シュバルツァーんちの野生児くん   作:全自動髭剃り

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リィンくんが士官学院じゃなくて猟兵目指したら、テオさんやルシアさん、エリゼあたりはどう反応するんだろうか?


黒芒街

 

「人生ってな、どう転がるか、わからんもんやなぁ」

「……」

「行ったこともない街に、やったこともない仕事を任されて」

「……」

「つーか、そもそも何で俺は猟兵団なんかとつるんでんだ? 斬ったの張ったのは得意やけど、血に飢えてるわけやないしな」

「……」

「思えばそう、宛てもなく家を出たのが悪かったんか。食いっぱぐれて道で倒れとったところで、団長に助けられたんやっけ」

「……路銀くらい用意しておくべきじゃ?」

「お、やっと喋ってくれた」

 

 言いつつ、隣を見てみると、くるっとした癖っ毛の銀髪の小柄な女の子が、軽快なステップでてくてくとついてきている。

 感情が感じられないような表情で、歩くその姿は見る人が見れば少し不自然で、だけどイブキにとってはある程度慣れたものであった。

 

「あなたについていくのはあくまで任務。あなたとの雑談は任務には入ってない」

「へいへい、その通りやな。だったらその、任務とやらにつて話そか?」

「……それは任務の範囲内」

 

 少しため息をつきながら、繁華街から少しだけ離れた路地の石畳の上を歩く。

 

「ここから南に少し歩いたところにある工事現場のバリケードを越えれば、黒芒街に繋がる通路に出れる、って話やったな」

「そう。新興のスラム街、規模はまだ小さいけど、重要な拠点になる……って団長が言ってた」

「で、そのスラムの事前偵察と仮想敵対勢力の規模の把握ってのが任務やな」

「うん」

 

 どうしても嵩張るからと宿に置いた方天画戟の代わりに、護身用に持ってきた十手を手で回しながら、イブキは問いかけた。

 

「けど事前偵察つっても何をすりゃええんや? 例えば地図描いたり、人数数えたりすりゃいいんか?」

「……侵入、脱出用の地点の把握、見晴らしのいい重要ポイントの把握も必要。これくらいは猟兵の基本だから、覚えておいてほしいかも」

「そうか。すまんすまん、そういう猟兵らしい仕事ってのは、今まであんまりもらったことなかってん」

 

 イブキにとって、この仕事は猟兵団に仮で身を置いていて初めて受けた、“らしい”仕事であった。

 今まではその腕を見込まれて魔獣の掃討作戦や、部隊内での戦闘訓練に駆り出されることは多々あったが、家出しただけの一般人の子供というのもあって、本格的な戦闘への参加を求められることはなかったのだ。

 ゆえにこのような猟兵らしい仕事はイブキにとって初めてであり、猟兵団に入るかどうかをまだ決めかねているイブキが選択をするための一環となる任務でもあった。

 

「フィーは色々慣れてるんやな」

「私は4年前には実戦を戦ってる」

「先輩ってことやなぁ。……4年前ってまだ10歳ちゃうん? よくまあ団長も実戦に出させたな」

「願い出たのは、私」

「願い出されたからって、許可出すか、普通? ……いや、俺みたいなやつの物差しじゃ測れへん人やとは思ってたけど」

 

 ほへーと感嘆の声を漏らすイブキ。

 

「伊達に西風の妖精(シルフィード)なんて名前で呼ばれとる訳やないんやな」

「だから作戦行動では基本的には私の指示に従ってもらうことになる。いい?」

「イエスマム! なんなりと」

 

 フィーにとってのこの作戦は、作戦内容自体は珍しいものではないが、新人の、実質部下に近い立場の団員を連れての初めての作戦である。

 部隊長となるための適性を測るための任務の一環であることは、今までの経験からして何となくわかるもので、実際にフィーが今のイブキのように隊員の立場として、仮部隊長について行って作戦行動をしたことは少なくない。

 自身に部隊長としての適性があるにしろないにしろ、緊張もするし、張り切りもする、そういうものだった。

 

