財団世界でこの先生きのこるには   作:黒猫と白蛇

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8話

転生してから2か月が経った。つまり人工吸血鬼の翼也君と暮らし始めてから一月が経ち、転生者初の要注意団体『バルト騎士団』が誕生してから2週間ほど経った頃、と言う訳だ。

日本は今梅雨に入って雨が多くなってきた所だ。雨が降るのは別に構わないんだけど霧が鬱陶しくてしょうがない。前も見えにくいし湿度は高くなるから火術の調子もあんまりよくない。

そうそう、最近ようやく魔法っぽい事が出来るようになった。と言っても指先にロウソク程度の炎を灯す程度だけど。しかしこれでハッキリした。この修業はちゃんと効果があるのだ。

初点火の日から大体一週間くらい経つが多少魔術の行使に慣れてきたのか今では3本同時にロウソクを灯せる。段々出力があがって来てる、と言って良いだろう。

なんてことを布団の中で微睡みながら考えていると翼也君が起こしに来る。

 

「おはようございます!ご飯できてますよ」

 

「朝から元気だね、翼也君は吸血鬼なんだろう?」

こっちは割と朝は弱いのだ。

「でも僕夜目も効きませんから...何かご飯を探す時は早朝の方が都合が良いんですよ!」

 

そうですか、と呟きつつ、布団から出る。翼也君には現在家事全般、料理、食事、洗濯、掃除をやってもらってる。

一応料理屋勤務何だし料理くらいは任せて貰っても良いんだけど...本人が物凄く、やりたいから、と言ってたので甘えさせてもらってる。

うーん、5歳以上年下にお世話されるのは若干複雑な気分だな。僕が稼いできてるし完全に頼り切りって訳じゃないんだけどね?

何だか申し訳ない気持ちが出てくる。いや、よく考えたら僕がここに住むのを許可したわけだからこれくらいは当然なのでは?

しかし...などと益体も無い事を考えていると朝食が出てくる。基本的に蒐集院の文書に乗ってたレシピ通りに調理してもらってるのでだいたい和食だ。

そんでもって基本的にニンジンが多い。別に嫌いじゃないから良いのだがこうも多いと飽き飽きしてくる。それでもって五行の内火の食材ばかり食べてれば良いって訳じゃないのが特に面倒だ。

まあ美味しいから対して気にならないけど...と言う訳で暫くして食べ終えると翼也君に声を掛ける。今日は休日なのでお出かけをするのだ。

 

「翼也君。そろそろ行こうか」

 

「あ、はい!神社巡り、ですよね?」

 

「そうそう、とりあえずこの辺りの神社や寺は実際に見て確認しておきたいからね」

 

「神さまにお願いすれば僕も魔法をつかえるようになりますかね?」

 

「いや、翼也君が魔法を使えないのは属性的な問題で...私が学んでる火術は五行的に言うと火の属性が必要。

でも翼也君は火以外の何か、私には判別がまだつかないけど水木金土のどれか一色に染まってる、から今は無理なんだ。もちろん!方法は探してるけどね?」

 

「ふふ、良いですよ。そんなに必死になって説明しなくても。ちょっと言ってみただけですし大して気にしてないです」

 

それじゃあ行きましょう、と、元気いっぱいにそう言うと近くの神社に歩き出す。

自分でもはっきりとわかるぐらいに焦りすぎた。だって仕方ないじゃないか。初めて魔法が成功したとき見せたあのキラッキラした目。

そして魔法*1が使えないと知った落胆と悲壮感漂う目、今の発言を冗談で言ったのは分かるけどこっちとしてはこう、なんだか胸がチクチクするからやめて頂きたい。

 

翼也君の魔法の件だが本人に言った通り火以外の何か一色に染まってて分からない。僕がようやく分かるようになってきたのが火かそれ以外かどうかって事だけだからなあ。

普通の人間は自然と均等な配分になるように体が食事をコントロールするので一色になることはほぼ無い。

恐らく吸血鬼に改造されたのが影響してると思うから金か土だとは思うんだけど詳しくは分からない。後天的な変化は僕と同じ食事を一月続けても変化が無い時点であんまり意味が無さそうかな。

まあどうにかして属性を探り当てるか属性に頼らない他の魔導書を発見するか、どちらにせよ暫くかかりそうだ。

 

で、今日は近くの神社や寺を巡って色々と確認をしておく。この世界の事だから神社には力の大小はあるにせよ神が居るだろうし、挨拶をしておくってのは重要なはずだ。

後は神社に異常存在だったり要注意団体が存在してないかどうかの確認かな。闇寿司以外にも要注意団体があるかどうかは確認しておきたい。

 

