please kill me 〜第零試験部隊〜   作:カゲさん

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4 undertaker

 

「気をしっかり保ってください‼︎」

 

「お前なら大丈夫だ。俺たちがついてる!」

 

荒廃した市街地にある、とある廃ビル。その中で座り込む一人の女性に、男性二人が必死に声をかけている。女性の右腕は失われ、切断面は止血され包帯で覆われていた。乱れた長い髪から覗く目は赤く血走り、時間が経つにつれ息遣いは荒くなる。しかし、未だその意識はどうにか保たれていた。

 

みんな、逃げて…

 

そんな言葉すらうまく口にできない。腕輪を失ったことにより制御を失った偏食因子が体内で暴走していることを実感させられる。

 

今回の任務はシユウとヴァジュラの討伐。それぞれを分断して上手く各個撃破することができたのだが、最後の最後に気を抜いて死にぞこなっていたヴァジュラに右腕を噛みちぎられてしまった。

 

右腕の傷は鎮痛剤でなんとか軽減はされているが、今はそれとは別の痛みが彼女の身体を襲い始めている。

 

アラガミ化。体内のオラクル細胞が体細胞の捕喰を行い、それを媒介として増殖しゴッドイーターはアラガミと化す。問題はアラガミ化したゴッドイーターは神機に耐性を持っていることが多く、対処が難しいことにある。使用していた神機が最も効果的となる傾向はあるものの、現実的な案ではないだろう。

 

「イツキさん、どうにかならないんですか!?」

 

「今輸送車を呼んでる!初期症状からならどうにかなる可能性もあるはずだ!」

 

いいや、間に合わない。介錯を拒否してから30分は経過しており、侵喰はもう次の段階へと移りつつある。そうでなくても回復の見込みの少ない危険人物を輸送車に乗せるはずもない。その証拠に、これだけ時間が経っても迎えが来ていない。

 

しかし二人共わかってはいるのだろう。それでも、目の前にいる部隊長を見捨てることも直接手にかけることも出来ずにいるのだ。それは、千草ネネという人物の人望故に。

 

誰にでも分け隔てなく優しく、公平であろうとし、他者に迷わず手を差し伸べることができる、そんな女性。極東支部内で避けられているあの二人にさえ、彼女は他のゴッドイーターや職員となんら変わりなく接していた。

 

しかしその優しさが故に、教えが優しいが故に、彼らは仲間の命を絶つ覚悟を持っていなかった。それぞれゴッドイーターになって二年と一年。人々を救うことをモットーにして生きてきた。その考えが正しいと心から思っていて、それを教えてくれた部隊長は恩人であり師匠でもある。そんな人を死なせるわけにはいかなかったのだ。

 

けれど、現実は非情にも悪い方向へと推移する。

 

「ガッあぁぁああぁあぁあァァァアあぁあああぁあぁあァあぁああァァァ‼︎‼︎‼︎」

 

唐突にネネの体が反り返り、直後凄まじい声で咆哮した。

 

「ッ!?」

 

「なっ…!?」

 

痛々しく惨たらしい絶叫は傍にいた二人を吹き飛ばし、辺り一帯を大きく震わせ続ける。あまりの豹変ぶりに二人は動くことも話すこともできず、ただ目の前で起こる変化を見ることしかできなかった。

 

オラクル細胞による侵喰が本格的に始まってしまった。

 

失ったはずの右腕が急速に再生されていくが、ソレは人の腕と呼ぶにはあまりにも歪みすぎていた。禍々しいほど黒く、形も大きさも、存在そのものが歪に見える。全身の至る所から黒い棘が生え、もはや瞳に理性はない。

 

立ち上がった彼女の姿は、人のソレではなかった。

 

「た、隊長………?」

 

イツキが窺うように声をかける。言葉は返ってこない。

 

「ヴゥヴァァァアァァ…」

 

唸るように声を漏らす彼女の身体はそうしている間も次々と侵喰を起こし、より異形のモノへと変容していく。そしてそれと同時に威圧感が止めどなく増しているのが肌で感じられた。

 

イツキはもはや手がつけられないところまで状況が進んでしまったのだとようやく理解した。そして、自分が正しく決断を下さなかったせいで後輩のミナトまで危険に晒し、尊敬する部隊長を苦しめてしまっていることを後悔する。

 

このままでは自分たちは死んでしまう。そして、彼女を人殺しに陥れてしまう。ならば、ここは自分が責任をもって手を下さなければならない。

 

イツキは覚悟を決めて神機を両手で握り直した。彼女の心臓に狙いを定め、右足を踏み込む。

 

が、もう遅い。

 

たった一歩踏み出したその瞬間、ネネはイツキの眼前に迫りその禍々しい腕を振り上げていた。

 

