シュバルツァーんちの野生児くん   作:全自動髭剃り

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あけましておめでとうございます!


黒芒街II

「なんのつもり?」

 

 双銃剣を寸分なくイブキの脳天に照準したまま、フィーは氷のような声音で問いかけた。

 指はすでにトリガーにかけられており、威嚇ではなく、イブキの返答次第では容赦なく放つつもりであるのだろう。

 

 対して、フィーと同じように発布を邪魔された青髪の男は、

 

(十手を投げつけて、銃弾を弾いた……、のか?)

 

 邪魔をされたことに、ではなく、どうやって邪魔をしてきたのかということの方に驚愕していた。

 虚空に十手を投げつけ、そして同時にフィーのそばにまで駆け寄って、フィーの両腕を払った。それだけで猟兵崩れを3人絶命に至らせる銃弾の軌道を、全て曲げたのだった。

 

「……」

 

 飛び退いたのちに銃口をイブキに向けたフィーに対して、イブキはうまく答えられなかったのか、少し悩むようなそぶりをしている。

 まるでフィーからの銃撃すら脅威ではないかのような振る舞いだが……。

 

「俺からも聞きたいな。どうするつもりだ?」

 

 フィーと同じく持っている拳銃をイブキに向ける男。

 トリガーに指はかけていないので、威嚇であることはわかるのだが、

 

(一緒に行動してるものだから、西風の妖精(シルフィード)の仲間だと思ったが、どうやら一つ岩じゃないみたいだな)

 

 香る硝煙の匂いに戦闘スタイルからして、すでにフィーの正体を見破っていた男は、冷静に分析をした。

 

「お兄さんの考え、レンも知りたいな。けど、それは――」

 

 この場で最も傭兵崩れに近かったレンは、手に持っている大きな鎌を振り上げ、

 

「――この人たちの始末の後に、」

 

 振り下ろす――、

 その刹那。

 

 ダンッダンッ!!

 

 同時に発射される複数の銃弾。

 

 ゴンッ!!

 

 槌で大鐘を叩くような音。

 

 同時にそれらが起きた。

 

「ち――ッ!」

 

 銃弾は不用意に動き出したイブキに対して、一切の躊躇いなく発砲したフィーのもの、そして、依頼人である少女――レンの方に走り出したイブキが、万が一にもレンに襲いかからないようにと牽制で発砲した男のもの。

 豪快な金属音は、傭兵崩れの男たちの首を刈り取らんと振るい落とされた鎌が、イブキの握った拳で殴り飛ばされた音。

 

 だがイブキの行動はそこで終わらない。

 武器を殴り飛ばされ、大きくのけぞったレンだったが、それでも武器を握り締め続けていたのだけれども、一瞬にしてレンの懐まで詰めたイブキは、小柄なレンが怪我をしない程度に手加減した当て身をし、

 

「っ!」

 

 姿勢の崩れ切ったレンから鎌を奪いあげ――

 

 ――舌打ちをして、拳銃を発砲しつつ駆け寄ってくる青髪の男を、石突で突き飛ばし。

 

 ダダダダダダンッ!!

 

 フィーがばら撒いてきた弾丸に対して、

 

 ガガガガガガンッ!!

 

 その全てを難なく強奪した鎌を振るうことによって弾いていく。

 最終的に発砲しつつ肉薄してきたフィーが振るう双銃剣を、先ほど銃剣を突き出してきた男相手と同じように、今度は両方を一手に無理やり握ることによって無力化した。

 違いがあるとすれば、今回に関しては使い手の能力が高かったこともあり、流石に無傷ではいられず、両手から血をだらだらと流していた。

 

「っ……!」

 

 フィーは握り込まれた双銃剣を取り返そうと力を入れるが、まるで万力に挟まれたようにびくともしなかった。

 

「あら、お兄さんもコイツらのお仲間だったってわけなのね?」

 

 武器を奪われてなお警戒を怠らずに、イブキのことを睨みながらレンが話しかけた。レンが言及していた猟兵崩れ3人といえば、数度にわたり殺害されかけた心理的ショックによって全員が仲良く気絶していた。

 実力行使では、少なくとも現段階では敵わないとレンは判断したのである。なので油断を誘うという意味でも話しかけることとした。

 それに対してイブキは、

 

