財団世界でこの先生きのこるには   作:黒猫と白蛇

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若干ぶつ切り感が強いので次回も主人公視点の話になると思います。


12話

転生してきて三か月ほど経った。僕と翼也君は最近日課になった深夜の森での魔法の訓練に来ている。何故部屋での魔法の鍛錬では無く、森でやっているのか言うと理由は簡単で破壊力が出始めたからだ。

ようやく習得した魔法、火弾は拳銃弾並みの威力を持っているので流石に部屋でぶっ放す訳には行かないので森の木に対して撃ちまくっていると言う訳だ。

翼也君が付いて来ているのは魔法が見たいからって言うのが一番の理由らしいけど、自分の能力を試してみたいという所もあるらしく、霧化能力の訓練をしてる。

僕の魔法訓練では、今の所火弾と、破片防御用の結界を重点的に訓練している。教本によると6か月で一応全ての術を発動できるようにする、らしいけど今の所僕は前述の二つを実用的になるまで鍛えていく方針だ。

とりあえず精度と速射性を訓練してる、いかに早く、正確に射撃できるかと言う点は何においても大事だろう。後は結界、破片防御用の結界をいかに早く展開できるかって言うのも訓練している。

拳銃弾を防げるなら対人関係のトラブルも大抵は何とかなるはずだ。と言っても何発も撃ち込まれたり刀とかの近接攻撃を受ければ割と簡単に破れてしまうから過信は出来ないけどね。

 

「そういえば雀さん、畑中から連絡来ました?」

 

ああ、そうそう。実はこの前翼也君の事情聴取があった時に連絡を取れるように、と畑中さんから携帯を貸して貰ったのだ。翼也君が鉄錆の果実教団に関して何か進展があったら連絡するようにお願いしてたらしく、そのために携帯を貸してくれたらしい。

ちなみに今は2008年なので当然ガラケーだ。ただで携帯を貸してくれるわけ無いので多分盗聴器とかGPSみたいのが付いてるのは想定しておいた方が良いだろう。僕が魔術を使う、と言うのはバレてるのは確実な訳だし。

 

「畑中さん、ね。今の所連絡は来てないし、多分今後しばらくは来ないと思うよ。

少なくとも翼也君が話した拠点に捜査が入ったりしたらもしかしたらってくらいで、一々報告はしてくれないよ。他人に捜査状況をペラペラ喋れるわけないだろう?」

 

そう言うと翼也君は若干むっとしたような表情になりながらこう続ける。

 

「分かりました、でも連絡が来たらすぐに...」

 

そう言い終わる前に、深夜の森林に携帯の着信音が響き渡る。

 

「えっと、畑中、さん?」

 

不安そうに翼也君が尋ねる。正直言って僕も驚いている。だって今は夜中の12だぞ?

幾ら特事課がブラックな職場でもこんな夜中に電話を掛けるほど常識を失っているとは思えない、もしかするとそれを上回る緊急事態とか?

考えても仕方がない、携帯の通知は畑中さんからの電話と言う事を示している。さっさとでて事情を聞こう。

 

「もしもし。黒谷です。何かあったんですか?」

 

「黒谷さん、出てくれて良かった。実は緊急事態なんです。今はどこに居ますか?」

 

緊急事態...やっぱり?僕らに掛けて来るって事は鉄錆の果実教団絡みだろうけど。

 

「今は外ですけど...何があったんですか?」

 

「外、外ですか。なるほど。簡単に説明しますと、そちらに鉄錆の果実教団の教団員が向かっている可能性があります。日野君はそちらに居ますね?」

 

「翼也君はここにいますけど、何でこっちに?そもそも何で私たちの場所が分かるんですか?」

 

「手短に説明します。まず、我々特事課とGOCの合同部隊で6時間ほど前に翼也君から聞いた鉄錆の果実教団の拠点を襲撃しました。

それ自体は成功裏に終わったのですが、十人前後を逃してしまったのです。

此処までは想定していたのですが、そのうちの何人かが日野君と同じ吸血鬼能力を付与された子供を連れだしたようなのです。ここまでは良いですか?」

 

