財団世界でこの先生きのこるには   作:黒猫と白蛇

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6話

どうも、雀です。この世界に来てから早くも一か月が経ちました。初任給が入ったけど冷蔵庫にほとんど消えました。残ったのは蒐集院の五行の食事に使うので残りは殆どない。

まあお金の事はさておいて、重要なのは護身である。お金が無くとも情報はタダで手に入る場所はそれなりにあるはずだ。と言う訳で最近の休日は図書館に入り浸って周辺の歴史やら民話やらを蒐集するのが趣味だ。

特にこの世界で増えた千葉県一帯、他のスレ民によれば世界各地で増えたり減ったりしてるところがあるみたいだけど、その辺の民話や歴史は深堀しておいて損はないはず。

 

この辺り、霧蛙市と言うのだが、市名にもある通りよく霧が出る。未だ5月に入った所で梅雨などまだ先だと言うのにすでに数回は遭遇した。後は蛙も多い、らしい。アマガエルが多めみたいで鳴き声が聞こえないので存在感はあまりない。

それもあってかこの辺では蛙の神様が結構多い、と言っても雨ごいと豊穣の象徴だか何だかで蛙ってこと以外は珍しい事は特に見つからなかった。後はこの辺りの祭りで梅雨入り前後、つまり直近で晴天を願う祭りをやるらしいってことは知れた。

今の所それ以外の有力な情報って言うのは特に無し。怪談や妖怪話の類は深い霧が出てる時の山は神隠しに合うって言う話は合ったけどそりゃまあ遭難するでしょみたいな話だし、それでもなんらかの異常が関わって無いと言い切れないのが怖いところ。

ちなみに他にも魔導書が無いかどうか近所の図書館や古書店を回ってみたけど特に発見できなかった。まあ特に期待はしてなかったし、新たな魔導書の入手ってよりも他のタイプブルーを増やさないようにするための予防措置の方が大きい。

後は毎日ランニングをして多少は体力をつけるために頑張ってる。正直走るのとか運動全般は嫌いだけど前世と違って生死に直結するから仕方ない。

 

で、そんな休日を送るなかバイト先、料理屋『青霧』に出勤。主な業務は接客や清掃だけど、最近は料理もちょっとずつ教わってる。蒐集院の火術修行の一環で賄いがあんまり食べられないのが残念だけど仕方がない。

14:30、午前中から続いた店を一旦閉め、休憩時間である。本当は17時くらいまで仕事の時間じゃないんだけど、この時間を使って料理を教わったりしてるんだけどそんなある日こと。

閉店中のはずの店の扉が勢いよく開かれる。バイトの面接・・・では無いのは明白である。そもそも定員は一人だったので採用された段階で張り紙は剥がしてあるし、店に突然入って来た不埒ものはこんなことを言い始めたからだ。

 

「店主、貴様は回す者か...?」

 

と、裏の厨房で聞いていた僕はこう思った。この世界、寿司ブレーダーが居るのか。と、幸い店長は回す側では無かったので困惑顔をしていると男は帰って行ったらしい。

閉店中の店に入ってきてこんなことをするって事は恐らく闇寿司側の人間だろう。多分。まあ寿司ブレーダーなのはほぼ間違いない。だって店長が、「なんであの人は湯飲みと割りばしを持って入って来たんだろう」って言ってたし。

うーん、まずは寿司ブレーダーについて整理したほうが良いかも知れない。寿司ブレーダーとは寿司ブレードのプレイヤーの事だ。そもそも寿司ブレードとは、と言う話だと思うが、ぶっちゃけて言うとベイブレードだ。というかオマージュだ。

ただ、回すのがコマでは無く寿司と言うだけでね。そこが一番おかしいんだけど。それに一番質が悪いところが寿司ブレーダーは結構強いのだ。あいつらだけ世界観がホビーアニメなのだ。寿司でコンクリートは砕け人が死ぬ。それが寿司ブレード

半分くらいギャグな奴だが残念ながらジョークscpでは無いので此処を仮に出来得る限りのscpを詰め込んだ世界だとすると彼らが居ないのはおかしいって事になる。

 

それでもって寿司ブレーダーたちは大別して二つの分類に分けられる。闇寿司と、それ以外だ。まずはそれ以外の方から説明したいと思う。それ以外、と聞くと如何にもその他、のようなメインでないかのような印象を受けるかも知れないがむしろこっちが本流である。