「……」

「……」

 

 その後、さしたる話題もなく、街人に溶け込みながら二人は黒芒街の入り口までたどり着いた。

 無造作に投げ捨てられたように置かれている工事による締め切りのバリケードは、ほとんどその役割をなしておらず、それなりの人が通っているのか、ちょっとした道まで出来上がっている始末であった。

 バリケードの向こうを覗き込むと、地下へと続くちょっとしたセメントの階段と、その奥からほのかに見える薄暗い光。煙草の匂いに硝煙の匂い、それに燃料として使われているのか、有機溶剤の匂いに、少しだけ酒精の匂いとキツめの香辛料が使われている料理の匂いもする。

 街の喧騒であまりはっきりとは聞こえないが、地下から少しばかり金属同士がぶつかり合うような撃音に、導力銃が放たれているような破砕音もする。

 

 共和国の闇の吹き溜まりのような場所だと説明をされたのも頷ける、そんな場所だなとイブキは思う。

 

「風が通ってる。多分別にも出入り口があるみたい」

「だろうな。やなかったら、地下の住人全員酸欠でくたばっちまうで」

「……侵入可能な場所は全てチェックする」

「全て? マジで言ってるんか?」

「マジ」

「……冗談って顔じゃなさそうやな…………。骨が折れそうやで、全く……」

 

 項垂れるようにがっくりと首を落とすイブキ。

 規模が小さいと聞いてはいたものの、想像よりは規模が大きそうなこの地下街を隅々まで探索するとなったら、一体いつになったら帰れるのか。

 軽く振り回していた十手を懐に入れて、街の中へと足を踏み入れる。

 

「……っ」

 

 ムッとした熱気が一気に濃度を増し、思わず軽くたじろぐイブキ。

 

「? どうしたの?」

「……いや、なんでもないよ」

 

  反してフィーはそんなのどこ吹く風、全く気にならないようだった。

 

 少し歩き進めると、そこにはちょっとした街があった。

 流石に先ほどまでいた共和国首都の旧市街ほどに比べられる程度の大きさではないが、少し見ただけでも、出店や飲み屋だけでも十数あり、ここで暮らしているであろう人たちの布団類がそこらに散らばっていた。

 街の中心にはちょっとした闘技場のようなものがあり、壊れかけの金網で囲われている。

 

「野営地……よりも大きい」

「何なら数倍くらいありそうやな。ざっと計算しても数千人くらいは住んでそうや」

 

 西風の団員数が数百でその野営地の数倍の規模ならば、おかしな数字ではないだろう。

 荒くれ者達ばかりだと思っていたが、そういうわけでもないらしく、出店には露出度の高い服装で接客をしているみめ麗しい美女達もいるし、どこかの組織に所属しているのか、スーツに身を包んだ身なりの綺麗な集団もいたりする。

 

「制圧には苦労がかかりそう」

「やろうな。いくら西風が練度高い猟兵とはいえ、喧嘩慣れしたこれだけのゴロつきとやり合うのはめんどそうや」

「それに猟兵崩れもいる」

「へー。そういうのわかるんや」

「見たことのある装備とプロテクターを持ってる人がいる」

 

 といって、フィーは少し離れた酒店のテーブル席に座った4人組を指差しながら、

 

「あれは多分ニーズヘッグの人」

「何回か聞いたことあるわ。俺が拾われた日に西風が模擬戦した相手やっけ?」

「そう。その帰りにあなたが野営地前で倒れていた」

「……野原彷徨ってて、餓死寸前で食いもんの匂いがしたから、無意識で歩いていっとったわ……。そこで西風が駐屯してなかったら、マジでくたばってたかもしれん……」

 

 思い出しながら語るイブキに、フィーは呆れながら、

 

「食糧は自力で現地調達が基本」

「いや、俺も魔獣見つけて食糧調達したかってん。けどあんときは、数日前から急に魔獣が消えて、何もできなくなったんや」

「……」

 

