愚者は独り、龍へ謳う   作:ヴラドミア

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文章を書くということに期間が空きすぎたので、のんびり更新していきつつ、リハビリしていきます。


Holiday storm -前編-

ポケットモンスター。縮めてポケモン。大小、色形、なんなら固体か液体かというレベルで多種多様な生物たちを、人類はそう呼称する。ポケモンたちと人類はバランスよく共存し、それらによって仕事や学問などが進むこともあれば、人に害を為すものもいる。

そんなポケモン達を戦わせる人をポケモントレーナーと呼ぶ。戦わせるというとどうしても物騒な物言いだが、この世界においてはある種のスポーツと言っていいだろう。多くの地方でポケモンリーグというものがあり、地方で一番強いポケモントレーナー―チャンピオンを目指して多くのトレーナーが、そしてそれ以上に多くのポケモンたちが切磋琢磨をしている。

 

ここ、ブルーベリー学園はそんなポケモンについて学ぶ学校で、イッシュ地方の海の上にある人工の孤島だ。船の発着場からエレベーターで上がって、橋の上を歩けばエントランスロビー。青系の色で統一された色づかい、大きなバトルコートが中央に敷かれていて、それを囲むように観客席が用意されている。

ロビーの改札を通り抜けたら長い長いエレベーターで下へ。エントランスロビーが上層だとすれば、教室や部室、それから生徒の寮が設けられているエリアは中層だ。中央は円形の通路で、寮があるエリアや教室の集まるエリアなど計5つのエリア、各3フロアという構成になっている。

 

学園が重んじるのは自主性。主体的に行動し、様々なものを学んでほしいといった教訓があるのかもしれないが、入学して3年間で確信したものは学園長が放任主義でいい加減そうであるということだ。物忘れが激しいんだか、適当すぎるんだか、学校の運営以外はほとんど生徒の行動に制限はない。定期的にイッシュ地方を含めたいろいろな地方へ向かう船が出ているため、自由に帰省をすることもできる。さすがに帰省は申請が必要だが。

 

 

 

中層、寮エリアの1階。エレベーターホールから一番離れた部屋に目覚まし時計がジリリリと鳴り響く。青いベッドの上から伸びた手が、的確にスマホロトムを掴んで画面を操作した。もぞもぞと起き上がり、1人の少年が大きく伸びをした。

ゴールドの長すぎない髪に金の瞳が特徴的な少年―キショウは寝ぼけた目でベッドから出て、まず顔を洗った。冷たい水で目を覚ますと、鼻唄を歌いながら食事の用意をする。パンの上にヨーグルトを塗って、剥いたバナナを乗せるだけ。朝食から夕食まで、面倒臭がりな彼は手持ちの具材をパンに乗せるだけのズボラな食生活をすることが多い。食堂には誘われればいくし、健康診断では特に指導を受けたことはないのだが、いつだかそれを知った同級生に矯正されそうになったことがある。

 

食事を済ませ、歯磨きをし、服を着替えて、仕上げにお気に入りの黒いヘッドバンドを身に付ける。時計を確認すると時刻は午前8時30分。少し考える素振りを見せ、まぁいいかと呟くと用意しておいたウェストポーチに大切なポケモンが入ったモンスターボールを3つほどしまいこんで部屋を後にした。

 

「おはようー」

 

キショウが赴いたのはひとつ隣の部屋だ。コンコンとドアをノックしたが、部屋主からの反応はない。ただ、それはいつものことである。ため息をつくわけでもなく淡々と、バッグから鍵を取り出して鍵穴へ差し込んだ。ドアノブを引いてみれば、暗い室内と自らの影の隙間から伸びる光。

 

「まったく……」

 