「はい、大丈夫です。それで吸血鬼の能力を持った子たちが逃げ出すと何でこっちに向かって来るんですか?」

 

「確保に成功した"実験体"の子たちに聞いたのですが、吸血鬼能力の付与を受けた同じ実験体を探知できるらしく、

 それであなた方の位置を探知して向かっている可能性があるのです。

 確保した上級幹部によると、実験体を連れて脱走した団員たちは恐らく吸血鬼能力の"統合"を目的としている、との事なので、一旦あなた方の身柄を保護したいのですが...」

 

「えーっと、つまり翼也君の能力を狙って他の吸血鬼を従えた狂信者たちがこっちに向かっている可能性があるって事ですか?」

 

「そうなります。とりあえず今から黒谷さんの家に向かいますので帰って来てください。

 恐らく日野君も他の実験体を探知できるはずなのでそれを参考にしつつ家に...」

 

「あの!話してるところ悪いんですけどもう来てます!近いです!1kmないくらい!」

 

...マジで?

 

「翼也君ってばもう少し早く教えてくれたりは...」

 

そう言うと翼也君は若干バツの悪そうな顔をしながら

 

「僕は多分実験体の中でも探知範囲も精度も一番下なんです、多分。1kmってのも僕の最大探知範囲ですし、って言うかこんな事話してる場合じゃないですよ!

深夜の森とはいえ1kmですよ?すぐにこっち来ちゃいますってば。」

 

確かに。もしかしなくてもこれは結構ピンチだったりする?

逃げるって言っても僕は3ヶ月近くランニング続けてるから多少マシとは言え肝心の敵のターゲットの翼也君はずっとお家で家事したり

本読んだりで運動能力が大分貧弱な状態。相手の吸血鬼がどうだかは知らないけど少なくとも鬼ごっこでは有利とは言えないんじゃなかろうか。

と言うか十分迎え撃てるのでは?だって僕は少なくとも拳銃並みの威力がある火弾と拳銃くらいは防げるであろう結界がある訳だし。

相手は翼也君に味方が居るとは知らないはず。多分。そもそも教団から逃げ出して直ぐにこっちに来たって事は恐らく場所自体は探知能力で把握してたはず、

今まで捕らえに来なかった時点で翼也君の事はそこまで気にしてないから、一緒に棲んでる僕の事も知らないはずだ。ならば通行人のふりをして不意打ちとか、

或いは翼也君を売り払うふりして不意打ちとか。そういう手段が取れるはずだ。後はそもそも拳銃程度の威力が通じる相手がどうか。それこそネオサーキックみたいな身体してたら勝ち目は0だ。

 

「畑中さん、逃げ出した連中の能力とか装備ってどんなもんですか?拳銃で殺せる相手ですか?

 魔法や妖術の類は使いますか?」

 

「戦う気ですか?隠蔽が面倒なので市街地で撃ち合うのはできれば辞めてください。装備や能力に関しては一般人と思ってもらって構いません。いわゆる魔法のような者を使える連中は全部確保してあるのでそこは心配要りませんよ。

拳銃は持ってるかも知れませんがそれ以上の火力は無いでしょう。連れ出された実験体も襲撃時に後方にいた子なので戦闘向けの能力では無いはずです。できれば実験体の子の方は殺さないようにお願いしますね。」

 

「なるほど、ありがとうございます。」

 

「そちらに到着するのは30分は掛かりそうです。魔術師相手に心配は無用かも知れませんが...お気を付けて」

 

思ったよりあっさり許可が出た。もっとこう、止められるものだと思ってたんだけどな。これは相手がテロリスト染みた相手だからだよね?公安特事課がバンバン人殺しまくってるせいで畑中さんの生死観が狂っちゃったとかではないよね?

それに畑中さんは魔術師を過剰評価してる気がする。僕が防げるのは2,3発の拳銃弾で性能的には防弾チョッキより劣る程度のものでしかないと言うのに。前に学び始めて一年も経ってない初心者だとは伝えたんだけどなあ。流石に公安にはそんなにタイプブルーの人材が多くないのかな?