 そういうとなぜか黙ってしまうフィー。

 それくらい自分で探せとか言われるんじゃないかと思ったイブキだったが、フィーは気まずそうに口を開いた。

 

「……周辺の魔獣は食料として狩り尽くしたかも」

「え。じゃあ、俺が死にかけたん、たまたま西風の野営地近く通りかかったからなんかい!」

「運が悪かったとしか」

「やろうな! 何でピンポイントで俺もそんな時にあそこ通ったんやろうな!」

 

 という意外な事実に数ヶ月越しで気付かされることになった。

 元々は西風にその腕っぷしを買われたのもあって、食料を分け与えてもらった恩を返すために西風と共に行動していたのだが、こうなってみるとただのマッチポンプだったのがわかった。

 だからといって文句を言って抜けるのも筋が通る話ではないし、それなりに関係性が築き上がった彼らと別れるのもいい選択肢ではないので、イブキは何とも思ってはいなかった。

 

「それにしても……」

 

 地下街を歩きながら、イブキは呟くように、

 

「可愛いチャンネーがいっぱいおるなぁ。ランジェリー姿で接客して寒ないんかな」

 

 と、鼻の下を伸ばしながら辺りを見回していた。

 イブキ・シュバルツァー16歳、思春期真っ只中の少年は、任務中とはいえ、刺激の強いエロスには勝てなかった模様である。

 対してフィーはそんなイブキの姿を呆れながら見つつ、いつしかイブキには猟兵の素質があると言っていた父親が、間違った判断を下したのではないかと疑問に思い始めた。

 

 と、メインストリートを歩きながら、周辺の観察をしていた二人だったが、

 

「いてっ」

 

 と、イブキの声がしたので、その無駄に高い身長のせいで何かを頭にぶつけたのかと思って隣を見るフィーだったが、

 

「あぁ? てめえなんだ!」

 

 ガラの悪い男に肩をぶつけられ、因縁をつけられて喧嘩を売られているイブキがいた。

 

「え? 俺?」

「お前以外に誰がいるんだよ!」

「えーと、俺なんかやった?」

「人様にぶつかっといて、その態度は何だ、ゴラァ!」

 

 と激昂しながらイブキの胸ぐらを掴む男。

 対してイブキは全く動じず、その体幹の強さから、むしろ男の方が逆に大木を引き抜こうとするような状態となった。

 

「いやいや、あんたの方からぶつかってきたやろ……」

「あぁ? てめえ、舐めてんのか!?」

「舐めるって話はしてないんやけど……」

 

 今だに気焔をあげる男に対して、どうしてやればいいのかと困って、隣を見てみると、導力銃をすでに取り出しているフィーが後ろに向かって

 

 ――ダンッ!

 

 と一発銃弾を発射していた。

 

「へ?」

 

 イブキが何やってるんだと思ってフィーが銃弾を放った方向を見てみると、そこには因縁をつけてきた男と同じような服装を着た男が倒れており、

 

「奇襲下手くそ。わかりやすすぎ」

 

 と言いながら、倒れた男の頭部に照準を合わせて導力銃を発砲しようとするフィー。

 

「おわっと!」

 

 その発砲の寸前に、つかみかかってきた男を蹴り飛ばして、急いでフィーを制止するイブキ。

 

「ひっ……!」

 

 腕を掴まれて発射された銃弾はギリギリ倒れている男の頭部からズレた地面に着弾した。

 ムッとした表情でイブキを睨むフィー。

 

「何?」

「いやいや! 殺すこたないやろ!? やりすぎやって!」

「先に攻撃してきたのはあっち側」

「せやけども! 殺すのはやりすぎや」

 

 言いつつ、イブキは銃弾で倒れた男の方に駆け寄り、体をひっくり返しながら、最初に撃ち込まれた銃弾の場所を探す。

 幸いにも男が身につけていたプロテクターのおかげで致命傷にはならなかったようだった。

 

「お、おい、殺さないでくれ……」

 

 怯えながらこちらに命乞いをする男にため息をつきながらイブキは対応した。

 