それ以外、と呼称したのは色んな組織があるからで代表的な組織は回らない寿司協会や廻り巡るカリフォルニアロール教会などだろうか。簡単に言えば正道派の寿司ブレーダーで、普通に寿司を回して戦う。寿司を回すのがそもそも、なんて話は禁句だ。

で、問題なのが闇寿司の方で、こっちはスシの暗黒面に落ちた存在で、力を求めてハンバーグ寿司やラーメンなどを回して戦う。ふざけているように見えるかもしれないが本当だ。闇寿司は割とガチで悪の組織で人がポンポン死ぬからあんまり舐めてると普通に死にかねない。

総じて両勢力*1は危険な勢力で、寿司を武器にしてること以外はかなり強力な要注意団体だ。

 

...もしかして護身術として結構ありだったりするのか?才能の多寡はあるにせよ出来ない人間って言うのは居なそうだし、ある程度の実力になれば財団の機動部隊とも戦えるっぽいし。いや、とりあえず蒐集院の方で行こう。こっちの方が確実に効果はあるだろうし。

とはいえ米と割りばし、湯吞みさえ手に入れば誰でもできそうだし、掲示板の皆には報告しておこう。誰か一人くらいは役に立つ人も居るかもしれない。

 

それにしてもこの辺りに要注意団体の構成員が居るって言うのが怖い。最悪東弊重工とかGOCやらが絡んでこないとも言い切れないし、そもそも闇寿司自体が危険な組織だ。後で寿司屋の場所を調べて個人店には近寄らないようにしよう。

積極的に関わっても良い事は何一つないだろうから静観が一番だろう。とはいえ最低限動向は把握しておきたいと言うジレンマもある。あるが、今の僕の能力だと情報を一切取得せず完全に関係を断つ方がメリットが大きいと思う。正直寿司を回すところは見てみたいけど...

うん、まあ気にせずに暮らしていくことにしよう。この辺に闇寿司の拠点があるかもしれないと言うのを知れたのは大きい。

 

で、その後は特に何事も無く仕事が終わって帰路に就く。何というか、若干の拍子抜け感は否めない。だって僕自身は直接要注意団体に遭遇してないし、何か被害があったわけでも無い。被害が無かったのは素直に喜ぶべきだとは思うけど。

さっきは割と人が死ぬとは言ったが闇寿司も無関係な一般市民には被害をもたらすことなんて殆どないだろうしそんなに警戒しなくても良い気はする。が、どうしても不安になってしまうのが人の感情という物だ。

今後寿司ブレ関連にどのようなスタンスを取っていくか、と言うような事を考えていると、家に着く。青桐さん*2に紹介してもらったこのアパートはびっくりするくらい人が入っていない。4階建て×6部屋の計24部屋あるのだが、今埋まってるのはたった4部屋だ。

 

僕が来る前に三部屋しか埋まって無かったことを考えなくとも確実に赤字だろうこのアパートは、周辺に似たような物件が多いせいで立地と部屋の割には家賃がかなり安い。僕の部屋は2階の階段から上がって2番目の部屋。

角部屋じゃないのは家賃が少しとは言え高かったからだ。最近掲示板で話題になり始めた未来知識を使ってほどほどに稼ごう作戦に便乗するためにも多少は金銭を用意しておきたい。そんなことを思いつつドアに手を掛けると声が聞こえる。

「あの!すみません!誰か居るんですか?助けてください!」

くぐもって聞こえてくる、少年らしき声。方向は右側、つまるところ、より、奥の部屋の方から聞こえてくる。距離としてはさほど遠くなく恐らくは隣の部屋だろう、と言う感じだ。この階に入居しているのは僕だけのはず、というのが問題だ。

数秒、考える。正直言って思考が纏まらない、が、恐らく見ただけで即死はないだろう、と判断して恐る恐る声のする方向を見る。

 

...尻が隣の部屋のドアから生えてる。壁尻?なぜ?と言うか助けてって言ってたけどそもそもどうやってこんな状況になったんだこれドアを貫通してるんですけど。

いや、落ち着こう。どんなにふざけた見た目でも危険な可能性は十分ある。まずはそう、観察だ。さっきは壁尻とか言ったが別に尻だけ出てるわけじゃなく腰から下、下半身といった部分がドアに対して垂直に突き刺さっている。

