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――トリニティ自治区・外郭の大橋
美食研究会の4人を拘束したローランと先生は、今回の事件が明るみに出ないよう秘密裏に身柄を引き渡す為、トリニティ郊外にある大橋へと出向いていた。
「待ち合わせ場所はここだよな?」
「は、はい。もうすぐ風紀委員会が到着すると思いますが……」
(ブロロロ……)
"噂をすれば、だね"
こちらへと近寄ってくる一台の護送車。先生達の予想とは異なり、近寄ってくる車にはゲヘナ学園の校章と救急医学部の証が刻まれていた。
"……あれ? ……救急車?"
(ガチャッ)
「……お待たせしました、死体はどこですか?」
「……は?」
"……え?"
「……失礼。死体ではなく負傷者でしたね。たまに混同してしまって」
「……いや、混同するか?」
「えー……納品リストには、新鮮な負傷者4名と人質1人……と書かれていましたが」
"新鮮な……?"
「……ところで、あなた方は? 正義実現委員会ではなさそうですが……?」
"えっと……"
「あー、俺らはだな……」
「……冗談です。初めまして、シャーレのお二方。私は救急医学部の氷室セナです」
……
「はぁ……。……セナさん、いいからハルナ達を連れてって」
「分かりました。……それでは、私はこれで失礼します」
「あぁ、ありがとうな」
"よろしくね、セナちゃん"
「……今度、改めてご挨拶に参ります。……救急医学部ではなく、組織の一人として」
"組織……?"
「セナさん。ハルナたちは……」
「分かっています。……代理人、貴方の携帯電話に連絡先を登録してありますので、必要に応じて気兼ねなくご連絡ください」
「……お前も、ゲヘナ地区担当なのか?」
「はい。……積もる話はまた後日。風紀委員長もお話があるみたいですので」
セナはそう言うと、拘束された美食研究会の身柄を車に放り込み、運転席へと戻っていった。
"風紀委員長? ……ってことは、ヒナちゃん?"
「てっきりイオリが来ると思ったんだが……」
「あの、代理人。……風紀委員長はメンバーではないので、エリュシオンについては内密にお願いします」
「……分かった」
(ガチャ)
後部座席に乗り込んだフウカと入れ替わるように、助手席から降りてくる風紀委員長。
「こんにちは、先生、代理人」
"久しぶりだね、ヒナちゃん"
「あぁ、アビドスで会った以来か? ……そっちも色々と大変そうみたいだな」
「……えぇ、まぁ。シャーレの二人程ではないけれど……。……先生」
"うん……?"
「先生は……、……二人は、トリニティで何をしてるの?」
"私たち? 私たちは、補習授業部っていうところの担任を……"
「それはもう知ってる。色々と情報は入ってきてるから……。……そうじゃなくて、シャーレは中立的な立場だったはず。この時期にトリニティいるとまるで……」
「まるでトリニティに肩入れしているみたい……か?」
「……」
「……それは無いから安心していいぞ。シャーレとして、一部の生徒にだけ肩入れすることは絶対にない」
"うん。代理人の言う通り、私たちはみんなの味方だよ"
「……ごめんなさい。……そう、よね。先生たちがそんなことするわけ無い……」
"ヒナちゃん、こっちからも一つ聞きたいんだけど"
「うん? 聞きたいこと……?」
"……"
――エデン条約について、ヒナちゃんはどう思う?
★★★★★
エデン条約。ゲヘナとトリニティで結ばれるこの条約に対し、ゲヘナ学園の風紀委員長としての考えを聞く。
現在シャーレが置かれている状況と、この先の展望について、ヒナに説明するのであった。
「なるほど……シャーレは結構複雑な状況にいるのね」
"……"
「……トリニティの裏切り者……ね。……数多くの言葉が飛び交い、誰の言葉が真実なのか、誰が嘘をついてるのか分からない状況……」
"見方によって、真実は変わるかもしれないからね"
「ゲヘナ側としての意見も、聞いておきたかったからな」
「そう……。……ところで、こんな大事なことを私に話して良いの? トリニティの内情に関わる重要な要件だと思うのだけれど……」
"大丈夫! ヒナちゃんのこと信じてるから"
「……」
「……まぁ、先生がこう言ってるしな」
「……そういうのが、先生の悪いところ」
"……?"
「……何でもない。エデン条約が軍事同盟、ね……まぁ、興味深い見方ではあるかもしれないけれど……」
――少なくとも、私はそうは思わない
「あれはれっきとした平和条約、私はそう考えてる」
"なるほど……?"
「条約によって生み出される
「それに……?」
「……あまり言いたくはないけれど……私達がその気になれば、武力集団程度幾らでも潰せる。……万魔殿のリーダーであるマコトも、ナギサと同様の権限を持つことになると言う理由もあるけれど……」
「……まぁパッと見ただけでも、どちらが武力に秀でているかは一目で分かるな」
"ヒナちゃん、強いもんね~"
「……それに、ETO全体に権力が分散されるだろうから、誰か一人の意思で本来の目的を失い、暴走するようなことは考えにくい」
「それもそうだな」
「……もちろん、その全員が協力するなんて事態になれば、理論的にはあり得ることかもしれないけれど……。
……そもそもの話として、もしそんなことができるのなら、初めから両学園の統合でもしておけば良いだけのはず」
"確かに、そうだね"
「それに、マコトは誰かと協力するだなんてことが出来ない質だから……」
"そうなの? ……じゃあ、マコトちゃんは、どうしてエデン条約に賛同してるのかな……?"