「あんたも運がなかったなぁ、襲った相手が悪すぎて」

「…………」

 

 脳天に鉛玉をぶちこまれかねなかっただけに、ブルブルと震える男に、イブキは続けた。

 

「警察に突き出すのもええんやけど、それはそれで面倒やしなぁ」

 

 当然警察に事情徴収されることになるだろうし、下手に身分をばらしてしまったら、帝国で捜索願を出されているイブキと、西風の旅団以外の身分を持たないフィー両方に面倒が降りかかることとなる。

 

「禍根を残すくらいなら始末するべき」

「禍根って……。実力差もわかっただろうし、こいつらも俺たちに何かしようと思わんって。なぁ、せやろ?」

 

 とイブキに問われた男は、何度も首肯しながら、

 

「と、当然だ! あんたらには二度とかかわらないし、今あったことは全部忘れる!」

「ほらな?」

「信用できない」

「じゃあ、なんか起こったら責任は俺持ちでええから、この場は引いてくれ、な?」

「……」

 

 今まさに目の前で自分の生き死にが話し合われている中で、決してイブキとフィーの機嫌を損なうまいとおとなしくする男に、少し悩みながらイブキは語りかけた。

 

「警察に突き出せへんからといってここでふんじばってあんたらを放置しても、ろくなことにならんやろうし……」

「そ、それだけはやめてくれ! こんなところで縛られたらゴロつきどもに殺されちまう……!」

「あんたもそのゴロつきの一派やろうが……。まあ、ええわ。今日のことは見逃してやるから、代わりに教えて欲しいことがあるんやけど」

 

 そう言うイブキに対して、何度も首を振りながら倒れた男は答えた。

 

「あ、ああ! な、何でも教える! 俺の知ってることなら、全部教えるから!」

「お、それはええこと聞いた。フィー隊長! これで仕事が捗りますな!」

 

 軽く敬礼をしながらフィーに向くイブキ。

 イブキの独断の動きに対して快く思わなかったフィーだが、任務自体に対しては結果的にプラスに働いたため、嫌な態度も取りきれず、少し微妙な顔でイブキを睨みつけると、

 

「わかった。今回はそうする」

 

 諦めたように言った。

 

 余談だが、イブキに蹴り飛ばされた男は壁にぶつかった衝撃で気絶していて、イブキ達に街の出入り口を全て説明した男が帰ってくるまでスヤスヤと眠っていた。

 

 †

 

 黒芒街内部に詳しかった男のおかげで一通りの偵察任務が終わり、案内してくれた男と別れたのちにイブキとフィーはいい時間だったということもあって、夕食を取ることにした。

 地下街である黒芒街では陽の光が全く入ってこないが、それもあって基本的にどの出店にも店内店外から見える場所に時計が飾ってあり、時刻は夕方から夜へと変遷しようとしていた。

 

「あら、可愛い彼女さんとデートかしら? でも、ここは君たちみたいな若い子が遊ぶ場所じゃないわよ?」

 

 夕食どきというのもあってどこもかしこも混み始めたバーや定食屋などの中から、まだ空席がありそうで、かつ酒メインではなく定食も出しているような酒屋に来た二人。

 レジの前にいたのは、この町の接客業の女性にしては比較的露出の少ない、メイド服の店員だった。

 

「ははは、残念なことにフィーは彼女やないんや。仕事があって、その帰りなんやけど、姉ちゃんの店からええ匂いしたからつい立ち寄りたくなってもうたんや」

「あら、そうなのね?」

「そうそう。で、なんかおすすめはない?」

「あまり強いのは置いてないんだけど、辛いのと甘いのとどっちがいい?」

「酒はいらんよ……。見たらわかるやろ、俺らまだ未成年や」

「真面目なのね。では、今日の日替わり定食でいかがかしら?」

「おう、それで頼むわ」

 

 懐からミラの入った財布を取り出して支払おうとするイブキ。

 それに対して少し待ったをかけながら、メイド服の店員は、

 