「いやいや、ちゃうよ」

「まだ誤魔化し続ける気なの? もうレンたちには勝ち目はないと思うけど」

「ほんまにちゃうって。こいつらの仲間やったら最初からレンちゃんやフィーを襲っとるがな」

「じゃあ、なんでこの犯罪者たちを庇うの? ……レンたちが殺したところで、お兄さんとは関係ないでしょ?」

「うーん」

 

 気絶した3人組を見ながら、再び困ったような顔をするイブキ。

 少しだけ考え込んでから、イブキは口を開いた。

 

「だってさ、人を殺すんはあかんやろ?」

「……? 別にお兄さんがやるわけじゃないでしょ?」

「あー。すまん、言い方が悪かったわ。俺はレンちゃんやフィー、そこのあんちゃんに人を殺してほしくないんや」

 

 そう言い、イブキは続けた。

 

「こいつらはとんでもない悪者かもしれんけど……。俺らが私刑で裁くんは流石におかしいんとちゃうかなぁ」

「それは、こいつらが誘拐した子達のことを考えても同じかな?」

「それは……」

 

 闇のオークションやカルト教団に差し出された、という男の話を思い出す。誘拐された子供たちが地獄を味わうであろうことは容易に想像ができた。

 だからこそ言葉が出ずに、口を噤んでしまうイブキ。

 

「先も言ったが、こいつらを警察に突き出しても、罪の立証ができないから、保釈されるのはほぼ確定だ」

 

 いてて、とぶつけた背中をさすりながら起き上がった男もイブキに語りかける。

 

「こいつらが罪を償うことはない。その上、被害者が増えるかもしれないんだ。それをアンタの、押し付けがましい倫理観で見逃すわけにはいかない」

 

 対してイブキは、理詰めで語られたこともあって、なかなか言い返せず、悩むそぶりを続けた。

 その間もフィーは自らの武器を取り返そうと、双銃剣から手を離してイブキの手に向かってパンチをしたりキックをしたりと必死であったが、一向にうまくいきそうにないようだった。

 そうしていると、少し閃いたような素振りをして、イブキは提案した。

 

「遊撃士協会に突き出さへん? あそこやったらなんとかしてくれるんちゃう?」

「……遊撃士協会か」

 

 今度は男の方が少し複雑な顔をした。

 

「少なくとも、俺らの独断での私刑やないし、あそこなら適正に裁いてくれるちゃうやろうか?」

「だけど、……」

 

 なお渋る男であったが、意外にも助け舟を出してくれたのは、レンだった。

 

「それがお兄さんの妥協点なのかしら?」

「妥協点いうか、まあそんなところや」

「だったら、ここは譲ってあげてもいいんじゃない、ヴァン?」

 

 ヴァンと呼ばれた男はなおも納得しないような表情であったが、

 

「ここの遊撃士協会なら、熊のおじさんもいるし、大丈夫だと思うよ?」

「ジン・ヴァセックか……」

 

 その一言によって、ヴァンも少しは納得をしてくれたようだった。

 

「レンたちはそれで納得したから、レンの武器は返してくれないかしら?」

「おう」

 

 返答しつつ、まるで借りた本を返すかのような軽いノリで鎌をレンの方に投げ渡すイブキ。

 そのあまりの清々しさというか考えなさぶりには、流石のレンも呆れてしまい、万が一を想定して色々と策を練っていたのが全て無駄となってしまったのだった。

 

 そして納得していない人といえば、あとはフィーが残っているのだが、

 

「フィーもそれで納得してくれない?」

 

 腕が動かないということがわかったのか、イブキの体に殴りや蹴りを入れ始め、ついには少し離れてからのドロップキック、果てにはしがみついた上に、噛んでやろうかと思い始めたところで話しかけられたので、仕方なく口を開いた。

 

「返して」

「ほい」

 

 言われた通りに双銃剣をフィーに返すイブキ。

 返された途端に反撃に移るフィーだったが、またもや同じように双銃剣を没収されるようにして止められる。

 

「……っ。返して」

「ほい」

 

 またもや同じく返された瞬間に斬りかかるフィー。

 今度は銃弾も同時に叩き込むが、

 