とか何とか言いつつ神社巡りに出てみたけど成果はゼロ。要注意団体や異常存在に関係してそうな要素はゼロ。まあ神格存在に挨拶できたから良しとしよう。

居るかどうかは置いておく。得られた情報で有用そうなのは翼也君は神社とかお寺に入るとちょっと気分悪くなるってことぐらいかな。

まあ得られた情報って面では皆無に等しいけど神社巡りは普通に楽しかったから別に良いかな。

しかし案外遅くなってしまった。もう18時だ。太陽は沈みかけて歩く道をオレンジ色に染め上げていて、そんな夕暮れを翼也君と共に歩いている。

やっぱこの町、何か好きだなあ、なんて思っていると左手の小道からぬうっと影が伸びて来る。

出てきたのはパリッとしたスーツを着た真面目そうな成人男性だ。

 

「失礼。警視庁特事課の物です。おや、その反応を見るに特事課の事はご存じのようですね?」

 

と、特事課?なぜ?そして無駄に大仰な反応をして後ずさってしまったせいで知ってると言う事も知られてしまった。

ひとまず僕たちを拘束しに来たわけでは無いと思う。一人だし。

 

「私は警視庁公安部特事課*2所属、警部補の畑中、と申すものです。」

 

そう言いつつ目の前の畑中と名乗った男は警察手帳を取り出して見せて来る。少なくとも一目見た所ではおかしなところは無い。

...特事課関連の事は正直よくわからんのだけど。仮にも公的機関なわけだし?法律に乗っ取った行為しかしないはずだ。とにもかくにも話を聞いてみない事には始まらない、

 

「えっと...僕に何の用ですか?」

若干声が上擦る。何だか警察と話す時って言うのは無性に緊張してしまう。

 

「いえ、大した事ではありません。そちらの吸血鬼の少年に関するお話でしてね。

簡単に言いますと事情聴取をしたくてですね。任意ではありますが...どうでしょう?」

 

「事情聴取って言うのは何についてのですか?」

 

「聞いていませんか?その少年はいわゆる吸血鬼で、人工的に作り出されたモノなのです。

あなたも魔術らしきものを行使していたので多少の知識は有るでしょう?

我々特事課はそこの少年、日野君を改造した組織を追ってましてね。色々とお話を聞きたいのです」

 

「うわっ、え?何で僕が魔術を使ってることを...」

 

ストーカーじゃん!家の中でしか使ってないのにどうやって見つけたんだよ!

しかし思ったよりもまともな理由だった。もしかしたら嘘の理由を使って翼也君を攫って行こうとする奴らかもと考えたけどなさそうかな。

かと言って翼也君や僕を害する気が無いとは言えない、かな?とりあえず警戒心を持って接していこう。

と、僕が一人決意を固めているといつの間にか僕の後ろに隠れていた翼也君が口を開く。

 

「僕からも一つ良いですか?

僕を攫って実験した組織ってどんな名前なのか聞かせてください。」

 

「おや、ご存じありませんでしたか?

まあそういう事もありますか。

あなたを改造したのは鉄錆の果実教団*3と言う名の超常組織です。

そこの施設への強制捜査を執り行ったところ君の名前と写真が出て来まして。」

 

鉄錆の果実教団!やられ役じゃんか。あいつらそんな技術あったのか?

いや、仮にもGOIだしそれなりの規模があるんだからできる可能性は十分あるかな。

うーん、ほとんど情報が無い分既存の要注意団体より厄介かもしれない。

 

「鉄錆の果実教団...」

 

翼也君は何やら感じいる所があるらしい。

まあ自分を家族から引き離して人間から外れさせた訳だし恨んで当然だろう。

翼也君は暫く考えてこっちを見て一言。

 

「行ってきても良いですか?」

 

「翼也君が良いなら別に良いけど...

私も着いていくよ、保護者だしね。」

 

それでいいですか?と、畑中さんにアイコンタクト。

当然です、と言ったばかりに畑中さん。

 

「来てもらわないと困りますよ、黒谷さん

私が署内で少年を連れ歩くのは外聞が悪いですしね

それでは本日はもう遅いので明日ご自宅に伺います。よろしいですか?」

 

...住所を知られるのはちょっと嫌だなって思ったけどよく考えたら魔法を使ってるって知られてる時点で住所くらいは当然バレてるか。

はい、とだけ言って畑中さんとお別れする。うーん、特に何もしてないのに特事課に素性割れるのが早くない?まあ翼也君と同棲し始めたせいだろうけど、これぐらいは許容範囲と言うか織り込み済みではある。

この世界のGOCが超過激派で二人ともぶっ殺されたり人体改造した団体、この場合は鉄錆の果実教団が捕まえに来た場合に比べれば随分マシだ。

夕焼けの方に歩いて行く畑中さんを見送りながら翼也君に声を掛ける。

 

「帰ろうか、翼也君」

 

「はい...でも何だかいい気分です。

僕はああいう魔法みたいな物を使う連中を罰する組織ってのは無いものと思ってたので...

