please kill me 〜第零試験部隊〜   作:カゲさん

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コウタとアキが入隊しておよそ一週間が経過した。

その間はとりあえず犠牲者もなく、新人教育は問題なく進んでいるらしい。

 

そして今日は、霊代アキが初めての実戦に出撃する。

 

「こちらヤナギ。ヒバリ、これでどう?」

 

彼女の任務内容はオウガテイル一体の討伐。同行者は雨宮リンドウ。場所は旧市街地。天候は晴れ。

一発目にはこれ以上ないほどの条件だ。

 

『はい、お疲れ様です。南西のオウガテイル一体を除き周辺にアラガミの反応はありません。相変わらず見事な手際でした』

 

オウガテイルは基本群れで動くため、今回俺はこのエリアにいたオウガテイルの群れを一体を除き全て狩り尽くすという任務を命じられた。途中でヴァジュラが侵入してくるというちょっとしたハプニングもあったが、特に問題なく任務は終わった。

 

これからアキとリンドウが到着して当初の任務を開始するのだが、あまり長い期間が空いてしまうと別のエリアからアラガミが来るかも知れない。それを憂慮して俺はヒバリに聞いた。

 

「ありがとう。第一部隊到着まではあと何分?」

 

「もう着いてるぜ」

 

返事をしたのは無線の向こう側のヒバリではなく、いつの間にか背後にいたリンドウだった。俺が既に回収地点にいたため、こちらを見つけるのは簡単だったのだろう。

 

「よっ、お疲れさん」

 

「珍しく早いね」

 

「おいおいひでぇな。まあ今回は新人もいることだし、隊長として頼りになるところを見せないとってな」

 

「それずっと続けなよ」

 

「んー、まあそのうちな」

 

絶対にそのつもりのない言葉で誤魔化したリンドウの後ろから、ひょこっと赤髪を揺らしながら今日の主役様が顔を出す。

 

「ヤナギさんお疲れ様です!」

 

初日会った時のように気丈に元気な様子で挨拶をするアキの微かに震える手には、整備室で見た第二世代神機が握られていた。

ロングブレードとバックラーという近接パーツに加え、ブラストと思われる小型化された銃身パーツまで備えている。戦闘では瞬時に切り替えて運用するのだという。

 

「おつかれ。緊張してるね」

 

「だ、大丈夫です!」

 

「最初はそんなもんだよ。今回はリンドウいるから、その人の言うこと聞いてたら大丈夫だよ」

 

危険な任務の多い第一部隊の生存率は、極東支部の中でも群を抜いて高い。それは個々の能力が高いことも理由の一つだが、なにより連携が見事だからだ。だがその連携は決して統率が取れているわけではない。サクヤは他に合わせているが、ソーマは基本的に独りよがりな戦い方をする。にも関わらず連携が取れるのはリンドウの指揮能力にあるのだ。

 

「お前が褒めるなんて珍しいこともあるもんだな。それじゃあ、期待にお応えして新人に最初の命令だ」

 

リンドウは新人に同じ命令をしている。それは俺も例外でなく、初めて組んだ時にそれを聞かされた。

 

「命令は3つ

死ぬな

死にそうになったら逃げろ

そんで隠れろ

運が良ければ不意を突いてぶっ殺せ

あ……これじゃ4つか

とりあえず死ぬな。それさえ守れば後は万事どうにでもなる」

 

「……はい!」

 

生きて引退できることの方が珍しいゴッドイーターにおいて、リンドウが優先させるのはアラガミを殺すことでも人々を助けることでもなく、生きること。その指針こそが彼と組んだ者の生還率を上げているのだろう。言うは易いが、それが出来てしまうのが彼の強さだ。

 

「さて、今回はオウガテイル一体だが……ヤナギ、ここで待っとくか?」

 

「んー、そうだね。わざわざ迎えの車出してもらうのも面倒だろうしそうするよ。ヒバリ、それでいい?」

 

『はい、こちらは構いませんよ。ただ今回はアキさんの能力を測ることが目的なので、手出しは一切無用でお願いします』

 

「了解。じゃあ、俺はここで待ってるよ。頑張ってねアキ」

 

「はい!ありがとうございます!」

 

「おーし、そんじゃあおっ始めるか」

 

リンドウの言葉を合図に、待機地点から2人が飛び降りていく。

 

オウガテイル一体。今となっては任務にすらならない程度のものだが、決して油断できるものでもない。大きな尾を用いた跳躍は素早く、巨大な牙は容易くゴッドイーターの身を噛み砕く。尾からは棘も放たれ、小型種故に捉えにくい。

 

新人ゴッドイーターが最初に狩る獲物ではあるものの、アラガミである以上強さは通常の生物を遥かに上回る。オウガテイルに殺されるゴッドイーターだって少なくないのだ。

 

「まあ、大丈夫か」

 

リンドウがついている上、リッカから聞いた話によるとアキ自身もかなりの潜在能力を秘めているらしい。訓練では平均を遥かに上回るスコアを叩き出し、連携行動や戦術脳も優秀だという。メンタル面も強く、緊張こそするものの怖気付く様子がないことはこの目で見てわかっている。

 