「よっと」

 

 と軽快に全ての銃弾を躱したのちに再びフィーから双銃剣を取り上げる。

 

「むーっ!」

 

 腹が立ったのか、膨れ上がりながらイブキを睨むフィー。

 それに対してイブキはいつも通り自然体。

 

「返して」

「ほい」

「今度は本気!」

 

 言いつつ再び斬りかかるフィーだったが、数合の攻めののち、お約束のように再び武器を取り上げられるフィー。

 また同じようなやりとりをするのかと、側から見ていたヴァンとレンが思っていると、

 

「返して」

「ほい」

「もう帰る」

 

 そう言って、フィーは走り去っていった。

 

 どう反応すればいいのかわからずその場を見ていたヴァンとレンだったが、

 

「よし、じゃあ遊撃士協会に行こう」

 

 肩に男を二人担ぎ上げ、腕に一人抱え込んで黒芒街を出ようとしているイブキについていくこととなった。

 念の為にイブキがちゃんと遊撃市教会へ行くかどうかを確認するためだったのだが。

 

「あ、遊撃士協会ってどこか知っとる?」

「知らねえで先頭で歩き出したのかよ!」

 

 やはりどこか致命的に抜けているイブキに対してズッコケかけたのだった。

 

 †

 

 問題なくジンに猟兵崩れを引き渡したのちに、イブキはヴァンたちにお詫びの意も込めて、近くにある喫茶店でスイーツを奢ることとなった。

 食事に次ぐ食事だったが、ヴァンは

 

「甘いものは別腹なんだよ」

 

 と言って、運ばれてきたチョコレートケーキに手をつけ始めていた。

 

「糖尿病になるで」

「アンタのおかげでいっぱい運動したから大丈夫だ」

 

 という皮肉を軽く聞き流し、イブキは口を開いた。

 

「お二人さん、ありがとな、俺のわがまま聞いてもらって」

「そうね。貸ひとつっていうものかしら?」

「うん、それでええよ。できることならなんでもしてあげよう」

「忘れないでね?」

 

 とレンは軽く納得したようであり、同じようにヴァンに対しても話しかける。

 

「ヴァン、でええんかな?」

「ああ」

「ヴァンにもなんかお詫びしときたいんやが、レンちゃん

 と同じように貸ひとつってことでええんかな?」

「……いや」

 

 少し考えると、ヴァンは懐から名刺を一つ取り出した。

 

「えーと……アークライド解決事務所?」

「ああ、平たくいえば何でも屋をやってる。開業したばかりだから、客が足りねえんだ」

「じゃあ、その宣伝活動を手伝えばええんかな?」

「違う、そっちじゃねえよ。……まあ、なんだ、客になってくれ。猟兵絡みだったらそれなりに大きい案件があんだろ、それをこっちに横流ししてくれりゃあいい」

 

 と、しれっとイブキが猟兵であることを考察しつつ話すヴァン。

 

「俺が猟兵とつるんどるってよくわかったな。けど残念やけど、俺は猟兵団のとこにちょっと居候しとるだけで、正式には団員にはなってへんのよ」

「居候……?」

「うん。成り行きでな? 団に入らんかって誘われとるけど、まだ悩んでてな」

「へぇ」

 

 ケーキを口に放り込み、咀嚼して飲み込む。一瞬途切れた会話にレンが口を開いた。

 

「ならお兄さんはいずれ猟兵になるよ」

「え? そう思う?」

「うん、お兄さんはきっと立派な猟兵になれる」

「極悪人すら殺すのに躊躇するこいつが、か?」

 

 レンの言葉に疑問を投げかけるヴァン。

 

「そうよ。だってこのお兄さんは、人を殺させないためなら()()()()()()()()なんだから」

 

 外見に似つかわしくなく妖艶に笑うレン。

 対してイマイチ理解できないイブキと、ああなるほどなと思うヴァン。

 

「なんやようわからんかったけど、なんかあったら連絡させてもらうわな」

「ああ、それでいい。西風の旅団から依頼を貰えるのならありがたい限りだからな」

 

 と、イブキが居候している猟兵団の名前をズバリと言い当てるヴァンだったが、イブキはそれに対して思うこともなくレンに連絡先を渡し始めたものだから、こういった腹の探り合いに門外漢すぎるこの男が果たしてまともな猟兵になるのかと呆れてしまうヴァンであった。