少なくともああやって捜査してくれる人たちが居るってだけで救われたような気分になります」

 

「...そっか。分かってたつもりではあるんだけど、やっぱり辛い事があったんだね

あのさ、話せたらで良いんだけど、お家に帰ったら警察に言う前に過去の事、聞かせてくれない?」

 

「良いですけど。でも別にそこまで辛かったわけじゃないですよ?

そりゃあ孤児院のみんなと引き離されたのはちょっと辛かったですけどね」

 

10分ほど歩いて家に帰る。

そして夕食を食べながら、翼也君が話始めた。

 

「えーと、僕が誘拐されたのは3年ぐらい前の事です。

大体7歳くらいの時で、公園で遊んでたらフラッとして意識が無くなったんです。

そして次目覚めたときには例の、鉄錆なんちゃらに捕まってた訳ですね。」

 

「それからの生活は...少なくとも僕にとっては地獄のような生活ってわけじゃなかった、かな?絶対に良い生活だったとは言えませんけど。

ご飯は悪くなかったし、物理的な苦痛は殆どなかったですしね。

まあ三日に一回は注射を打たれたり変な儀式をやらされました、少なくとも僕は真剣に儀式に取り組みました。

同じように連れ去られてきた子たちの内の何人かはロクに儀式を行わなかったせいかよく分からない肉塊のバケモノになっちゃいました。」

 

「それは...辛かったね」

 

思ったよりも、何というかエグイ実験をしてたんだな。見せかけみたいな慰めの言葉しかかけられない。

肉塊ってカルキスト関連じゃなきゃいいんだけど。鉄錆の果実教団はどうなんだろうか。

 

「いや、あいつらは僕を虐めてたのでそんなに辛くは無かったですね」

 

「あ、そう」

 

...こういう時はなんて言えばいいんだろうか。反応に困る。

 

「後は、どうにも全員が同じ注射や儀式を行ってた訳じゃなかったようで真面目にやってたのにダメだった子も何人かいましたね。

儀式を不真面目にやってた子たちは全員ダメだったからやっぱり真面目にやってた方が良かったんだとは思いますけど...

話すことはこれぐらいですかね?」

 

「もう一個聞いても良いかな。その、霧になる能力はいつ気づいたの?

自分で気づいたのかそれとも」

 

「儀式を担当してた人に言われました。君には変身能力を分割付与したから、霧かコウモリに変身できるはずだって。

僕たちは吸血鬼の能力の分割付与実験?とか言うのに参加させられてたらしくて、他の子には傷の直りが早くなる力とか、コウモリみたいな羽根が生えて飛べたり、色々です。

僕は霧になれたのでそのまま逃げて、2年半くらいはこの辺りで霧化能力でその、食べ物とかをコッソリ頂きつつ生活してましたね」

 

「と言う事は捕まってたのは半年くらい?」

 

思ったよりも短いな。半年程度の儀式で霧化能力を獲得できるなら悪くないかも?リスクにもよるけど。

 

「そうですね。半年くらいです。

うーん、できる話はこれくらいですかね。

後は僕を虐めてきたやつの話とか出てきた食事の内容くらいしか話すことが無いですけど、聞きます?」

 

「いや、良いよ。あんまり思い出したい記憶じゃないだろうに話してくれてありがとう。」

 

「今の生活は結構楽しいですしこれくらい全然。養ってもらってますし!

それじゃ、僕ってば明日の事情聴取に備えて早めにお休みしますね。」

 

そう言うと翼也君は寝室に行ってしまった。

正直翼也君の過去が思ったよりも重くて対応を決めかねてるんだけど...翼也君は今の生活を楽しいって言ってくれてるし、あんまり対応を変えないようにしよう。

僕も暫く鉄錆の果実教団について掲示板で暫く情報収集をしてから寝るとしよう。

*1
少なくとも蒐集院式の火術は

*2
警察内部の異常存在や要注意団体に対応する組織

*3
何かいっつも財団に壊滅させられてる謎の組織。




鉄錆の果実教団には多少設定を盛り込んでいきます。
まあ所詮鉄錆の果実教団なので対して強くはなりませんが、財団に壊滅させられるって事はそれなりに危険な活動をしてるって事だろうし最低限の戦力は有るでしょう。

警視庁公安部特事課
http://scp-jp.wikidot.com/system:page-tags/tag/%E5%85%AC%E5%AE%89%E9%83%A8%E7%89%B9%E4%BA%8B%E8%AA%B2

鉄錆の果実教団については適切なpegeが見つかりませんでした。どっか良いところがあったら教えてください。
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