、有難いことにここはエントランスと違って関係者以外が来ることはない。関係者が入ってきたとて、任務開始時刻になっていない為問題ない。
「じゃあツバキさんが来ても大丈夫なんだ」
「あ、それは例外」
確か前の任務でのアキ,アリサに対する評価報告書が今日提出期限のはず。まだ一文字も刻んでいない現状だと100%どやされる。
「任務まで時間あるんだから、今のうちにやっておきなよ」
「夜の俺が頑張るから問題なし」
「怒られても知らないよー」
いやほんとちゃんとやるから。評価報告もなにも、2人とも優秀でしたって書けばいいだけのこと。昨日は良かれと思いあんなことを言ってしまったが、今にしてみればあの内容は新人に押し付けるようなものじゃなかった。
彼女らは本当に優秀だと思う。個々の戦闘能力なら並の新人より二つか三つは飛び抜けている。俺のように1人任務が基本なら今のままで問題はない。
まあ、そうもいかないから問題なんだろう。第一部隊として戦うなら他のゴッドイーターとの連携は必須。どこまでも個人技だけで乗り切ることはできない。
だがそれは俺には関係のないことだ。連携をとって戦うなんて昇格してからは全くなく、たまにある複数名での連携もあくまで個人技の延長として強引に噛み合わせているだけ。とても教えられるようなものじゃない。
要するに、俺では役不足なのだ。
「指導としては十分だと思うけど」
「具体的な練習法とか教えずに理想だけ突き付けるのはダメだろ。自分のことだけど」
「一から全部教えるのが正解ってわけでもないよ。手助けはあっても、自分で考えて解決する方が成長に繋がる。身に覚えない?」
「………ある、気がする」
「そういうこと。自分に厳しくしすぎるのは悪い癖だよ」
含蓄ある言葉に論破されたが、それは優しさの籠ったもので救いにもなる言葉だった。俺は間違ってなかったと思えるだけで前を向ける。
例えさっきすれ違ったアリサに挨拶を無視された挙句思いっきり睨みつけられた事実があっても、俺は間違ってなかったのだ。
「ところでヤナギ。君の神機随分変なところがガタついてるんだけど、これも身に覚えはある?」
おっと今は俺の神機を整備中らしい。
「んー………いや、どうだろうな」
「ほんとにわからない?」
「さぁ…」
「ヤナギ。」
なんでバレるんだろう。
「……まあちょっと乱暴に振ったり………ぶん投げたり…いでっ」
ゴンッと鈍い音を立ててリッカの拳が額に直撃した。
「神機を、投げない…!」
いやほんと、最近よく女の子に睨まれる。ていうか殴るのも良くないと思う。危ないよ。俺が悪いけど。
「ごめんって。容赦ねえなぁ」
このままお説教の時間が始まるかなと思ったその時、ありがたくも整備室の扉が開きリンドウが気だるそうな感じで顔を覗かせた。
「おーいたいた。ヤナギ、ちょっと時間いいか」
「喜んで〜」
ジクジクと刺さる恨めしい視線を背に浴びるが、構わず部屋から出る。
リッカは基本的に怒りはせず、どちらかといえば悲しそうな面持ちで説得してくる。だが神機のこととなれば一変。しっかり怒ってくるのだ。そして俺、怒られるのは嫌いだ。
「本当によかったのか?」
「俺にとってはね。リッカはそうじゃないだろうけど。それより、何かあった?」
「…榊博士が今来て欲しいんだとよ。どんな用件かは俺も聞かされてないんだが」
「ふーん。またお願いかな」
「だとしたら今度はちと面倒な相手なのかもな」
これまでも榊博士から研究目的などで『あのアラガミの素材を持ってきてくれ』とお願いされることは多々あった。
初めの頃はアラガミ講座のノリでうんざりするほどアドバイスをもらっていたが、今はもう殆どメールでのやり取りであり、直接言われることはあまりない。
「なんだろう、やっぱ禁忌種?」
「そんな単純なもんか?」
あれやこれやと榊博士の企てに憶測を立てながら研究室へと辿り着く。見慣れた扉を開くと、いつも通り胡散臭い笑みを貼り付けた男が幾つものモニターに囲まれたデスクに腰掛け、キーボードをカタカタと打ち続けていた。
「やあ、よく来たね」
区切りをつけるようにターンっとエンターを押してから榊博士は俺たちの方を見上げる。
「今日は一体何の用で?」
「君達を呼んだのは他でもない。とあるアラガミについて調査をして欲しいんだ」
わかっていたことではあるのだが、このニヤケ顔で頼み事をされると改めて痛感する。
コレめーんどくさいやつだ。
「新種ってことですか」
「その通り。ただ、実際に確認されたわけではなくてね。あくまで可能性として存在するかもしれない、といった程度なんだ」
「はい?」
「君達に調査して欲しいのは『人型アラガミ』だ」
「…はい?」
人型。人の形をしたアラガミ。以前榊博士本人から聞いた話で、確か理論上は存在してもおかしくないらしい。
「知っての通り、アラガミも人も、早さこそ違うが進化を遂げてきたのは同じだ。となれば、人間と同じ進化を辿ったアラガミも存在する可能性がある。という話を以前したのは覚えているね」
「まあ、はい。覚えてます」
「それはよかった。実は、根拠は薄いけどそのアラガミが極東地域で出現しているかもしれなくてね。是非君たちに協力して欲しいんだ」
「あー博士、ここまで聞いといてなんなんだが…」
リンドウが頭をかきながらバツの悪そうな顔を浮かべていた。
「別件で手が離せそうになくてな。悪いが今回はパスだ。それはヤナギにだけ頼んどいてくれ」
「ふむ、それなら仕方ない。無理強いはできないからね」
「ねえそれ、面倒ごと押し付ける感じだから俺にも謝るべきじゃない?」
「じゃあそういうことで」
言及するや否やリンドウは部屋から去っていってしまった。この男、前からそうだったが面倒ごとから逃げる手際が良すぎると思う。そして向き直ると、胡散臭い狐顔。
「さて、それじゃあよろしく頼むよ。ヤナギ君」
「………」
これはほとんど無理強いみたいなものだ。