 

 †

 

 果たしてイブキがフィーを見つけ出す旅は難航に難航を重ねるものであった。何せ、フィーはイブキからの通信に応答しなかったのだから。

 

 まず確認したのは泊まっていた宿だが、フィーの部屋には人気がなく、ノックをしても返答はなかった。一応念の為に方天画戟を自室から取り出して、出かける。

 次にまさか野営地まで帰ってしまったのではないかと思い、貸し出してもらった通信機能付きの戦術オーブメントを使って野営地に通信してみたところ、そういうわけでもないということがわかった。

 ならば黒芒街に違いないと、基本的に任務に関しては真面目なフィーが任務を放り出すことはないだろうということで、夜通し隅から隅まで探してみたものの、ちらほらと目撃情報はあっても、いまいち核心をついた捜索はできず。

 

 捜索範囲を黒芒街の外――イーディスの市街地にまで広げて、次の日の午前まで続けたものの、こちらの方については目撃情報すら手に入らず、仕方ないので、団のほうにはぐれた旨を伝えたのちに、イブキは旧市街に向かうこととした。

 昨日手渡された名刺に書いてある場所に赴くために。

 

「えと、ここがアークライド解決事務所ですか?」

 

 ところがたどり着いた先は、ちょっと洒落た雰囲気の食堂で、筋肉隆々でいいガタイをした中年男性がキッチンホールで立っているだけだった。

 あり得るとしたらヴァンの父親とかかなと思うイブキだったが、父親にしてはあまりにも姿が似ていないものだった。

 

「ん? いらっしゃい、若いの!」

「あ、どうも。準備中すんませんね」

 

 ちょうど昼前というのもあって、準備中にもかかわらず店に入った事を詫びるイブキだった。

 

「気にすんな。それよりも、お前さんまだ朝飯も食ってないだろ? 何か出してやるから座って待ってな」

「あ、いや、そうやなくって、アークライド解決事務所は……」

「アークライドは俺が呼んでおいてやるから、空いてる席に座ってな」

 

 そう言うと、店の男は店横の階段に向かって、

 

「ヴァン!! 客だぞ!!」

 

 と叫ぶと、

 

「その背負ってる武器もどこかに立てかけといてくれればいいぞ」

 

 そのままキッチンの方へと戻った。

 元気のいい人だなと思いながらイブキは席に着くと、しばらくして二つの階段を降りる足音と共に、少しばかり呆れた顔のヴァンと何を考えているのかわからないような笑顔のレンが降りてきた。

 

「昨日ぶりー」

「そうだな……」

 

 ぶっきらぼうに言い放つと、ヴァンはイブキの向かいに座った。同じようにレンもその隣に座る。

 

「当ててやろうか?」

「ん?」

妖精(シルフィード)と逸れたから、探すのを手伝え、だろ?」

「うお! マジか! よくわかったな、ヴァン!」

「そんな事だろうと思ったぜ……」

 

 言っていると、

 

「午前中に作った余りのパスタだ。ゆっくり食ってけよ」

「ビクトルさんもこいつには料理なんか出さなくてもいいってのに……」

「何言ってんだ、お前が始めた商売のほぼ初めての客じゃねえか! 商売なんてなリピーターがいないと成り立たないんだから、大事にしなきゃだめだろ」

「こいつは帝国人だよ。多分すぐにでも帝国に帰るだろうし、リピーターなんかにならねえよ」

 

 疲れたようにそう言うと、ヴァンはパスタを頬張り始めたイブキに向き直り、持っていた戦術オーブメントを取り出した。

 

「ENIGMAは持ってるか?」

「あ、それなら団に貸してもらったからあるで」

「ならまず連絡先を交換しよう」

「お、いいね!」

 

 そういうと笑顔で応じるイブキだったが。

 

「……」

「……」

 

 そのままヴァンの顔を見つめる。

 イブキも同じようにしてヴァンの顔を見る。

 そこには確かな信頼関係があるわけではないが、少なくともヴァンはある程度イブキの行動基準や実力についてはわかっているつもりではあった。

 ”人を殺させないためなら何でもする”というレンの言葉通り、ヴァンがいきなり襲いかかってくる可能性は低いだろう。実際昨日の出来事でも、ヴァンが自ら襲い掛かってなかった場合は、イブキは攻撃をしなかっただろうことが予測できた。

