please kill me 〜第零試験部隊〜   作:カゲさん

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ゴッドイーターは体内に投与された偏食因子により、生命力や治癒能力も向上している。程度は適合率によって変動するが、高ければ大怪我を負っても死なず、傷の治癒も早い。

 

とはいえ首が飛べば即死となり、治癒が追いつかないと判断されれば手術も行う。今回の場合ヤナギは後者となり、さらに手術室ではなく集中治療室へ直接運び込まれているということは、殊更酷い状況を指し示していた。有り体に言うならば、瀕死である。

 

集中治療室へ運び込まれたヤナギは全身至る所に裂傷や打撲が見られ、右大腿骨、右尺骨、肋骨、その他八箇所骨折。左頬は肉が抉られ、右脇腹には拳大の窪みがある。内臓もぐちゃぐちゃに潰れており、内外共に目も当てられない容体であった。

 

そんな状態になって尚生き残るのは、医師の力量もあるが、高い適合率を持つゴッドイーターである証だろう。しかし死の可能性も充分にあったヤナギの意識は五日目になっても目覚めないままだった。

 

集中治療室から医務室に移された後、リッカは仕事の隙間を見つけてはヤナギの元へ来ていた。

 

自分都合で仕事量が減るわけではないのだが、事情を察した他の神機整備士達が気を利かせ、リッカが請け負うはずの仕事を代わりに引き受けたりもしていた。

 

時間の許す限り傍にいたリッカだったが、他に見舞いに来た人はそれほど多くはなく、両手で事足りてしまう。アキ、コウタ、サクヤ、ヒバリ、ツバキ、榊、エリナ。医療スタッフを除き、リッカが医務室で会ったのはそれだけだった。

 

その中で最も顔を合わせて、かつ最も宥めるのに時間がかかったのはエリナだった。極東へ静養で来ている彼女はアナグラの医務室にも勿論来るため、ついでに見舞いというのは不思議なことではない。

 

だが彼女は最愛の兄を亡くしたばかりで、その穴の幾らかをヤナギが埋めた経緯がある。そのヤナギが重症となれば、エリナも心中穏やかでいられない。

 

初めて訪れた時は泣きじゃくり、しがみついたまま離れようともしなかった。その日は看護師のヤエが協力し何とか帰らせたが、次の日もその次の日も見舞いに訪れていた。

 

エリナに次いでよく来たのはアキだろう。初日と、三日目、そして五日目の今日。エリナが帰ってから暫くして彼女が訪れた。任務終わりで疲れていたが、まだ目覚めないのが心配で来てしまったらしい。

 

「リンドウさんの捜索、やっぱり再開されないみたいです……生存の確率は低いだろうって」

 

「私も聞いたよ。ヤナギがこうなったのが、後押しになっちゃったんだろうね…」

 

この数日間で様々なことが第一部隊に起こっていた。

 

まず、リンドウが除隊(KIA)となった。

捜索打ち切りにはあまりに早い対応だったが、それ程あの区域で生き残ることは困難だと思われたのだろう。

 

そして次に、アリサが意識を戻した。

例の事件以降、彼女は目を覚ましては錯乱を繰り返していたため面会謝絶となっていたが、アキが接触してからは回復の兆候が見られている。その時アキはアリサの記憶や感情のようなものを見たらしいが、詳細は不明である。

 

最後に、サクヤの不調とソーマの噂についてである。

リンドウと最も近い仲だったサクヤはアレ以降日に日に顔色を悪くしており、明らかに不調であることが伺える。しかし、本人は決して休もうとはしない。

また、ソーマはエリックに続き又も同チームから殉職者を出してしまったため『死神』などと噂する者が増えていた。それについてソーマが言及することはないが、気分のいいものではないだろう。

 

「もしかしたら、なんですけど…」

 

アキが弱々しく溢す。

一連の出来事で直接的な被害こそないが、アキもかなり疲弊していた。

 

「ヤナギさんが、リンドウさんについて何か知ってるんじゃないかと思って……回収された時も、周りにアラガミはいなかったみたいですし…」

 

ヤナギは発見された時、ビルの壁面にもたれるように倒れていたが、周囲にアラガミの反応は一切なかった。

 

ヤナギが全て討伐したと考えるのが普通だが、彼自身や神機が既に戦える状態になかったことが大いに引っかかる。

 

真実はわからなかったが、本人が目を覚ませばわかる話ではあるのだ。そしてその中で、リンドウに関する手かがりもあるかもしれない。

 

「起きてくれたら、聞いてみよっか」

 

リッカはそう返しながら、ヤナギの手を握る。

 

この五日だけでも、ヤナギは驚異的な回復力を見せている。抉れていたはずの頬はガーゼを当てるだけで済むようになっており、骨折用のギプスはほとんど外れている。負傷箇所が多いため包帯は至る所に巻かれているが、既に治りかけのものが多い。

 

「…こんなこと言ったら嫌な顔するんだろうけど、ヤナギが適合率の高いゴッドイーターで良かったよ」

 

