please kill me 〜第零試験部隊〜 作:カゲさん
リンドウが行方不明となった。
詳しいことはあまり聞かされていないのだが、どうも新種のアラガミが現れて戦闘中に逸れてしまったらしい。
報告が届いた極東支部は騒然となっていた。人望も能力も優れエースとも呼ばれる男が行方不明となればそれも当然とことだ。そして、我先にと捜索へ出ようとするゴッドイーターも多かった。
「落ち着けッ!」
半ばパニックに陥りそうになっていたエントランス内に喝が入る。声を張り上げ皆の動きを静止したのは、他ならぬリンドウの姉である雨宮ツバキだった。
「不確定な状況で無闇に動けば被害を増やすだけだ。捜索部隊はこちらで編成する。それまで各員待機だ。それと久永ヤナギ、ここにいるか」
「はい」
状況確認のためにリッカの整備室からエントランスまで出てきたのだが、偶然にもお呼びがかかった。
「お前は先行して旧市街へ向かい状況偵察だ。捜索範囲内にどれだけのアラガミがいるかは未知数だが、やれるな」
「行けます」
「よろしい。急ぎ準備し出撃しろ。残りの者には追って連絡する。解散!」
そう言い放ちツバキ教官はカツカツと足早に去っていった。今この場にいる誰よりも捜索に出たいのは間違いなく彼女だろう。しかしゴッドイーターではない上に立場の問題もあるため場をかき乱すような真似は決してしない。
おかげでエントランスは落ち着きを取り戻し、各々がいつでもすぐ出られるように準備に取り掛かっていた。
「…多めに持っていくか」
かくいう俺も急いで自室へと戻り準備を整える。
コートを羽織りベルトポーチを巻き、回復錠や持てるだけのスタングレネードを突っ込んでいく。
作戦はリンドウ捜索に際しての現地状況の確認。端末からの情報だと第一部隊が多数の新種大型アラガミと遭遇していたらしい。もしソレらが残っていればキツイ任務になるかもしれない。
「よし」
不備がないかザッと確認して、足早に屋上へと向かう。
基本的に作戦地域までの移動手段は距離によって決まるが、その緊急性によっても変動する。そして今回の件については特に緊急性を要するため、陸路ではなく空路で向かう事となった。
最上階の鉄扉を開けると既にヘリコプターがバラバラと大音量でプロペラを回していて、その側には数名のフェンリル職員と大きなアタッシュケースを持ったリッカが立っていた。
本来こういう場に整備士であるリッカが立ち会うことはない。しかし俺が出撃する際、時折彼女はこうして自分の手で神機を運んでくる。
そして何か予感があるのか、こうした時にはほとんどの場合で任務は過酷なものとなってきた。
「待ってるから」
「あぁ、帰ってくる」
互いに顔を寄せて、多くは語らない。そのままケースを受け取ってヘリの後部へ足をかけて操縦席のフレームを強めにバンバンと二度叩いた。合図を受け取ったパイロットは離陸をはじめ、あっという間にアナグラの姿が見えなくなった。
パイロットも事態の深刻さを知っているのか、普段より速度を上げているようだった。生憎と俺の評判が悪いせいで雑談を交わしたりはしないのだが、リンドウを救いたいという気持ちでは同じ。変に意地の悪いことはしてこないだろう。
別に酔ったりはしないが、以前は無意味に機体を揺らしまくるパイロットがいたことがあった。人殺しを乗せたくないという気持ちがあってやったのだろうが、気持ちのいいものではない。
それに、幾ら上空といってもココは悪戯を仕掛けられるような場所ではないのだから。
「………ッ!」
離陸してから暫くした後、少しまずいことが起きた。
急ぎヘッドセットを取りマイクに向かって声を出す。
「あとどれくらいで着きますか!?」
「はいっ?…えっと、もう間も無く作戦地域上空ですが」
「なら今すぐ支部に引き返してください!10時方向、アラガミです!」
「っ!?」
まだ距離はある。しかし目視はできてこちらへどんどん近づいてきている。大きさから恐らくはザイゴートの群れだろう。射撃タイプの神機ならヘリからでも対処できるのだろうが、生憎そうはいかない。
