please kill me 〜第零試験部隊〜   作:カゲさん

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まだ昼間ということもあり、エントランスはなかなかに賑わっていた。ここ数日アラガミの侵入もなかったからか、暇になった防衛班のメンバーも見かけられる。とはいえ彼らと話すことがあるわけでもなかった為素通りし一階のフロントに向かい階段を下り出した時、その先から調子の良さそうな男の声が聞こえてきた。

 

「最近アラガミの襲撃もないし、晩ご飯一緒にどう?」

 

「すみません、仕事がありますので」

 

素気無くあしらわれている爽やかな青年。受付に立つヒバリに白昼堂々アタックしてる人なんて極東支部には一人しかいない。防衛班班長及び第二部隊隊長、大森タツミ。アラガミが第8ハイブへ接近あるいは侵入した際、真っ先に対処へと向かう部隊を取りまとめている者である。

 

普段は女性に(ヒバリに)浮かれているようにしか見えないが、いざ戦闘になれば班長として高い能力を発揮するという。部隊が違うためその様子を実際目にしたことはあまりないのだが。

 

「あ、やっぱりリッカさんのところにいましたね」

 

フロントに辿り着いた俺に気が付いたヒバリが声をかけ、彼女の興味が他に移ったことに対する不満を顔一杯に表現したタツミもこちらを向く。

 

しかし彼は俺と目が合うとすぐに逸らし、気まずそうにこの場を離れていってしまった。

 

「…嫌われてるなぁ」

 

「そうじゃないですよ。あと、そういう話をするために呼んだわけでもありません」

 

「そういう話の方を詳しく聞きたいんだけど」

 

悪びれもしない態度に対する説教から始まってしまった。

 

 

 

 

1時間……いや少し盛った。30分ほどお叱りを受け心身共に大きく疲労したこの身を癒すべく自室へ戻ろうとする途中、エレベーター前で屯する男女3人組を見かけた。おそらく極東支部所属のゴッドイーターでは最も有名な人たちであろう。

 

「ようヤナギ。また神機ぶっ壊したらしいな」

 

両腕を背もたれに乗せ座でり込んでいる背の高い男が第一部隊隊長、雨宮リンドウ。

 

「不可抗力でしょ。生きて帰ってきたことがもはや奇跡なんだけど」

 

「あんまり無茶はしないようにね」

 

心配そうに優しく話すその女性は橘サクヤ。同じく第一部隊所属のゴッドイーターであり、リンドウとは特に親密な仲だという。

 

「まあ、おかげで明日休暇になったからよかったっちゃよかったけどね」

 

「おっ、そいつはいいな。久々に遊ぶか?」

 

「あなたは明日も任務があるでしょう?」

 

調子に乗りだしたリンドウの耳をサクヤが引っぱる。「いててっ」なんて言いながら、彼らは奥の部屋へと引っ込んでいった。そして残されたのは俺ともう1人の神機使い。

 

ソーマ・シックザール。その名の通りヨハネス支部長の息子であり、第一部隊所属。まあいろいろ曰く付きで噂されたりしているが、俺が言えたことでもない。

 

「…………」

 

ソーマはしばらくこちらを睨むように見た後、何も言わず自室に戻っていった。もともと親しい仲でもないため話すことがあるわけではないが、無視されるのは少し癪だった。

 

「さぁ…てと…」

 

俺も自室に戻ってさっさと寝るとしよう。なんせ明日は休みだ。ゴッドイーターとなってから貰った休みなんて両手あれば数えられるほどだ。狙ってたアラガミのレア物素材を一発で引き当てるとか、そんなレベルの貴重さだ。この機会を無駄にするわけにはいかない。

 

そう意気込み、俺はベッドに倒れ込んだ。例え明日何が起ころうとも、俺は世界で一番幸せな1日を過ごすのだ。

 

 

 

 

「あ、そっちの工具箱取って」

 

「はい」

 

次の日、俺はリッカの手伝いをしていた。あれ?