「………今も、アラガミに近いことが嫌なんですね…」

 

「こればっかりは、どうしようもないことなん……だ、けど…」

 

言葉の末尾が濁る。理由はただ一つ。握っていた手が僅かにだが動いたのだ。そんなことはこの五日間一度もなかった。

 

「ヤナギ!?」

 

バッと立ち上がり、覆い被さるようにヤナギへ近づく。すると薄らと彼の目が開かれる。

 

「……こ…こ………はッ!?」

 

意識が戻ると同時にヤナギが跳ねるように上体を起こす。「うわっ⁉︎」と仰け反るリッカだったが、その両肩をヤナギの手が掴む。

 

「アイツはどうなった!?何処に行った!!」

 

「あ、あいつって……なんのこと…?」

 

鬼気迫る勢いでヤナギがリッカへ問い詰める。しかし彼の言うアイツが何を指すのか、リッカにもアキにもわからなかった。

 

「アイツだよ!六年前の……ディアウス・ピターだ!!」

 

「ディアウス・ピターって………ロシア地区の?遭遇したの!?」

 

黒いヴァジュラのような姿をした、ディアウス・ピター。六年前、旧連合軍のアラガミ掃討作戦でヤナギが遭遇したアラガミ。その時ヤナギは重傷を負い敗北を喫し、以降目撃例はなかった。ソレが極東地域に現れたという。

 

「行かないと……アイツは殺さないと!!」

 

「ちょっと待って!無理だよ!アキちゃんも手伝って!」

 

「は、はいっ!」

 

勢いのまま輸液チューブを引き抜きベッドから出ようとするヤナギをリッカは抑え込もうとするが、いくら怪我人とて相手はゴッドイーター。リッカ一人じゃどうにもならない。

 

そこへアキが加わることで、なんとかギリギリ動きを止めさせることには成功した。

 

「ッ………グゥッ‼︎」

 

言葉も発せないほど、全力だったが。

 

「放せ‼︎絶対アイツなんだ‼︎リンドウを殺ったのは……だから俺が‼︎」

 

普段の様子からは想像もつかないほど歪んだ形相と鬼気迫る態度で叫ぶヤナギの姿に、アキは瞠目する。治りつつあるとはいえ全身に強い痛みがあるはず。今更行ってもどうしようもないというのはわかっているはず。なのに、どうしてと。

 

「ヤナギは十分頑張ったよ!出来ることは全部やった!だから、お願いだから止まって!」

 

「全部じゃない‼︎こうして動いてるんだから戦えるだろ‼︎助けッ…………な………い、と…」

 

ヤナギの荒げた声が突然勢いを無くし、全身から力が抜けていきリッカとアキにもたれかかるようにして動かなくなった。

 

その後ろには、いつの間にやら部屋に入ってきていた看護師のヤエが注射器を手にして立っていた。

 

「強めの鎮静剤を打ったので、暫くは起きないと思います」

 

「ヤエさん……ありがとうございます…」

 

「いえ、これがお仕事なので」

 

それから彼女はテキパキと部屋を整えてヤナギをベッドに寝かしつけて部屋から出ていった。仕事を終えたというより、医師を呼びに行ったのだろう。

 

「ごめんねアキちゃん。びっくりしたよね」

 

「………あ、いえ…………はい…」

 

ショックが抜けきらないアキは半端な返事をしてしまう。今は再び眠りについているヤナギがあれだけ荒れたという事実が受け止めきれていないのだ。

 

目を覚まして暴れるというのは一昨日アリサも起こしていたが、それとはまた違うような気もする。普通ではないが、正気を失っていたわけではなさそうだったから。

 

「どうしてあんなに必死に……ディアウス・ピターって、ヤナギさんとそこまで深い因縁があるんですか…?」

 

「……ううん、この場合そのアラガミはあんまり関係ないかな」

 

言いながらそっとヤナギの頭を撫でるリッカの表情は、今にも泣き出しそうなほど悲しげで、寂しげで、見ているだけでアキは胸が苦しくなった。

 

「今回は、助けることが任務だったからかな」

 

リッカの言葉に、アキはピンとはこなかった。だが、恐らくそれは機密事項に関わること。聞いても答えは得られないだろうとアキは言葉を飲み込んだ。

 

「失礼するよ」

 

ちょうどそのタイミングで医師がヤエさんを連れて部屋へ入ってきた。それを避けるような形でアキは立ち上がる。

 

「それじゃあ、私はこれで。お疲れ様です」

 

「うん、ありがとね。お疲れ様」

 

入れ替わりで立ち去るアキは、病室の扉が閉まると「ふぅ…」とため息をつく。

 

ここ数日、多くのことが起きすぎた。隊長リンドウの行方不明。アリサの発狂。ヤナギの重症、そして慟哭。

 

まだ新人としての立場にある彼女にとって、それらはエリックの死と同じか、あるいはそれ以上に重くのしかかった。

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