戦いが終わり……
〜翡翠視点〜
あの日から数日が経過し、俺たちはついにデクターたちに勝利を収めた。戦いの傷はまだ完全には癒えていないものの、ようやく訪れた平穏な日々に、少しずつ心が安らいでいくのを感じていた。
「ん…まだ体が痛むな…」
「そりゃそうでしょ? 翡翠はお腹に、ウチは胸とお腹に大怪我を負ったんだから。」
「分かってはいるけどよ…痛いものは痛いんだよな。」
俺は軽くため息をつきながら、隣にいるなのかの胸を指でツンとつついた。
「いたたたた! ちょっと、やめてよ翡翠!」
「ははっ、悪い悪い。」
俺は苦笑しつつ、目を空へ向けた。星々が瞬くその様子は、まるで俺たちの旅路を静かに見守ってくれているようだった。
「そういえば、みんなは今どうしてる?」
「姫子さんとヴェルトさんは、列車のメンテナンスにかかりっきり。あの戦いでかなりのダメージを受けてたからね。」
「そりゃ当然か。列車なしじゃ、俺たちの旅も続けられないもんな。」
「御影とアクセルは相変わらずトレーニングルームにこもりっきり。ホタルと星は列車内で休憩してるし、ゼーレは護衛の任務についてるみたい。」
「俺らは?」
「…散歩!」
なのかは一瞬考え込んだ後、明るい声でそう答えた。
俺は思わず苦笑しながら、静かに歩みを進める。
しばらくの沈黙の後、なのかがふと口を開いた。
「そういえばね…全部のメガゾード、寄贈されることになったんだって。」
「……そうか。アイツらとも、これでお別れか…」
なのかの言葉を聞いて、少しだけ寂しさがこみ上げる。ヤリーロⅥでの戦い以来、ずっと共に戦ってきた機体たち。俺にとっても、もはや仲間同然の存在だった。
「まあ…でも、今の俺ならアイツらに乗るよりも、律者として戦った方が強いしな…」
「確かにね。敵が巨大だったときはすごく頼りになったけど…もうそういう戦い方をしなくても、私たちは十分強くなったんだよね。」
俺たちはしばらく砂浜を歩きながら、話し合う。
「最初に会ったのは、宇宙ステーション『ヘルタ』だったな。」
「うん。あの時から、ウチらは巡り合う運命だったのかな?」
「偶然だろ偶然。」
上目遣いするなのかを横目に無視して話を進める。少し怒ってた気もしたが気にしない気にしない…。
「次に行ったのは、ヤリーロⅥだったよね!」
「ああ、ブローニャと会ったのもその時だったな。」
「いきなり逮捕されそうになった時は、びっくりしたよ!」
「カカリアのせいとはいえ、びっくりしたな。」
翡翠はベロブルグで結晶を持ってそう話す。
「初めてカイタクオーに乗ったのもその時だよね!」
「ゴウリュウジンもな。」
二人でベロブルグでの出来事を話し合った。なのかから聞くと、この時から俺のことが好きになったらしい。
………………………………
「次に向かったのは、仙舟『羅浮』だったね。」
「あそこは、色んな意味で大変だったな……。」
二人は羅浮での出来事を思い返していた。
デクターによる羅浮への襲撃、無数に押し寄せる敵軍、テンクウジン、さらには朱雀……。
「あの時、翡翠が刺されて海に落ちた時は、本当に不安だったんだよ!」
「悪かったって……あれは若気の至りというか……。」
「今も変わらず16歳だけどね!」
なのかの鋭いツッコミが入る。この軽妙な掛け合いも、なんだか久しぶりな気がした。
「なのか、あの時、符玄に記憶を見てもらってたんだよな。」
「うん。今思うと、未来のウチだったのかな、あの人。」
「……?」
「ふふふー、秘密ー。」
なのかはいたずらっぽく笑った。
「なんだよ、それ、気になるだろ。」
俺は眉をひそめながらも、どこか懐かしさを感じる会話に微笑んだ。羅浮での戦いは過酷だったが、こうして今振り返ると、それもまた俺らの成長の証だった。
………………………………
「次はピノコニーに行ったよね。」
「楽しかったけど、大変なことも多かったな。」