「ちょっとした予約客が入ってて、空いた席には案内できないの。相席でもいいかしら?」

「あー、俺はええんやけど、フィーはどうなん?」

 

 対して今まで沈黙を保っていたフィーが口を開けた。

 

「問題ない。……けど面倒なのは勘弁」

「あら、それなら大丈夫だと思うわ。何せ、君らと同じ凸凹コンビの若者だし、もしかしたら気が合うかもよ?」

「俺らと同じ?」

 

 怪訝な顔で首を傾げるイブキ。

 それも無理はないだろう。こんな街で自分たちのような異色コンビなんているはずないと思うのが普通である。

 

「では、席に案内するわね」

 

 そう言ってイブキ達が向かった先の席には、説明された通り二人の先客がいた。

 

 方や青髪のパーカーを着た青年と、方や紫髪の人形のような少女。

 イブキが最初に感じ取ったのは、顔色が悪いながらも、そこはかとなく闇を感じてしまう少女の雰囲気で、油断なくこちらを観察する視線からして、小さな体躯にもかかわらず、相当な実力者のようだと感じられた。

 

(小さいくせしてやたらと強いのは、こちら側(フィー)も同じやけど)

 

 対してその向かいに座る青年の纏う雰囲気こそは、何だかぶっきらぼうで、スカしたようなものだったが……。

 

(なんてもん、食ってやがんだ……)

 

 積み上げられたパフェのタワーがその雰囲気をぶち壊していた。

 

「お隣失礼さしてもらうなー」

 

 と言いつつ男の隣に腰をかける。

 それに合わせてフィーも対面に座る。

 

「……」

 

 そして、場を沈黙が支配した。

 

 イブキとしてはフィーに話しかけたかったのだが、フィーが猟兵関連以外の話題に対しての食いつきがひどく悪いのもあって、他人もいる席でいきなり火薬の話や任務の話などをするわけにも行かなかったのだった。

 対してフィーは沈黙に対してさほど感じるものはないようで、気になるものがないわけではないが、定食が運ばれるのを黙々と待っている。

 イブキ達より先に席に座っていた少女は、表情からしてとても話しかけ始めようという雰囲気ではなく、対して男の方は、パフェを一口食べるごとにまるで危ない薬をやったかのように多幸感あふれる表情をしては、ハッとなってニヒル顔に戻すというよくわからないことをしていた。

 

「…………」

 

 紫髪の少女とフィーを並べてみると、まるで人形が2体鎮座されているかのような感じだなと思いながら、イブキはフィーが興味深々に睨みつけているものを同じようにみてみることにした。

 

 何層にもわたってさまざまなクリームが積み上げられ、その上に数え切れないほどの種類の果物を散りばめて、さらにその上からチョコチップをまぶした上にホイップを塗ってある。

 もはやみているこちらが砂糖を吐き出したくなるような様相である。

 フィーが先ほどから、いかにも興味なさげに振る舞おうとして失敗しては、物欲しそうに見つめているもの、それはイブキの隣に座る男が食べていた、いくら甘い物好きとはいえども、人を選ぶようなレベルで甘そうなパフェであった。

 

(欲しいんか、あれ……)

 

 特に甘党というわけではないイブキにとっては理解できそうにないものだったのだが。

 

「あー、あんちゃんさ、その食べてるもんってどうやって注文したらええんか、教えてくれへん?」

 

 フィーとのコミュニケーションを取るために、使えるものは使っていこうという魂胆から男に話しかけることにした。

 

「……これか?」

 

 対して男の方はぶっきらぼうに聞き返してきた。

 

「そうそう。なんやゴッツうまそうやさかい」

「……そうか。店員に“ミルク抹茶コーヒーマスカルポーネチョコレートクインティプルクリームマンゴーメロン桃オレンジ乗せチョコチップホイップパフェタワー”と頼めば出してくれる」

「ミルク抹茶コーヒーマス何とかか。ありがとな」

 

 言いつつイブキは立ち上がって先ほどのメイド店員に聞こえるように大声量で、

 