「ッ‼︎?」

 

回避は間に合わない。防御も間に合わない。その腕が迫って来るのがゆっくりと視えるが、イツキは体を動かせない。

 

「ッ、なに⁉︎」

 

しかし、その攻撃がイツキに届くことはなかった。突如として彼女の身体が折れ曲がり、10メートル近く吹き飛んだのだ。

 

「お前は……」

 

白い髪に紅い瞳。黒のモッズコートを身に纏い、その手には見たことのない大鎌のような近接パーツをつけた神機。強者の多い極東支部でも特に高い戦闘能力と適合率を誇る、良くも悪くも有名なゴッドイーター。

 

「アンダーテイカー…!」

 

葬儀屋と呼ばれる、イツキが今最も会いたくないゴッドイーターが目の前に立っていた。

 

 

 

 

『ヤナギさん。状況報告をお願いします』

 

接敵してすぐ、ヒバリから無線で通信がきた。

 

「こちらヤナギ。目標は既にアラガミ化が進行していて回復は見込めない模様。他部隊員は無事だ」

 

勢いに任せて蹴り飛ばした目標は既に立ち上がり、その眼光をこちらに向けている。もはや千草ネネとしての意識はないのだろう。身体は黒ずみ、構造もヒトのソレとは程遠い。

 

「交戦を開始する」

 

「待て…!」

 

後ろから静止の声がかかる。浜波イツキといっただろうか。俺を押し退けて前へ出る。

 

「これは第五部隊の問題だ…手を出すな。ミナト、援護頼むぞ」

 

「……は、はい!」

 

イツキは飛び出し、一気に距離を詰めてロングブレードを振り抜いた。彼だって何年もゴッドイーターとして戦ってきたベテランだ。その速度と精度は波のゴッドイーターより優れている。

 

しかし、相手もまた強敵のアラガミ。元が部隊長クラスのゴッドイーターとなればその強さも目を見張るものだ。

 

目標は当然のように後方へと回避し、カウンターを仕掛けようと身を屈める。

 

「ごめんなさい、隊長!」

 

そこへミナトがアサルト弾を撃つ。連射により放たれた弾丸はイツキには決して当たらず、全て目標へと命中した。軌道が空中で変わっていたことからして誘導モジュールを組み込んでいるのだろう。

 

しかし、どうやら大したダメージは与えられていないらしい。全ての弾を受け切った目標は今後こそイツキへ突撃した。先程と同じ尋常でない速さ。

 

しかし来ると備えていたイツキはそれに反応し、振り下ろされた攻撃を避けるや否や自らの神機を対象の首へ斬りつけた。

 

「なッ⁉︎ぐあぁぁ‼︎」

 

確実に命中した攻撃だったにも関わらず、神機は金属音を鳴らしただけで目標にダメージを与えられず、イツキは殴り飛ばされ壁に激突してしまった。

 

「イツキさん‼︎」

 

ミナトは思わず声をあげるが決して不用意に駆け寄ったりせず目標に弾丸の嵐を浴びせている。

 

ゴッドイーターのアラガミ化は、通常のアラガミとは違い偏喰因子が暴走している状態となる。喰らったモノに対しての耐性を得るのがオラクル細胞であるため、元ゴッドイーターのアラガミは神機に対して高い耐性を得ている。

 

つまり、ここまで進行してしまった目標に対して通常の神機では有効なダメージは与えられない。例外として当人の神機であれば討伐は可能だが、それを行ったゴッドイーターはその適合していない神機に侵喰されアラガミ化を引き起こす、というイタチごっこが始まってしまう。

 

「お前達じゃ殺せないから俺が呼ばれたんだよ」

 

一通りやり合って満足はしなくても歯が立たないと理解はできただろう。少なくとも、イツキもミナトも再び俺を押し退けたりはしてこない。

 

「ど、どうするっていうんだよ……!」

 

壁にもたれて動けなくなりながらも、意識は保っていたイツキが問いかけてくる。

 

どんな神機でも適合できるなんて能力があるならネネの神機を使ったのだろうが、あいにくそうもいかない。ただ、別の手段はある。

忌々しくも身についたその力があったせいで俺はこんな任務を請け負っているのだが。

 

「どうにかするのが第零試験部隊だ」

 

神機を構え、目標と対する。

これまでは手数が多く取り回しやすいという理由でショートブレードを使ってきたが、今は違う。

 

ヴァリアントサイズは癖のあるパーツで昨日の任務でも初めはかなり苦労した。しかし昨日の戦闘で取り回しがいいことは理解でき、使い方もわかってきた。不利に働くことはないだろう。

 

「交戦、開始」

 

