please kill me 〜第零試験部隊〜 作:カゲさん
彼女と初めて会ったのはラウンジだった。俺の極東支部での交友関係は狭い。それはゴッドイーターの介錯なんて任務を担っていたから。一応秘匿任務であったが、人の口に戸は建てられない。同僚殺しともなれば余計にだ。
「隣いい?」
そうして殆どのゴッドイーターが嫌厭するためいつも空いている俺の隣に、しかし彼女は躊躇なく座った。こちらが返事をする間も無く。
「私、第五部隊隊長の千草ネネ。久永君だよね」
「……ヤナギでいいよ」
「そっか、じゃあ私もネネでいいよ。ねえねえ、ヤナギって強いんでしょ?同じショートブレード使いとしてお話ししようよ」
よく喋る人だな、と思った。明るい才覚で裏表がなく、それでいて芯のある人なのだとも。
「なんで俺に話しかけたんだ?結構悪い噂ばっかりのはずだけど」
「噂なんてただの噂。私はヤナギと話したことがないから、話してみたいと判断できない。だからだよ」
まっすぐな目。まっすぐな言葉。それらによって彼女が間違いなく部隊長なんだと理解した。肩書きとしてではなく、もっと根本的なところで。
「ねえねえ、今度一緒に任務行こうよ!」
「ねえねえ、昨日二体のアラガミをうまく分断できなかったんだけど、何が悪かったと思う?」
「ねえねえ、今からご飯なら一緒に食べよ!」
それからネネは毎日何度も話しかけてくるようになった。今にして思えば、人と繋がりを持たない俺を放っておけなかったのかもしれない。
そんな彼女が一度、介錯任務について聞いてきたことがあった。
「…ねえ、ヤナギは例の任務…つらくないの?」
珍しくよそよそしかったのをよく覚えている。俺が介錯任務を行った数日後、彼女の部隊員の一人が大怪我を負ったらしい。一歩間違えればアラガミ化の危険性すらあったと。そうした中で思うことがあったのだろう。
「………つらいとか、つらくないとかは考えないようにしてる。これは俺にしか出来ない仕事で、俺の感情なんて関係ない。だか……ら………?」
言い切るより前に、ネネは俺の頬に手を当ててきた。手の温もりがじんわりと伝わる。目を向けると、彼女は今にも泣き出しそうなほど哀しい顔をしていた。
「つらいなら、つらいって言っていいんだよ」
「…っ」
思わず、やめてくれと言いそうになった。それ以上言われると自覚せざるを得なくなる。もう簡単に斬り捨てることが出来なくなってしまう。でも、何故か言えなかった。
「ずっと会ってればわかるよ。ここ何日か、ずっとつらそうな顔してる」
顔に出したつもりはなかった。だが、彼女には分かってしまったのだろう。
「ヤナギが何も感じないなんてことは絶対にない。相手のことも相手の仲間たちのことも考えちゃって、だからそうやってつらそうにしてるんだよ」
彼女はそのまま言葉を続けた。
「私がヤナギに話しかけたのはね、このままだとヤナギが壊れちゃうような気がしたからなんだよ。そんな思いを抱えて、抑えて……でもそんなの、いつか限界が来ると思ったから…」
その優しさは、ひたすらに温かかった。彼女の熱に溶かされてしまえばきっと楽になれる。麻薬のような言葉だ。
でも、俺は第零試験部隊のゴッドイーターだから。
「………うん、わかってる。きっと私じゃだめなんだなって。私じゃヤナギは助けられない。私も、ゴッドイーターだから」
千草ネネがゴッドイーターである限り、俺にとっては次の標的候補であることに変わりはない。むしろ繋がりを深く持ってしまえば、標的となった時俺は耐えられなくなってしまう。
「……ごめん」
「ヤナギが謝ることじゃないよ。でも、これだけは言っておくね」
一息ついて、改めて向き直ったネネが告げる。
「私、もしアラガミになっちゃったとしたら、ヤナギに殺して欲しい」
「………」
「こんな話しといてなんだけどね。……背負わせちゃうのはわかってる。それでも、やっぱり私はヤナギがいい」
「…それは」
「ごめん、わがまま言っちゃったね」
俺の言葉を遮り、彼女は立ち上がって去ろうとする。しかし、俺はその背中に向かってはっきり告げた。
「わかった。引き受ける」
彼女の足が止まる。
「もしその時が来たなら……ネネ、俺はちゃんとお前を殺してやる」
彼女がそう望むなら、俺はその願いを叶える。それだけだ。
「……ありがとう!」
ネネは、今まで見た中で一番いい顔で笑った。
その言葉を、出来ればもう二度と君から聴きたくはなかった。