「ミルク抹茶コーヒーってやつくれへんかー?」

「へ?」

 

 と言ったものだから、何を頼まれたのか理解できなくて、素でぽかーんとした店員の反応も相まって、

 

「クスっ」

「ぷふぉッ! ごほっ、ごほっ」

 

 たまらず吹き出してしまったのが、紫髪の少女で、不意打ちのあまりパフェでむせてしまったのが青髪の男であった。

 フィーはまるで『何言ってんだコイツ』と言わんばかりの呆れ顔でイブキを見ていた。

 

「え? あれ? なんかおかしかったんか?」

「ねぇよ、んなもん! ミルクと抹茶とコーヒーはクリームの味であって、その注文じゃパフェすら出てこねえよ!」

 

 たまらずツッコミ出した男。

 

「あ、じゃあミルクパフェたのむ!」

「どんなストイックなパフェだよ! そういうのもあるわけないだろ! ……俺が代わりに注文してやるから、アンタは少し待ってろ」

 

 言いながら青髪の男は店員に対して丁寧に呪文のような注文をし、それをぼうっとした顔で眺めるイブキ。

 確かに貴族の家出身ではあるが、貴族にしてはかなり質素倹約な生活を送っていたこともあって、こういった若者に流行りなものについてはよくわからないイブキであった。

 

「あー、ごめんなあんちゃん。連れがどうしても欲しそうやったから……」

「別にそんなことはなくなくない」

 

 指摘されて少したじろぐフィーであった。

 少女というのは甘いものが好きだという言い伝えを聞いたことがあったが、イブキにとって一番身近な若い女性であるエリゼは特段甘いものに目がないような女の子でもなかったものだから、あまり理解できていなかったものだが、誤魔化しながらもそわそわとした態度のフィーを見れば、言い伝えはどうやら間違っているわけでもないらしい。

 

「いやぁ助かったわ。あんちゃんってここよくくるんか?」

 

 あまり沈黙に強くないイブキはそう言って隣に座る男に話しかけた。

 

「……そうだな。アンタよりは確実によく来てるな」

「そうかそうか。実は俺、共和国って初めて来てんねん。ここは行っとくべき、みたいな場所ってある?」

「初めてにしては随分とハードな場所にいるんだな。……観光地巡りがしたいってんなら、4区のシネマ・エスプリや12区に最近できた導力機関車のサーキットなんかに行ってみたらどうだ?」

 

 そうそうと、男は付け加えるように続ける。

 

「1区の革命記念広場なんかもいいぞ。帝国人にとって民主主義は珍しいだろうしな」

 

 と、イブキたちが帝国から来たことを見抜いたような言葉を放った。

 それに対してフィーは少し目を細め、イブキは目を見開いて驚いた。

 

「え、わかるん!? せやねん、帝国から来てん。ようわかったな」

「……隠す気もねえのかよ」

「隠す?」

「何でもねえよ」

 

 ため息をつきつつ、男は言った。

 何の話をしているのかいまいち理解が追いついていないイブキだったが、

 

「パフェと定食お持ちしましたー」

 

 と運ばれてきた料理によって会話は中断され、ゆっくり味わいながら食べる青髪の男と、猟兵のくせからか素早く事務的に食事を平らげたフィーたちは同じタイミングで席を立つことになり、奇しくも同じ目的地――黒芒街の出口に向かうこととなり――。

 

「へっへっへ……」

「ここを通りたがったらそこのメスガキを二人よこすんだな」

「死にたくなかったらな?」

 

 イブキたちは本日通算二度目の絡まれを経験することになったのだった。

 相手は見覚えのある、先ほどフィーが指差していたニーズヘッグ所属だった猟兵崩れ3人衆だった。

 

 †

 

 突き出された短身の槍の鋒を十手の鈎にひっかけ、そのまま捻るようにして力を入れながら引っ張る。

 突き出した男は猟兵崩れだっただけあって、それなりには腕力ががあったものだったが、

 

「ぐ……っ!」

 