俺と目標が同時に飛び出した。こちらが袈裟斬りを繰り出すと右腕でそれを弾き、逆の手を突き出してくる。体勢を地面スレスレまで下げてそれを回避し、下から上へと右手で回すように神機を2度振る。どちらも軽く弾かれるが、元々それを承知で行った攻撃。本命はその直後の両手による縦斬り。交差した腕で防御態勢がとられるが、構わず力一杯振り下ろした。

 

「ッ!?」

 

目標が大きく後退する。垂れ下がった両腕は大きくヒビが入り、大量の血が噴き出ていた。まさか神機によって損傷を受けるとは思わなかったのだろう。その顔は明らかな動揺を示していた。

 

「まだまだァ!」

 

好機を逃すまいともう一度間合いを詰めるが、攻撃を当てる寸前で突如焼けるような痛みと衝撃が顔面に直撃した。

 

「ぐッ……あぁッ‼︎」

 

痛みで反射的に顔を手で覆い、それが隙となり敵からの蹴りをまともに喰らってしまった。咄嗟に地面に神機を突き立て吹き飛ぶ勢いを抑えようとするが叶わず、建物との衝突は避けられなかった。

 

「炎の攻撃なんて出来るのか…思ったより早いな」

 

攻撃を受けた時、目標の口から赤い球が放たれるのが見えた。受けた熱からして炎属性の攻撃なのだろう。エネルギー放出まで出来るほどアラガミ化が進んでいるとは想定していなかったが、元々高い適合率を持つゴッドイーター。となればアラガミ化による威力も並ではない。

 

「くッ!」

 

回復に努める時間は与えてくれないらしい。数瞬前までいた場所は怪力により粉砕され、余波により建物そのものすら倒壊してしまった。

 

さっきの火の攻撃は喰らったが当たったのは右頬から首にかけての範囲で、目ははっきり見えている。土煙の中から飛び出してきた目標の姿もまた、はっきりと見えた。それに対して三連続で神機を振るが、ヒビ割れた両腕により弾かれてしまった。

 

「チッ」

 

思わず舌打ちが出る。

攻撃が通じていないのがわかったため、俺は殺す為の攻撃ではなく一旦飛び退かせるために精一杯の力で神機を一振りし、防御に回された腕を上げさせ胴に隙を作る。そこへ蹴りを入れ目標を数歩分下がらせた。そして、それと同時に俺も下がる。

 

きっと、向こうは一息入れる為に距離を取ったと思っただろう。俺がこれまで行った攻撃は全て至近距離によるもの。このヴァリアントサイズが変形機構を有しているのは知らないだろう。ならば、不意打ちが効く。

 

下がると同時に神機を咬刃展開形態に移行させ、間合いを調整しつつ目標に向け振り下ろした。

 

咬刃展開という名の通り、ヴァリアントサイズは捕喰口を引き伸ばすことで長いリーチを得る。故に咬刃部分より先端の近接パーツの方が高い威力を発揮する。昨日はその間合いを把握するのにかなりの試行数を要した。咬刃展開形態が二段階分けてリーチを伸ばせることも要因となった一つだろう。

 

「ッ!?」

 

バーティカルファングを喰らった目標はその不意の衝撃に耐えきれず膝をついた。完全に間合いの外だと思われた位置からの攻撃に驚愕の表情を浮かばせる。

 

そして、この攻撃はまだ終わらない。

 

「好き嫌いせずに喰えよ…」

 

多少の苛立ちを混ぜつつ神機に力を込め、咬刃を間髪入れず引き戻した。

 

「ガァッ!?」

 

このクリーヴファングは一発の攻撃でありながら多段的にダメージを与える、ヴァリアントサイズで最も威力の高い攻撃である。それを『無理矢理』神機に喰わせながら繰り出した。

 

こうして、目標が胴体を袈裟に切断され転がっていても不思議はない。

 

「……予想通り、心臓がコアになってたか」

 

止めどなく血が溢れる断面に、砕かれた赤い結晶が見える。アラガミ化によって生じたコアの破片だろう。

 

「…ァ……ァア……」

 

さすがと言うべきだろうか。頭と胴体の半分しか残っていないというのにまだ息があるらしい。とはいえ、直に活動を停止して生き絶える。放っておいても問題はないのだが。

 

「………」

 

彼女の元へ歩み寄り、その傍で片膝を立てて座る。もう襲うような力は残っていない。精々声を漏らす程度のものだろう。

 

「ゥ……ァ…ァ……」

 

「大丈夫。ちゃんと聞いてる」

 

身を屈め、彼女の口元に耳を寄せた。

 

微かに聞こえたその声を、俺は一生忘れることはない。

 

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