「……賛同というか多分、何も考えてないんじゃないかしら。そもそも、ゲヘナ側でエデン条約を推進したのは、私だったから」
"ヒナちゃんが?"
「……色々面倒だし、もう引退しようかなって」
「引退……?」
「……私がどれだけ治安を維持したとしても、ゲヘナの秩序が良くなる未来が見えないから。……それに、」
「風紀委員長、まだですか?」
「……今行くわ。……それじゃあお疲れ様、先生、代理人。また……」
"うん……ヒナちゃんもお疲れ様"
「……あぁ、またな」
★★★★★
――翌朝
美食研究会を引き渡したローランと先生。その後、トリニティの夜が近いということもあってか、一度宿舎へと帰還したのであった。
「遅い! おはよう!」
「あ、アズサちゃん。早いですね?」
「日が昇る前には、すでにここで予習と復習をしてた」
"いや~、元気だね~"
「ちゃんと休んだのか……?」
「心配ない。休息ならしっかりと取っている」
「それならいいが……」
「ふふっ、やる気満々ですねアズサちゃん」
「当然だ、何せ今日も模擬試験がある。だよね、ヒフミ?」
「はい、そうですね。アズサちゃんはその様子ですと、もう模試への準備は万全という感じですね?」
「うん。第2次特別学力試験まで二日しか残ってないし、いつまでもみんなに心配をかけるわけにはいかない」
「アズサちゃん……」
「す、すごい気合入ってるじゃん……」
「試験範囲の予想問題も、もう何周もしてある。準備は完璧だ」
「わ、私も負けないんだから! 正義実現委員会のエリートの力、見せてあげる!」
"みんないい感じに張り切ってるね"
「あぁ。そろそろ合格してもらわないと、こっちとしても困るからな」
全員が席に着き、筆記用具を取り出す。
――第3次補習授業部模試
"それじゃあ、スタート!"
「……」
「……」
「ふふっ……」
「こ、これ、知ってるはず……! えっと、んと、んんん……っ!」
「そろそろ終わって欲しいんだけどな」
"そうだね。次の本番試験で合格してほしいかな"
……
「先生の方はどうだ?」
"全然ダメ。それとなく調べてみたけど、重要な情報はないかな"
「そうか。……アロナでもダメとなると、調べるのに苦労しそうだな」
"代理人の方は?"
「俺の方も進展はないな。あの後、病室にも確認しに行ったが……役に立ちそうな予知は見れていないらしい」
"そっか……。アズサちゃんから、直接聞き出すしかないのかな……"
――1時間後
模擬試験が終わり、全員の採点結果が出た。
★★★★★
――アリウス自治区・R社元孵化場
「特色ねぇ。……ねぇババァ。それって赤い霧?」
「……色までは分からないが、我々と同じくこの世界に来ているらしい」
「へぇ……」
(ガチャッ)
「失礼する。……次の作戦についてマダムからの言伝を……」
(バンッ)
(ダダダッ)
「……ッ! 何を……!」
「あら、意外と動けるじゃない」
「お前と同じく孵化を終えているからな。それに、肉体の出力ならお前より優れているぞ」
「……ぷっ、あはは、ババァも冗談とか言えたんだ!」
「別に冗談を言ったつもりはないがな。……あぁ、すまない。次の作戦についてって言ったか?」
「あ、あぁ……。……コイツは?」
「コイツとは失礼ねぇ。あたしは一応、あなたの先輩なんだけれど~?」
「ミョ、お前は黙っていろ。……作戦について聞かせて貰えるかな?」
「ふぅん……連邦捜査部シャーレねぇ……」
「あの二人が居れば、もう少し楽ができそうだったんだが……。……まぁ仕方ないか」
「別にあの二人が居ても、余計な苦労が増えるだけだと思うけど。……まぁ、失敗しても殺処分される恐れがないだけ良いんじゃない?」
「……そう考えるか」
「こっちに来てる上が緩くてほんと助かるわ。……殺処分しすぎたせいで、この世界に連れてこれた人員が居なかったのが理由かもしれないけど」
「頭が干渉してこないことにもっと早く気づければ、色々とやり方もあっただろうに」
「あたしとしては気楽でいいけどね。そのまま気づかないで欲しかったわ」
「はぁ……、……早く都市に帰りたいな」
「うっそマジ? 遂に脳みそまで老いたのかしら?」
「黙れ。…………ウサギの調整は?」
「とっくに出来てるわよ。……T社と連絡がつかないせいで、これ以上は増やせなかったけど」
「十分だ。……準備しろ」
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