 十手に絡まった槍がびくとも動かず、渾身の力で踏ん張りながら引き抜こうと試みる。

 

 それと同時にもう一人の男もイブキに襲いかかる。

 持っている武器は導力銃であったのだが、弾道の安定性が低いカービン仕様のものを使っているために、仲間への誤射を恐れて、銃身に取り付けたナイフで刺しにきたのだった。

 まっすぐ喉元に突き刺さる軌道の銃剣を冷静に覗きながら、イブキは開いている左手を突き出す。

 

 しめた、と襲いかかる男は思ったことだろう。

 突き出された手ごと喉を貫いてやればいい。それが叶わなくとも、相手は片手を使用不可になるような傷を負うことになる。

 だからこそ躊躇いなく、素直にまっすぐその軌道を変えることなく、攻撃を――

 

 ――ガッ!!

 

 繰り出そうとしたのだったが。

 

「うおっと」

「なっ!?」

 

 銃剣は難なく受け止められてしまった。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

(無茶苦茶なことをしてやがる……)

 

 と思ったのは、先ほどまでイブキの隣席でパフェタワーを平らげた男である。

 

(おつむはともかく、膂力だけなら下手すると師父(せんせい)とタメを張れるレベルだぞ)

 

 刀などの振り下ろし攻撃に対応するための十手を槍の突き攻撃相手に使用したのもおかしい話なのだが、問題は銃剣を手で握って止めたところである。

 ナイフを握って止めるなど前代未聞な話なだけでなく、その手から血が流れていないのもありえないはずの話だ。

 刃物とは斬るためのものである。銃剣とて同じ。ゆえに、それを握れば手が切れるは当然の道理であり、運が悪ければ指が飛ぶことにもなるだろうが、その様子はない。

 可能性があるとすれば――

 

(刃ってのは引いて初めて斬れる。握った瞬間に、寸分たりとも刃が動かないレベルで握りしめたか、それとも肌が強化合金か何かでできてるか……)

 

 後者についてはありえない話なのだが、そんな想定をしないといけないレベルのものだった。

 

 と、そんな分析をする間にも、イブキが対処していない最後の猟兵崩れが、青髪の男に襲いかかっている。

 護身用の棍棒を使っているようだが、どうやらそれは青髪の男にとって大した脅威ではないようで、素手で攻撃をいなしながら、少しずつ追い詰めていく。

 

 最終的にイブキに襲いかかった二人の男は、まるで子供が親におもちゃを取り上げられるようにして槍と導力銃を取り上げられ、目の前でへし折られることとなり、青髪の男に襲いかかった方は、武器を蹴り飛ばされたのちに殴り飛ばされたのであった。

 

「お、おい……! て、撤退だ!」

「りょ、了解!」

 

 武器を無力化された3人は逃げ腰になり、そのまま走り去ることにしたのだが――

 

「あら、ひとを襲っておいて、逃がしてもらえると思うのは、ちょっと虫がよすぎじゃないかしら?」

 

 金色の大鎌を持った紫髪の少女が、逃げる3人の退路を塞ぎ――

 

 ダンッダンッ!

「「「ひっ!」」」

 

 彼らの足元に銃弾が撃ち込まれた。

 

「チェックメイトってやつだ。観念しな」

 

 そう言いつつ、青髪の男は腰を抜かして座り込む男たちの方に歩いて行った。

 フィーも同じく歩き出したので、どうするかをわからないままイブキも歩き出した。

 

「傭兵崩れでも元ニーズヘッグ所属。たった3人で行動するのは変」

 

 そう言ったのはフィーだった。

 

「そうなんか?」

「特殊作戦以外で猟兵が小隊以下の単位で動くことはありえない。ニーズヘッグは特に慎重」

「コイツらしか郎党をくめなかったとかってことか?」

「元ニーズヘッグ所属の猟兵はこの人たち以外にも複数確認できてる」

「ってことは、……どういうことだ?」

 