 師父の教えをある程度受けた自分を軽くいなすだけではなく、二つ名付きの少女二人の攻撃ですら軽くいなして見せたのだから、実力に関して言えば相当なものがあるはずである。モンマルトの入り口に立てかけてある物々しい大きさのハルバードはおそらくイブキの持ってきたものなのだろうが、それを振るえる時点で相当の手だれであることは間違い無いだろう。

 

「……」

「……」

 

 イブキのほおけた顔を見る限り、大して腹の読み合いについては強く無いのもわかるというものだ。猟兵ならばそういった機会に恵まれないことはあり得ないだろうが、ただ居候させてもらっているだけならば、そういったスキルを手にいれる機会が無かったのも仕方ないかもしれない。

 

「……」

「……」

 

 ……。

 未だ見つめ合う二人。

 

「お兄さんたち、恋に落ちちゃったかしら?」

「ちげーよ!」

 

 振り返りながらツッコむヴァン。

 対して、イブキは、

 

「? 鯉?」

 

 と、アホらしく反応していた。

 

「ENIGMAを持ってるんだろ? 連絡先を交換したいから、出してくれ」

「え? 俺のも出さないといけないん?」

「アンタのENIGMAなしでどうやって交換するんだ!」

「あ、そういうことか! なるほどね」

「…………。常識がねえのか……」

 

 イブキがENIGMAを取り出すのをずっと待っていたヴァンだったが、連絡先を交換することに賛同する割には一向に取り出そうとしないイブキを見つめ続けざるを得なかったのであった。

 仕方ないと言えば仕方ない。

 なぜなら、ENIGMAを渡されたはいいものの、アーツを含めてほとんど使用をせず、設定を全て団に任せてしまったのもあって、イブキはほとんどENIGMAの操作を知らなかったのである。

 

 なので、イブキが取り出したENIGMAをそのままヴァンに手渡したのも、当然の帰結であった。

 

「……なぁ」

「? なんや?」

「なんで俺にENIGMAを渡したんだ……?」

「え? 連絡先を交換するんやないん?」

「…………」

 

 絶句するヴァン。個人情報の塊を何の躊躇いもなく渡されたら誰だってそう反応するだろう。

 

「もしかして、連絡先の交換の仕方を知らないのかしら?」

「せや。操作とか全部他人任せやったし」

「……、レンが教えてあげようかしら?」

「お、マジで!? 覚えられるか自信ないけど、頼むわ」

 

 そう頼まれたレンはヴァンからイブキのENIGMAをとって、ディスプレイを見せつつ、連絡先一覧の開き方や連絡先の追加の仕方、その編集の仕方などを軽く説明して、イブキに実際に自分で操作するように返した。

 

(猟兵団にいるなら隊長とかの連絡先を持ってるのは当然として、……なんでこいつは猟兵王個人の連絡先を持ってやがるんだ……?)

 

 ちゃっかりレンガ操作するイブキのENIGMAを観察していたヴァンだったのであった。

 

「うし! 連絡先も登録したことだし、フィーのこと探しに行くか」

 

 と立ち上がりかけるイブキを、

 

「待て。その前に詳細を説明してくれ」

 

 ヴァンが止めた。

 

 曰く、黒芒街付近の地下区域では目撃情報があるが、市街地ではなかったこと。野営地に帰っていないことは確認済みで、猟兵団から人員を割いて捜索するのは難しいために、捜索はイブキ1人に任せられていくこと。さらにイブキとフィーは黒芒街の偵察に来ていて、フィーがそれを放棄するとは思えないこと。

 それらの情報を聞いたヴァンは、おそらくフィーは黒芒街付近の地下区域にいるだろうと結論づけ、黒芒街と繋がっている建設が始まっている地下鉄の建築現場、もしくは、それと繋がる首都イーディスの地下に広がる遺跡群のどこかにいると想定して、重点的の探した方がいいと提案した。

