献身ハ時ニ世界ヲ滅ボス 作:千切れた靴紐
とりあえず失敗のない一年にしたいです。
なんだか、年齢を重ねれば重ねる程、正月に対する想いが薄れてる気がする。
……?
「……あら?」
「起きたの、カレン」
……あ、そうだ寝たのよね、ワタシ。
糸織も起きている様だ。
「……」
「……どうしたの?」
「よくよく考えると、今糸織とお話ししているのって奇跡だなぁって思ったのよ」
「どうして?」
ワタシと初めて出会った日、彼女が目覚めた事実は病院を騒がせるのには十分過ぎるものだった。とは園田さん夫婦の言葉だ。
"私たちより君が来た時の方が起きるんだ"
この言葉の重みは、当事者にしか分からない。
年単位で眠り続ける少女、それを見守り続けている園田さんたちの心持ちなど、ワタシには欠片ですら理解できないものだ。
「どうしてかしらね」
「……カレンがわからないのなら、ワタシにもわからないわ」
「そうね、でもわからないままで良いものもあるのよ」
「そうなの?」
「ええ、そうなのよ」
眠たげな目で、不思議そうに目元を擦る糸織。
彼女自身の思いはともかく、この子が目覚める状況は、あの日、あの場所にワタシが逃げて、糸織が偶然看護師さんに連れて来られたという奇跡があってこそだと、今更ながらに思ったのだ。巡り合わせの不思議さよね。
「……時間、いいの?」
「え?」
「夕方には約束があるって、寝る前に」
「……そうだわ、有栖と会う約束、してたわね」
今は、三時過ぎだから、丁度良い時間帯に起きた事になる。
起きられて良かったわ、これで寝過ごしていたら大変だったもの。
「もう行くのね」
「ええ、後輩が待ってるから」
「……すっきり、してる?」
「気遣ってくれてありがとう、とってもすっきりしたわ」
「……また来てね、お話ししたいから」
「勿論よ」
今回のはお話しとは言い難い気もするのだけどね? お昼寝も新鮮ではあるが。
しかし、身体が軽くなったのは事実、糸織には助けられてばかりね。
◆●◆
「この辺り、よね?」
メールによれば、この辺りで待ち合わせようという事なのだが。
早かっただろうか。細かく時間を決めていた訳ではないのだし。
「……」
有栖、どうしたのかしらね。今までなら休日に会う事は無かったんだけど。
「……昨日、学校で何かあった、とか?」
今更ながら、あの子にとって学校は居心地が良くて悪いものである。
仲の良い友達との日常は楽しいものだが。
「……先生との噂」
どれだけ巧妙に隠そうとも、人は微かな違いを嗅ぎ分けてしまう。無意識だったりするけれど。
噂なんてものは、そんなものから広がるのだ。ワタシとてあらぬ噂は沢山あるのだし。
「ある程度は、ワタシに向いていたのだけど、限界かしらね」
ワタシはあの子の逃げ場だ。厄介な方の噂はワタシに向く様にしていたのだけどね。
それ以前から交友はあったのよ? でも一歩間違えば付き合ってるとまで言われそうにまでなったのは、それからなのだ。
「あの子に疑念を持っていても、それより目立つ存在があれば、自然とそっちに意識は割かれるものだし」
認識の誤認とでも言おうかしら? 中にはワタシと先生が付き合ってると飛躍させた人もいるんじゃないかしらね。そうなれば上手くいってると言えていたのだが。
潰れて欲しくないという、ワタシの我儘なのだけど、あの子にはその所為で罪悪感を背負わせちゃったかしらね。
「……先輩」
「来たのね、有栖」
「はい、遅れてすみません……待ち、ました?」
「いいえ全然、ワタシも今来た所なのよ」
不安そうね。誤魔化している様だが、目元に隈もある。
何かしら、なんだか……?