つまり、部屋の主は目を覚ましていない。ただし、残念ながらそれもいつものこと。この部屋の住人は少なくともキショウが知る限り、こういう人である。明かりをつけて部屋の奥へと歩いていけば、夢の中にいるであろう部屋主の姿があった。うつ伏せで大の字、顔はこちらからは見えないが、涎を垂らして熟睡しているのだろう。きっとスマホロトムの目覚まし機能なんて使ってはいない。小さくため息をついたが、そんなことではもちろん起きる気配などない。キショウはベッドに腰かけて部屋主の体を揺する。

 

「朝だよー。起きなー。」

 

部屋主-カキツバタはうっすらと眼を開けたが、最低限の動きでキショウの姿を確認するとすぐに元の体勢に戻った。二度寝の構えである。果たして昨日はどんな理由で夜更かしをしたのだろうか。枕元に落ちているスマホロトムで察するところではあるのだが、今日は勉強から逃げている彼にそれを強制させる日なのだ。無理矢理にでも起こす必要がある。

 

「ほら、ツバくん、今日は勉強する約束でしょ。起きて。」

「んーーー……」

 

少しの間その体を揺すり続けるとカキツバタはもぞもぞと動き出し、気だるげに体を起こした。ゆるい伸びと欠伸を同時にしてゆっくりと立ち上がり、ふらふらと手洗い場へ入っていく。ここまで起動すればもう大丈夫だろうとキショウはベッドに腰掛けたが、直ぐにカキツバタが出てくる。顔を洗うにしても早すぎるほど、一瞬と言っていいくらいしか時間は経っていないし、何より濡れた形跡はない。

 

「ツバくん、どうかした?」

「オイラ、こんなこともあろうかと……ふぁ……ちゃぁんと、準備したんだぜぃ」

 

彼は未だに寝間着のままである。欠伸をしながら、ついでにそこまではっきりと眼を開けていない状態で、のんびりと歩いてキショウの元へとやってきた。

 

「準備してるんならさっさと顔洗ってきなよ。」

「んなことしたら、目ぇ、覚めちまうだろぃ」

「は? いや、覚ましてくれないと、勉強……」

「いいからいいから、な。」

「いや、良くないっての、ツバくん、ツバくんてば!」

 

明らかにベッドに横になろうとするカキツバタをどうにか阻止する。キショウの身体にだらりとその身を預けたその途端、ポンッという音がした。カキツバタの身体が邪魔で足元が良く見えていないが、その音の正体がモンスターボールであることくらい、ポケモントレーナーのキショウにだってわかる。

 

「キレイハナ、」

「! クソ兄貴、まさか――」

 

耳元で囁かれる眠気混じりの声が告げたのはとあるくさタイプのポケモンの名前だ。足元にいるのだろう。キショウはそれだけでカキツバタの凶行を予想したが、生憎それを防ぐ手段はない。ピンと来たその技の名前が、偶然にも命令と重なる。

 

「「ねむりごな」――!」

 

相手をほぼ強制的に眠らせることができるこの技は、人体にとっても有効だし、危険性はねむりごなという技そのものにはないとされている。周囲に野生のポケモンがいたり、その他危険が潜む場所で晒している場合はもちろん危ない技だが、ここは寮の一室だ。無防備に眠ったところで潜む危険などなく、更にはこのキレイハナのマスターは眠っていたい男。

キショウはそんなもの吸ってたまるかと言わんばかりに息を止めたが、寄りかかっていたカキツバタはそのまま脱力。重みで後ろに倒れ、衝撃で息を吐きだしてしまう。

 

「カキツバタ、起き―――あ」

 

反射的に文句を口にしたところで、そこまで含めて策略だったのかもしれないと気付いた。耐えがたい眠気に、脳機能は徐々にシャットダウンしていく。

 

 

 

一足先に目を覚ましたのはカキツバタの方だった。隣で規則正しく寝息を立てている義弟を一目見て、大きく伸びる。そこからの行動は早かった。食事は食堂で摂ればいいので、さっさと髪を整え、着替えを終えて大事なポケモンたちとスマホロトムを手に迅速かつ静かに部屋を後にした。