 概ねそれで問題ないなと思ったイブキはそれに対して賛同し、それなりに地下区域について詳しいヴァンを先導に創作活動を続けることとなった。

 そして、ビクトルに出してもらった料理に対して、十分と思える程度のミラを置いて立ち上がり、ヴァンと一緒に店を出ようとしたところ、

 

「レン、お前はついてこない方がいい」

「あら、レンは仲間はずれ?」

 

 と、ついてくるレンをヴァンが止めた。

 

「仲間外れとか、そういうのじゃねえ。お前が目立っちまったらダメだろう」

「追っ手のことかしら? それこそ今更でしょ?」

「今更って……」

 

 複雑な表情のヴァンに対して悪戯っぽい顔でレンは続けた。

 

「誰だったかな、黒芒街でレンを囮に使った人は?」

「それはお前が自分で言い出したことじゃねえか! 止めても聞かなかったから仕方なく連れて行ってやっただけだろ!」

「レンは覚えてないわ」

 

 とのやりとりはあったものの、なし崩し的にレンもついてくることとなった。

 イブキは人手が増えればそれだけ楽になるんじゃないかと軽く考えていたが、よくよく考えると自分より二回りも三回りも小さい女の子を黒芒街周辺に活かせるのはどうかと思い始め、

 

「あっ……」

 

 声をかけようとしたところ、昨日ほどに容赦無く大鎌を振り下ろそうとした彼女の姿を思い出すと、杞憂に過ぎないなと思った。

 

「お兄さんの本当の武器って、これ?」

 

 先に店を出たヴァンについて歩いていたレンが、入り口付近に置いてあった方天画戟を指差す。

 

「せやで」

「そうなのね。レンのネメシスリップと雰囲気が似てて、素敵ね」

「お、そう思う? 最初は持ち上げるにも苦労したけど」

「自分が持ち上げられないような武器を持とうと思うなんて、辺な人ね。……レンがちょっと持ってみてもいいかしら?」

「ええで。レンちゃんが持ってたネメシスリップよりも重たいから気をつけて」

 

 と、そんなやりとりをしていると、出るのが遅いレンとイブキを訝しんでヴァンがドアから中を覗き込んでいた。

 

「……持てる訳ねぇだろ、そんなでかいハルバード」

「レンちゃんならいけると思うんやけどね」

「何歳だと思ってんだ……」

「俺もレンちゃんくらいの歳で使えるようになったし、いけるいける」

「どういう幼年期を過ごしてたんだ、アンタ……」

 

 方天画戟の牙月を覗き込む。

 反射する菫色の髪と瞳。

 よく手入れされているのか、まるで鏡のようで、切れ味は並の刀にすら負けぬだろうというのに、刃こぼれが一つない。対して無骨な槍の部分は、一切の装飾がなく、ただただ冷たい黒鉄が伸びているだけだ。

 手に持ってみるとなるほど重たい。

 まるで人の重さが数人分はあるんじゃないかというほどだったが、

 

「よいっ……」

「へぇ……」

 

 持ち上げて、喫茶店内の備品にぶつけないように軽く振るってみる。

 ブンブンと大した速度も出ていないというのに重厚な風切音がする。

 そして満足したのか、方天画戟をイブキに手渡すと、

 

「すごいわ、こんな武器なのに――何も聞こえない」

「聞こえない?」

「なんでもないわ。行きましょ」

 

 首を傾げるイブキだった。

 

(行き場のない魂の呪怨も、死してなお呪う悪霊の声も、ね……)

 

 一方、レンは違和感を持ったのだった。

 

(お兄さんはどうしてそんな力を手に入れたのかな? そして、その力をどうするのかな?)

 

 †

 

「ここにいたのかい」

 

 冷たい地下道の奥。

 地下鉄整備区画と、地下遺跡を隔てる壁の向こう側。

 今しがた現れた魔獣を退治し、まだまだ銃身が熱いブレードライフルを担ぎ直し、その奥にいる小さな人影に話しかける。

 

「イブキはいないようだけど」

 

 対して、最初は警戒していたものの、誰かがわかるとそのまま警戒をといた小さな影は返す。

 

「……任務の遂行の障害になるから、置いていった」

「……ふぅん」

「アイーダはなんでここにいるの?」

 

 問われたアイーダは少し考えるようなそぶりをして、

 