「ホタルも仲間になって、開拓の旅がより一層楽しくなったよね!」
「ホタルが仲間になった経緯は、結構複雑だったけどな。」
「あ、そういえばサムがレギオロイドになったんだよね…」
ホタルは、デクターの手によってサムとホタルという二つの存在に分離した。
その結果、成り行きとはいえホタルはナナシビトの一員となった。仲間が増えたことは嬉しいものの、どこか複雑な気持ちが拭えなかった。
「暉長石号での出来事も衝撃的だったよね…トパーズやロビン、それに翡翠の失踪…。あの知らせを聞いたときは、本当に絶望したよ…」
その話題に触れた途端、なのかの表情が曇った。あの時は、皆に大きな迷惑をかけてしまったことを痛感している。今でも後悔の念が消えない。
…………そういえば、暉長石号でライモン集団とも戦ったんだったな。すっかり忘れていた。
「ここでデクターとの最初の決戦もあったね。」
「デクター・ユナイトとの戦いのことか。」
「あの戦いは激闘だったね。スーペリアフェニックスやカンゼンカイタクオーも大活躍だったし。」
カンゼンカイタクオーか……。あの機体に乗って敗北したことは一度もなかった。
何が理由なのかは分からないが、とにかく強かった。「カンゼン」の名は伊達ではなかったらしい。
………………………………
「……次は色んな星に行ったね。ベロブルグ、羅浮、ピノコニー、地球……色々な場所を巡ったよ。ウチは惑星ハルファにも行ったんだ!」
「楽しかったか?」
「うん!でも、途中ですごく強い敵に出くわして、巻き込まれちゃった……」
「ドンマイ……」
本当に色々あったな。レギオロイドと料理対決をしたり、海を泳いだり、御影がお腹を壊したり……野球をしたりもした。思い返せば、どれも忘れられない思い出だ。
「……でも、あの時は本当に辛かった……」
「……………」
俺たちがディウェンゴやディペクトによって、人工律者だと明かされた日。
あの日は、俺たちにとって耐えがたいほど苦しく、心が引き裂かれるような瞬間だった。
「翡翠が泣いている姿を初めて見たよ。」
「俺だって、あんなに泣いたのは久しぶりだった。」
「でも、その後……告白してくれたよね。あの時、すごく嬉しかった。」
「ああ、そうだったな。」
あの夜、俺はなのかに自分の気持ちを伝え、そして付き合うことになった。
お互いにとって初々しい関係だった。みんなからは面白がられて、からかわれたけど……。
あの時のアクセルと御影は、今思い返してもぶん殴りたくなるくらいムカついたな。
………………………………
「あれから……いろいろなことがあったね。」
なのかはそっと靴を脱ぎ、波打ち際に足を浸す。
「辛いことも楽しいことも、たくさんあったね。」
「うん。俺も、この列車に乗ってよかった。」
俺は、静かになのかを抱きしめる。
「ウチ、これからも翡翠と一緒にいたい。」
「俺も、なのかとずっと一緒がいい。」
お互いの心が通じ合い、自然と特別な雰囲気に包まれる。
「翡翠……好き……」
「なの……愛してる……」
やがて二人は砂浜へと移動し、静かに寄り添いながら、お互いの温もりを確かめ合った。
夜の海は静かで、波の音だけが俺達を包み込む。星々が瞬く夜空の下、俺らの想いは確かに一つになった。
——その夜——
「ねえ、翡翠。」
「……ん?」
「ウチら、これが初めての経験だったね。」
俺は少しだけ照れくさくに笑い、なのかの手をそっと握る。
「御影やアクセルとは、ずいぶんと違うな。アイツら、ずいぶん前に済ませてたらしい。」
俺たちは星空を見上げながら、ゆったりと会話を交わす。時間がゆっくりと流れる中、互いの存在の尊さを噛みしめる。
「これからもずっと一緒だよね?」
「もちろん。どんな未来が待っていようと、俺はなのかのそばにいる。」
夜風が優しく吹き、二人の心をより強く結びつけていくのだった。
最終章、完結。