 頭脳をフル回転させて考えてみるが、あまり芳しい結果が得られないイブキ。

 それを呆れながら見るフィーであったが、フィー自身もはっきりとした仮説が建てられているわけでもなかった。だが、

 

「人身売買、それも年端もいかない女の子を狙った犯行が行われていて、依頼でもらった人相絵がこれだ」

 

 と言い、青髪の男はイブキに懐から取り出した紙を渡した。

 と同時に、猟兵崩れの顔を覆い被せていたフード付きのヘルメットを、紫髪の少女が大鎌で次々とひっかけて外していく。

 咄嗟に顔を隠そうとする猟兵崩れだったが、もはやその行為自体が彼らが誘拐犯であることの証明をしているようなものだった。

 

「最低……!」

 

 呪詛の籠った低い声で、侮蔑する少女。

 フィーも同様の感情だったのか、声に出さずとも雰囲気からして、今にも猟兵崩れたちに銃弾の雨を浴びせんばかりであった。

 

「狙っているのはどれも“曰く付き”の孤児だったり、そもそも戸籍の存在しない“非合法的”な移民だったり……。警察じゃ立件できないものばかり」

「おいおい……」

 

 “曰く付き”の孤児の一人でもあるイブキは、思わず声が出てしまった。雪山で謎の女性に救われ、そしてシュバルツァー家に迎え入れられていなければ、自分も誘拐される対象になっていたのかもしれない。

 

「取引先として考えられているのは、闇のオークションや――カルト教団の生き残り。ニーズヘッグってのはそういった相手にも取引するって聞いたことがあるな」

「ええ、そうね。レンも見たことがある」

 

 紫髪の少女――レンが怒りを込めて男の情報に対して肯定した。

 

「報酬のためにどんなこともやるといっても、猟兵には誇りもしきたりも存在するはずだが、おおかたアンタらはそれを破ったせいで孤立したんだろ」

「……こんな仕事はどれだけミラを積まれてもやらない」

「下手すると団長がブチギレしそうな案件よな」

 

 自分を猟兵団にいさせてくれている豪快な男を思い出しながらイブキは言った。

 念の為にと、イブキに渡した人相絵と目の前の男たちの顔を見比べてから、青髪の男は続けた。

 

「警察じゃアンタらを裁けないのはわかってる。だからと言って遊撃士協会に突き出してもいいが、……人道主義に悖る行為をしたらがない奴らに任せても心配だ」

 

 そう言いつつ、青髪の男は色を失った目で彼らを見た。

 

「遺言はあるか?」

 

「ゆ、遺言!?」

「お、俺たちは来た仕事をしただけで……!」

「俺たちを殺す気なのか!?」

 

 焦り出したには猟兵崩れであった。

 そのうちの一人が恐怖に耐えきれず、立ち上がって逃げようとしたが、

 

 カキンッ!

「あああああぁぁァァァアア!」

 

 レンが振り下ろした大鎌が太ももに突き刺さり、声にならない悲鳴をあげながら倒れた。

 

「や、やめろ! アンタらが何の権利があって俺たちを裁くってんだ!!」

「お前たちだって、そこのガキを飼ってるじゃねえか!」

 

 醜く叫ぶ猟兵崩れ。

 それを呆れながら見つつも、懐から拳銃を取り出し、脳天に照準を合わせる青髪の男。

 同じようにしてフィーもトリガーに手をかけて――。

 

 ダンッ! ダダンッ!!

 

 だが放たれた弾丸は猟兵崩れの頭蓋骨を貫くことはなく。

 

「なんのつもり?」

 

 フィーが握る双銃剣の照準はイブキにあっていた。




時期的には七曜暦1203年の4月で、影の王国事件が終わって、レンが博士に追われている中で共和国に辿り着き、謎の青髪の男に手伝ってもらってるくらいのときです

主人公の進路どうなると思いますか? なお下に行けば行くほどリィンやエリゼが悲しみます

  • フィーと一緒に士官学院にいくLルート
  • 猟兵をやめられなくて続けるGルート
  • まさかの結社行きのCルート
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