「フィーたちのサポートをしてくれって団長にお願いされてね」

「……こんな簡単な任務にサポートはいらない」

「アタシもそう思ったんだけどねぇ。団長がどうしても心配だっていうからさ」

 

 そのままフィーに歩みよるアイーダ。

 

「それで、イブキとは何かあったのかい?」

 

 そう問うアイーダ。

 それに対して、まるでイブキの名前を聞くこと自体が嫌なのか、普段は感情表現が乏しいフィーにしては、分かりやすく顔を顰めて応えた。

 

「イブキは猟兵になれない。向いてない」

 

 そう言い切ると黙り込んでしまうフィー。

 これはなんだか大変なことになってそうだなと思ったアイーダは、仕方ないなとばかりにフィーの隣まで歩み寄り、

 

「あ……っ」

「よしよし」

 

 おもむろにフィーの頭を撫で始めた。

 少し抵抗をしようとしたフィーだったが、

 

「……」

 

 撫でられるのが気持ちよかったのか、そのまま身を任せることにした。

 

「……私、もう子供じゃない……」

「はは、そうかもね。フィーは立派になったさ」

 

 撫でながら、アイーダは続けた。

 

「もしフィーを子供扱いしてバカにする奴がいるなら、アタシが代わりにぶん殴りにいってやるよ。もしかしてイブキに子供扱いされたのかい?」

「違う……」

「なら、何があったか、お姉さんに聞かせてくれないか?」

 

 抵抗もできず、フィーは降参したかのようにして、ぽつりぽつりと何があったのかを話し始めた。

 それを静かに聞き届けるアイーダは、フィーが語り終えたのを待ち、

 

「そうか」

「……」

「じゃあ、フィーはこれからも単独行動を続ける気かい?」

「うん」

「ふぅん」

 

 少し考えると、アイーダは続けた。

 

「フィーがそうしたいならそうするといいさ。フィーなら問題なく任務をやっていけるだろうし、アタシは街の方に仕事に行こうかね」

「任務は問題ない。……けど、飲み過ぎないように気をつけて」

「へ?」

「街の方に仕事なんかないのはわかってる」

「バレちゃってた? あはは」

 

 トボけたような表情をしながらアイーダはフィーから離れて、地下街の出口の方に向かって歩き出した。

 

(相性バッチリだと思ってたけど、なんだか変なすれ違いをしたみたいだね。……ここの口を挟んでも仕方ないだろうし、ひとまずは見守ってあげるのがいいかしら?)

 

 思いつつ、その足は先ほど見つけた珍しい酒を扱っているバーへと向かっていた。

 

 

 †

 

「ふふ……。ふはははは!! ついに、ついにこの日がやってきたぞ!!」

 

 赤色のプロテクターをした水色髪の男は、搭乗する自律兵器を操りながら、甲高い声で大笑いしていた。

 

「この力、……この力さえあれば! 例え元執行者だろうと、僕には叶いっこないのさ!!」

 

 威嚇とばかりに空中に数発ガトリング砲をぶっ放すと、その銃口をレンに向ける。

 

「まだ試作段階だというのに、わざわざ博士から直々に任されたこのネオ=ゴルディアス級自律人形兵器! 僕にしか扱えなかった、僕のためだけにある、この世界で唯一の兵器!」

 

 対して、菫色の少女は少し心中焦っていた。

 

(パテル=マテルは呼んであるけど、まだ間に合わない……。あれが本当にゴルディアス級の次世代だとしたら、まずいわね……!)

 

 そんな少女の心中を知ってか知らずか、歪んだ笑顔で男は続けた。

 

「お前たちを倒して、今度こそ僕は執行者にしてもらうのさ! 喜んで、僕の踏み台となりたまえ!!」

 

 衝突が始まる――!




今作ではおそらくオリキャラは主人公だけになります!

よかったら感想、評価を残していただければ喜びます!


……それにしても結社関連で水色の髪の毛。……まさかあの人が!?

主人公の進路どうなると思いますか? なお下に行けば行くほどリィンやエリゼが悲しみます

  • フィーと一緒に士官学院にいくLルート
  • 猟兵をやめられなくて続けるGルート
  • まさかの結社行きのCルート
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