もちろん、服は着ている。性別や年齢はこれだけじゃ流石に判別が難しいが、恐らく少年少女だろう。成人男性には見えない。そんでもって一番なのがドアと体の接合面。穴をあけてハマってしまった、と言うよりはドアを通り抜けている途中で無理やり実体化させられた、みたいな感じで綺麗な接合面をしている。

突き刺さってる場所はドアの中央で、高さは大体ドアノブくらいの所にある。郵便受けよりちょっと上くらいの位置で、通常の物理法則から考えればあり得ない事象が起きていると言える。少なくともこの少年(おそらく)自体はそんなに危険では無さそうだ。

今も「あれ、誰か居るんですよね?さっき足音が聞こえた気がしたんですけど!助けてください!」とか言ってるし。それにずっとこのままで居られてもとても困る。財団案件になりかねないので他の人の目に留まる前にどうにか対処しなければならない。と言う訳で、声を掛けてみる。

 

「助けてあげても良いんですけど、なんでそんなことになったのかをまず教えてください。」

マジでなんでそんなことに。

 

「あ!やっぱり人が居たんですね。えっと、それはちょっと説明が難しくてですね。

ドアを開けてくれれば自分で何とかなるんでとりあえずドアを開けては貰えませんか?」

 

「まずは説明をしてくれなきゃ助けるつもりはありません。

そもそもここは空き部屋ですよね?こんな所で何をするつもりだったんですか?」

そう僕が問うと、目の前の少年は若干早口になりながら話し始めた。

「ああ...その、えっと、ハイ。説明します。一から説明すると長くなるので簡潔に言いますと、

僕は吸血鬼で、この部屋を勝手にお家として使ってたんです。えっと、それで、こういう所は鍵がかかってるじゃないですか。

それを通り抜けるために僕は霧になって郵便受けからドアを通り抜けて使ってたんですよ。でもひと月ぶりくらいに帰ってきたら

何だか隣の部屋に結界?みたいのが張られてて変身が強制的に解除されちゃって今も結界の範囲内に居るので変身できないんです!

吸血鬼だと言うのが信じられないのは分かりますけどドアを開けてさえくれれば結界の範囲外に出られるはずなのでドアを開けてください、

そうすれば霧化もできるので吸血鬼だと信じて貰えるかと思います!」

 

と、明らかに財団案件な事をのたまいだした。それでもって責任の一端は僕にあるらしい。

確かに蒐集院の文書に乗っ取って魔除けの結界を張るお札を作ってみたけどそれは蒐集院式の神棚を作成する際の一手順に過ぎず、

効果があるのは精々最下級の浮遊霊程度までで神棚とその周辺を清浄にするための物だ。

効果としては霊的な異物を軽く押し出して信仰がご神体に伝わりやすくする、程度のものでしかないはずのものだ。

それが効くって事は最下級の浮遊霊以下って事になるのだが吸血鬼とはそんなに弱い存在なのだろうか。

もう少し話を聞いてみよう。もしかしたら結界を張ったのは僕じゃなくて更に右隣の人かもしれないし。

 

「ちなみに結界が張ってあるのがどっち側とかってわかる?」

 

 

「左側です!そんなこと聞いて何になるんですか!

このままだと本格的にドアと融合しちゃいそうな気がしてきて怖いんです早く助けてください!」

 

ふむ。やっぱり僕の張った結界が原因みたいだ。そしてこの後も色々質問をしたので概要を下記に記す。

 

・吸血鬼を助けて僕は血を吸われたりしないの?→十分な量の食事があれば血はひと月にペットボトルキャップ二杯程度で十分なので吸ったりしません。

・他の吸血鬼にあったことある?→無い

・吸血鬼として生まれたのか→元は人間だけど誘拐されて気づいたらこの体になってた。

・男?→男です!

・一人暮らし?元の家族は?→もともと孤児なので...

・霧に変身できる以外に能力は無いの?→特に無し、蝙蝠に変身したり、飛んだり、再生能力が高いとかは無い。

・日光や十字架は平気?流水は?ニンニクは?勝手に人の家に入ったりできるの?→日光は目がチクチクするけどそれ以外は平気。吸血鬼って水もダメなんですか?