「……大丈夫?」
「え?」
「いえ、今の有栖……死にそうな雰囲気があるから」
「……死にそう、ですか?」
「ええと……アレね、失うものがない……みたいな」
「……」
「何か、あったの?」
「……お腹に」
「お腹?」
「……えっと」
お腹……ねぇ。
ただお腹が痛いというのであれば、ワタシじゃなくて病院に行くべきなのだけど。違うでしょう。
「……もが……」
「?」
「先生……こど……」
「えーっと……ごめんなさい、もう少し大きく言って欲しいわ」
いきなり小さくなるわね、声。
それだけ言い難い事なのだろうけれど。
「その……」
「……」
「……えっと……」
「……言い難いのなら、場所を移しましょうか?」
「あ、いえ……人は居ないので、ここで大丈夫、です……その」
「……」
「……子どもが、います」
「……え?」
子ども。誰にかしら。
あら? そう言えば直前にお腹って……まさか。
「……先生との、子どもかしら」
「……」
沈黙し、頷く有栖。
「それって、本当なの?」
「……はい」
「先生は、この事……」
「……昨日、伝えました……そしたら、その……」
「……」
「……もう、終わりに、って……」
どうしましょう、流石に反応に困るわ。
祝福すべき事ではないけれど、どう表現したら良いのかしら。
「……どうして、ワタシにその話を?」
「……それは……」
「昨日、ずっと考えてたんです……言うべきなのかって」
「……でも、結局言えなくて……本当なら、先輩に、こんな事は、言うべきじゃないのは、分かってます」
「……今まで、ずっと先輩には助けて貰いました……感謝しても、仕切れないくらいに」
「それは、ワタシが勝手にした事よ?」
「それでも助けて貰ってるのは、変わりません」
「だから、これ以上迷惑をかけたくないって……なのに……」
「落ち着いて、有栖」
おそらく、今の有栖の心情はぐちゃぐちゃになってるのだろう。
先生との子どもの事とか、先生との関係の事とか、今までに積もり積もったストレスとか。
「……私……」
「有栖、よく聞いてね」
「先輩……」
「ワタシ、とっても自己中心的なの」
「え……?」
「他の誰かに何をどう思われようが気にしないし、ワタシがこうだと思ったら、少なくとも自分の中ではそうなのだと、いつも確信を持ってるわ」
「だから……と言う訳じゃないのだけど、貴女に頼られても、負担だと思ったり、迷惑に思ったりはしないわ」
相談されたって、辛いのはする側なのよ? される側は寄り添うだけなのだし。
される側が辛くなる原因って、自分が共感してしまったり、自分とおんなじ悩みだったりするからでしょう。同じ人を好きになったとか。
「何を聞いても、ワタシには他人事にしか聞こえないから」
「……」
「ふふ、幻滅したかしら、酷い先輩でしょう?」
実際、人間としては大分酷い部類でしょう。
どんな不幸話を聞いても、そう、それで? って返されたら誰だって怒ると思うわ。少なくとも不快になるのではなくて?
「私……」
「有栖の抱く罪悪感とか、不安は多分、ワタシには一生理解できないわ」
「そんな酷い先輩に、遠慮が必要?」
「っ……」
安心させる為に、彼女を抱きしめる。
ワタシもワタシで、伝えるのが下手かしらね。
ワタシの
「……辛かったのね」
「……酷いです、先輩は」
「ええ、酷い人間よ、ワタシは」
「……先輩」
「なぁに?」
「……私、どうすれば……」
「そうね、まずはその子をどうしたいか、じゃないかしら」
このまま育てる選択をしたら、まず間違いなく茨の道でしょう。
ご両親がどう言うのか、周りの目をどうするのか、そもそも養う事ができるのか。
あと、父親の事をどう説明するのかという問題もある。
「……どうしたいかしら、その子を」
「……私は……」
苦しそうに悩む有栖。
……まだ、好きなのかしら、先生の事。
「……すぐに決断する必要はないわ、時間はあるもの」
「……」
「……ワタシも、やる事ができたから」
「え?」
「何でもないわ……一旦、帰りましょうか」
それなりに時間は経ってしまっている、これ以上は補導されてしまうわ。
帰りながらでもお話はできるのよ、帰り道は一緒なのだし。
「そうだ、手を繋ぎましょう? 有栖」
「え……?」
「手を繋いだら、安心できるって言うじゃない」
「……分かりました」
おそるおそる、という風な有栖の手を取り、指を絡ませる。
「ふふ、こうすると恋人みたいね」
「!? せ、先輩?」
「? どうかしたの?」
「……いえ、その……あったかい、です」
「それなら良かったわ、ワタシ冷え性だから心配だったの」
良かったわ、笑ってる。
まだまだ不安そうではあるけど、これなら今すぐに爆発はしないでしょう。
「……先輩」
「なぁに、有栖」
「……えっと……その、ありがとう、ございます」
「どういたしまして?」
少しは先輩らしくできているかしらね?
さて、暫く有栖は大丈夫でしょう、ならその間に……かしらね。
どうなるかは分からないけれど、するだけやってみましょうか。
今の所のストーリー、小説版は未読なので分かりませんけど、漫画版とゲームには通るようにしてる筈なんですよね。
どっちに寄せるかは未定です、そもそも独自路線に走るかもしれないし。