何はともあれ許可は出た。とりあえず電話を切って作戦を考えよう、と言ってもどうやって不意を打つか、と言う話だけなんだけど。

 

「翼也君、話聞いてたよね?相手が来るまでどれくらいか分かる?」

 

「このままの速度だと...20分くらいです。本当に戦うんですか?」

 

「だって貴重な実戦経験を積めるチャンスだよ?

 公安からもお墨付きが出たわけだし...と言う訳で四つん這いになって椅子になってよ、ほらほら」

 

正直言って僕もビビッてはいるけど人間程度に怖気づいている程度ではこの世界では生きていけないだろうしね。

 

「なんで椅子に、まあ不意打ちするためのお芝居ってのは分かるんですけど」

 

そう言う翼也君は若干不満げ。体は美少女なんだから喜べる方が得な人生送れると思うぞ。

設定的には...どうしよう。賄賂を受け取るような不真面目な正常性維持組織の職員とかフリーの妖術師とかそういう感じにしといて金で売るよ、って言っといて

火弾で腕とか腹辺りを撃ちぬいて、銃を撃てないようにすれば勝ち。流石に殺す前提の作戦を立てるほどの覚悟は決まって無いけど。もしもの時は頭ぶち抜くつもりで臨もう、とは思っている。

 

そして翼也君を椅子にしながら、見つけやすさと自然な感じを演出するために焚火に当たりつつ、約20分程心臓をバクバクさせながら待ってると、がさ、がさ、と言う木々が衣服に擦れる音が聞こえてくる。

来た、と思いつつ音の方向を見ながら声を掛ける。ついでに防御結界も展開しておく。いきなり拳銃をぶっ放してくるかもしれないしね。

 

「何者だ。」

 

まあ、本当は正体分かってるんだけど...聞かないと不自然だしね。

そうやって声を掛けると男が出てくる。うん、そんなに強そうな見た目はしてなくて良かった。

若干痩せ気味の普通の男だ。まあ何かカルトが着てそうな真っ白な服に拳銃を持ってコウモリの羽の生えてる女の子を引っ張ってるから、まあこれが翼也君を追ってきた男だろう。

っと、翼也君から合図だ。この合図は翼也君を椅子にしながら待ってる20分間に決めたもので、実験体の子が翼也君と知り合いかどうか、戦闘が出来るような子か、って言うのを知らせてくれる合図だ。

横揺れ縦揺れ共に一回だから知り合い、かつ、戦闘は出来ない。と言う一番いいパターンを引いたらしい。

とりあえず男の方は酷く僕を警戒してるようなのでまずは警戒を解こう、拳銃もすでに抜いてるし素人の僕ではこれでは到底不意打ちなんてできそうにない。

男は未だに僕の問いかけに答えず、はあはあと息を荒げている。よっぽど急いでここまで来たんだろうというのが伺える。

 

「何者だ、と聞いたのだが...まあ良い。

 とりあえず座り給えよ。面白そうなのを連れてるじゃないか。」

 

強者感マシマシで話しかけてみたけどよく考えてみたら僕の見た目は高校生だった。まあそれはそれで強者感がでるか?警戒さえされなければ別になんだっていい。

男はしばらくこちらを睨め付けるように見続けていたが、結局は躊躇しながらも焚火の傍に跪いた。流石に両足付けて座りこむような真似はしないか、なんて思ってると男が口を開いた。

 

「...お前は何なんだ。そのガキはどうした。」

 

「何者かって言われてもね。今の所はフリーの魔術師って所かな。

 コレはさっき捕まえた戦利品さ。そちらも似たようなものじゃないのかい?」

 

とりあえず暗に敵ではない、と言う事を伝えられば十分。

後はどうにかして交渉できそうな雰囲気を出して翼也君を渡す商談にまで持ち込んで銃をしまわせないと。

 

「お前はあいつらの仲間じゃないのか?