 

うーん。効いてみた感じとしてはどっかの要注意団体に改造された変身能力に全振りした省エネ吸血鬼って感じ。

できるだけデメリットを減らしつつメリットを受けられるように調整された感がする。正直言って助けるかどうか悩んでたけどこれなら襲われても勝てそうだし、嘘を言っている様子も無い。

だってこんな風にドアに突き刺さってる奴だしね。それじゃあ、質問に答えてくれたし、助けてあげる、と言ってドアをゆっくりと開ける。一応、ドアを閉じられるように準備はしながら。

5秒ほどかけてゆっくり目にドアを開ける。そうすると当然だがドアの内側に刺さってる上半身の方とも対面することになる。うん、黒髪黒目の可愛い系美少年って感じだ。怪物じゃなくて良かった。

これで上半身が無かったりしたらとんでもない恐怖体験である。

 

「助けて頂いてありがとうございます。霧になって脱出するのでドアをこのままの位置で抑えといてください。」

 

ドアを完全に開ききった所で少年がそういった。言われたとおりにドアを暫く抑えていると、少年の体が30秒ほどで徐々に霧になっていき、1分ほどの時間を掛けて再度実体化した。

...遅いな、これは。自由自在に霧に変化できるなら結構強い能力だと思ったけどそれなりに変身時間が必要らしい。少なくとも戦闘中に使える能力では無さそうだ。

 

「えっと、ありがとうございました。あの、今は何もお礼できるものが無いんですけどいつかお礼しに...」

そんな事を言いながら何やら立ち去りそうな雰囲気を出す少年を呼び止める。

「ちょっと待って」

「住む所が無いんなら私と一緒に住まない?」

と、そう誘ってみる。これにはいろいろ理由はあるが簡単に言うとこのままだと財団を呼び寄せそうな気配がするから手元に置いておこう!みたいな感じである。

少なくともこの少年は暫くの間この部屋に住んでた訳だ。で、当然この子の見た目(10歳くらい)では働けないので霧化を使って窃盗なりなんなりをするだろう。

後は少なくともペットボトルキャップ程度の吸血も行う必要がある。そうなると当然財団やらGOCにいつかは存在が露見するだろう。

その点僕と同居すれば食料探しやら帰宅で霧化能力を使う必要も無く、ほんの少しの吸血も僕からすればいいので露見する確率は0に近い。

見つかるのが財団ならまだマシだがGOCの場合は殺されかねないので...正直言えばこのままサヨナラの方が色んな意味でリスクは低いんだろうってのは分かってるけど、まあ倫理的にどうなんですか?

という話である。どっかから漏れるかもしれないのでこの話を少年に直接伝えるわけにはいかないけど。

 

僕らは第二の人生なわけだし他人に少しくらい使っても良いだろう。それに全くメリットが無いわけでも無い。単純に人手が増えるってのは大きい。

家事や雑務をやって貰えれば単純に時間が増える。その時間を魔術の修練に当てることで習得期間が縮まるはずだ。後は美形なので目の保養になる。

問題は少年が受け入れてくれるかどうかって事だけど...

 

「え...本当ですか?それならすっっごい助かります!

ここってば電気も水道も使えなかったので正直雨宿り程度にしかならなかったので。でも何で?」

快諾!お姉さんもう少し人を疑う心を持った方が良いと思うな!

「食費だけで家事手伝いが雇えるなら安い、でしょ?

ところで少年。名前を聞いてなかった。」

 

「あ、日野 翼也です。えと、お姉さんは?」

 

「黒谷 雀、それじゃあ部屋にいこうか。」

そう言って寄りかかっていた部屋のドアを開ける。

 

「え...あの」

 

「どうした?入りなよ。」

若干ニヤニヤしながらそう言うと、少年、翼也君はバツの悪そうな顔をしながら部屋に入って行った。

「うわ、何かピリピリする...」

どうにも結界とは相性が悪いみたいだけどとりあえず仲間を一人ゲット。このままSCiPマスターを目指すのも良いかもしれない。残念ながらあんまり戦力にはならなそうだけど。

*1
特に闇寿司

*2
バイト先の店長




ポケモンゲットだぜ!と言う訳で仲間です。単独で生きていけるほど財団世界は甘くないのじゃ。とは言え規模が大きくなると正常性維持機関に捕捉されると言うジレンマ。
個人的にscpで吸血鬼と言えば669-JPなのでもしかしたら彼も出るかもしれません。
まあ仮に出たとしてもかなり後の方なのは確実です。
ちなみに翼也君は本当に霧になれるだけの人口省エネ吸血鬼です。

闇寿司 ハブ
http://scp-jp.wikidot.com/yamizushi-hub

今回お店に来たのはオリジナルブレーダーなのでそんなに気にする必要はないです。
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