「新型、俺も使えたりしねえのかな」

 

旧型も適性さえあれば新型に乗り移れたりするのだろうか。ヴァリアントサイズで中距離でも対応できるようになったとはいえ、銃身パーツと同じ役目を果たせるとは到底言えない。出来るのなら一人で遠近対応の新型に乗り換えてみたいものだ。

 

「………チッ」

 

そんなことを考えていると、不意に肩で担いでいた神機がガタガタと震え出し、柄を握る右掌にじわりと染みるような痛みを感じた。

 

「気持ち悪りぃな」

 

率直な感想を口にしながら、俺は神機を乱雑に地面へ突き刺す。あえてダメージが加わるように力一杯に。

 

確かに新型は便利だろうが、わざわざまた別の神機に乗り換えるつもりもない。こんなバケモノ、関わりを増やしたいなんて微塵も思わない。

 

『ようヤナギ、こっちは終わったぞ。そっちも問題ないか?』

 

別れてから10分もかからないうちに無線が入る。戻ってくる2人に神機を粗雑に扱っている事を見られたら都合が悪いため、地面から神機を引き抜いてインカムに触れる。

 

「特に何もないよ。アキは無事?」

 

『は、はいっ……なんとかぁ』

 

無線越しにも疲れが見える。

それもそのはず。いくら宿敵アラガミとはいえ奴らは生物であり、あの大きさとなれば拒絶感や嫌悪感を抱くのは仕方がない。

 

とはいえこれからはアラガミ討伐の任務が増えていくことになる。オウガテイル数匹殺すのを苦に思わないくらいには育って欲しいものだ。

 

「初めての戦いはどうだった?」

 

戻ってきたアキは、もう落ち着いたのか顔色が悪かったりは気が落ちていたりはしていない様子だった。案外割り切れるタチなのだろうか。

 

「なんというか…思ってたよりオウガテイルって硬いんですね」

 

少なくともそんな気の抜けるような感想が最初に飛び出るくらいには健常だった。無線の時は単純に命のやりとりに疲れただけだろうか。神機の剣先から垂れるアラガミの血からしてリンドウの戦いを眺めていただけではないはずだ。

 

「確かに頭のところは少し硬いかもね。リンドウ、何かやり残したことある?」

 

「いや、大丈夫だ。帰りお前が運転するか?」

 

「酔ってもいいなら、やるけど」

 

「あー……また今度頼むわ」

 

「どういうことですか?」

 

ゴッドイーターは任務地まで車やヘリ出してもらうか自分で運転するかで移動するのだが、俺はどうやら運転がすこぶる下手らしく同乗した相手は必ず酔ってしまうらしい。おまけに車両に傷を多く残すってことで整備班から運転を禁じられてしまっているのだ。

 

それを1からアキに説明すると「練習すれば大丈夫ですよ!」なんて苦笑いで言ってくれたのだが、一度練習に付き合わせたリッカにすら諦められたのだ。たぶんもう無理なんだろう。

 

「そんじゃあ帰るとするか。今から戻ればちょうど配給の時間に」

 

『待ってください!ヤナギさん、作戦地域内に新たな大型アラガミの接近を確認!安全確保のため討伐をお願いします!』

 

「っと……らしいぞヤナギ。手伝ってやりたいところだが、あいにく俺はこいつの面倒を見なきゃいけないんでな」

 

面倒臭いからじゃないだろうなと勘繰るも、間違っていない以上言えることはなく、何より元から手伝ってもらうつもりもない。

 

「じゃあ、ちょっと行ってくる」

 

「ひ、1人で行くんですか!?」

 

さっさと片付けてこようと動き出すと、アキが不安げな声で呼び止める。

座学で一通りアラガミの情報は聞いただろう。確かにボルグ・カムランはオウガテイルとは比較にならないほど強力なアラガミではある。ただこの極東地域では『ちょっと面倒な敵だな』くらいの認識しかない。

 

「まあアキ、せっかくだからこいつの戦いをよく見ておけ。第零試験部隊隊長の戦いを直接見れる機会は滅多にないからな」

 

「見るのはいいけど、遠くにいといてよ。針とか飛んでったら危ないし」

 

「了解了解。安全なところから見とくって」

 

本当に大丈夫かと思いつつも、端末のマップに記された出現予想地点を確認して小走りで向かう。

 

『ボルグ・カムランの他にアラガミは確認されていませんが、十分注意してください』

 

万が一攻撃が2人の方へ流れていっても、リンドウが責任を持って防ぐだろう。下手に気にする方がむしろ都合が悪いように思える。

 

「了解。まもなく接敵する」

 

マップや足音を確認しながらポジションを取って無線に一言返すと、丁度ビルの合間からアラガミが姿を現す。

 

大元はサソリと思われる姿であるものの本来鋏があるはずの前脚は巨大な盾となり、胴以上の長さから槍のようにも見える巨大な尾針は奴にとって最大の攻撃手段。さらに金属性の外皮に覆われた体は硬く、これが『面倒な敵』と呼ばれる所以だ。

 

そして奴が広場へと出て完全にこちらが死角となった時、俺は神機を大きく振りかぶった。

 

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