そいつはどうやって捕まえた?霧になれるはずだ」

 

アイツらってのは多分畑中さん達の事かな。GOCや特事課の名前が出てこないって事はやっぱり下っ端っぽいか。

と言うかこいつ翼也君の能力知ってるのか。多少は吸血鬼を連れ出してるし実験に関わってた人材なのかな。

 

「確かに変身能力はあるみたいだけどさ、変身に何十秒も掛かるような奴に逃げられるわけないじゃんか」

 

とっさに出た割には良い言い訳だと思う。実際翼也君は常に監視してれば逃げられないと思うし。

男は僕の言い訳を聞いた後しばらく考えて納得したのか、頬が緩み、銃口が僕では無く男が連れているコウモリの羽の生えた少女の方に向き始めた。

どうやら随分実験体にビビっているらしい。翼也君を見る限りこの子も羽が生えてるだけだとは思うんだけどもしかするともう一、二人の実験体と"統合"してあるのかもしれない。

 

「そうか。そのガキを捕まえてどうするつもりだったか。聞いても良いか?

 良ければこれで買いたい。」

 

そう言うと男は懐から何かを取り出して...金?札束だ。多分100万くらい?教団から金もパクってきたのかな。

しかしこれはチャンスだ。思ったよりも商談に移るのが早い。理想的な展開だ。このまま商談に乗って拳銃を納めさせれば上出来、できれば拳銃を取り上げたい。

 

「ふむ、これっぽっちか?これなら石榴共*1にでも売った方が...」

 

「待て!待った。まだある、これでどうだ?」

 

そう言うと男は懐からさらに二束ほど札を出してくる。こいつ出し渋ってたのか。

しかしこれは良いフックになりそうだ。

 

「なんだ。まだ持ってるじゃないか。

 確かにこれなら"平均"よりかはマシだが。しかし三分の一とは随分と舐められた物だね?

 そんなに無知に見えたのかい?」

 

平均額がどうだとか言ってるけどこれは全部適当である。

どうせ下っ端だし情報を持ってないだろうからまあ騙せるはず。もしこいつが人身売買の相場を知ってたとしても霧化能力の件でどうとでも誤魔化しは効くだろう。

まあでも男の様子を見る限りそんな心配はなさそうだ。冷や汗を垂らしながら必死に何か考えてる。狙い通りと言うべきか僕の事を”格上”だと誤認識しているらしい。

実際は拳銃をワンマガジン全弾撃ち込めば普通に死ぬんだけどね。これなら銃を対価にプラスしても怪しまれないかな?

 

「とは言え私も鬼じゃない。実際相場並みの値段は出してくれるわけだしね。

300万とその拳銃と弾薬でコレを売ってあげよう。」

 

これで素直に渡してくれればゲームクリアなんだけど、どうかな?

 

「...よし、分かった。拳銃と弾薬だな。直接お前の頭にくれてや熱っつうう」

 

おや?案外素直、とか思ってたら撃ってくる気だったよこいつ。緊張してたのか単にこいつが馬鹿なのか知らないけど

指をトリガーにかけて撃つ気満々だったのと口上を喋ろうとしてたので拳銃を持っていた右腕に向けて左手から三発火弾を撃ちこんだ。

命中したのは二発で男の手の甲の肉を軽く抉った。痛みと衝撃からか銃を取り落としたので思いっきり蹴っ飛ばして手の届かない所まで吹っ飛ばす。

後は男の頭をガッチリ両手でつかんで指先に炎を灯して軽く炙る。よし、これで吸血鬼の娘が敵じゃなきゃ勝利、かな。翼也君が知り合いらしいのでまあ何とかなるだろう。

 

「動くなよ。私はこのままお前の頭を丸焼きにできる。喋ることも許さん。」

 

何が切っ掛けで大惨事が起こるかは分からないので最良は何もさせないことだ。最悪殺したら発動する系の場合の異常性を持ってたり仕込まれたりしてるかも知れないからね。

それにしても初実戦、上手く行って良かった。相手も素人でGOCや特事課に追われて焦っていたと言うのがあるにしても完璧に近い勝ち方が出来たと思う。戦闘、と言うよりは暗殺とか奇襲、って感じだったけどね。

*1
正式名称:石榴倶楽部人食い趣味たちの会員制クラブ。定員十名の割には結構存在感のある組織。




石榴倶楽部
http://scp-jp.wikidot.com/groups-of-interest-jp
読み方はザクロ倶楽部じゃなくてせきりゅう倶楽部です。
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