「早く!」
「りょ、了解!しかし任務は…!」
「ここから始めます!」
仰々しい音を鳴らしながらケースから展開された神機を手に、中腰でアラガミの方を向く。もうそんなに距離はない。
ギリギリ届くはずだ。
「戦闘開始!」
ヘリの操縦に支障が出ない範囲で、力を込め床を蹴り飛び出した。高度はおよそ三百メートル。地面ははるか下方にある。
全力とはいかずともゴッドイーターの膂力により飛び出した身体は高度をさほど下げず空を直進し、迫り来る先頭のザイゴートに刃を深々と突き刺した。
「一体目!」
不意打ちを喰らったザイゴートは重力に従って落ち始める。俺はソレを下へと蹴り飛ばし、その勢いで体を回し神機を咬刃展開させリーチを伸ばす。そしてこちらに気付き移動を止めた群れのうち、二体を一度に両断した。
「三体目!」
攻撃の手は止めない。神機をもう一回転させ別のザイゴートの胴に突き立てクリーヴファングを発動させる。地面へ足をつけている時ならばともかく、空中で発動すれば神機を引き寄せるのではなく、神機に引き寄せられるのは必至。
飛行型代表のザイゴートは位置をほとんど変えず、俺の体は上へと引っ張られる。
「あと三体!…ッ!」
すれ違いざまに刺さった神機を振り抜き、残りのアラガミを確認する。視認三体。内一体が突進を繰り出し、こちらはガードを展開する。ザイゴートはその防御ごと貫かんと突撃を強行するが、俺はそれを受け流すように弾き、その背に向け捕喰形態に変えた神機を放つ。
禍々しい赤黒い咢はザイゴートの胴体に喰らいつくが、噛み切らずにその状態を維持する。そこへすかさず腰に取り付けていたスタングレネードを投げつけた。
ピンの抜かれたそれはザイゴートの正面についた時点で効果を発揮し強い閃光を生じさせた。
目前で食らったザイゴートは一時的に飛行制御を失い落下を開始した。神機を喰らわせた俺も付いていくように落下していく。残り二体のザイゴートも同じく気絶し落ちてきていた。
地面まで目測で約三百メートル。地面までの到達時間は大体八秒。そしてスタングレネードの効果時間は個体差はあれど約四秒。
ザイゴートが目を開け浮遊能力が戻った瞬間に合わせて次弾のスタングレネードを投げる。再び浮遊能力を失い落下を始めるが、今回は先程よりも少しだけ復帰が早かった。しかし、そんなことはどうでもいいこと。
地表までの距離は目測で約百五十メートル。幸いと言うべきかこの辺りは超高層ビルが乱立していた場所であり、この高さまで来ると其処彼処にその残骸が見受けられる。
「あぁぁクソッ!」
捕喰形態を戻し、ザイゴートの丸い図体を蹴り飛ばす。離れ際にソレは両断し、斜め下へと落下している俺を追いかけるのは残り二体となった。
「こんなのは今回だけで充分だな…ッ‼︎」
落下するにつれてビルの壁が近づいてくる。ゴッドイーターの身体能力ならそのまま中へ飛び込んでもまあ平気だろうが、劣化の進んでいるこの建物に衝撃を加えて崩壊、生き埋めなんて末路は辿りたくない。
「役に立てよ…!」
細かく角度を調整し、ビルの壁へ到達と同時に刃を突き立てた。ガリガリガリガリと削りながらも落下の速度はなかなか衰えず、無駄に切れ味のいい神機に苛立ちすら覚える。
「こういう時に好き嫌いしとけ!」
気の利かない神機に怒鳴りつけてみると、次第に手にかかる負荷が強くなり落下速度は低下していく。が、それでもゆっくり着地とはいかないようだった。
残り十メートル程になったところで壁を蹴り、地面と角度をつけて着地態勢をとる。
「グッ………‼︎」
幾ら身体能力が向上しているゴッドイーターとて、高速で落下すれば強い痛みが全身を迸る。とはいえ大怪我を負わないのはゴッドイーターだからなのだろうが。
こんな経験するならデータベースにあった五点接地とかいうのちゃんと読んでおけばよかった。
「っ痛ぇ………。あー、ちょっと一息ついていいか」
高度三百メートルの落下旅行を体験した矢先、地上で待ち構えていたのは大型アラガミの群れだった。