 

食堂は思っていたより混んでいた。今日は授業がない日だ。授業は野外で行われることが多いので、今日は室内でゆっくりしている人が多いということだろう。この食堂は学園による運営だが、学生たちが好みそうなものしかおいていない。つまるところ、栄養の偏りが激しいのだ。炭水化物と脂質が多く、蛋白質は少々……みたいな料理が多い。ついでに言えば塩分も多いだろう。

ジャンクフードといってしまえばそれまでだが、カキツバタはこの味を好んでいた。単に自分が料理をしたくないからというのもあるかもしれない。

 

購入した食事をモソモソと食べているとき、そんなカキツバタを見つけて声を出した生徒がいた。

 

「あれ、カキツバタ……どうして……?」

 

ブルーベリー学園にはリーグ部という部活があり、学生たちの中でも特にポケモンバトルを楽しんでいる生徒はその多くがこの部活に所属している。リーグ部という名前からもわかる通り、ポケモンリーグというものに準えて部内で強さによる序列を付けており、一番強い者をチャンピオン、二位から五位までを四天王としている。

 

そんなリーグ部の序列二位であるのが二年生のタロだ。カキツバタの怠惰な態度などに辟易しており、度々注意をするのだが、カキツバタは序列一位。つまりタロより上である。部の方針などはチャンピオンが部長を兼任しているという設定であり、現状はカキツバタに決定権がある。

 

「ん? おお、タロじゃねぇの。どうしたんだ、そんなところ立ち止まって?」

 

そんな彼女が食堂に立ち寄って、注文をしに行くでもなくカキツバタを見て停止した。そのまま動かない彼女を見たカキツバタがハンバーグを切り分けつつ彼女に声をかけた。

 

「カキツバタが、お昼時に、食堂で、一人……」

「お、おーい? タロさん?」

 

そんな声を意に介さず、タロは顎に手を当ててカキツバタを見ながら独り言を呟いている。声をかけた手前、カキツバタがそんな彼女を放置するわけでもなく、反応を促した。すると何かに気が付いたタロは素早くスマホロトムを起動してカメラをカキツバタの方へ向ける。

 

「連絡するので、ゆっくり食べててくださいね。」

「連絡? 誰に……って、おめぇさん、グルか!」

「人聞きの悪いこと言わないでください! キショウさんからちゃんと聞いてるんですよ!」

 

通話を発信しているであろうタロを傍目に、カキツバタは料理をその口へかき込んだ。偏にキショウから逃げるためである。寮のある中層部に留まっていては連行されて自室に監禁、勉強漬けの一日が始まるだろうと考えたからである。食べては水を飲んで、喉にあるものを流しては次を口に入れ、数度繰り返して完食する。

 

「あ、キショウさん? 私です、タロです。今、カキツバタが食堂にいて---」

「ごちそーさんでした!」

「えっ、あ、ちょっと、カキツバタ! すみません、逃げられちゃいました!……え、いいんですか? 追いかけた方が……あ、はい、わかりました。では。」

 

カキツバタが食器を片付けて、猛ダッシュでその場を去るのをタロは動けずに見ていることしかできなかった。が、電話先の人物はそんなことはどうでも良いらしい。

通話が切れて、タロは顎に手を当てて考える。

 

「どうするつもりなんだろう……?」

 




設定は書きながら掘り下げていくので読んでくださる方は気長にお待ちください。

現状わかっている設定

・主人公名:キショウ
・カキツバタの身内。ただし実弟ではない。
・ブルーベリー学園の2年生。
・主人公は特にタイプ統一ではない想定。※ただし、タイプ統一を組まないわけではない。

どうでもいい裏話

勉強をさせにくるキショウのために、カキツバタはわざわざコーストエリアでキレイハナを捕まえてきてねむりごなを覚えさせた。
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