 

「やることがないからってこんなところに来るなんて、君も物好きだね」

 

ボロボロになっていた俺の神機を修繕しているリッカの様子はどこか楽しげで、この仕事を気に入ってることがよく見てとれる。

 

突然の休日にやることが何も見つからずここにはなんとなく来ただけだったのだが、これはこれでいいものだ。

 

「そういえば怪我とかは大丈夫だったの?危ない任務だったって言ってたけど…」

 

ふと思い出したようにリッカがたずねる。大きな怪我をしていないのはわかっているのだろうが、一応確認しているわけだ。

 

「心配しなくて大丈夫だって。あってもかすり傷だし、そんなのはすぐ治るからな」

 

実際にはちょっと肉が抉れたりしていたのだが、帰投した時点で傷は切り傷程度になっていた。普通のゴッドイーターならそうはいかないだろうが、忌々しくも俺の治癒能力は高い。骨が砕けようが、2日もすれば任務に復帰できる。今から体の隅々まで見られたとしても問題ないほどには健康体だ。

 

「すぐ治るからって、痛くないわけじゃないんでしょ。心配するのは当然だよ」

 

「…そうか」

 

「そうだよ。君が自分をどう思うかは自由だけど、同じように私がどう思うかも自由だからね」

 

「……そりゃそうだ。心配ありがとう」

 

「どういたしまして。っと、そろそろお昼ご飯に———」

 

修理に一区切りついてリッカが手袋を外したちょうどその時、作業室にアラート音が鳴り響いた。耳を塞ぎたくなるほどの音量のそれには嫌でも意識が向いてしまう。

 

『非常呼集‼︎非常呼集‼︎第零試験部隊は至急ブリーフィングルームに集合してください!繰り返します!第零試験部隊は至急、ブリーフィングルームに集合してください!』

 

聞き慣れたヒバリの声は酷く焦っているようで、事の重大さがうかがえる。

 

「行ってくる」

 

意識を切り替えてゴッドイーターとして気を引き締める。俺が所属は第零部隊。つまり呼ばれたのは俺ということだ。ゴッドイーターが緊急で呼び出される要件なんて、出撃以外にはありえない。

 

「待って!まだ神機の修復は終わってないんだよ!?」

 

「CNSは破損してないから出撃は可能のはずだ。パーツは交換を。装甲はそのままでもいい。近接パーツはショート。出撃まで30分で済ませてくれ」

 

「…わかった。ただしショートブレードは無理。制御機構が全然違うから30分じゃ足りない。もう少し待つか、ヴァリアントサイズの予備パーツならなんとか使えるよ」

 

「それで頼む!」

 

作業室を飛び出し、エレベーターを待たずに階段を駆けていく。

 

第零試験部隊

 

そんな大層な名前がつけられているが、所属しているのは俺しかいない。主な任務内容は昨日行った新装備の試験運用や討伐作戦における露払い。

 

しかしこれは表向きで、秘匿任務として特務と呼ばれる強力なアラガミ討伐を請け負ってもいる。そして———

 

「久永ヤナギ准尉、現着しました」

 

ブリーフィングルームの大型モニターに目を向けていた雨宮ツバキが、こちらの入室を確認して振り返った。そして、淡々と要件を語りだす。

 

「ご苦労。早速で悪いが、手短に状況を説明する。本日一二三〇、旧市街地にて第五部隊がヴァジュラ及びシユウと交戦を開始。討伐には成功したものの、部隊長が右腕と共に腕輪を喪失。部隊員に介錯を命じたがこれを拒否。現在もアラガミ化が進行中だ」

 

モニターに第五部隊のメンバーが映され、うち一人が赤く強調表示される。

 

千草ネネ。長い黒髪に黒眼と容姿は如何にも日本人らしく、彼女がどのような性格かは…知っている。

 

「命令だ、ヤナギ准尉。神機の準備が整い次第旧市街地へヘリで急行し、第五部隊所属千草ネネ准尉の介錯を行え」

 

「…了解」

 

命令を受けた俺は一度自室へと戻り、携行品や任務内容の再確認などを行った。

 

手渡されたタブレットには詳しいエリア情報、経歴を含めた部隊員情報、そして確認でき得る隊員の状態など、必要なデータが粗方揃っている。

 

そしてそのどれもが救いようのなさを示していて嫌気が刺す。

 

『神機の準備がそろそろ終わるよ。こっちから直接ヘリに載せるから、君は出撃準備に入ってて』

 

タブレットに直接送られてきたメールはリッカから。想定していた時間よりも早い。

 

「…よし、行くか」

 

第零部隊だけが請け負うもう一つの秘匿任務。

 

他部隊ゴッドイーターの殺害。

 

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